第25話
地球圏が騒然としていた頃、火星軍の戦列でも異変が生じていた。
バスナベ准将の指揮する巡洋艦パエトーンが予定航路を変更、旗艦である戦艦ユートピアへと向かっていたのだ。
『ユートピアより、パエトーンへ。
当艦の予定進路に割り込んでいる、直ちに航路を修正せよ。
繰り返す、当艦の予定進路に割り込んでいる……』
「バスナベ……お前が私にとってのブルータスか……」
パエトーンから艦載モーメンタルランチャーが発射されると、中央船室に静寂が包まれる。
バスナベの唐突な友軍に対する攻撃にユートピアの搭乗員達の思考が停止した。
レベリオは深く息を吸い込むと、穏やかだった表情を一変させ思考停止に陥った搭乗員達に指示を飛ばす。
「ただちにEVC部隊への迎撃を指示せよ!
友軍機である為FCSは使用できない、IFFシステムの解除急げ!」
「EVC部隊各機に告ぐ! ただちにユートピアの防衛へ向かえ。
友軍機である為にFCSは使用できない、繰り返す……」
護衛の為に残されていたEVCがユートピアから姿を現すと、即座にインパクトガンの掃射が浴びせられる。
パエトーンから投射された弾芯はインパクトガンの慣性によって進行方向を曲げ、回転しながら何処かへと消えた。
更にはパエトーンの艦影に隠れた黒塗りのEVC部隊が現れると推進剤を噴出、ユートピアへと突撃する。
両艦の相対速度はほぼ同程度になる為に自然と非相対戦となる。
この場合、相対速度に乗った攻撃は通用しない為に旧来の装備の方が有用である。
ユートピアへと攻撃を加える黒のUNIT-12は地上戦用のHEAT弾を装填すると、防衛に向かったEVCに射撃を加える。
「一体何のつもりだ、お前達!」
『講和などと惰弱な事を抜かす、裏切り者に制裁を与える!
今こそ地球に対する積年の恨みを晴らす好機!』
「戯言を!」
UNIT-13のインパクトガンを投射するが、弾速が低い為に効力射は与えられず敵機の体勢を崩すだけに留まる。
「 чёрт!?」
『無様だな!』
UNIT-12が火星軍の女兵士イクスラの機体を狙って投射するHEAT弾が、UNIT-13のコクピットブロックに掠った。
機体内に座っていたイクスラの眼前から突如融解したメタルジェットの噴流が掠ると彼女の半身を焼く。
装甲の中空内に注入されていたゾルコロイドブレーンが宇宙へと流出、電流を帯びることで硬化すると空いた穴を塞いだ。
自らの体が焦がされる痛みに呻きながらも、イクスラはUNIT-13の推進剤を噴出して体当たりを敢行。
不意を突かれたUNIT-12が宇宙空間に放流されると、運悪く艦載FELの射線を横切った。
『冗談だろ!?』
艦載用の高出力FELがUNIT-12の機体に照射されると、機体内の推進剤が発火。
コクピット内で機体を操作していた不運な男トーマスは急激な熱量により体が破裂、スフィアブロックが弾け飛ぶ。
イクスラは焼け爛れた腕の痛みを引き摺りながら、撃破された友軍の残骸を避けユートピア艦内に逃げ込んだ。
次の瞬間、地球軍から投射された弾体が直撃、ユートピア艦内が大きく揺れ動くと応力によって船体が歪んだ。
ヴィオラは未だ目の前に映し出される光景が信じられないでいた、勝利を目前にしたという所で突然の裏切り。
近代戦で謀反など通常有り得ない、パエトーンに何らかのトラブルあったか或いは何らかの策だと推論する。
地球軍がその動きに呼応するように動き始めたのをレーダーで捉えヴィオラは確信する。
「これは内応ではない」
「パエトーンでは一体何が?」
ヴィオラのその推測はほぼ正解であった、地球軍は遥か遠くからデブリに偽装した兵員をパエトーンに送り込み。
艦から露出していた通信機器を破壊後に船内へ侵入、搭乗員に紛れ込む事で中央船室を占拠したのだ。
ただ一つ間違えていたのは、その作戦に今は亡きバスナベ自身が幇助したという点だ。
地球軍の艦艇グロリアスからの横殴りの直撃弾を浴びた旗艦ユートピアの船体が大きく歪む。
グロリアスはRS・11km/s程度の相対速度域、質量を投射して艦艇を破壊するには充分な運動質量が備わっている。
ヴィオラが中々上がらない艦の速度に歯噛みすると機関室に通信を入れた。
「機関室! 最大船速までの達成時間知らせ!」
『残り13分です!』
(……万事休すか)
救援に間に合わない事を悟ったヴィオラが思わず顔を伏せる。
その時、月方面から航行していた商船だと思われていた光点が、考えられないほどのスピードで接近するのを捉えた。
それだけではない、ユートピアに止めを刺さんと接近していた地球軍の艦艇、グロリアスが突如沈黙したのだ。
「何があった!」
「何も……何も見えません!?」
コスモポリタンから先行して単騎出撃したコウキはそのステルス能力を最大限に発揮。
ミンネザングの放った対艦用モーメンタルランチャーは、ハルのアシストによってグロリアスの中央船室を射抜いていた。
コウキはモーメンタルランチャーの射出機を背部に格納すると、複座席に座るハルと共にユートピアを横目に眺める。
「アンセムを追って来たのはいいが、何だか妙な事になってるな」
『コスモポリタンより、ブラボー1へ。
オーロラより通信が入った、そちらへと中継する』
「ブラボー1了解――ハル、相手してくれ」
「ロボット使いが荒いですね」
フレデリックの襲撃が月の非戦闘区域で発生した物であったが故に、メナエムはコスモポリタンを動かす事に決定した。
元より法には法で無法には無法で応えるのが、メナエムの冷徹さの象徴でもある。
ハルの前面にフィルムスクリーンが映し出されると、幼げなハルの容姿にヴィオラは若干驚いた表情を見せた。
『私は火星軍地球方面軍、巡洋艦オーロラ艦長ヴィオラ少将だ』
「コスモポリタンコーポレイトガード、アシスタントのハルです」
『単刀直入に貴方がたに頼みがある。
そちらから見える火星軍の艦艇パエトーンを止める事は可能か?』
「“程度”の問題によって難易度は多少可変しますが――可能です」
パエトーンやUNIT-12は当然接近してくるミンネザングの姿を窺い知る事は出来ない。
ハルはパエトーンの周囲を直掩しているUNIT-12の姿を複数認めると、敵性判断をグリーンからレッドへと変更した。
UNIT-13
対艦艇を想定したモーメンタルランチャーを複数装備した機体。アレス Ind.の技術力では全ての機能を纏める事が不可能だった為
それぞれ専門性を持たせて個別運用が可能なように調整された。UNIT-13ではその他の武装は小型化され
推進剤を多量に搭載する事で作戦行動時間が飛躍的に向上。これが大いに好評で大幅に増産された。
UNIT-11
UNIT-9の戦闘データとコスモポリタンの提供データを以って、僅か3ヶ月の期間で再設計された主力量産機。
機体強度が大幅に増し、高い相対速度域での戦闘も可能になった。インパクトガンを標準で装備している。
この機体から脊椎からの電気信号を読み取り操作する、スピナルコントロールシステムが追加される。当然の事ながらコンピューターの方が運動性は高い。
積んでいるOSの貧弱さ故にパイロットの負荷が大きくコンピューターによる操作補助もほとんどない為操縦には熟練を有する。




