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第5話:聖女は騎士団長を「ふわとろ」で骨抜きにする

「ちょ、ちょっとマナミさん! 営業終了です、はいおやすみなさいまた明日!」


「ええっ、そんなあ! オトちゃんのあーんは!? 私の萌えチャージはぁぁ……っ」


暴走気味の51番目の聖女、マナミを厨房の外へと押し出し、私はようやく一息ついた。


振り返ればそこには、獲物を待つ獣のような眼光でこちらを射抜く第三騎士団長ヴァイン。その威圧感は深夜の厨房を戦場へと変えるほどに重い。


相変わらず怖い顔をしているヴァインを座らせて、彼用の特製オムライスを用意する。


「お待たせしました。鶏肉たっぷりのオムライスです。デミグラスソースはお好みの量をかけてくださいね。」


チキンライスの山に、生活魔法チートでタンパク質の結合を極限まで柔軟に仕上げたオムレツを乗せた。そしてナイフを手に取りその中心にスッと切り込みを入れる。


ぱかぁっ。

刹那、半熟の卵がまるで黄金の滝のように、とろりとライス全体を包み込んだ。


「なっ…! オムレツが!? 奇跡か!これは聖女の奇跡なのか!?」


ヴァインが椅子を蹴り飛ばさんばかりに身を乗り出した。


「ただの火加減と、少しばかりのコツですよ。」


オムライスの横に特製のデミグラスソースとスプーンを置くと、彼はひったくるようにスプーンを握った。

デミグラスソースをかけて、ふわとろ卵とソースが絡み合ったオムライスを大きく口に放り込む。


「…………っ!」


ヴァインの動きが止まる。

右目の傷跡が微かに震え、冷酷だった眼が信じられないほど潤んでいくのが見えた。


「…美味い。なんだ、この…舌の上ですべてが消えていく感覚は。まるで、長年固執していた過去のしがらみが、この卵と一緒に溶けていくようだ…。」


「大袈裟ですよ。ただのオムライスです。」


「いや、違う。俺は、ずっとこの味を…、いや、この『救い』を求めていたのかもしれない。」


彼は無言で、しかし一匙ごとに何かを噛み締めるように食べ進めた。


彼の張り詰めた神経が、デミグラスの深いコクと、バターの優しい香りに癒されていくのが、調理した私には手に取るようにわかった。

女神様の言っていた『食べる者の心身を調律する』とはこのことだったのかもしれない。


「…オト。貴様やはりただの聖女ではないな。」


最後の一粒まで綺麗に平らげたヴァインが、低く、どこか優しさを帯びた声で呟いた。

その目は、もはや私を『便利な給食係』ではなく、『救世主』として見ているようで。


…これ、マナミより厄介なフラグじゃないよね!?

私の背中に、得体の知れない冷や汗が流れた。

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