第50話:嵐のあと、和睦の宴
魔王と諸国の王が集った歴史的な和睦の会議。その閉幕後に開かれた懇親会は、張り詰めた緊張がようやく微かにほどけ始めたとはいえ、不思議な静寂と熱気に包まれていた。
かつては54名を数えた聖女たち。それぞれの意志で元の世界へ帰る道を選んだ仲間たちを涙で見送り、今この異世界に残っているのは約半数。私たちは互いに手を取り合い、この日のための祝宴料理を準備した。
何せ、会談相手は人類の宿敵である恐ろしい魔王。
いまだ会場内には彼に対峙したという冷たい緊張感が残っているが、この場に集った人間たちが過酷な会談の疲れを癒せるように、また気兼ねなく口に運べるよう、私は祈るような心地で色とりどりの前菜を並べていった。
前菜は、
〜鶏とたまごのそぼろをあしらった、優しいひとくち手まりおにぎり〜
〜サクッとした衣から白身魚の旨みが溢れるフリットにタルタルを添えて〜
〜根菜のコンソメ煮をピンチョスに〜
〜香草のジュレをのせた冷製のひとくちタルト〜
会場の入り口から、私はそっと中の様子を窺っていた。
「オト。また、見慣れない料理を作ったな。」
不意に背後から響いた低く重厚な声に、私は思わずビクッとなった。
振り返ると、そこには騎士団の正装に身を包んだヴァインが立っていた。顔に刻まれた無骨な傷跡が会場の灯火に照らされ、今日は一段と誇り高く、勇ましく見える。
「あ、団長。お口に合いましたか?」
「ああ。これなら、極限の緊張下にあった王たちも喉を通りやすいだろう。皆、喜んでいるぞ。」
ヴァインは、私が作った手まりおにぎりをひとつ手に取ると、慈しむように口に運んだ。その一瞬だけ、戦場で見せる厳しい気配が消え、年相応の青年の顔が覗く。
「団長もお疲れ様です。会議、大変だったのでしょう?」
私の問いに、彼はわずかに視線を泳がせた。
「いや、俺はただ控えていただけだ。ロイエンタール兄様こそ、人類の命運を背負い心身を削られたはずだ。オト、後で兄様へのねぎらいの差し入れを頼めるか?」
「もちろんです! 陛下がお好きなもの、心を込めて用意しておきますね。」
私が笑顔で答えると、ヴァインはふと会場を見渡し、微かに眉をひそめて呟いた。
「そういえば、クライドがいないな。接待が嫌で逃げ出したか……」
自由奔放な弟を案じているのか、それとも呆れているのか。
わずかに表情を崩した彼を見て、私は少し胸が温かくなった。
「さあ、追加を運びますよ!」
私はエプロンをきゅっと結び直し、温かい湯気の立つ大皿を抱えた。




