【こぼれ話】密かな計画、賑やかな乱入者
銀河の星々を散りばめたような城内の大広間にて、ローゼンブルグの国王ロイエンタールと聖女トヨの結婚式が厳かに執り行われていた。
「一生独身を貫くんじゃないかと思っていた、あの兄様が……」と、その姿を、弟のヴァインとクライドは感無量といった面持ちで見つめていた。
両親の不幸な死後に即座に王位を継がなければならず、まだ幼かった自分たちの世話もおざなりにせず、多忙を極めていた兄の幸せは、もちろん自分たちの大きな喜びでもある。
そんな感動から数週間後……ヴァインには、どうしても果たさなければならない《密かな計画》があった。
その日彼は、落ち着かない足取りで客殿の厨房に聖女オトを訪ねた。
…もっとも彼は毎日のように、彼女にごはんをねだりに来る常連さんなのだが、今日ばかりは胃袋ではなく心臓の鼓動がうるさく鳴り響いている。
「あー、その……オト。」
ヴァインは指先でテーブルに『の』の字を書き始めた。明らかに挙動不審である。オトは夕食用のキャベツを切っていた手を止め、不思議そうに小首をかしげた。
「どうしたんです、ヴァイン様? お腹が空いているなら、すぐに出せるものがありますけれど。」
「ああ、頼む。……いや、そうじゃない! そうじゃなくて!………ええい、ままよ!!」
ヴァインは意を決して、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。
「オト。もしよければ……今度一緒に旅行にでも 」
「旅行!? いいね! 僕たちも一緒に行こうよ、レイ!!」
ヴァインの決死の告白を切り裂くように、弾けるような大きな声が厨房に響き渡った。
驚いて振り返れば、そこには満面の笑みを浮かべたクライドと、いつも影のように後ろに従うレイの姿がある。
「なっ……!?」
ヴァインの顔は真っ赤になり、そして怒りで引きつった。
「お前たち! どうしていつもいつも、ここぞという場面で割り込んでくるんだよ!」
「いいじゃないか、賑やかな方がオトもきっと楽しいよ。」
悪びれる様子もなく、涼しい顔で振り返り、レイに微笑むクライド。
「そういう問題じゃない! 僕は、オトに『ふたりきりで』って言いたかったんだ!」
目の前まで近づき小声で怒ってくるヴァインに対し、クライドは茶目っ気のある表情で軽やかにウィンクをしてみせた。
「まあまあ、そんなに怒らないでよヴァイン。君のこと、僕はなんでも知っているんだよ。だって君は、僕なんだから。」
「……はぁ?」
そのあまりにも意味不明な返答に、ヴァインは思わず口を半開きにしたまま固まってしまった。
そんな彼を置き去りにして、クライドは「それで、行き先はどこにしようか♪」とオトを相手に勝手に計画を練り始めている。
「……はっ!ちょっと待て、話が全然見えない! なんでお前が俺なんだ!? というか、俺を無視して話を進めるなー!!!」
結局、行き先はクライドがノリノリで提案した、国境に近い名所の、星降る湖畔と呼ばれる美しい場所に決定した。
「ヴァイン様。初めての異世界旅行、とっても楽しみです!」
4人一緒の豪奢な馬車の中、うきうき嬉しげにはしゃぐオトの横で、ヴァインはがっくりと肩を落としていた。
湖畔に到着し、ヴァインはクライドを即座に呼び出し何度も念を押していた。
「いいかクライド。旅行の最終日はオトとふたりで過ごす。今回ばかりは!絶対に!!邪魔をするなよ。いいな!」
「ひどいな、ヴァイン。この僕がそんな野暮なことをするわけないじゃないか。」
クライドは心外だと言わんばかりに、にっこり笑ってみせた。
楽しい(主にオトとクライドが盛り上がっていた)数日が過ぎ、そしてついに迎えた旅行の最終日。
空が琥珀色から深い紫へと溶け込み、湖面が宝石を散りばめたように煌めく夕暮れ時。ヴァインはついにオトを、静かで美しいその湖畔のほとりへと連れ出した。
「オト。……その……ずっと、伝えたかったことがあるんだ。」
ヴァインの声は少し震えていたが、その瞳にはかつてない決意が宿っている。
「俺は、君と……」
「あああ! 行かなきゃ! 今まさにヴァインの二度目のプロポーズの場面なんだよ!!」
「おやめください、クライド様!!」
―少し離れた茂みの影では、静かな、しかし必死の攻防が繰り広げられていた。
今にもそこから飛び出していきそうなクライドを、後ろからレイが羽交い締めしている。背後からがっしりと抱きつくようにして、クライドのその細い体を力ずくで抑えるレイ。
「離してよレイ! ヴァインのあんなに必死な顔、一生に一度しか見られないんだから!」
「駄目です!今お邪魔をするのは、いくらなんでもヴァイン様がおいたわしいです!」
もがくクライドが、ふと、耳元に感じるレイの吐息と背中から伝わる体温に気づき、ふっと不敵に優美な笑みを浮かべた。
「……ふふっ、こんなところで強く抱きしめてくるなんて…そんなに僕を誘惑しないでくれよ、レイ?」
クライドが肩越しに流し目で囁くと、さすがのレイも一瞬だけ力を緩めてしまった。
その隙を逃さず、クライドは茂みから身を乗り出した!
「オト、俺と結婚」「おめでとうーー!! ブラボー!!」
ついに響き渡ったヴァインの魂の叫びを遮って、パチパチパチ! と盛大な拍手とクライドの更に大きな歓声が飛び出した!
「……ク…ク・ラ・イ・ドーーー!!!」
真っ赤になって追いかけてくるヴァインと、大声で笑いながら逃げるクライド。
それを見守るレイの深い溜息が、静かな湖畔に溶けていくのだった。




