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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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7.長い長い徒歩移動

 歩き始めて、体感で二十分は経っただろうか。


 景色はゆるやかに変わっていくものの、目的地らしきものはまだ見えてこない。地面に伸びる発光ラインだけが、変わらず前方へと続いている。空を見上げると、朝方には見えなかった鳥のような機影が、遠くを横切っていくのが見えた。あれも敵なのか、それとも味方の偵察機みたいなものなのか、判断のしようがない。


 視界の端には、いつの間にか視聴者数の表示が増えている。まだ実感はあまり湧かないけど、確実に何かが動き始めているような気配だけは感じ取れた。歩いているだけの時間なのに、コメント欄は途切れることなく流れ続けている。何もない道のりを、こんなにも多くの人が見守ってくれているという事実が、少し不思議な感覚だった。


「あの、これ、まだ着かないんですか……?」


 誰に聞くわけでもない問いかけが、静かな配信画面に響く。答えなど返ってくるはずもないとわかっていながら、それでも口に出さずにはいられなかった。


【コメント】まだまだ先だと思う

【コメント】五角形の頂点だからそれなりに距離あるはず

【コメント】気長にいこう


 視聴者の誰かが「これ、実際どれくらいの距離歩いてるんだろう」と呟いたのをきっかけに、コメント欄では簡易的な距離予想大会のようなものが始まった。「歩幅から逆算すると数キロはあるのでは」「島の縮尺的にもっとありそう」――そんな推測が飛び交う様子を、俺は苦笑いしながら眺めていた。


「そんな真剣に計算しないでくださいよ、みんな……私、そこまで頭よくないので、聞かれてもわかんないですよ」


 実際のところ、俺にとって「距離」や「時間」って感覚は、現実でもゲームでも、あまり厳密に意識したことがなかった。学校に通ってた頃も、時間割を見ながら「あと何分」って数えるより、なんとなく体感で動いてたタイプだ。今もその感覚のまま、ただひたすら一歩ずつ、目の前の道を進んでいる。


 こういう大雑把さは、母さんによく指摘されてきた。「もう少し計画立てなさい」って何度も言われたけど、結局最後まで直らなかった。計画を立てたところで、その通りに進んだ試しがないから、いっそ最初から立てない方が精神衛生上いい、っていうのが俺なりの結論だ。今この瞬間も、まさにその通りに歩いている。


 周囲の景色は、最初のうちこそ荒れた平原が続いていたが、しばらく歩くと、少しずつ様子が変わっていった。ところどころに、かつて建物だったらしき瓦礫の山が現れ始める。窓枠や壁の一部だけが残った廃墟の合間を、俺は慎重に縫うように進んでいった。


「なんか、前は普通に街とかあったのかな、ここ」


 瓦礫の隙間から見える生活の痕跡に、俺は思わず足を止めた。錆びついた自転車らしき残骸、割れた植木鉢、色褪せた看板の切れ端。かつてここに暮らしていた誰かの生活が、確かにあったんだと実感させられる光景だった。


 誰へともなく零した呟きに、コメント欄がぽつぽつと反応する。


【コメント】設定的にはそうかもね

【コメント】INVADER襲来前は普通に人が住んでたエリアらしいよ

【コメント】今は完全に戦場になっちゃったんだろうな


 その言葉に、少しだけ神妙な顔になった。ゲームの中の出来事とはいえ、かつて誰かの生活があった場所が、今はこんな有様になっている――そう考えると、単なる背景以上の重みを感じてしまう。崩れた家屋の跡らしき瓦礫の中に、原型を失った生活雑貨がいくつか転がっているのが目に入った。特に何を思うでもなかったが、俺はその横をそっと避けるようにして通り過ぎた。壊すつもりはなくても、踏みつけるのは、なんとなく気が引けた。


 もっとも、その神妙な空気は長くは続かなかった。道の脇に停車していた輸送車両らしきものの横を通りかかると、中から出てきたNPCの兵士に「おい、どこの部隊だ」と声をかけられた。


