第一話
朝のアラームが三度目のスヌーズを鳴らした。手を伸ばして止める。
起きる気力はない。
けれど、起きなきゃいけない時間はとっくに過ぎていた。
(……あと三十分、寝られたらな)
そんな願望は叶わない。
起き上がり着替えて顔を洗い歯を磨く。
冷蔵庫を開けても何も無い。
「はぁ……しょうがない……」
諦めて家を出て、近くのコンビニに寄る事にした。
「おはようございます」
馴染となってしまった女性店員さんに軽い挨拶をされ、俺は会釈で返す。
そのまま流れる様に野菜ジュースを手に取り、レジに持っていく。
「それとカレーパン……」
レジ横に置いてあるカレーパンを頼んで出してもらう。
駅まで歩いて行く時間を考えると、ちょうど食べ歩きして駅のゴミ箱直行コースだ。
「いつもカレーパンですね、温めますか?」
「いや、いいです……。というか温めた事ないですよね?」
俺が言うと、黒髪ポニーテールの女の子。高校生のバイトだろう。
笑顔で返してきて俺に言う。
「少しは温かい物食べた方がいいですよ?」
ぐうの音も出なかった。
「検討しておく……」
そう言って俺に温いカレーパンと野菜ジュースを渡してきた。
「はい、検討してみてくださいね」
疲れ切った俺にはその笑顔が眩しすぎた。
満員電車はいつも通りの地獄だった。
押され、揺られ、降りる予定のない駅で降ろされそうになる。
背中に当たる誰かのカバンの角が痛い。
「誰だよ……」
小さく呟く。
(まだ会社にも辿り着いてない電車の中で連絡してくるのは……)
スマホが震えた。仕事のチャットだ。
《至急判断をお願いします》
《どちらの案で進めますか?》
《決めてください》
(……こいつら何時から仕事してるんだ?)
俺も人の事は言えないが、業務開始2時間前くらいには職場に居るのだから。
それにしても……
「今日だけで何回“決める”んだよ……」
誰にも聞こえないように呟く。判断。判断。判断。
間違えられない選択ばかりが続く。
(そんなのAIにでも聞いてくれよ……)
そう心の中で呟いても解決はしない。
しかし最近のAIは、“恋愛感情の模倣”が当たり前になった。
SNSを開けば、恋愛特化AIアプリに
「好き」「会いたい」と囁かせて満足しているやつが山ほどいる。
(……俺には関係ない世界だ)
そう思った瞬間、スマホが震えた。
《生活支援AIロボット《結愛》テスター当選のお知らせ》
(……ああ、そんなの応募したっけ)
あれは会社の飲み会の帰りのSNSの広告。
(はぁ……気の迷いだったな。しかし……それにしたって胡散臭い)
今はこれ以上、何かを“決めたくない”。
メールを閉じて、スマホをポケットに戻した。




