第71話:未知なる世界、新たな一歩
他国への支援に向かうといっても、大聖堂の籠の鳥だった私たちにとって、外の世界は完全に未知の領域だ。
そこでロイエンタール王は、希望者を対象とした勉強会の実施に加え、定期的に開催される各国の王族や大貴族を招いた晩餐会への出席を提案した。
「そこで良き縁に恵まれれば、他国への移住や、あるいは婚姻も自由として構わない。」
王がそう説明した瞬間、聖女のひとりが勢いよく立ち上がった。
「それって、つまり『合コン』ですよね!?」
鼻息荒く身を乗り出したのはヒナだ。
聖女のナンバリング制度が廃止された今、彼女はもう番号付きではなく、ただのヒナとして目を輝かせている。
「……ごうこん、とは何だ?」
聞き慣れない異世界語に眉をひそめるロイエンタール王。
「合コンというのはですね! 同年代の男女が飲み会とかで顔合わせをして、いいなと思ったらLINEを交換したりする、カレカノゲットの場なんですよ!」
熱弁を振るうヒナに、王は眉間を押さえながらも、「すべては理解できぬが……異世界にも似たような文化があるということだな。」となんとか納得した様子で頷いた。
まずは慣らしとして、この国の貴族を招いた小規模なパーティーから始め、段階的に他国の貴賓を迎えること。それに伴い、最低限のマナーとダンスの講習を受けてもらうこと。
王の口から『自国の貴族とのパーティー』という言葉が出た瞬間、聖女たちの間から「キャー!」という黄色い歓声が上がった。
彼女たちの視線の先には、この国が誇る超美麗な双子の王子、ヴァインとクライドがいる。あのふたりの正装が見られるかもしれない……その期待だけで、聖女たちのモチベーションは最高潮に達していた。
「……好意的に受け取ってもらえて何よりだ。」
そのノリに圧倒される王。
話題は現実的なお引っ越しへと移る。
今後移り住むことになる客殿は、一度に50人ほどが滞在可能な、小規模ながらも機能的な建物だ。聖女ひとりにつきふたりの専属メイドが付き、ドレスや日用品はすべて王宮側で用意してもらえるという。
「後ほど服飾師たちを向かわせる。衣類の要望はそれぞれメイドに伝えるといい。」
王の言葉に、聖女たちは夢見心地で未来のドレスに想いを馳せる。
……だが、王が付け加えた一言で、ひとりの男に緊張が走った。
「なお、客殿は厳格に『男子禁制』とする。警護は引き続き第三騎士団に担当させるので、安心して過ごすがよい。」
これに真っ青になったのはヴァインだ。
私の食事が食べられない生活なんて、彼にとっては死活問題である。
「そんな! せめて食事の時間は……!」
ヴァインの必死の抗議と交渉の結果、王子たちは厨房とその隣接する休憩室の立ち入りのみ、特例として許可されることになった。
その必死すぎる王子の姿に、聖女たちは思わずくすくす忍び笑いを漏らす。
厳格だった会議の空気は、いつの間にか春のような温かさに包まれていた。