「え、あ、部隊……? えっと、ひとりです!」


「……ソロか。頑丈な機体だな、気をつけろ」


「あ、ありがとうございます! ちなみに、この先ってどんな感じなんですか?」


「詳しいことは言えん。だが、楽な道のりではないだろう」


「そうですよね……あの、もうひとつだけ聞いていいですか? コアって、破壊されたらどうなるんですか?」


「防衛失敗、それだけだ。詳細は知らん」


 それだけ言うと、兵士は興味を失ったように輸送車両の陰へ戻っていった。せめてもう少し会話が続くかと思ったが、あっさり終わってしまう。


【コメント】ソロで返した瞬間の間が面白い

【コメント】NPC、みんな塩対応で草

【コメント】この世界、誰も優しくないw


「まあ、聞くだけ聞いてみましたけど、あんまり参考にならなかったですね……」


 肩を落としつつも、歩みを止めずに前進を続ける。少なくとも、あの兵士が「楽な道のりではない」と言っていたことだけは、はっきり頭に残った。覚悟を決め直すには、それで十分だった。


 しばらく歩いていると、後方から地響きのような音が近づいてきた。振り返ると、細長いシルエットのビークルモードの機体が、猛スピードで道を追い越していく。運転席らしき部分から、こちらをちらりと見た気配があった。


「あ、今の絶対二度見された」


【コメント】そりゃ二度見するでしょ

【コメント】巨大な黄色い機体が徒歩で歩いてたら二度見するw

【コメント】もう見慣れてきた自分がいる


 似たような光景が、その後も何度か繰り返された。ある時は二人組のプレイヤーが並んで走り抜けていき、また別の時には、明らかに急いでいる様子の一人乗りの機体が、砂埃を巻き上げながら追い越していく。


 颯爽と駆け抜けていく機体たちを横目に、俺は変わらぬペースで歩き続ける。焦る気持ちがないわけじゃなかったが、走ったところで機体の性能自体が変わるわけでもない。ならば、開き直って景色でも楽しんだ方が得だと、早々に気持ちを切り替えていた。


 しばらく進むと、地形が緩やかな下り坂に変わり、その先に川が見えてきた。水面は思ったより広く、渡し場らしきものも見当たらない。道は途中で、朽ちかけた橋のかかる小さな川を跨いでいた。橋自体は半分ほど崩落しており、渡れるかどうか怪しい状態になっている。


「うわ、これ渡れるのかな……」


 試しに一歩踏み出してみると、橋げたがみしりと嫌な音を立てた。慎重に体重をかけながら、ゆっくりと対岸を目指す。


【コメント】ハラハラする

【コメント】落ちたら笑う

【コメント】頑張って渡り切って


「わ、わ、わ……!」


 橋の中央あたりで、崩落した部分の隙間が大きく開いてるのが見えた。飛び越えるには、いささか勇気がいる幅だ。一瞬、引き返して別の道を探すべきか迷ったが、地図上に迂回路らしきものは見当たらない。ここを渡る以外に、選択肢はなさそうだった。


「よし、覚悟決めた。えい!」


 思い切って踏み込んだ一歩は、なんとか対岸に届いた。着地の衝撃で、周辺の瓦礫がぱらぱらと川に落ちていく。


「よし、渡り切った!」


【コメント】危なかったw

【コメント】無事でよかった

【コメント】この機体、地味に運動神経いいのかもしれない


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。あれだけの巨体を動かしているにしては、着地の衝撃音は思ったより控えめだった気がする。もっとも、俺自身はそんな細かいことに気づく余裕もなく、ただ渡り切れたことに安堵しているだけだった。振り返って渡ってきた橋を見ると、改めてよくあんなところを渡れたなと、他人事のように感心してしまう。


 危ない橋を渡り切ったとき、妙な達成感があった。現実だったら、こんな危なっかしい橋、絶対に渡ろうとしなかったと思う。石橋を叩いて叩いて、結局渡らずに引き返すタイプだ。なのに今は、迂回路がないってだけで、あっさり覚悟を決めて踏み出せた。選択肢がないっていうのも、案外悪くない。迷う余地がなければ、迷わずに済む。


