第65話:絶望を喰らう、真実の鎖
マリオットは、レイの強大な魔力により発動された、その魔法陣より噴き出す暗黒と白銀の交差するその激しい光にその身を焼かれながらも、強烈な歓喜に全身を震わせ、紅き双眸はその人知を超えた狂気を目撃した恍惚感にぎらぎらと輝いていた。
「ははははは! なんと……なんと悍ましい! 素晴らしいぞクライド殿! まさかお前たちがこれほどまでに壊れていたとは! 私の毒など必要なかった。お前たちは最初から互いという猛毒に侵されていたのだな!」
マリオットの哄笑が、彼に痛みを与え続けているその光の中でもなお、至高の祝福のように響き渡る。
―クライドを見つめるレイの脳裏には、あの日の記憶が鮮烈に蘇っていた。
クライドの祖父の隠居所を辞し、帝都へと引き返す馬車の中。揺れる車輪の音と、重苦しい沈黙。レイが、女神の加護という不安定な力の代償として、いつかこの世界から消滅してしまうのではないか…その耐え難い恐怖に、クライドは取り憑かれていた。
「……レイ。嫌だと言っても聞き入れないぞ。」
クライドはレイの両手を、骨が軋むほど強く握りしめた。
「覚えているか……あの禁忌の隷属魔法陣だ……。
お前が女神に連れて行かれるくらいなら、僕が地獄へ繋ぎ止めてやる。いいか、今すぐこの契約を受け入れろ。これは僕たちの保険ではない。互いの逃げ場を失くすための鎖だ。」
レイは困ったように、けれどどこか救われたような、悲しげな微笑を浮かべた。
「……クライド様。それは死すら共有する引き返せない道ですよ。」
「構わない! 誰の命令も聞くな、僕の命令だけを聞け。そして、僕もお前の命令にのみ、この命を捧げよう。死んでも、魂になっても離れない。……いいな、レイ。これを拒むなら、僕は今ここで、お前と一緒に死ぬ!」
そうして交わされたのが、超古代魔法の禁忌――《真名》を楔とする隷属の契約。
どちらかが消えようとすればもう片方の魂がそれを引き戻し、どちらかが堕ちようとすればもう片方が共謀者として共に堕ちる。主従という形を借りた、究極の共依存。
「……そうです、クライド様。あの馬車の中で、私はとっくに貴方と地獄へと堕ちていたのでした。」
レイが、クライドの元へと歩み寄る。その瞳にはもはや迷いはない。ただひとり、自分を縛る唯一の主への思いだけが宿っていた。
「くく……ははははは! 堪らないな! これぞ真の愛憎、真の共犯! 聖女の皮を被った魔物と、王の血を引く狂信者! 素晴らしい、実に素晴らしい幕切れだ!」
マリオットは崩れゆく牢獄の壁に寄りかかり、のけぞって笑い続けた。
彼の植え付けた裏切りの幻想など、このふたりが自ら結んだ永遠の呪いに比べれば、あまりに子供騙しのお遊びに過ぎなかったのだ。
レイは、牢獄の格子を塵へと変え、クライドの前に跪いた。
「クライド様、お待たせしてしまい申し訳ありません。さあ帰りましょう。」




