第81話:時空の果てに、その愛を
彼らと魔族の戦いは、永遠に光と闇が互いの限界を削り合う、まさに決着という概念さえ失われたようにとも思える。
狂魔王マリオットの執念は凄まじく、レイから無理矢理奪った女神の加護が混じり合う力のその禍々しさは、光をも侵食しかねないほど強大となった。
その底なしの強欲は、宇宙の深淵に蠢く名状しがたき異形の触手のごとく、あらゆる概念、あらゆる次元にその穢れた手を伸ばし、絡めとろうとしている。
何度退けられようとも、奴は時空の裂け目からいやらしい蛇のように這い出し、人々の平和を食い散らかそうと常に隙を狙い続けているのだ。
「さて、正面から挑めばこちらも無傷では済まない。それこそマリオットの思うツボですよ、お姫様。」
クライドはいつもの華麗な仕草で肩をすくめ、女神に優しく、けれどどこか危うい艶美な笑みを向ける。
「マリオットが執拗だというなら、こちらはその執着を利用して、彼を永遠の空回りに追い込んであげましょう。……ふふっ、奴のあの余裕に満ちた顔が絶望に歪む瞬間が、今から楽しみだよ。」
クライドが振るう無慈悲で怜悧、かつ縦横無尽な知略の数々。
それは、この世界に生きる者たちの平穏を乱すあの不届き者を、音を上げるまで完膚なきまでに叩きのめすべく捧げられている。
「……クライド様、相変わらず恐ろしいほどにお見事な性格でいらっしゃいますね。敵対するマリオットにさえ、不覚にも同情を禁じ得ませんよ。」
「手厳しいな、レイ。でも君という、真っ直ぐで強靭な守護者がいるからこそ、僕は安心してこんな美しくもない戦いも楽しめるんだよ。」
お互いを深く信頼し、軽口をたたき合うふたりを見ながらアイは思う。今なら少し分かると。
1000年の平和をもたらすために造られ、その孤独ゆえに緩やかに壊れていった、かつての女神のことを。
オトが我知らずに与えてしまった毒で受肉したアイのその《羽化》は、決して完璧な女神への昇華ではなかった。
アイはあの女神の轍を踏むことはなかった。
注がれた慈しみを知り、人の情を拾い上げたからだ。
彼女の魂を支え続けるのは、皆が優しく注いでくれたその情愛だ。
そしてアイには、オトが繋いでくれた優しい仲間がいる。ずっと一緒にいたいと願える、かけがえのない絆が。
彼らは時空を超える力を手にしている。
どこへでも存在できる。大切な人たちのいる時間に、いつでも、いつまででも寄り添い続けることができるのだ。
「さてさて、今日はどうやって兄上をからかおうか、レイ。マリオットの悪辣さに比べれば、僕の悪戯なんて可愛いものだろう?」
「本当に貴方という人は……ヴァイン様も全くおいたわしい。」
呆れながらも、レイの口元にはふっと優しい笑みが浮かぶ。
「あ〜オトのアイス食べたーい!」
「お、いいね〜アイス。僕にもくれる?」
「だめ!クライドにはあげない!レイにもね!」
彼らは、漆黒の宇宙に燦然と輝く導きの星のごとく眩い輝きを放つ。
どれほど強大な力が牙を剥こうとも、彼らが手を取り合う限り、その輝かしい希望が飲み込まれることは断じて、永遠にない。




