第39話
一方月方面へ向かった合同軍は、月面都市を急襲すると思われた叛乱軍が逃げ回る事で艦艇2隻との追走戦となっていた。
叛乱軍の旗艦フリーダムは月を横切り直進後何処かへと消え去り、相対速度の弱い宙間爆撃によって決め手を欠く状態が続く。
「フリーダム現在地!」
「月の中立地帯をなおも航行中。
こちらからは攻撃出来ません!」
「中立地帯を防御に利用するとは……考えたな。
観測手! フリーダムを見失うな!」
ヴィオラがオーロラの中央船室内で指揮を取りつつ、前方から散発的に続けられる宙間爆撃を艦載FELによって迎撃する。
格納室内ではEVC部隊が待機命令を受けたまま、機体の最終点検に追われていた。
相対速度が同じ状態では慣性を利用した質量攻撃は不可能、かといって宇宙空間では軍用弾頭は利用できない。
EVCは建前上は低速で弾体を投射して隕石を逸らすなどの業務に当たる作業用ロボットなのだ。
「FELを使用できるEVCは幾らか?」
「4機です!」
「あるだけ出せ!」
格納庫内に発信を知らせるアナウンスが響き、ステラはその場で跳躍するとセクエンツィアのコクピットに乗り込む。
メルセデスはツィガーヌ、チャンドニーがチャールダーシュに乗り込むと、バートンが足元で警告を発した。
「ちょっと、チャンドニーちゃん! その機体は……」
「大丈夫です! いけます!」
気密ロックにEVCが進入すると空気圧が調整されガイドポールに足部ローラーをセット、セクエンツィアが走り出す。
戦域に向かって飛び出した3機のEVCは、陣形を組みながら防衛網が薄いと思われるオーロラの外壁へと取り付いた。
チャンドニーは10機のUAVをチャールダーシュの背部から発進させると、両指に装着した10本の指で三次元レーダーに触れる。
射出されたUAVはそれぞれが自立して攻撃及び防御を行うが、陣形は搭乗者が指定する必要がある。
ツィゴイネルワイゼンの量産機として開発されたものの、その操作系の煩雑さから扱いきれる者は極めて珍しい。
指であやとりをするかの如くチャンドニーがホログラムの光点を動かすと、鶴翼の陣形へと変貌させた。
『コスモポリタンよりフォックストロット。
EVC編隊の出撃を確認、直ちに迎撃せよ』
「フォックストロット了解」
EVCによる弾体処理により連合軍の押し返しの反撃が始まると、叛乱軍は駄目押しのEVC部隊を展開したようだ。
しかし出撃したのはミンストレル部隊のみ、辛うじてオッツォ達の駆る五声の姿が見えるが無謀ともいえる戦力差である。
ステラの搭乗したセクエンツィアが水面に浮かぶ木の葉のように揺れると、襲い掛かる弾体の全てを難なく回避してのける。
ミンストレル部隊の指揮を執るラクランが号令をかけると、オッツォ達の元にも指示が飛んだ。
『ミンストレル部隊、突撃せよ!
何をしている傭兵共! 後へ続け!』
「俺達は戦いにきたんであって、死にに来たんじゃないんだぜ?
