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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
宇宙からの叙情詩
23/65

第23話

 ヴィオラは火星からの補給を届いたとの報告を受け、引継ぎの為に駆逐艦オーロラの通路を歩いていた。

 敬礼する下士官を横目に見ながら手を挙げて敬礼すると、ドッキングベイに通じるドアを開く。

 長い通路を通過して巡洋艦を改修した高速戦闘艦へと乗り込み、引継ぎの下士官の立会いの下で書類を交わした。


「それでは引継ぎを完了します。

 艦名はオーロラで宜しいですか?」


「えぇ、それで結構。

 それで……EVCは何機ほど融通して貰える?」


「こちらへどうぞ」


 ヴィオラは下士官の後を追従すると格納庫のハッチを開いた、そこには6機のUNIT-13が係留されている。

 渡された積荷目録によると、修理用のパーツを集めれば最大12機ほどの機体を保有可能。

 ヴィオラは満足そうに目録から目を上げるとEVCの眼前に立ち尽くす。


「この機体の質量はどのくらいあるか?」


「は? え、えぇと、地球重量で7tほどです」


 度重なる戦闘経験によって、ヴィオラは宇宙戦闘の要諦が質量の投射にあると結論付けた。

 何故ならミサイル等は容易に破壊できているのに対して、EVCの放つインパクトガンの弾体は艦艇によく命中する。

 船体に穴が空いた場合、内から外に向かって空気が漏れ出す為に炸薬は容易に押し戻されるのだ。


 それに対して質量弾はFELなどで迎撃を加えても、溶解するだけで慣性が無くなる訳ではない。

 溶解した金属の塊は船体に直撃する事で逆に被害を広げる結果になる事が先の戦闘での教訓にあった。

 従ってヴィオラは眼前に鎮座するモーメンタルランチャーの有用性を、即座に看破する事も出来た。


「この槍は何本ある、あるだけ欲しい」


「モーメンタルランチャーは、兵士間でも争奪戦になっておりますので……」


「成る程、皆一様に考えることは同じか」


 ヴィオラは薄く笑うと咳払いを一つ、UNIT-13の稼動チェックを指示すると格納庫から中央船室へと向かった。

 既に多くのクルーは新しい巡洋艦オーロラ号への乗艦を済ませており、計器チェックなどを行っていた。

 ヴィオラは椅子に深く腰かけ脚を組むと、ゆっくりと目を瞑った。


(この戦い……勝てる)


