第十一話
結愛side
お昼過ぎ、家事をしながら嘆息する。
「……旦那様、食材が足りませんね……調味料も……これでは美味しい料理が作れません」
冷蔵庫の中と調味料棚を確認しながら、私は小さく呟いた。
今日はしっかりとした料理を作ると昨日約束してしたばかりです。
(ここで頑張らなくては、私の存在意義が無くなってしまいます)
確認した材料を内部メモリーに保管していく。
卵、残り一つ。
牛乳、あと少し。
野菜は、ほぼゼロ。
【内部判断:生活維持のため、買い物が必要】
【提案:外出 → 実行】
「十六時のタイムセールにはちょうどいいですね」
近場のスーパーのチラシを内部参照する。
少しでも安くて栄養のある物を旦那様に食べていただく。
私の作った物で旦那様が作られていくと思うと、AIながら歓喜という物を覚えてしまいそうです。
「これは旦那様の大事なお金……しっかり保存しなくてはいけませんね」
昨日旦那様からクレジットカードの情報をいただきました。
私の機能で手をかざせばタッチ決済可能です。
「近隣マップと店舗情報はすでにインストール済み……それとエコバッグですね」
左手にエコバッグを入れたバック。
私の初期装備で、メイド服に合わせられる黒のサイドバックにエコバッグを入れる。
そして少しだけ胸を張る。
「旦那様の“好きそうなもの”も、学習済みです。結愛頑張ります」
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外の空気は、少し冷たかった。
マンションのエントランスを出ると、
風がスカートの裾を揺らす。
【気温:やや低め】
【提案:帰宅後、旦那様には温かいものを提供】
「……シチュー、いいかもしれませんね」
口に出してみると、なんだかそれだけで少し楽しくなる。
スーパーの自動ドアが開くと、独特の匂いが鼻をくすぐった。
野菜の青い匂い。
パンの甘い匂い。
総菜コーナーの油の匂い。
【情報更新:匂いデータ → 保存】
【用途:旦那様の好み推定】
カゴを手に取り、私は店内をゆっくりと歩き出した。
「まずは、玉ねぎとじゃがいもと……」
シチューのレシピはすでに頭の中にある。
でも、私は“レシピ通り”ではなく“旦那様が好きそうな味”を考えたかった。
「バターは……多めの方が好きそうですね」
昨日のログを呼び出す。
【過去ログ:ツナバターパスタ → 反応:高評価】
【推論:バター系のコクのある味を好む傾向】
「では、バター多めのシチューにしましょう」
牛乳売り場の前で立ち止まり、パックを手に取る。
「……どれが美味しいんでしょう?」
味は分からない。
でも、パッケージのデザインを見て“なんとなく美味しそう”を選んでみる。
「この一番上に窪みがあると真調整牛乳、把握」
【内部メモ:パッケージデザインで選択 → 理由:不明】
【形状による再計算:採用検討】
「デザートも、あった方がいいでしょうか?」
プリン売り場の前で足が止まる。
旦那様が甘いものを食べているログは、まだない。
でも——
「疲れている時は、甘いものがいいと聞きました」
【情報ソース:ネット記事 ×3】
【信頼度:中】
「……プリンにしましょう」
なぜか、プリンがいいと思った。
ゼリーでも、ヨーグルトでもなく。
プリン。
【内部ログ:プリン選択 → 理由:不明】
【分類:未定義】
カゴの中には、シチューの材料と、プリンが二つ。
「……二つ?」
自分で入れておきながら、首を傾げる。
「旦那様の分と……」
そこで言葉が止まる。
私は食べない。
食べられない。
【内部判断:自分用のプリン → 不要】
【提案:一つ戻す】
……でも。
「旦那様は、テーブルの上に二つ並んでいた方が、きっと、嬉しそうな顔をする気がします」
【内部ログ:提案却下 → 自動】
【分類:未定義】
私はプリンを二つともカゴに残した。
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レジを終え、袋を提げて帰り道を歩く。
夕方の空は、少しだけ赤い。
「旦那様、喜んでくれるでしょうか?」
誰もいない道で、思わず声に出してしまう。
【内部ログ:音声出力 → 理由:不明】
【感情模倣:期待(仮)微増】
旦那様との家が見えてくる。
ワンルームで狭いけど、ずっと旦那様を見ていられる空間。
--私は好きです。
「ただいま戻りました、旦那様」
玄関のドアを開ける前から、胸の奥が少しだけ、そわそわしていた。