オッサンよぉ?」
『臆したか貴様等ァ!』
そういうなりラクランのミンストレルがオッツォ達に向かって銃を向けると、五声の背後目掛けてHEAT弾を発射する。
完全に不意を突かれたリーは弾体に打ち抜かれながら、避けようと試みるものの弾体の一つが無常にもコクピットを貫通した。
『不会吧!?』
『リィ――ッ!? この野郎ォやりやがったな!』
「Qué te jodas!」
応射するオッツォとウォンが五声のインパクトマシンガンを連射すると、ラクランの機体はたちまち穴を穿ち慣性により吹き飛ぶ。
オーロラから照射された艦載FELが叛乱軍の艦艇、ケーニッヒの機関室に命中すると推進剤に誘爆。
内部からの圧力と共に両者は吹き飛ばされると、月の引力に引かれ月面へと落下していった。
眩い曳航を引きながら宙空を走る弾体がケーニッヒの装甲を毟り取っていく。
ホライゾンは戦闘継続を諦めたのか、友軍のケーニッヒを盾にしながらフリーダムを追って推進機を作動すると距離を離す。
それに混乱をきたしたのは戦域に放置されたEVC部隊である、推進機を破壊されたケーニッヒは航行不能。
帰還する手立てを失うまいと、慌ててホライゾンの後を追うがAIの操作する督戦隊が友軍に向かって威嚇射撃を行う。
「奴等は何をやっているのだ?」
「艦長、敵EVCの兵達は降伏の意思を示しています」
ヴィオラは友軍に攻撃を加える督戦隊を排除するよう、EVC部隊に報告を入れAI機はセクエンツィアによって次々と排除される。
セクエンツィアの放つ短剣型コンバットツール ノツァを最後のミンストレルに突き入れ、起爆させると剣から弾芯を射出。
宙域から敵戦力の排除を確認すると、呆気ない戦いの幕切れにステラは思わず困惑の声を上げた。
「……訳が分からないわ」
『ブラボー2より、オーロラへ。
今から投降した人達を収容します』
合同軍のEVC部隊がミンストレルを先導、各艦艇の格納庫へと誘導するとオーロラの艦長ヴィオラがそれを制止した。
「こちらオーロラ、捕虜の収容を一時停止せよ。
EVCは四肢の廃棄後、機体の検分を行う」
「オーロラより各艦へ、敵EVCの収容を一時停止せよ」
メルセデスのツィガーヌがミンストレルの四肢を破棄させ、その場で待機するよう促すと敵EVC内部から悲鳴が上がった。
次の瞬間、メルセデスのツィガーヌのモニターが激しい閃光で焼きつくと激しい衝撃が機体を襲う。
捕虜の収容を始めていた味方艦は格納庫から破片を撒き散らし、気密室の隔壁を打ち破られると船員達が真空に晒される。
「メルセデス!?」
『オーロラより各機へ! 捕虜の収容を中止せよ!
繰り返す、捕虜の収容を即刻中止せよ!』
メルセデスの機体は四肢が完全に破損、スフィアブロックが激しく回転しながらオーロラの外壁へと衝突。
チャンドニーのチャールダーシュはワイヤーを射出するとメルセデス機を回収、緊急用隔離ブロックへと係留後気圧を調整する。
医療班がメルセデスの元へと走り出すとスフィアブロックを開閉、彼女の体を座席から引き摺り出す。
「メルセデスの容態は!?」
「相対速度が着いていれば危うかったが、見た所酷い外傷はない」
「心肺停止!」
医師の誤診に大慌てするチャンドニーを他所に医師は騒ぐ事無くアンプルを投与、AEDをメルセデスの胸元に押し付けた。
メルセデスの体が跳ね上がると辛うじて蘇生に成功、彼女は咳き込みながら呼吸を再開すると呆けた顔で周囲を見渡している。
「メルセデスさぁん!」
「酸欠で脳に異常がある恐れがある。
直ぐに医務室で精密検査を受けてくれ……次の患者は何処だ」
AEDを両手に練り歩く藪医者にチャンドニーは一応の礼をすると、メルセデスに肩を貸しながら医務室へと向かい跳躍する。
ホライゾンの艦長イワサキの仕掛けた自爆攻撃によってエリタニアは小破、オーロラが僅かな損傷を受けるに到った。
五声
米国のトラッドをモデルに更なる生産性の向上を加えたEVC、その特徴は驚異的なコストパフォーマンス。
機体性能もそれほど劣る部分が見られないがソフトウェア部分がかなり杜撰なお陰でFCSの精度が最悪であった。
その問題点を解決する為に機体の数の人海戦術で優位に立ちインパクトマシンガンの弾幕によって制圧する運用法が提案された。
無論打ち上げコストが法外な額となる為に実質的には火星でしか生産されていない。




