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第40話:屠殺者の王冠、騎士の反逆

夜の静寂に沈む王宮。

その最奥にある謁見の間の扉を、ヴァインは迷いなく蹴り開けた。

立ち並ぶ近衛兵たちがその異様な気迫に剣を抜くことすら忘れて立ち尽くす。


3人の姿はあまりに無惨で、同時にあまりに苛烈だった。


泥と血にまみれたヴァイン。

幽霊のように青ざめたクライド。

怒りに震え殺気を放つレイ。


玉座にはヴァインとクライドの兄であり、この帝国の王であるロイエンタールが、まるでこの訪問を予期していたかのように静かに座っていた。


「……夜分に騒々しいな。

ヴァインよく無事に戻った。それにクライド、死の淵から戻ったばかりで無理をするものではない。」


王の冷静な声が響く。しかし、クライドは唇の端を吊り上げ、乱れた髪をかき上げながら一歩前に出た。


「おやおや、ロイエンタール兄様。あなたの可愛い可愛い弟が地獄の門番に襟首を掴んで放り出されて帰ってきたんだ、少しは驚いたらどうなんですか? それとも、僕がそのまま『種』のいしずえとして眠り続ける計算だったのかな?」


クライドの言葉に、ロイエンタールの眉が微かに動く。その沈黙を切り裂くように、ヴァインが大剣を床に突き立てた。


「兄様! 最前線で魔族から聞きました。この国の平和が、聖女たちの命を啜り、少女たちを【部品】として消費することで成り立つ泥水のような欺瞞だということを!」


ヴァインの声が、高い天井に反響する。


「否定してください! 兄様が、その惨劇の管理者ではないと! クライドが眠らされたのも、この世界の《仕組み》を守るための口封じではないと、笑い飛ばしてくれ!!」


ロイエンタールはゆっくりと立ち上がり、重い王冠を脱ぎ傍らに置いた。その顔には、隠しようのない疲労と、すべてを諦観したような虚ろな微笑が浮かんでいた。 


「……否定はしない。ヴァイン、お前の聞いたことはすべて真実だ。そしてクライド、お前が触れようとしたのは、この世界を維持するための《女神の聖域》……触れれば魂を焼かれる、禁忌の領域だ。」


「……っ、ふざけるな!!」


ヴァインの背後で、レイが地を這うような声で叫んだ。


「陛下、あなたはこの事態をすべて予見していたはずだ! クライド様は、私のような廃棄物をシステムから救おうとして、独りで深淵に踏み込まれた! それを…もしや『王族としての気高い犠牲』などという言葉で片付けるつもりか!」


レイの叫びが、冷たく光る月光を切り裂いた。


「お答えください! あなたが守りたかったのは、あなたの弟たちの心か、それとも、この腐り切った女神の呪いか!」


王は、震える自分の手を見つめた。


「………誰かが屠殺者にならねば、明日の朝日は昇らぬのだよ。私は、お前たちにだけはこの現実を見せたくなかった。私の代で、この連鎖を終わらせる術を探した。だが………」


「そんな言い訳、今さら聞けん。」


ヴァインが大剣の柄を強く握りしめ、切っ先を真っ直ぐに王である兄へと向けた。


「異世界の少女たちをり潰し、不都合を知る者を眠らせ、周りに嘘をついてまで成り立つ平和など……俺が今ここで叩き斬ってやる!兄様、あなたがその守護者だというなら、俺はあなたごと、この世界を否定する!」


「…………いいだろう。ならば、お前の決意、その剣をもって証明してみせよ。」


ロイエンタールが静かに剣を抜く。


かつて同じ食卓を囲み、同じ平和を信じた兄弟たちの戦いが今、偽りの楽園の終焉を巡り、火蓋を切って落とそうとしていた。


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