第6話:鉄壁の死神、至福の顔
今日も神殿の厨房には巨大な影が立っていた。
王国の最終兵器、第三騎士団長ヴァイン。
今日は演習帰りなのか、鎧には土埃がつき、その表情はいつにも増して険しい。
いや、多分めっちゃお腹が空いているだけだろう。
「こんばんは、団長。お疲れ様です。」
「ああ。…今日は何だ。妙に鼻をくすぐるような…焦げたような甘い匂いがするが。」
ヴァインの鼻がピクピクと動く。戦場では伏兵を察知するその鋭い嗅覚が、今は完全に『獲物』を捉えていた。
「ふふふ、じゃーん!今日はヤキトリです!厨房に余っていた鶏肉と、裏庭で採れた長ネギを交互に刺してみましたっ!!」
私は、女神様からもらった生活魔法で火力を調整した特製・魔力コンロの上で、串をくるくると回す。
ジュワッ、という脂の爆ぜる音。醤油と砂糖、それに隠し味の果実酒を煮詰めた私秘伝のタレが火に炙られ、香ばしい煙となって厨房を満たす。
ああっもうこの香りだけで美味しい!
「…ほう。肉と野菜を棒に刺すとは。斬新な戦術だな。」
ヴァインはもはや獲物を狙う獣のような目で、網の上の串を見つめている。
「はい、お待たせしました。まずはタレからどうぞ。熱いので気をつけてくださいね。」
私は、黄金色に輝くタレを纏った大ぶりの串を差し出した。
ヴァインはそれをひったくるように受け取ると、躊躇なくバクリと食らいついた。
「…………っ!!!」
ヴァインの動きが止まる。
噛み締めた瞬間、鶏肉の弾力とともに溢れ出す肉汁。そして、それを追いかけるように押し寄せる、甘辛いタレの波。
「…なんだ、これは。肉の旨みがタレと絡まって、口の中で暴動を起こしている! それにこのネギ。肉の脂を吸って、甘くとろけるようだ。」
「ふふ、ネギマって言うんですよ。トリとネギを交互に食べるのがコツです。」
「ネギマ…素晴らしい。この串という構造、片手が空くから、戦場でも食えるではないか!」
ヴァインは、一本、また一本と、凄まじいスピードで串を空にしていく。
そのたびに、彼の鉄壁の死神としてのオーラが剥がれ落ち、ただの食いしん坊な大型犬のように見えてくるから不思議だ。
塩をふったネギマを網に乗せながら、ヴァインに告げる。
「今度は塩味に、レモンを絞ってさっぱり仕上げますね。」
ヴァインは新たに塩の焼き鳥を頬張り、再び「至福…」という顔で天を仰いだ。
「オト。貴様が聖女だろうが何だろうが俺には関係ない。明日もここにいろ。これは、第三騎士団長の『命令』だ。」
いや、団長こそなんで毎晩厨房に来るねんと内心ツッコミつつ。
どうやら54番目の聖女の居場所は、華やかな祭壇の上ではなくこの煙たい厨房らしい。




