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第18話:深夜の厨房、不敵なる闖入

深夜の大聖堂。私はいつものように静まり返った厨房へ足を運んだ。重い扉をゆっくり開けると、そこには予期せぬ先客がいた。


「おや。こんな時間に仕事かい?勤勉なことだ。」


月明かりが差し込む窓際に、一人の男が優雅に腰掛けていた。

騎士ではない。上質な絹の外套を纏い銀髪を緩くまとめたその姿からは、隠しきれない高貴さと、それ以上に不遜な気配が漂っている。

切れ長の瞳には知的な光が宿り、彫刻のように整ったその顔立ちは、でもどこか既視感デジャ・ヴを抱かせるものだった。


「……誰だか存じ上げませんが、こんなところにいらっしゃるとは、もしかして迷われたのですか? 」


冷静に問いかけると、男は面白そうにくすくす笑った。


「まあ、迷い込んだ世捨て人とでも思ってくれればいい。」


男は好奇心を隠そうともせず、じっと私を観察している。


私は一瞬だけ眉を寄せ、すぐに「そうですか。」と、興味なさげに調理台へ向かった。その徹底した無関心さに、男はさらに目を細める。


「あの堅物な男が、保管庫から最高級の魚介を、聖女の頼みとはいえ持ち出していた。あの聖女嫌いな男をそこまで狂わせる元凶を一度拝んでおきたくてね。」


男の声には悪意はない。ただヴァインが聖女のために動いたという事実に心底驚き、本当の理由を確かめたくてたまらないといった風情だ。


彼は立ち上って、ゆっくりと私の周囲を回るように歩いた。その品定めをするような視線が、私の小柄な身体の前から後ろから注がれる。


「あいつも趣味が変わったな。確かに見ようによっては愛らしいか。」


………うん?やっぱり悪意あるかな?


男がなぜか楽しげに口角を上げた、その時だった。


「貴様!そこで何をしている。」


地を這うような低い声と共に、厨房の扉が乱暴に開かれた。

立っていたのは、フル装備の鎧を纏ったヴァイン。その顔は、かつてないほど険しく、怒りと焦燥が混じり合っている。


「あ、団長。ちょうど良かったです、この方迷われたみたいで。」


私が状況を説明しようと口を開きかけたが、ヴァインはそれを遮るように一歩踏み込み、私と男の間に割り込んだ。


「クライド…なぜ、ここにいる。」


「やあ、兄上。そんなに怖い顔をするな。私はただ、あなたを虜にしている聖女さまに挨拶をしにきただけだよ。」


クライドと呼ばれた男は肩をすくめ、まるであやすような笑みを浮かべる。

ふむ、なんか雰囲気に見覚えあると思ったけど、血縁者きょうだいだったんだ。


不敵に笑う弟と、かつてないほど動揺を隠せない兄。

その中心で、私は嵐が過ぎ去るのを待つように、ただただ深く、深く溜息をつくのだった。

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