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第12話:湯気に溶ける、聖女の魔力

湯気に煙る広大な浴場おふろには、若々しい聖女たちの柔らかな肌の香りと、華やかな石鹸の匂いが充満していた。

彼女たちは1番から54番までのナンバリングを持つ聖女たちだ。入浴タイムは全員で入ることとなっている。


「あーあ、今日も一日立ちっぱなしでふくらはぎがパンパン。ユミ、ちょっと揉んでくれない?」


「もうアヤネったら。聖女にあるまじき姿よ。はいはい、分かった分かった。」


37番聖女のユミが、お湯に浸かって火照った白い肩を揺らしながら、21番聖女のアヤネの脚を揉みほぐす。

たっぷりとお湯を弾く彼女たちの肌は、磨き上げられた大理石のように滑らかで、湯船から立ち上がると滴る水滴がしなやかな腰のラインを伝い落ちていく。


この快適な空間を支えているのは、彼女たち自身の巧みな魔法だ。


「あ、ちょっとお湯がぬるくなってきたかも。マユ、温めお願い!」


アヤネが声をかけると、火の魔力を持つ聖女マユが、しなやかな指先を水面に添える。ポウッ、と赤みを帯びた魔力が水中に伝わり、底から心地よい熱が湧き上がった。水の聖女ミツキは、常に清らかな新水を泉のように湧き出させ、濁り一つない透明度を保っている。


火と水の魔力が絶妙に混ざり合い、しっとりと肌に吸い付くような聖女専用の極上湯。その甘やかな熱に包まれて、《アイ》はふたりの聖女に文字通り揉みくちゃにされていた。


アイは2歳くらいの幼児だ。

チヤコの細い指先がアイの髪を泡立て、ミチルが自身の豊かな胸元でアイを抱き留めるようにして小さな背中を流してやる。そのふたりの、湯気で上気した頬と、濡れて肌にぴったりと付く長い黒髪。その健康的な色香に囲まれて、アイはにこにこしていた。



―誰も、気づいていない。



チヤコやミチルがアイに触れるたび、彼女たちの指先から、目に見えないほど微細な『黄金の粒子』がアイの肌へと吸い込まれていることに。

それは聖女としての純粋な魔力。アイは、ただそこにいるだけで、彼女たちの命そのものを少しずつ、確実に『受粉』するように吸収していた。



「……あう、おふろ、や……。あちゅい……」


むちむちとした短い手足をバタつかせ、必死に湯船の縁を掴んでいる。


彼女アイには聖女の証であるナンバリングがない。なぜこの箱庭に《ノーナンバー》の幼子がいるのか、そしてなぜその制度を潜り抜けてここに存在しているのかを知る者はいないし、なぜか誰も不思議とすら思わない。

王族ですら、この大聖堂の奥深くに小さな迷い子が隠れているとは夢にも思わないだろう。


「アイちゃん、もう少しだけ我慢しようね? ほら、上がったら何があるんだっけ?」


私が浴槽の縁に膝をついて声をかけると、アイはきらきらした目で私を見て言った。


「…あいしゅ!オトの、あまーい、つめたいの!」


そう。アイがこの入浴という試練に耐えているのは、私の特製アイスクリームという抗いがたい誘惑のためだ。


「うん。ちゃんと肩まで10数えるまで浸かったら、美味しいバニラアイスをあげるからね。」


「……ん! アイ、がんばりゅ!」


アイの必死な宣言に、周りの聖女たちからも「偉いわね!」「頑張れ!」と一斉に声援が飛ぶ。


「さあ、アイちゃん。約束のアイスの時間よ」


「あいしゅ! おいち、おいちーね!」


満面の笑顔でアイスをほうばるアイ。


湯船から上がる聖女たちの、しなやかな肢体と弾けるような笑い声に見送られて、私たちは今夜も密かなご褒美アイスタイムを過ごすのであった。

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