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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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71.そんな機能あったの!?

「今日はCode-Xさんが、また新しい解析動画を出してくれるみたいなので、一緒に見ていこうと思います!」


 開始早々、そう告げると、俺は少しだけ、わくわくした気持ちで、画面を切り替えた。Code-Xさんの動画は、いつも予想外の角度から切り込んでくるから、見ていて飽きることがなかった。


 配信開始と同時に、俺はそう告げながら、画面に動画のサムネイルを表示させた。タイトルには『潜水判定説、再検証――切り替えスイッチは実在するのか』という文字が躍っていた。


【コメント】あの説また掘り下げるのか

【コメント】潜水判定説、懐かしい

【コメント】Code-Xさんの執念すごいな


 視聴者たちのコメント欄にも、期待の声が並んでいた。俺自身、正直、内容の見当がまったくつかなかった。あの人の解析は、いつも予想を大きく超えてくるから、なおさら気になった。過去の解析動画では、あの俺の特殊な戦い方の正体まで、見事に暴かれたこともあった。今回も、一体何が飛び出してくるのか、俺は少し身構えていた。


 動画を再生すると、Code-Xの、あの聞き慣れた落ち着いた声が、いつものように静かに、それでいてはっきりと流れ始めた。


「以前、私は、るかさんの防御に、潜水判定システムが関わっているという説を発表しました。もしその説が正しいとすれば、本来は陸上モードと水中モードを切り替えるための、何らかのスイッチが存在するはずです」


「あ……あの説だ……」


 思わず、そう呟く。あの頃の考察動画は、俺自身、正直よく理解できないまま見ていた記憶がある。潜水判定がどうとか、専門的な単語が次々と出てきて、途中から半分聞き流してしまっていた気がする。


「そこで今回は、るかさんの過去の戦闘映像を、改めて一コマずつ、丹念に見直してみました」


 画面には、俺の過去の戦闘映像が、これでもかというほど、次から次へと表示されていく。世界大会の映像や、つい先日のミラーイベントの映像まで、余すことなく含まれているようだった。改めて見返すと、我ながら、よくもまああんな無茶な戦い方を貫いてきたものだと思う。それと同時に、これだけ膨大な映像を丁寧に集めて解析してくれたCode-Xさんの執念にも、俺は素直に感心してしまった。


「そして、ある一つのシーンで、興味深い映像を発見しました」


 Code-Xの声が、そこで一段と落ち着いた、それでいて確かな熱を帯びた響きになった。


 画面に映し出されたのは、あの両腕インパクトスマッシャーを放った直後の映像だった。機体が大きく後方に吹き飛ばされ、頭部が激しく揺さぶられる、あの瞬間。あの日の記憶が、確かな痛みと共に、鮮明に、まざまざと蘇ってきた。


「この衝撃のタイミングで、るかさんの視界に、一瞬だけ、あの設定画面が映り込んでいます」


「え……?」


 思わず、素っ頓狂な声が漏れた。


 コマ送りで、じっくりと丁寧に再生された映像には、確かに、ほんの一瞬だけ、あの設定画面の一部が映り込んでいた。俺自身、こんな瞬間が映っていたことすら、まったく気づいていなかった。


「この、無数に並んだスイッチのうち、この一つに注目してください」


 Code-Xが、そう言いながら、画面の一角を大きくズームして拡大表示した。ずらりと並んだ、あの見覚えのあるスナップスイッチの群れ。その中のほんの一つに、ごく小さな文字で「照準アシスト」と刻まれている。


「……え、こんなところに、書いてあったんですか」


 思わず、そんな声が漏れた。ズームされて、ようやく読み取れる大きさになった、その表記。普段の画面のままでは、絶対に読み取れないであろう、あまりにも小さな文字だった。


「補足しますと、この機能は初期設定で必ずオンになっている、いわば基本中の基本機能です。ほぼすべてのプレイヤーが、存在すら意識しないまま、この恩恵を受けています」


 Code-Xの、その淡々とした補足に、俺は思わず、背筋が冷たくなるのを感じた。


【コメント】え、待って、それも知らなかったの!?

【コメント】普通、最初からオンになってるはずだよ!?