 ヴィオラは確かな手応えを感じると、その双眸に更なる闘志を籠めた。

 火星への植民が行われてから幾星霜、地球からの謂われない中傷、火星周辺での法を逸脱した地球企業の脱法行為。

 火星人と蔑まれ人間扱いすらされなかった、汚辱を雪ぐ為の機会が遂に訪れる時が来たのだ。


 ドッキングベイが切り離されると、ゆっくりと旧オーロラから離岸するように推進装置に火が灯った。

 艦艇が21m/sで加速、席に上体が貼り付くほどの加速Gを身に受けながら暗黒の海へと航海へ乗り出す。

 格納庫内では係留固定されたEVCが加速度を受けて、その牙をより鋭く磨き上げていく。


「敵の本陣は今や我々の眼前にある。

 オーロラ……出航せよ!」


 目的地は地球。

 火星独立戦争と謳われる地球と火星間の人類初の宇宙戦争は、ようやく一里塚へと登り始めた。




 眼前に広がる空間に浮かび上がる、太陽系第三惑星地球。

 かつてガガーリンが青い星と評したこの星も、今では赤道直上から進行する砂漠化によって変わり果てた姿となった。

 地球の全体気温の上昇や降水量の大幅な変動により緑が失われ、宇宙からも剥き出しの山肌が見える。

 だが、これは人間の作為によって齎された結果ではない。


 “地球は太陽に落ちている”これは物理法則に則った上での運命的結実である。


「……地球は始めてみたけれど、火星と余り変わらない」


「その内金星のようになるらしい。

 何時までもこんな星にへばりついて、何がやりたいんだか……」


「そうかな? 何処で死ぬのかは個人の自由じゃない?」


 オーロラの艦内でEVCパイロットとして派遣されてきた少女は、眼下に見下ろす地球の姿に軽く失望を覚えた。

 兵員達はパイロットスーツを手早く着用すると、格納庫へ集合出撃準備を済ませる。

 少女はUNIT-13とは異なる別の試作機に乗り込むとスフィアブロック内の座席に着席した。


『総員出撃準備完了――ガイドポール上の人員は直ちに退避せよ』


 EVCの集団がガイドポール上に集結すると与圧ブロックの空気が抜かれ真空状態となる。

 外界を隔てた大型のシャッターが音も立てずに開くと、自身の刻む胸の鼓動だけが彼女の耳に届いた。


「ステラ・フォックストロット――セクエンツィア」


 ステラと名乗った少女はヘルメットを被る事無く、その髪を宇宙の無重力へと投げ出す。

 ゆらゆらと揺らめく金の絹糸が前方方向からの慣性を受けて、セクエンツィアの機体は遠く見える地球へ向けて発進した。

 前方から投射される飛来物を悠々と交わすと、前方からオードの編隊が現れる。


『フォックストロット、充分に注意しろ。

 先行した部隊の報告によるとオードは自爆するそうだ』


「……無様」


 使い物にならないと判断されたオードは無人機として改造されていた。

 近接自爆攻撃によって、ケスラーシンドロームを引き起こし、自機の破砕片で攻撃しようと発案したのだ。

 他の機体はゾルコロイドブレーンと呼ばれる粘性のある液体を気化させて、破砕片に当てることで破片を除去している。

 質量の軽い物質であれば、液体や気体程度の物でも掃海する事は容易い事なのだ。


『ジャクソン3体1だ、射線を交差する』


 セクエンツィアはゾルコロイドブレーンを射出せず、自爆したオードの破砕片を抜け出してきた。

 それを観察していた地球軍の試作機、ミンストレルに乗り込んでいたジャクソンは思わず息を飲んだ。

 不気味、推進剤を噴かさずにリアクションホイールのみを用いて避けきる、そのEVCは余りにも不気味であった。


「こ、こいつは止めておいた方がいい……別の敵を」


『ビビるなジャクソン! ここを抜かれたら地球は終わりだ!』


 3機のミンストレルがセクエンツィアを取り囲むと、一斉に椀部に装備していたレールガンを射出する。

 レールガンとはいえ極めて出力が弱い物ではあるが、確かに弾体の初速はインパクトガンの数倍は勝るだろう。

 しかしながらRS・47km/sという速度で進行するEVCに向かって、その弾速にどれほどの優位なのかは未知数だ。


「no way!」


 セクエンツィアは夢遊病者のような動きで投射された弾体を余裕を持って避けると、インパクトアサルトを発射。

 レールガンの発射による反作用でバランスを崩した、ミンストレルのコクピットを正確に打ち抜いた。

 ジャクソンのコクピットに弾体が突き刺さると、ミンストレルは糸の切れた操り人形のようにその活動を停止した。




 地球軍による宙間爆撃によって降り注ぐ弾体がFELによる迎撃を受け、宇宙空間に散発的な光が明滅する。

