第73話:黄昏の誓い
大聖堂の解体が翌日に迫っていた。
その最上階にある彼女の執務室の窓辺で、トヨは燃えるように沈みゆく夕日をひとり眺め、その朱に染まる光景を見ながら、これまでの日々の出来事に思いふけっていた。
「トヨ、やはりここにいたか。」
背後からかけられた声に振り返ると、そこにはロイエンタールが立っていた。
「陛下……」
トヨは小さくお辞儀をし、慈しむような微笑みを浮かべて彼を迎え入れた。ロイエンタールは彼女の隣に並び、同じ空を見つめながら「……いろいろあったな。」と、感慨深げに独りごちた。
沈黙を破ったのは、彼の低い声だった。
「トヨ。……あの日、『ともに生き、歳を重ねよう』と皆に告げたのを覚えているか?」
「ええ、もちろん。皆、あの御言葉にどれほど救われ、感激したことかと。」
トヨが頷くと、ロイエンタールは彼女を真っ直ぐに見つめ直した。
「……では、俺自身と共に歳を重ねてはくれないか?」
予想だにしない告白に、トヨは思考が止まった。
「……陛下? それは……?」
「俺と共に歩むのは、お前しかいないんだ。お前の慈愛と慎ましい献身に、俺は幾度となく救われてきた。頼む、トヨ。君の傍らで歩む許可を、俺に与えてはくれないか。」
その真摯な眼差しに、トヨの瞳はみるみるうちに涙で潤んでいく。
「そんな……私などには、もったいないお言葉です……」
トヨの言葉を遮るように、彼は力強く畳みかけた。
「お前がいいんだ! ……それとも、俺のような年下では不満か?」
その必死な口ぶりに、トヨは涙を零しながら思わず吹き出した。
「ふふっ……いいえ、そんなことは。」
トヨは震える声で、けれどもしっかりと、「はい」と答えた。
ここに立ち続けてきた100年。
その歳月のすべてを、ロイエンタールの真っ直ぐな言葉が今、優しく抱きしめたのだった。




