第57話:王の思惑、魔族の嘲笑
「くく……陛下、賢明な判断ですな。では、さっそくこの愛らしい『聖女』を、我が城へ招待するといたしましょうか。」
「しかし、勘違いしてもらっては困る、マリオット卿。」
ロイエンタールの厳かな声が、魔族の不遜な言葉を鋭く切り裂いた。彼は一歩踏み出し、マリオットの瞳を真正面から見据える。
「マリオット卿。我らの間に結ばれた平和の誓いを、今一度その胸に刻まれよ。レイは我が弟のかけがえなき従者である。彼を預ける間、その安全に万全を期すことは貴殿の責務であると承知いただきたい。」
ロイエンタールはレイに向き直り、安心させるかのように、その顔にふんわりと笑みを浮かべて言った。
「そして…レイよ。お前を預けるのは、我らが各国を説得し、この醜悪な疑念を晴らすまでの間に過ぎぬ。それまでの間、お前の身の安全はマリオット卿に保障してもらう。これは王としての命令ではない。私とお前の『約束』だ。安心して待っておれ。必ず、迎えに参る。」
レイは一瞬、驚きに目を見開いたが、やがて万感の思いを込めて深く頭を垂れた。
「……御意に。御心遣い感謝いたします。信じてお待ちしております。」
「そして」と、ロイエンタールは氷のような冷静さで言葉を継いだ。
「ただ身を隠すだけでは、諸国の疑心は拭えぬ。ヴァイン、クライド。お前たちは共に、親善大使として各国を巡れ。実際にその目で、彼らが神と崇め、あるいは兵器と恐れる存在がただの妄執に過ぎぬことを、我らに侵略の意図がないことを、誠実に説いて回るのだ。」
「兄上、クライドも共にですか!? それは……!」
ヴァインが驚愕の声を上げる。
「ヴァインの清廉潔白な正義感と、レイの誠実さを何よりも知るクライド。お前たちがともに直接各国を訪ね歩くことは、帝国が何ひとつ疚しいものを隠していないという、何より雄弁な証明となる。分かったな、クライド。」
無言でただ頷くしかないクライド。
マリオットは、ロイエンタールの、その想定外の反撃に一瞬だけ表情を歪めたが、すぐにまた粘りつくような笑みを浮かべた。
(ほう……これはこれは。人間たちの国を渡り歩く『大道芸』ですか。くく、実に面白い趣向だ。よかろう、この酔狂な旅路、私が責任を持ってエスコートして差し上げよう…)




