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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
叛乱軍の抵抗
38/65

第38話

 ミンネザングから投射されたモーメンタルランチャーの弾芯がフォボスの艦艇側壁を悠々と打ち抜いた。

 横殴りの慣性を受けたフォボスが船体を傾かせながら回転を始めると、ダイモスの予定進路に割り込むように横臥する。

 突然の動きに反応したダイモスは何度も友軍に通信を入れるが無反応のまま、慌てて機首を上げたが二つの艦は遭えなく接触した。


 同じ相対速度域にあるとはいえ巨大な質量の激突には相応の威力がある、コスモポリタンの直掩に着いたタケルが思わず呟いた。


「もう、あの人1人でいいんじゃないかな?」


『こちらコスモポリタン、気を抜くなよデルタ。

 先行したブラボーからの索敵情報を送信する』


『こちらアルファ2、月方面が本隊だったのかしら?』


 表示されるレーダー光点の数が想定以上に少ないことを受けて、イーリアは思わず疑問の言葉を口にする。

 単純に叛乱軍の残存戦力が減少、現時点でフリーダム・ケーニッヒ・ホライゾンの3隻を残すのみ、戦力の偏りがあるとは言えない。

 イーリアを先頭に迎撃の隊列を組もうとした所で不意にタケルのオラトリオが前に出ようとして、イーリアに見咎められた。


『ちょっとデルタ、何処へ行くつもり?』


「僕が前に出て盾になります。

 女の人に危険な真似はさせられませんから……」


『オット! デルタ。

 悪いコトは言わん、今の内に謝った方がイイぜ』


 タケルは何が不味かったのかとニコの発言意図が分からないまま、オラトリオのコクピット内で首を傾げた。

 其処に低い唸り声を上げているイーリアの声が届く、地球では口説き文句だが火星の女性にとっては侮辱に匹敵する言葉だ。

 火星の女性達の耳には「女は使えないから下がってて」と聞こえるのだ。


『こんな話を知ってるかしら?

