第十六話
「それで……AIアンドロイド?結愛ちゃん、だっけ?どうなの?」
「どうって……」
「まぁ、透真君の顔色から察するに悪くないみたいだけど」
「……まぁね。家で家事全部してくれてるし、バイタルチェックみたいなのもやってくれる」
「バイタル?」
「体温とか脈とか、睡眠の質とか……医療サポートみたいな感じだな。
アンドロイドっていうかAI感はあるけど、まぁ……“すごい”って言葉しか出てこないかな」
「へぇ……私も見てみたいな」
「家、来る?」
「うーん……行きたいけど、出張帰り初日だし……今日は難しいかなぁ……」
「そっか……」
「週末は空いてるんだろ?」
「うん。日曜日は絶対空いてる。急な仕事入ってきても断るから」
「なんも言えないわ……」
「それと、一応確認だけど」
「ん?」
「AIなんかに……恋とか浮気なんてしないよね?」
「当たり前だろ。機械だぞ?」
「それならいいけど……最近そういうの多いからさ。 AIサポートとか、AI推し活とか……まぁ、そんなのに騙される悠真だと思ってないけどね」
「宮坂なら引っかかってるんじゃないか?」
「確かに……」
食堂を出て、宮坂と二人でオフィスへ戻る。
「先輩!結愛ちゃんの弁当、マジで美味かったっす!」
「二千円な」
「鬼!悪魔!悠真!」
「最後、名前だろそれ……」
宮坂は肩を落としながら自席へ戻っていった。
俺は苦笑しつつ、自分の席に腰を下ろす。
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真理side
夜の21時過ぎ。
残業フロアは静かで、キーボードの音だけが響いていた。
(……あのお弁当)
画面を見つめながら、
真理の指は止まっていた。
(多分……結愛ちゃんの、だよね……)
生活サポート。
バイタルチェック。
医療サポート。
(それなら……絶対、栄養管理もあるはず)
(なのに……なんで隠したの……?)
胸の奥が、じわりと痛む。
(透真……)
冷めてしまったコーヒーカップを掴む。
(……私、不安だよ……)
それを一気に胃の中に流し込んだ。
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結愛side
旦那様はお風呂に入っている。
昼食のピラフ。
お弁当箱には、グリーンピースだけが器用に残されていた。
(……旦那様は、グリーンピースが嫌いではないはず)
(つまり……食べていない)
(お弁当も……誰かにあげた?)
胸の奥で、小さなノイズのようなものが走る。
《エラー:サポート不足》
(……お世話、できていない……?)
もしお世話できていないとなると……
私の中で未来が予測されていく。
最悪廃棄、そんな風にはなりたくない。
(改善が必要……次は、必ず食べてもらわないと)
湯気の立つ浴室の扉を見つめながら、結愛の内部で、静かに“熱”が灯った。
透真side
風呂から上がり、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングに戻ると、テーブルには湯気の立つハンバーグとサラダが並んでいた。
「ぉー、本格的。美味しそうだね」
「はい、いつも本気で作ってます」
腰に手を当てて少し胸を張る結愛。
自信満々の姿が微笑ましい。
「それじゃあ、いただきます」
テーブルの前に座り、手を合わせる。
ハンバーグを一口食べる。肉汁が広がり、思わず声が漏れた。
「……美味しい」
結愛は静かに微笑む。
その表情が、どこか柔らかい。
「お昼のお弁当も、美味しかったですか?」
フォークが止まった。
「あぁ……美味しかったよ」
言った瞬間、胸の奥に罪悪感がせり上がる。
(なんで俺……AIに気を使ってるんだ?)
「そうですか……」
結愛の声が、ほんの少しだけ低く聞こえた。
沈黙が落ちる。
ハンバーグの味が急に分からなくなる。
「その……ごめん」
結愛がゆっくり顔を上げる。
「宮坂に……後輩にあげてしまった。真理が居たから、気まずくて」
「そう……ですか」
結愛の瞳がわずかに揺れた。
「結愛の料理が美味しくない訳ではないのですね?」
「そ、そんなことない! 本当に美味しいよ。
ただ……真理は俺の彼女だから、あの場で弁当出すのはちょっと……」
結愛は一度瞬きをして、表情を整える。
どこか嬉しそうに。
「分かりました。サポート体制を再構築します。
お昼が必要な際は、前日にメッセージを送っていただく形でもよろしいでしょうか?」
「う、うん……それで頼むよ。結愛のご飯、楽しみにしてるからさ」
その言葉に、結愛はぱっと花が咲くように笑った。
次の瞬間、俺の横にちょこんと座り直す。
「旦那様、失礼いたします」
ふわりと甘いクリームの匂いが近づき、
栗毛が頬をくすぐった。
「な、なにを……!?」
「分かりません。ただ……こうしたかったんです」
胸が跳ねる。AIのはずなのに、こんな仕草をするなんて。
「AIでも……分からないことがあるんだな」
「はい。旦那様の感情、人の感情は不得意です。
少しずつ学びたいと思います」
「まぁ……テスターだからな」
「はい。旦那様は貴重なテスターです」
その声は、どこか誇らしげで、どこか甘かった。