 散発的に行われる攻撃は搭乗員のストレスにはなりはしたものの効力射には至らない。

 攻撃を受けている火星軍の巡洋艦シルチス内では迎撃に向かうEVCの出撃準備が行われていた。


「機体の係留を外せ! 3・2・1よし!」


「酸化剤が足りないぞ!」


 整備員達が慌しく出撃準備を始める中で、不釣合いな黒人の少年が格納庫内へと現れた。

 火星軍は兵の錬度でいえば地球軍を圧倒してはいたが、兵員の数は限られている。

 シミュレーターの成績さえ良ければEVCのパイロットになることは容易で、彼のような少年兵も珍しい存在ではない。


「あの……僕の機体はどこですか?」


「あぁ、ウブンタはこの機体だ」


「えぇっ? これって船外作業用のEVUですよね?」


 UNIT-13の配備その物も遅れている為に、実験機のUNIT-9や試作機のEVCまで持ち込まれている。

 ウブンタが機体を見上げて不平を零すと、後ろからヘルメットで頭を小突かれる。


「UNIT-9も船外作業用も大して変わんねーよ」


「そういうなよオッツォ、ウブンタは撃ち漏らした弾体を頼む」


 オリンポスから次々とEVCが出撃すると、敵艦船に向けて航行を開始する。

 RS・23km/sと宇宙空間の船速としては頼りない数値ではあったが、敵艦に痛打を与えるには充分な数値。

 ウブンタは船外作業用EVU改修機ムバカンガに乗り込むと、ガイドホイールを回転させた。


「推進剤大丈夫なのかな、これ? ウブンタ・ムバカンガ」


『ムバカンガ了解。

 推進剤が切れてもアンカーで回収してやる』


 ガイドポールから跳躍し宇宙に機体を投げ出されると機体に微弱な揺れが発生。

 ウブンタは即座にリアクションホイールを作動、次第に機体は安定しはじめ宇宙を飛び始めた。



 一方、第一陣の戦闘は苛烈を極めていた、戦域で彼等を出迎えたのはオードではなくトラッドカスタム。

 別名アメリカントラッドと呼ばれる精鋭機の集団だったのだ。

 一群から精鋭達を統率するように一機の機体が先行すると、Gを気にする事無く推進剤を噴射させる。


『何だこいつの動きは! 無人機か!? 気をつけろイーオン!』


「気安く前に出過ぎだぜッ!」


 イーオンの繰るUNIT-11がインパクトガンを乱射すると先行していた謎の機体、マーチングの保持していた盾に直撃する。

 RS・23km/sの速度で弾体が直撃すれば如何なる機体でも無事では済まない――筈であった。


 イーオンの放ったインパクトガンの弾体は傾斜のつけられたシールドによってあえなく跳弾。

 その慣性は丸型シールドの角運動量に変換される事で吸収されてしまった。


『良い兵士だ……だが私も負ける訳にはいかない!』


 シールドから水平方向にDCアークジェットによるプラズマ化した電離ガスが噴出する。

 UNIT-11と交差した瞬間、マーチングの投射したシールドが機体の装甲を完全に切断後、オリンポスへと飛来する。

 後方に待機していたウブンタは咄嗟にシールドの側面に回り込んだ。


「イーオンさん!?」


 ムバガンガの両腕に搭載された旧式のバルカン砲を構えると、シールドに対して弾体を乱射。

 見る見る内に機体内の酸素量が減少した事で、ウブンタは恐怖で顔を引き攣らせる。


「機体内酸素が……これ欠陥なんじゃないの!?」


 側面から質量弾の掃射を浴びせられたシールドは弾道を逸らされ、オリンポスの衝突コースから外れた。


『……子供!?……』


「子供で悪かったな!」


 AIによる射撃管制のサポートが付いているとは言え、超高速で飛来する敵機に実弾を命中させるのは容易ではない。

 ムバガンガとマーチングは機体をニアミスしながらも、ウブンタは一方的に銃撃を加える。

 酸素量減少と残弾数なしの警告エラーに気付く事無く、少年はトリガーを引き続けていた。


 この防衛戦によってEVCに多数の損害は出た物の両軍の艦は健在、戦力を保持したまま痛み分けに終わった。


US-13 マーチング


USG社の誇る最新鋭機。隠蔽性を無視した白・赤・青のカラーリングスタイルからスターズ・アンド・ストライプスと呼ばれる。

強力なFELと核による熱核推進を搭載。下位機体に指示を飛ばす事が可能。ある意味ツィゴイネルワイゼンの下位互換である。

特徴的な武装はカーバインと劣化ウランの複層構造を持つ遠隔操作可能な特殊シールドであり、一度手元から離れればあらゆる物を切断する。

開発当時はイロモノ扱いされていたが、艦艇を2隻同時にシールドで撃沈させ一躍英雄となった。


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