【コメント】まさかそこから知らなかったのか…

【コメント】無自覚にも程がある


 視聴者たちのコメント欄にも、驚きと困惑が入り混じった、そんな反応が広がっていた。俺自身、何がそんなに驚かれているのか、正直よくわかっていなかった。


「え……なんか、そんなに驚くようなことなんですか……?」


 動揺のあまり、思わず、そう聞き返してしまう。


【コメント】いや普通に基本機能だから

【コメント】初期設定でオンになってるはずのやつだよ

【コメント】それ知らないのはさすがに初めて見た


 コメント欄の反応に、俺は思わず、頭を抱えたくなった。てっきり、そこまで大した話ではないと思っていたのに、まさかこれほど基本的な、誰もが当たり前のように知っている機能だったとは。


「い、いや、違うんです、多分……ちょっと、よく確認してみます……」


 慌てて、俺は設定画面を開いた。画面いっぱいに並んでいたのは、家庭用のブレーカーを思わせる、無数のスナップスイッチだった。まるで壁一面の配電盤のように、小さなスイッチがずらりと隙間なく並んでいる。それぞれの脇には、機能名らしき表記が添えられてはいたが、どれも目を凝らさなければ読み取れないほど、ごく小さな文字だった。震える指先で、その一つ一つの表記に、目を凝らしながら辿っていく。目当ての項目を探し出し、恐る恐る、そのスイッチの傾きを確認する。


 ――オフ側に、しっかりと倒れている。それだけの、あまりにも単純な事実だった。


 その瞬間、ふと、遠く霞んでいた記憶の断片が、ゆっくりと蘇ってきた。


「あ……そういえば……」


 思わず、そんな独り言が漏れる。


「昔、初期の頃に、機体の設定をいろいろ弄ってた時期、あったよね……もしかして、あの時に……」


 記憶を辿ってみると、確かに、そんな場面があった気がした。整備拠点で、あの配電盤のようなスイッチの並びを、目についた順に片っ端から適当にいじっていた、あの頃。関節の可動域をうっかり変えてしまって、慌てて戻した記憶は、はっきりと覚えている。あの時、機体の右腕がびくんと勢いよく跳ね上がって、慌てて元に戻したことも、今でも鮮明に思い出せる。それと同じタイミングで、この照準アシストのスナップスイッチにも、無自覚に触れてしまっていたのかもしれない。目に見える変化がまったくなかった分、気づかないまま、そのままにしてしまったのだろう。


【コメント】あーあの回か

【コメント】伝説の設定いじり回

【コメント】完全に黒歴史じゃんw


「う、嘘だろ……マジで、それっきり触ってなかったってことか……」


 思わず、そんな声が漏れる。あれから今日まで、一度もオンに戻すことなく、ずっと戦い続けてきたのだと思うと、なんとも言えない気持ちになった。数えきれないほどの戦いを、まさかこんな状態のまま乗り越えてきたのかと思うと、自分でも呆れるやら、感心するやらで、複雑な心境だった。


「動画の後半では、るかさんの過去の対戦映像を、改めて見直してみました」


 Code-Xの声が、そこで、少しだけ神妙な、それでいて確かに真剣味を帯びた響きに変わった。


「特に、レンさんとの対戦、そして皇帝牙さんとの対戦において、るかさんが標的を見失う場面が、何度か確認できます。本来、照準アシストが機能していれば、こうした場面はもっと少なくなっていたはずです」


「あ……」


 思わず、声が漏れる。言われてみれば、確かに、あの二人との戦いでは、何度か相手の姿を見失いかけた記憶があった。あの時は、単純に自分の反応が追いついていないだけだと思い込んでいたが、まさかそこにも、この機能が関わっていたとは。


「もちろん、レンさんや皇帝牙さんほどの速度であれば、アシスト機能があっても、完全に振り切られる可能性はあります。それでも、これほど頻繁に見失う場面が続いていたことを考えると、正直、もっと早い段階で、この可能性に気づくべきでした」


 Code-Xの、その率直な反省の弁に、俺は思わず、苦笑いを浮かべてしまった。あの冷静沈着な人でも、こうして素直に反省を口にすることがあるのかと思うと、なんだか少し、確かな親近感が湧いた。


【コメント】Code-Xさんが反省してる姿珍しい

【コメント】まああそこまで無自覚だとは思わんよな

【コメント】伝説がまた一つ


「動画の結論としては、るかさんは、開始早々に、自らの手で照準アシスト機能をオフにしており、その事実にすら気づかないまま、今日まで戦い続けてきたということになります」


 Code-Xの淡々とした締めくくりに、俺は、思わず、乾いた笑いが漏れた。あまりにも真っ当で的確な分析結果だからこそ、かえって、笑うしかなかった。


 動画はそこで終わり、画面には、静かに、それでいてあっけないほど淡々とエンドロールが流れ始めた。それでも、俺の頭の中は、まだ整理がつかないままだった。今まで積み上げてきたはずの自信が、その根底から静かに、それでいてはっきりと揺さぶられているような感覚だった。


