第70話:語られる真実、新たな絆
今日は、この世界に留まった聖女全員が、王の呼び出しに応じ城内の一室に集められていた。
小さな会議室でとの通達だったが、実際に足を踏み入れてみればそこは息を呑むほどに広く、贅を尽くした豪奢な空間に、さすが王国のお部屋だと驚く。
女神消滅後、54名の聖女が揃って入城したあの日以来の登城。しかしこの場にいるのは、今は私を含めて23名。その人数の少なさが少し寂しく感じられる。
部屋の中央に置かれた大きな卓には、ロイエンタール王と23名の聖女……そして、レイの姿があった。
「………私まで、何故ここに?」
隣席に座り、場違いな様子に首を傾げるレイは、あの事件から帰還した時のままの黒髪だ。クライドが『この艶やかな黒髪もまた美しい』と心酔しているらしく、再び銀色に染め上げるかどうかはまだ保留されているという。
壁際のテーブルには、王族の双子―ヴァインとクライド、そして神官長と数名の書記官が控えている。そんな重々しい空気の中、女神の種アイちゃんだけはヴァインの膝の上でお菓子を頬ばりニコニコとご満悦。
メイドたちが手際よく茶を運び、静かに退室する。
扉が閉まる音を合図に、ロイエンタール王が口を開いた。
「待たせてすまなかった。これより、聖女会議を開催する。」
王はまず皆に、レイが何故ここにいるのか説明をした。
彼は少し違う形で召喚された、なので皆に会う機会がなかったのだという簡単なもの。
その後に語られたのは、召喚された54名の聖女全員でお城に来た時にも聞かされた、この世界の真実。
女神の消滅とともに、世界を縛っていた《千年の平和をもたらすシステム》もまた消え去ったこと。
女神の強制的な力による世界の平和の統治が、その1000年の終わりに差し掛かる頃に女神の力は衰えてゆく。そのため異世界から聖女を召喚してその補助としていた。
時が経つほど補助に必要な聖女の数は膨れ上がり、ついには次の女神を降臨させるため、その聖女たちの力と命をすべて吸い上げる。
―それが、歴代の王が即位の際に女神から直接授かる神託、まさに【呪い】の啓示だった。
感情を支配され、最後には命まで捧げさせられるという、聖女に訪れる残酷な運命。以前も聞かされたとはいえ、居並ぶ聖女の間から悲鳴にも似た小さな溜息が漏れる。当然だ、あまりにも救いがない。
ロイエンタール王が、自身の代でこの悲劇が訪れる運命にひとり思い悩んでいたという事実に、私は同情を禁じ得なかった。
「……こんな歪んだ世界に残ってくれた皆には、心から感謝する。しかし、貴女たちはもう自由だ。この世界のどこで、どのように生きようと構わない。」
どのように生きようと一生涯に渡る保証を与えるとの言葉に続き、私たちの生活環境の変化についても説明があった。
あの大聖堂は、際限なく増える聖女を収容するために大昔に女神が創造した巨大な施設だ。100をゆうに超える個室に、私たち54人が一度に浸かってもあまりあるほどの大浴場。今の23名で管理するにはあまりに広すぎて、正直手近の掃除だけで手一杯だ。
そのため大聖堂は取り壊し、今後に見合った規模の聖堂を新たに建設すること。そのため私たちは城の敷地内にある客殿へと移動することになる。
話はさらに、国家の在り方へと及ぶ。
ローゼンブルグ帝国は、帝国と言う名を冠してはいたが、実は全土を統治していたわけではなく、この地に存在する大聖堂の管理責任を負わされていたに過ぎなかった。だからこそ、ロイエンタール閣下は皇帝ではなく国王を名乗っていたのだ。
だが、女神は消えた。愛情を知った次代の女神であるアイが以前のような搾取のシステムを再構築することはないだろう。
帝国は今後、他国と同等の連合国のひとつとなり、平和協定があるとはいえ、女神不在のこの時期にと暗躍し始めるであろう魔族の脅威から、力を合わせて世界を守る道を選ぶという。
「ここからは、私個人の勝手な願いだ……」
王の声が、わずかに揺れた。
「ここにいる聖女たちは、主に世界全土の結界を支えるために召喚された。それゆえ、他国の聖女を遥かに凌ぐ力を持っている。もし許されるなら、各国へ渡り、その優れた力を貸してはもらえないだろうか。異世界からの客人である貴女たちにまた協力を強いるのは、あまりに身勝手な願いだと分かっている。断ってくれても、一向に構わない。」
王の声はかすかに震えていた。
トヨが静かに、しかし凛とした声で応えた。
「陛下……僭越ながら申し上げます。私たちは、自分の意志でこの世界に残ると決めた者たちです。私たちは、もうすでに貴方の民なのです。」
その言葉に、23名全員が力強く頷く。
「……すまない。ありがとう。」
表情こそ崩さなかったが、ロイエンタール王の瞳には、こらえきれない熱いものが宿っていた。
彼を縛り続けてきた罪悪感から、彼は今ようやく解放されたのかもしれない。




