第46話:序章〜双翼の乖離、偽りの半身
クライドの独白です。
美しい銀糸を編み上げたような僕たちの髪。
吸い込まれるほどに澄んだ、対のブルーの瞳。
僕たちは完全に同じ存在だった。
まだ幼い僕たちが並んで歩けば、誰もが足を止め、
『まるで天上の天使が舞い降りたようだ』
と溜息をついて僕たちを慈しむ。
僕はとても幸せだった。
僕は美しい僕を愛し、兄のヴァインの美しさを愛していた。
でも、僕の鏡合わせのはずの兄は、僕たちの8歳の日に突然僕を置いていってしまった。
騎士になると言って髪を切り、身体を鍛え、泥にまみれ、僕の知らない形になっていく。
どうして、ヴァイン!
君は僕なのに!!!
僕だったはずの君の姿が変わってゆくのを見るたび、僕は魂を半分引き千切られたような、耐え難い喪失感に苛まれ続けていた。
その穴が埋まったのは、13歳の春のことだった。
隣国の王女の誕生日祝いを届けるという、退屈な公務の帰路。前日の大雨でぬかるんだ城壁の外に、君は倒れていた。
放っておいてもいいはずなのに、なぜか僕の胸は激しく跳ね上がった。我慢できずに馬車を飛び降り、汚れなど構わずにその泥のぬかるみの中へ飛び込んだ。
そこにいたのは、僕より少し年上の、黒髪の不思議な空気を持つ少年だった。
僕を見上げるその捨て犬のような瞳の中には、絶望とともに、『まだ生きたい』と願う光が宿っていた。それを見た瞬間僕の心がうずき、背筋がゾクゾクと震えたんだ。
「……見つけた。」
僕は彼を屋敷へ連れ帰り、メイドたちに命じて徹底的に世話をさせた。泥を落とし、温かな食事を与え、僕の目の届く場所に繋ぎ止めた。
その少年は、震える声で僕に《レイジ》と名乗った。けれど、僕はすぐにその名を取り上げて《レイ》と呼ぶことに決めたんだ。
何故かって? それは、彼が僕の、僕だけのものだから。
彼をレイと呼び、彼の黒い髪を僕と同じ銀に染め、僕の所有物として定義した瞬間、長年僕を苦しめていたあの空虚な喪失感がようやく消えていくような気がした。
「さあ、レイ。僕の半身として、完璧に育ってね。」
兄が捨て去ってしまった僕。
それを、僕は今、この黒髪の獲物の中に新しく作り上げようとしている。ふと鏡を見ると、その僕はかつてないほど美しく微笑んでいた。