「まあ、でも、これも一つの経験ということで……試しに、オンにしてみようかな」


 そう言いながら、俺は、恐る恐る、あの配電盤のようなスナップスイッチの一つを、生まれて初めて、かちりと押し込んでみた。


 試しに、配信画面の隅にちらりと映っていた、近くの標的用オブジェクトへと、腕を向けてみる。すると、狙いが、すっと吸い付くように、勝手に対象へと定まった。これまで、自分の腕と目だけを頼りに、必死に狙いを合わせてきた、あの感覚とは、まるで別世界の操作感だった。


「お……おお!? これ、すごい、狙いが本当に勝手に合う……!」


 思わず、大きな感嘆の声が漏れる。それも束の間、今度は、視界の端が、妙な揺れ方をしていることに、すぐに気づいた。


「あれ……なんか、視界が、ちょっと……」


 言葉の途中で、急に、胃の奥がぐらりと揺れるような、あの独特の不快感が襲ってきた。まさか、こんな思いがけない形でしっぺ返しが来るとは、まったく予想していなかった。


「う、うわ、なんか、気持ち悪い……酔う、これ、酔う……!」


 思わず、そんな情けない声が漏れる。狙いが勝手に動くたびに、視界も一緒に、細かく揺れ動く。その感覚に、俺の三半規管は、まったくついていけていないようだった。ずっと、自分自身の意思だけで視界を動かしてきたせいか、機械任せの動きには、体がまるで馴染んでくれなかった。


【コメント】え、まさかのゲロ酔いオチ

【コメント】草

【コメント】そこも無自覚勢の弊害なのか


「む、無理です、これ、無理……ごめんなさい、やっぱり戻します……」


 青ざめた顔のまま、俺はそう零しながら、震える指先で、あのスナップスイッチを、再びかちりとオフへと戻した。視界の揺れが収まると同時に、あの独特の気持ち悪さも、少しずつ、確かに引いていった。ようやく落ち着きを取り戻せたことに、俺は心の底から、深く安堵していた。


「はぁ……なんか、結局、これまで通りの戦い方が、一番自分に合ってるみたいです……」


 思わず、そう零す。これまで最初からずっと、無自覚のまま貫いてきたあの戦い方が、まさかこんな形で、改めて肯定されることになるとは、想像もしていなかった。便利な機能を試してみたら酔って断念する、という締まらない結末も含めて、なんだか、実に自分らしいと思えてしまうから不思議だった。


【コメント】結局オフに戻るの草

【コメント】るかちゃんらしいオチだ

【コメント】これもう運命だろ


 視聴者たちの温かく優しいコメントに、俺は小さく笑いながら、配信を締めくくった。今日という日が、また一つ、確かに忘れられない思い出になったことだけは、間違いなかった。それも、良い意味でも悪い意味でも、実に俺らしい、確かな思い出になったと思う。


「よし、今日はこの辺で! また次回も、お楽しみに!」


 いつも通りの締めの挨拶と共に、俺は静かに、配信を終えた。


 配信を切った後、俺は、しばらくの間、ベッドに寝転んだまま、今日の出来事を、頭の中で何度も、丁寧に反芻していた。あの照準アシストの、あの独特な酔いの感覚も、思い出すたびに、少しだけ胃の奥が、じんわりとむずむずするような気がした。あの人気最下位の機体を選んだあの日から、こんな未来が待っているとは、当時の俺には、想像すらできなかった。まさか自分自身で切っていた機能に、こんな形で気づかされる日が来るとも、当然、思ってもいなかった。それでも、一つ一つの偶然と、無自覚な選択の積み重ねが、今の俺を、確かに、着実に形作っているのだと思う。照準アシストをオフにしていたことも、それに気づかないまま戦い続けてきたことも、そして今日、酔って断念したことも、きっと、その積み重ねの一部だったのだろう。悪いことばかりではない、そう思えるようになった自分に、俺は少しだけ、確かな成長を感じていた。





【相沢陽斗視点】


 誰もいない深夜、部屋の明かりをすっかり落としたまま、俺はいつものように、るかちゃんねるのアーカイブを、一人静かに眺めていた。この時間だけは、誰にも邪魔されない、俺だけの秘密の習慣だった。


 スマホの画面から漏れる、あの独特の青白い光だけが、暗い部屋の中で、ぼんやりと俺の顔を照らしていた。周りの家族は、とっくに寝静まっている、そんな夜更けの時間だった。この静けさの中でだけ、俺は素直に、あいつの配信と向き合えるような気がしていた。


