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第7話:串を片手に、未知を食らう

「やっぱりヤキトリには、この甘辛いタレが正解ですよね!」


焼き鳥が大好物な私、自分の分の一本を手に取りヴァインの隣でぱくっと食らいついた。炭火の香ばしさと鶏肉の脂が口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。日中作業で少し疲れた身体が一瞬で解きほぐされていくようだ。


「……オト。貴様、54番目の聖女の分際で、騎士団長と肩を並べて串を食らうか。」


「いいじゃないですか、深夜の厨房です。ここでは『聖女54番』も『最終兵器』も休業中ですよ。」


私の言葉に、ヴァインはフンと鼻を鳴らしながらも、否定はしなかった。


彼が食べるペースを少し落としたのを見計らって、私はずっと気になっていたことを切り出した。 


「ねえ、団長。この国って、本当はどうなってるんですか? 私が女神様から渡された資料は、まるで旅行会社のパンフレットみたいにキラキラした絵ばかりで全然実感が湧かないんです。」


私が思い出すのは、転生時に見ておいてねと渡された取扱説明書とりせつ。そこには『美しい緑と平和な光輝く王国』と大仰なタイトルと、簡単に国の生い立ちが書かれている、ペラペラのほんとにパンフレット。大聖堂から出る用事のない私には、その絵しか参考にならない。


「ぱんふれっととは何だ?…まあいい。」


ヴァインは手に持っていた空の串を見つめ、一瞬、その鋭い瞳に戦場の血生臭い影が差した。だが彼はすぐにその影を振り払い、言葉を選びながら口を開く。


「そうだな…ここから北へ3日ほど馬を飛ばした場所に、『霧氷の湖』がある。」 


「霧氷の湖?」


「ああ。冬場は湖面が鏡のように凍りつき、その下を、銀色に輝く『月光魚』が泳いでいる。…あれの刺身は淡白だが甘みがあって、悪くない。」


「お刺身!美味しそう!」


よだれをたらさんばかりの私の食いつきに、ヴァインは少しだけ呆れたように口角を上げた。


「南の湿地帯には、魔力を帯びた巨大な『睡蓮の根』が自生している。見た目は泥の塊だが、煮込めば芋のようにホクホクとして滋養強壮に効く。もっとも採取するには、泥の中に潜む大顎鰐きょだいわにの突進を躱さねばならんがな。」


「団長、それ、煮っころがしにしたら最高じゃないですか!」


「貴様…命がけの採取難易度よりも、味の構成を優先するか!」


ヴァインと私の話は、次第に『どの魔獣が、どの調理法に向いているか』という、グルメ紀行へと変わっていった。


「いいですね。パンフレットの綺麗な景色より、団長の言う食べられる生き物の話の方が、ずっとこの世界が実在している感じがします。」


「……フン。食い意地が張っているだけだろう。」


ヴァインはそう吐き捨てながらも、私が差し出したヤキトリの串を、どこか優しげな手つきで受け取った。

煙の向こう側で、死神と呼ばれた男の横顔が、ほんの少しだけ柔らかく解けていた。


私は彼が話す『素材』を想像しながら、最後の一口のネギを噛み締めた。

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