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第15話:騎士団長、またもや「パシリ」に使われる

聖女たちの生誕日は私の業務の中でもひときわ気合が入る特別なイベントだ。


この大聖堂で共に暮らす彼女たちにとって、月に一度の一番食べたいものをリクエストできる日がどれほど大きな楽しみか。そこで『材料がありませんでしたごめんね』なんて失望させるのは、彼女たちの同僚ともだちとしても絶対に避けたいことだった。


今回の主役、46番目の聖女サキが目を輝かせてリクエストしたのは、不思議な響きを持つ一品だった。


「……メンタイコ、フランス?」


厨房の片隅で、私はリクエスト一覧表を片手に思わず不思議な発音をしてしまった。


もちろん明太子フランスの何足るかは当然知っている。


今あるパンのアレンジでフランスパンは再現できる。だが、中身の『魚の卵を辛く漬け込んだもの』というのが難題だ。清廉な食事を提供する大聖堂の厨房に、そんな海の幸の加工品など置いてあるはずがない。


けれど、サキのあの期待に満ちた瞳を思い出すと、どうしてもできませんとは言えない。せっかくの生誕日、彼女が心から「美味しい!」と笑ってくれることが、私にとっては一番の報酬なのだ。


そこで《食材調達係》こと、騎士団長のヴァインに相談してみた。


「…魚の卵だと? 貴様、この大聖堂から海までどれほどの距離があると思っている。おまけに辛く漬け込んだ加工品など、王族の献立にも存在せんぞ。」 


うーん。やっぱりか。


「団長、そこをなんとかするのが騎士団でしょう? サキちゃん、あんなに楽しみにしているんですよ。もし望みのものが食べられなかったら、彼女の生誕日が台無しになってしまう。そんなの可哀想じゃないですか。」  


私はお玉を突きつけるようにして、一歩踏み込んだ。


「いいですか、団長。今回なんとか用意してくれないと、今後団長のためには一切料理を作りませんからね! 獲物を持ってきても、全部そのままお返しします!」


「……っ! なんだと!貴様、俺を脅すというのか!?」


聖騎士団長は絶句し、重厚な鎧をガシャリと鳴らした。

そのまま、しばし睨みあう。


だが、彼とて聖女を失望させるという選択肢など、端から持ち合わせてはいないのだ。騎士団長として、彼女わたしたちの願いを叶えることは絶対の使命。私の脅しは、彼にとって背中を押すための最後の一押しに過ぎない………多分。


ヴァインはしばらく私を睨めつけていたが、大きく息を吐いてから返答した。


「……ふん。致し方ない。王族直轄の保冷庫に、北の海から氷漬けで届く希少な魚卵もある。南方の遠征で手に入れた赤い香辛料も。そこからすべて出そう。サキ殿に不足を感じさせるわけにはいかんからな。」


「さすが団長! 話が分かると思っていました!」


翌日、騎士団の早馬が届けてくれたのは、リクエスト通りの見事な魚卵と喉を焼くような香りのスパイスだった。

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