 軍隊で長い間女性兵士が居なかった理由よ』


「い、いえ、存じ上げないです」


『それはね、あなたみたいな男の兵士が女の兵士を庇って死ぬからよ。

 部隊に女が一人居るだけで目に見えて死傷率が上がるの』


 タケルは徐々に怒気をはらんで来るイーリアの言葉に気圧されて、オラトリオを後方へ下げる。


『私が仮に死にそうになっていたとしても……助かる見込みがなければ見捨てなさい。

 私のミスで部隊が全滅して、自分だけ生き残るなんて真っ平御免だわ。良いわね!』


「はい……配慮に欠けていました。す、すいません」


『こちらアルファ3。

 あまり よその少尉殿を虐めんでやってくださいよ。

 デルタ、側面に回ってくれ。ビームの速度を生かすにはそれが良い』


 最近良い所のないタケルは巻き返しを計ろうと発奮すると、展開する敵部隊を大きく回り込み側面へと推進機を作動させた。

 質量攻撃はベクトルの変更が効かない為に正面から相対する事になるが、亜光速で発射されるビームは側面攻撃が可能。

 しかし宇宙空間は完全な真空ではないので発射された荷電粒子は、即座に減衰してしまうのが弱点である。

 そこで打ち抜けないコクピットを避け、推進機を狙い無力化するのが有効だろうとデンドロンは考えたようだ。


 部隊の展開が終わり前方からミスパルの分隊がコスモポリタンへと飛来する。

 接触に1分以内という所でコスモポリタンの中央船室に向かって、やる気なさげな男の声が届いた。


『ミスパルよりコスモポリタンへ。

 私の名はフィロソファー……降伏します』




 ミスパルの搭乗するトラッドカスタムが背を向けて減速体制に入った、一言で言えば隙だらけである。

 コスモポリタン中央船室ではメナエムがその意図に気付き、ダイモスの状態を再確認すると艦艇の推進装置が作動を続けていた。

 どうやらダイモスは軌道エレベーターに戦艦の艦艇毎ぶつける自爆攻撃を敢行する事に決めたようだ。

 艦艇を両方撃沈されればミスパルは月方面へと帰還する手段を失う、抵抗させれば引き際のない死兵となるだろう。


『これは取引です』


「取引? 私には君等から得られる物は何もないと思うが……」


『戦闘がお望みなら、今すぐ我々も反転して攻撃を再開しましょう。

 しかしそれでは自爆攻撃を行う、ダイモスに対応する時間が遅れるのでは?』


「……確かにそうだな。

 但し投射可能な武器はその場で遺棄するように、無論EVCの四肢もだ」 


 ミスパルは返答する事無くコスモポリタンと交差寸前の位置まで粘り武装と四肢を破棄、スフィアブロックのみとなった。

 コスモポリタン本船は落ちていく装備を確認すると、緊急通信を受け取った火星軍の艦艇によるダイモスへの攻撃が始まる。

 しかし完全に形の崩れ落ちたフォボスの残骸が遮蔽物となってFELの照射を遮蔽した。


「モーメンタルランチャーを発射せよ」


「はい、Cブロック! ランチャー装填準備!」


 この場合対面に居るコスモポリタン機が質量攻撃を加え続け、敵艦の相対速度を限りなく0に近付ける必要がある。

 報告を受けていたEVC部隊も動き出し、ダイモスの正面装甲へ向かって弾体を投射。

 手持ちのインパクトアサルトからスムースボアキャノンまで全ての搭載質量をダイモスに浴びせかける。


 その時、折り返し攻撃へと向かっていたミンネザングがダイモスへと接近すると、前方から投射されてきた弾体の雨を確認した。

 アスカロンを稼動させながらワイヤーでデブリを掴み、相対速度を無理矢理減速させ艦艇の背部へと着陸する。

 推進機を破壊しようとミンネザングが振り向いた先には、青白い光を全身から漂わせる謎のEVCが存在した。


「な!? 何だこいつは!?」


「形式不明、データベースからも参照出来ません」


『“屈辱に生きるよりは、報復に死ぬが良い”今まさに復讐の時だ――』


「ファルーク!?」


 ミンネザングはインパクトアサルトを構えファルークの機体に向かってロックオンを行うが、FCSは沈黙したまま捉える事が出来ない。

 IRによるロックオンに切り替えるもののFCSは反応する事無く依然として機能を停止したままであった。


「その機体を何処で?」


『コスモポリタンを狙う予定だったが、俺にとっては嬉しい誤算。

 この俺とラーイーが……フッリーヤの復讐を果たす!』


「一々時代掛り過ぎんだよ!」


 ラーイーが推進機を噴射しながら前方へと跳躍すると、ミンネザングへ向かって炎を放つ手刀が振り下ろされる。


 コウキはミンネザングのアスカロンを構えると出力を上げプラズマを噴射、手刀を切り払うように斜上へと向かって振り抜いた。

 ファルークの振り下ろしたラーイーの手刀とが克ち合うと、両機はお互いのプラズマジェットの噴流に押され体勢を崩す。


 体勢をいち早く立て直したのはラーイー、全身に備え付けられたMPDアークジェットから青白い焔が揺らめいた。


 それはさながらスノーボールのように、漆黒の宇宙空間を艦艇の破片が白く煌めく雪のように火星の地表へと流れ落ちていく。

 戦艦の搭乗員と思しき制帽が両者のプラズマ閃光によって蒸発すると、余熱を発するデブリ目掛けてロックオンをかける。

 ミンネザングが発射したワイヤーが大型のデブリに吸着すると、胸部インパクトマシンガンを乱射した。


『猪口才なァッ!』


「しつこいぜ、ファルーク!」


 ラーイーは弾体の発射によって体勢を崩したミンネザングに襲い掛かると、ミンネザングは反作用を利用してデブリを一回転。

 不意を突かれたファルークの背後から襲いかかると、アスカロンによる回転切りを放つ。

 ファルークは舌打ちしながら背面のジェットを噴射しながらプラズマフィールドを形成、アスカロンの攻撃を跳ね飛ばす。


「ハル、何とかならないのか!?」


「相対速度を合わせた環境では不利です。

 ダイモスから離れる事をおすすめします」


「それが出来りゃとっくにやってる!」


 コウキはラーイーの特徴に明らかにおかしい点を見出し、その原因を推理しようと頭を働かせていた。

 それはMPDアークジェットを放出している筈のラーイーが、熱源にロックオン可能なIRH信号を受け付けないという問題である。

 ミンネザングよりも優れたステルス能力を保持していると仮定するならば、今ここに居ることが不自然だ。


 加えてファルークの言動ではコスモポリタン本船を狙っているようにも聞こえる態度を取っていた。

 だとすればEVCの迎撃に向かってミンネザングのように反転して取り付けば良いだけではないか、言外にそう示しているのだ。

 そしてコウキの脳内にはある一つの仮説が浮かび上がった、ラーイーはステルス等ではない。


「ハル! 解除信号だ、FCSを掌握!」


「敵EVCからの解除信号を検知……フィックスコード」


『そうはさせんよ』


 何処からともなく聞こえてくる男の声と共に、潜伏していたマカームからの狙撃がミンネザングの腕部に命中する。

 タンデムHEAT弾頭が強引にミンネザングの腕部装甲を破砕すると、電力供給が絶たれ保持していたアスカロンを手放す。

 FCSを停止している間は敵機に対してロックオンは出来ない、今まさにこの時を狙われていたのだ。


「Holy shit!」


 更にはとどめといわんばかりに踊りかかるラーイー、敵機は両手両足を自由自在に武器にする事が出来る。

 対してミンネザングに残された武器は1本のアスカロンのみ、飛来する狙撃を何とか回避すると剣を身構え迎え撃つ。

 次々と襲い掛かる手刀と足刀の連撃が、捌き切れなくなったミンネザングに食い込んだ。


「Fix code successful」


 コウキは敢えてミンネザングで前に踏み出させ、ラーイーの手刀を肩口に食い込ませるとインパクトアサルトを構える。

 フルオートで投射される弾体がラーイーのスフィアブロックを捉えると、慣性を受けてダイモスの艦上から弾き出され落下する。

 推進機を作動させようと機体を立て直すがそこにオラトリオのビームが投射され、ラーイーは艦への帰還手段を失った。


『これで終わったと思うなよ、コウキィィッ!』


「三度目はないぞ、ファルーク!」


 ミンネザングは伏兵のマカームにインパクトアサルトを掃射すると、ダイモスの推進機にアスカロンを突き立てた。

 続いて先程コスモポリタンから投射された弾芯がダイモスに襲い掛かり、撒き散らされる破砕片によってマカームが分解される。

 機体内に搭乗していた老兵ラシードはただ一言神への祈りの言葉を捧げ、願わくば一人の若き鷹に幸多からん事を願った。



ALL-XX ラーイー


兵器採用トライアルに敗北した機体をヴィルトゥオーソが改修、第二のミンネザングとして開発された。

その特徴はFCSによるロックオン解除信号となる欺瞞発信を発信するハッキング能力と特異極まる容貌の全身に設置されたMPDアークジェットにある。

運用方法は徒手空拳による格闘にあり、相対速度を合わせた環境での戦闘ではほぼ無敵の力を備える。


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