第21話:深夜の厨房、微熱の心
「団長、これだけじゃ終わらせませんよ。もうひとつの食べ方を試してみます?」
私はにやりと笑い、手際よく銀色のなめろうの残りを小さなボウルに移した。
「まだ何かあるのか? これ以上の正解があるとは思えんが。」
「ふふ、これですよ。冷やしておいた特製の『お出汁』です。」
私が取り出したのは、氷を入れた冷水でキンキンに冷やされた、透明感のある美しい黄金色の出汁。
炊きたてごはんを彼の丼に少量盛り、その上に残ったなめろうを乗せると、迷いなく冷たい出汁をじゃばっと注ぎ込んだ。
「冷たい出汁での、なめろう茶漬けです。脂の乗った魚を食べた後には、これが最高なんですよ。」
「茶漬け、だと? だが、茶にしては冷たいし、そもそも茶でも無い!」
「それがいいんです。さらっといけますから、どうぞ食べてみてください。」
ヴァインは促されるまま、サラサラと音を立てて冷茶漬けを口に流し込んだ。
「…っ、なんだ、これは!」
口に含んだ瞬間、月光魚の濃厚な脂となめろうの味噌のコクが、冷たい出汁によって一気に解き放たれた。出汁が味噌と混ざり合い、薬味の清涼感が喉を通り抜ける。熱い米を冷ます出汁の温度が食欲を加速させる。
「これも美味すぎる。なめろうそのままでも酒が欲しくなったが、これは無限に食えるな。」
「でしょう? 冷たい出汁と混ざることで、魚の甘みがさらに引き立つんです。」
夢中で茶漬けをかき込むヴァイン。
丼を置き、私を見つめてくる。
「お前は本当に俺が知らない世界を次々と見せてくれるな。」
「以前話したでしょう? 私も楽しみながら作ってるんですから。団長が持ってくる食材、どれも面白いものばかりですし。」
「……ああ、そうだな。俺も、お前がどう料理するか見るのが楽しみなんだ。」
そう言って、最後の一滴まで出汁を飲み干してくれた彼の満足そうな顔を見て、私はもう一度、小さく笑みを深めた。
「次は、もっと難しい食材を探してくるとしよう!」
「うわ!お手柔らかに。騎士団長閣下!」
「おい!それはやめろと言っただろう!」
冷たい風が吹き抜ける夜。けれど、月光魚の脂と出汁の旨味は、私の心に確かな熱を残していた。




