第11話:第三騎士団、黄金の衣に散る
「…団長。後ろ、気づいてます?」
トンカツをフォークに突き刺したまま団長に告げる。
厨房の入り口の暗がりに、ギラギラと光る十対の眼があった。
ガシャリ、と鎧の触れ合う音とともに姿を現したのは、ヴァイン直属の部下――夜間の神殿警備を一手に引き受ける、第三騎士団の精鋭10名だ。
その先頭に立つのは、副団長のギル。ミルクティー色の爽やかな短髪に涼しげな顔立ちのイケメンだが、今はその爽やかさをどこかに置き忘れてきたらしい。
「報告します、団長!我ら、深夜の巡回任務中ですが、あまりに善き香りが鼻腔を蹂躙したため、戦線の維持が困難と判断しました!」
…格好つけているが、要するにお腹が空いたんだ。
ギルの背後では、屈強な精鋭たちが、捨てられた仔犬のような目でこちらを見つめている。
「…チッ。ギル、貴様ら。職務中だぞ。」
お前が言うな。
「団長!その黄金の塊を一口いただけるなら、明日の訓練は3倍に、いや、5倍にしても構いません! 頼みます、このままでは夜勤が越せません!」
ギルたちの決死の訴えに、私は損得勘定を働かせた。一角猪の残りの肉を一気に片付け、かつ強力な味方を作るチャンスだ。
「…わかりました。団長、彼らにも振る舞っていいですね? その代わり、今後私が厨房で何をしていようと、騎士団の特権で見逃してください。」
「…勝手にしろ。ただし、俺の肉を奪うなよ。」
ヴァインが諦めたように肩をすくめた瞬間、私の深夜営業が始まった。
シュワァァァッ……!
フライパンに次々と投入される、魔法で柔らかくした魔獣の肉。サクッ、ザクッ、と、静寂を切り裂く快楽的な音が、再び深夜の厨房にリズミカルに響き渡る。
「はい、お待たせしました! 10名分、揚げたてです!」
皿のトンカツを精鋭たちが一斉に口にした瞬間、彼らは文字通りがくっと膝をついた。
「っ……!! なんだ、この……暴力的なサクサク感は!」
「肉汁が…肉汁が溢れて止まらん! この脂、魔力が直接血管を駆け巡るようだ…!」
ギルは震える手で最後の一切れを口に運ぶと、憑き物が落ちたような顔で空を仰いだ。ソースのついた口元を拭いながらしみじみと呟く。
「…はぁ。深夜の凍えるような警備の合間に、こんなに温かくて、魂が震えるほど旨い飯にありつけるなんて。」
感極まったようなギルの言葉に、背後の騎士たちも揃って深く頷いた。
「ここは救いそのものですよ、オト様。夜勤が初めて楽しみになりました」
私にすっかり懐いた騎士たちは「お代わり!」と皿を差し出す。ヴァインは、部下たちの情けない姿を冷ややかに見つめながらも、自身もまた、お代わりの皿を差し出す前に、ソースの最後の一滴をキャベツで拭い取っていた。
食べ終わったら、皆に血のついた床の掃除をしてもらおう。




