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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
宇宙からの叙情詩
24/65

第24話

 絢爛なシャンデリアがフロア内を照らし出す、参加者達は笑顔を浮かべ一流のシェフの手がけた料理に舌鼓を打つ。

 美しいドレスに身に纏った女達がワインを運び、高級スーツを身に着けた老人達が口説いている。

 やがて壇上にベンが姿を見せると、参加者からは拍手が降り注いだ。


「ナポレオン戦争。

 その以前の時代から、戦争は最高のビジネスでした」


 ベンが壇上でそう言い放つと、会場からは明るい笑いが漏れた。

 彼等はこの火星独立戦争の仕掛け人であり、戦争の引き金となったその首謀者達の集いなのだ。

 政府にその財力によって執拗に脅しをかけ、国際機関を私物化しつつ正義の名の元に連盟軍を操る者達。


「中東紛争、貴方は如何ほど稼ぎましたか?」


「たんまりと稼がせて貰ったよ。

 テロリストにはした金でパイプラインを爆破させれば。

 原油先物で幾らでも値が上がる!」


「それは凄い! 私は地道に軍のミサイルで、片っ端から原油精製施設を潰しましたよ」


 再び笑いが巻き起こる会場、この場に居る者は誰一人としてベンの言葉を聞いて嫌な顔をするものは居ない。

 自分達が選ばれた人間だと本気で考えており、神に対する恐れや恥など生来知らないのだ。

 彼等は地球を遊戯盤代わりに人間の命をチップとして支払い、金を儲ける遊戯に熱中していた。


 マスコミを広告によって牛耳る事で世論を戦争に掻き立て、国民の税金を戦時国債に投入後 自社製品の購入に充てる。

 終戦後にはその企業の株式を売却し資産を海外に移す事で、簡単に敗戦国のデメリットから逃れる事が出来る。

 彼らもある意味グローバルな地球市民。最も彼らが好む物は国家でも、地球でもない、唯一つ黄金のみである。


「それでは本日のメインゲストをお呼びしましょう。

 皆さん拍手でお迎えください、火星軍総司令官――レベリオ!」


 万雷の拍手に出迎えられながら、火星軍総司令官レベリオの姿がホログラムで表示される。


『態々この様な集会にお招き預かり。

 御集まりの皆様方には感謝の念が絶えません』 


「おっと堅苦しいぞレベリオ君、もっと肩の力を抜いて……」


 ベンがレベリオを皮肉るように声をかけると、会場からは更なる笑いが漏れた。

 会場には今回の地球襲撃計画についての全容に関する情報を知った者達だけが集められているのだ。

 それは地球で増えすぎた人類達の大量処分計画である。


「チョビ髭の男は失敗したが、君には皆が期待しているぞ!」


『恐縮です』


「さぁ、皆様方いよいよ今世紀のメインイベント!

 優性種たる我々エリートに逆らう、愚民殲滅作戦を開始します!

 この計画内容は到ってシンプル!