 今日の配信も、いつも通り、相変わらず、騒がしくて、賑やかで、見ていて飽きなかった。無自覚に照準アシストを切っていて、しかも試しにオンにしたら酔って気持ち悪くなったという、あの間の抜けたオチにも、思わず、声を上げて笑ってしまった。あいつらしい、と言えば、あいつらしいオチだった。昔から、説明書の類を、まともに読んだ試しがなかったことを、俺はふと思い出していた。


 あの独特な、あの声。あの喋り方の癖。何度聞いても、何度確かめても、やっぱり、あいつにそっくりだ。いや、もう、疑う余地など、どこにもない。あれは、間違いなく、紛れもなく、楓だ。


 最初にあの違和感を、はっきりと覚えたのは、もうずいぶん前のことだった。あれから何度も、何度も、繰り返し配信を見返しては、自分の中の確信を、少しずつ、確かに、そして丁寧に積み重ねてきた。誰かに相談したことなど、これまで一度もなかった。この胸の内は、俺一人だけの秘密として、ずっと大切に抱え続けてきた。友人にすら、一度も打ち明けたことがない、俺だけの、大切な秘密だった。もし誰かに打ち明けていたら、今のこの穏やかな気持ちには、きっと辿り着けていなかったかもしれない。


 最初にそう気づいた時は、正直、複雑な気持ちだった。あの頃の記憶が、一気に押し寄せてきて、しばらくは、素直に配信を楽しむことすらできなかった。あの頃、うまく声をかけられなかった自分自身への、後悔にも似た感情も、はっきりとあったのだと思う。それでも、こうして配信を追い続けるうちに、あの複雑な感情は、少しずつ、確かに薄れていった。


 楽しそうに笑う、あの明るい声。仲間と支え合いながら、困難を乗り越えていく、あの姿。画面越しに、確かに伝わってくるものは、俺が覚えている、あの頃の楓とは、また違う、新しい魅力に満ちていた。あの頃、内気で、あまり自分を出すのが得意ではなかった記憶とは、正直、結びつかないくらいだった。それでも、その根っこの部分にある優しさだけは、あの頃と何一つ変わっていないようにも感じられた。


 人というのは、こんなにも変われるものなのか。画面越しに、その確かな成長の軌跡を見守りながら、俺は、静かな驚きを覚えずにはいられなかった。それと同時に、なんだか誇らしいような、そんな不思議な気持ちにも、確かになった。


 過去のことは、もう、いい。あの日のことを、今更蒸し返すつもりも、誰かに言いふらすつもりも、俺にはまったくなかった。あれは、あれで、確かに大切な思い出の一部だった。それを、今になって、誰かに壊されたくはなかった。誰かに話したところで、何か良いことがあるとも思えなかった。


 ただ、こうして時々、配信を覗きながら、あいつの活躍を、静かに見守っていたい。それだけで、俺は、十分だった。名乗り出る必要も、正体を暴く必要も、どこにもない。この距離感こそが、俺にとって、一番心地よい形なのかもしれなかった。過去を振りかざすことよりも、今のあいつを、そのまま応援し続けることの方が、よほど大切に思えた。


 画面の向こうのあいつは、きっと、俺がここで、こうして見ていることにすら、気づいていない。それでいい。それでこそ、いい。誰にも気づかれないまま、ただひたすらに、静かに応援を送り続ける。それだけで、俺の中では、既に十分すぎるくらいの繋がりだった。派手な再会も、劇的な告白も、俺には、これっぽっちも必要なかった。


 画面の向こうで、楽しそうに笑う声を聞きながら、俺は、静かにアーカイブを閉じた。なんだか、心の中に溜まっていた、確かなわだかまりが、ようやく吹っ切れたような、そんな気がした。


 あの日、うまく声をかけられなかった、あの後悔も、今となっては、それほど重く感じなくなっていた。時間というのは、こういう形で、人の心を癒してくれるものなのかもしれなかった。それぞれが、それぞれの場所で、確かに、着実に前へ進んでいる。それだけで、十分なのかもしれなかった。過去は過去のまま、そっとしておく。それもまた、一つの優しさなのだと、俺は今、静かに、そして確かにそう思えた。


 窓の外に目をやると、いつの間にか、夜もすっかり更けていた。それでも、不思議と、眠気は感じなかった。むしろ、胸の中には、これまでにない、確かな清々しさが広がっていた。


 明日からも、俺は、きっと変わらず、いつも通りの日々を過ごすだろう。それでも、こうして時々、あいつの活躍を、静かに見守り続けることだけは、これからも、ずっと続けていきたいと思った。派手さも、劇的さもいらない。それが、俺にできる、精一杯の応援の形だった。

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