第72話:聖女の資質、王子の異変
会議の終盤に行われるのは、聖女たちの現在のステータスの確認である。どうやら一度与えられた能力は、この世界から去るまではそのまま保持となっているらしい。
神官長の合図で、部屋の中央に巨大な鑑定用の水晶が運び込まれる。それにひとりずつ手をかざすと、水晶から現れる光が鮮やかな色彩となって室内に満ちる。その光で属性と魔力の強さが分かるというもの…とのこと。
書記官たちがその結果を、羽ペンの音も軽やかに書類に記録していく。
【神託】最高位の巫女
神の声を直接聞き、国の行く末を占う。
トヨ(22歳)
【結界】守護の聖女
王都全体を覆う不可視の障壁を維持し、魔を退ける。
サチコ(26歳)/シノブ(20歳)/モエ(17歳)
ユリコ(19歳)/ユミ(18歳)/アオイ(17歳)
【土】大地の聖女
荒れた土地を浄化し、作物を実らせ、地震を鎮める。
キヨ(21歳)/ハルカ(16歳)
【治癒】慈愛の聖女
重傷者や流行病を一瞬で癒やす、奇跡の力の持ち主。
シオリ(25歳)/アヤ(18歳)/ヒナ(28歳)
マリ(15歳)/アリサ(17歳)
【火】火の聖女
凍える寒さを払い、人々に生きる熱量を与える。
アキコ(16歳)/ユナ(25歳)
【水】水の聖女
枯れた井戸を潤し、人々の精神的な乾きを癒やす。
ミサキ(24歳)/ミチル(17歳)
【光】光の聖女
影に潜む魔物を照らし出し、無力化する。
チヤコ(22歳)/アオイ(25歳)/ヒマリ(17歳)
【料理】食の聖女
その料理を食べた者は、魔力が回復し、あらゆる状態異常が解除される。
オト(25歳)
さすがに結界と癒やしの能力が多いけど
……食の聖女って…言い方………
しかも、『あらゆる状態異常が解除される』???
鑑定結果を見た瞬間、私は目が点になった。私の料理は女神をあろうことか逆の【どく状態】にしてしまったというのに!?
恐る恐るヴァインに視線を送ると、彼はキラッキラの超絶美形な笑顔で、親指を立て、『グッ!』と合図を送ってきた。
グッ!じゃないです!肉が食べたければ自分で用意してとは確かに言ったけれど、そもそも貴方が魔物の肉なんか持ってきたせいじゃないですか!!
それと……密かに衝撃だったのがトヨ様だ。あの心底頼りになる女性が、(召喚時の年齢のままだけど)まさかの年下だったなんて。
最後にレイが残っていたが、王は手を振り彼の鑑定を不要とした。
「レイよ。」
王の呼びかけにぴくりと反応する。
「お前の仕事はもう決めてある。『記録』だ。古今東西のあらゆる事象をまとめ、研究し整理せよ。各国間で統一の様式は彼ら書記官より学ぶように。
………ただし、研究するのは《魔法陣以外》でな。」
王が少し口調を強めてその言葉を発した瞬間、それまで退屈そうに控えていたクライドの肩が、目に見えてびくっ!と跳ねた。
禁忌の魔法陣発動をレイに強要したとして、強要されたレイはお咎め無しとするも、王はクライドにはこっぴどいお灸を据えた。後ほどその内容をヴァインが尋ねると、クライドはうっすらと涙を浮かべ、「……言いたくない……」と手を震わせていたらしい。
「クライド。この機会にお前も少しは学べ。そうだな、書類仕事をレイに教えてもらうといい。」
これまで面倒なことはレイにすべて丸投げし、芸術や詩作にふけっていたクライドは不満げにその美しい唇を子どものように尖らせた。
だが、王が「……………返事は?」と、にこやかながらも目は全く笑わずに促した瞬間。
「はいっ!」
弾かれたように直立不動で立つクライド。
そのあまりに必死な反応に、聖女たちの間からどっと笑い声が漏れた。
付与師たちが場に現れ、女神による保存という名の静止から解き放たれた彼女たちに、今度は生きていくための加護―浄化や自己治癒等が新たに与えられた。
「これからは共に生き、歳を重ねよう。」
重々しく、ロイエンタール王はそう宣言したのだった。
―会議後―
皆に新たにお茶と茶菓子が振る舞われた和やかな歓談タイム。神官長がそっと王に近づき耳打ちをした。
「……陛下、クライド様の数値が異常です。以前はほとんど魔力がなかったというのに、今は見たこともないような煌めきを放っております……」
ここに来る前、神官たちが水晶を準備していた時に、クライドがふざけてそれに少し触れたとのこと。
ロイエンタールは聖女たちと歓談しているクライドを見、それからレイをじっと見つめて、しばらく思案した。
「………神官たちに箝口令を。少し、様子を見よう。」