 地球全域を火星軍によって余す所無く――絨毯核爆撃する計画です!」


 ベンの口上が冴え渡り、観客からは会場が割れんばかりの拍手と口笛が鳴り響いた。

 火星軍の船速はRS・47km/sを超え、そこから撃ち出される弾体は核融合を起こすのに充分な必要条件を満たす。

 地表に降り注ぐ無数のハイドロゲンブレットにより地球人類に壊滅被害を与えるのだ。


『計画の完遂に際して、私から貴方がたに一言……』


 レベリオの表情が酷薄な物に変わり、会場に集った者達にその眼差しが向けられる。


『貴様等は人間の屑だ』


 その瞬間、激しい地響きとともにシェルターが揺れる、会場に居た者達は慌てた様子をみせながら困惑している。

 ベンはそれでも薄ら笑いを浮かべながらも、レベリオにどういう意味かを問い詰めた。


「レ・レベリオ……これは一体?」


『人類を害する悪意のゴリアテ共よ――我が“ダビデ”の一撃を喰らうが良い』


 宇宙空間から投射された大口径モーメンタルランチャーが、RS・47km/sの速度でシェルターに穿孔する。

 地下数100メートルに達する核シェルターでさえも、その相対速度から生み出される運動量の前には無力なのだ。


 大きな地響きが鳴った瞬間、ベンの頭上から投射された弾芯が降り注ぐと、その卑小な肉体を呆気なく押し潰した。




 宇宙空間に並び立つEVCや艦船が、地球へ向かって弾体を投射している。

 大気圏で人工衛星が燃え尽きるのは、予め燃焼される素材を厳選して製作するように規制されている結果だ。

 通常投射された難燃製の弾体は大気圏を通っても、このように燃え尽きる事無く地表へと落着する。


 “EVC”二足歩行の人型ロボットの重力圏内での有用性は未だ不明。

 だが敢えて言えば宇宙から地球へと宙間爆撃を行う場合、機体の形など何でも良いと言える。

 地球から宇宙空間へ攻撃を打ち上げるのは容易ではないが、宇宙空間から地球に打ち下ろす事は容易。


 結論から言えば地球に態々下りる必然性など皆無なのだ。


「4番格納庫が消滅!?」


「何処の軍の攻撃だ! 空軍は何をしているんだ!」


 宙空から大気圏に突入したRS・47km/sの速度で侵入した弾体から、激しい衝撃波が発生する。

 地上にある店舗にあるガラスウィンドウは粉々に砕け、衝撃波をまともに浴びた民間人は鼓膜から出血しながら転倒した。

 衛星からの中間誘導によってEXACTO誘導弾を使用、弾頭の形状を変化させながら誤差を修正する。

 固定目標であればCEP1mの着弾誤差での精密爆撃、空気との摩擦熱によって赤熱した弾体は軍事施設を次々と破壊した。


「どの基地とも繋がらない、地上回線を使え!」


 地球の公転軌道上に存在した衛星は全て無力化され、地球全域に及ぶ爆撃は昼夜問わず行われた。

 直径30㎝にも満たない弾体であっても、高い相対速度域では地球上の建造物や兵器を破壊するには充分な威力を持つ。

 戦艦・戦闘機・戦車、地表へと降りてくる二足歩行ロボットを待ち構えていた兵器群は稼動する暇も与えられず全壊した。


 人々は何時まで続くとも知れない攻撃に戦慄、火星軍の攻勢を甘く見ていた者達は自らの短慮さを呪う事となった。


「降伏する」


 地球軍総司令部では前任のベン総司令の死去を受けて、後任に着いたクリストファーが声を上げた。

 人員の損耗は少ないまでも稼動可能な兵器の損耗率は一昼夜の内で7割前後、戦場であれば全滅判定である。


「まだ我が軍は……」


「戦えるとでも言うのかね?

 どういった手段を用いたかは分からないが、奴等は我々の軍事拠点を調べ尽くしている」


 これは前任の総司令がレベリオに攻撃対象外へ置くよう指示した結果であった。

 各国の地方を核によって焼き払い不要な民衆を焼き払った後に、地表に降りてきた火星人に反撃して押し返すシナリオ。


 尤も固定目標の軍事基地などは衛星の目によって、車両の出入りを観測すれば用意に判断できる物である。

 弾頭にGPSによる経緯度座標を入力後、戦艦の観測情報を元に慣性誘導を行うだけでよい。


「火星軍総司令からも講和についての打診があった。

 核による報復攻撃を受ける前に講和すべきだ」


「まだ戦う手段は残されています!」


「空を目掛けて槍でも投げる心算かね?

 我々は頭上を取られた時点で既に負けている」


「何か手段がある筈では?」


「火星軍は今手加減をしているんだぞ? 要人官邸、原子力発電所、貯水ダム。

 潰したい場所は何時でも潰す事が出来る」


 世界の食糧自給を支えている巨大ダムや地下帯水を打ち抜かれた場合、餓死者の数は数十億人に上る。

 クリストファーの視点は既に戦後へと移っていた、全世界の兵器の7割が消し飛んだのだから世界情勢は混迷を極めるだろう。

 残り3割の戦力を堅持しなければ、次には彼等が暴徒の餌食となる番だ。


 火星軍が親切に地球に降りてきて、教科書通りの戦闘をしてくれると考えていた参謀はそれでも諦め切れずに食い下がる。


「迎撃……」


 参謀は異論を発しようを顔を上げたが遂に頭を垂れた、RS・47km/sで飛翔する弾体を迎撃する手段など存在しない。

 しかも落着しているのはそのほとんどがスムースボアキャノンの通常弾頭だ、迎撃するにしてもコストが釣り合わない。


 軌道上から一向に降りてこない火星軍を迎撃する為に、シャトルを打ち上げた所で宇宙に出る前にFELで撃墜されてしまう。

 地球に残された抵抗手段は精々マスコミによって、非道な爆撃を非難する負け惜しみぐらいだった。


ECT-M スムースボアキャノン


大規模建造物に対する宙間爆撃の為に開発された大型の無反動滑腔砲。

弾頭が大きな接触面積と質量を持つ為、宇宙艦艇などに対しても大きな破壊力を持つ一方。

質量の中心軸が大きく狂うのでCPUのオートモメンタム機動による修正も難しく、姿勢制御には熟練を要する。

なお宙間爆撃で使用される弾頭には形状を変化させる事で進路を変更可能な誘導弾もある。


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