 橋を越えてしばらく進むと、今度は荒廃した工業地帯らしき区画に差し掛かった。錆びついた配管や、崩れかけた煙突が、あちこちに転がっている。


「なんか、雰囲気変わってきたな……こういうところ、なんか出そうで怖い」


 薄暗く錆びついた景色は、確かにどこか不気味だった。何もいないとわかっていても、視界の隅に何かが動いた気がして、何度も振り返ってしまう。


 その言葉に反応するように、遠くで金属が擦れるような不気味な音が響いた。俺は思わず身を強張らせる。


【コメント】フラグ立てるのやめてw

【コメント】ホラーゲームじゃないんだから

【コメント】気をつけてー


「い、いや、なんでもないです! 気のせい、気のせい!」


 特に何かが襲ってくる様子もなく、しばらく様子を窺った後、俺は再び歩みを進めた。


 工業地帯を抜けたあたりで、道端に数体の機体が集まって休憩しているのが見えた。どうやら、先行していたパーティが一息ついているらしい。


「あ、こんにちはー」


「お、なんだあの機体……もしかして、噂の徒歩勢か?」


「噂って、もう噂になってるんですか、私!?」


「いや、さっき別のパーティが無線で言ってたんだよ。『でかい黄色いのが歩いてる』って。まさか本当にいるとは思わなかった」


「うわ、恥ずかしい……でも、なんかちょっと嬉しいかも」


【コメント】もう有名人じゃんw

【コメント】噂が先に広まってるの面白い


 休憩中のパーティは、これから別のコアへ応援に向かうところらしかった。「そっちも大変そうだけど、頑張れよ」と声をかけられ、俺は素直に頭を下げる。


「ありがとうございます! そっちも気をつけてくださいね!」


 束の間の交流を終えて再び歩き出そうとしたところで、休憩中の一人が思い出したように付け加えた。


「そういえば、この先の分岐、右に行くと近道だけど、瓦礫の密度がえげつないことになってるから覚悟しといた方がいいぞ」


「え、近道なんてあるんですか! 右ですね、覚えました!」


 教えてもらった通り、しばらく歩くと確かに道が二手に分かれている地点に差し掛かった。左は平坦だが遠回り、右は近道だが荒れている――そんな案内板らしきものが、簡素な文字で掲げられている。


「近道、近道っと」


 迷わず右を選んで進んでいくと、たしかに瓦礫の密度が段違いだった。足の踏み場を選びながら、俺は慎重に進んでいく。


【コメント】アドバイス活かしてて偉い

【コメント】ちゃんと人の話聞くタイプなんだ

【コメント】でも普段は説明書読まないんだよなぁw


「人から直接聞いた話は、なんか素直に信じられるんですよね。文字の説明書は無理なんですけど」


 自分でもよくわからない理屈だったが、コメント欄はそれなりに納得してくれたようだった。近道はその名の通り、想像していたより早く工業地帯を抜けさせてくれた。


 束の間の交流を終え、俺は再び一人で歩き出した。誰かに認識されてるって事実は、想像していたよりもずっとくすぐったい気分にさせてくれた。そのすぐ後、階下から母さんの声が飛び込んできた。「楓ー! お風呂沸いたよー!」――例の緊急対応機能が、また律儀に働いたらしい。よほど大きな声で叫ばないと反応しないはずのその機能を、母さんは今日だけで二度も作動させたことになる。


「はいはい、後で入りますー……って、聞こえてないか、これ」


 独り言のように返事をしてから、俺は苦笑した。声を返したところで、母さんに届くわけじゃない。緊急対応機能は、あくまで外の音をこっちに伝えるだけの一方通行の仕組みらしい。「まあ、お風呂の件は後でちゃんと入るし、大した用事でもないだろうし」と結論づけて、俺はすぐに意識をゲームの中へ戻す。


 母さんには、まだ配信のことを話してない。いつか知られる日が来るんだろうか。想像すると、少しだけ胸がざわついた。でも、それも今考えることじゃない。今は目の前の道を、一歩ずつ進むだけだ。


 視聴者数は気づけば五十人近くまで増えていた。誰かが「距離カウンター作ってみた」と言って、画面の隅に簡易的な進捗バーのようなものを模したコメントを投下し始める。


【コメント】徒歩進捗:たぶん60%くらい?

【コメント】いや体感50%じゃない?


「そんな正確な数字、誰にもわからないと思いますけど!?」


 笑いながらツッコミを入れつつも、こうして視聴者と一緒に無駄な盛り上がりを共有できることが、なんだか嬉しかった。ひとりで黙々と歩いてるだけなら、きっとこんなに気持ちは軽くならなかっただろう。誰かと一緒に馬鹿げたことで盛り上がる時間が、こんなにも貴重なものだったなんて、今まで知らなかった。


 気づけば、あたりの地形は緩やかな上り坂に変わっていた。息を切らすはずのない機体のはずなのに、俺自身の集中力は、少しずつ張り詰めていくのがわかる。足を踏み出すたびに、爆発音や金属音がより鮮明に、より近くに聞こえてくる。


「なんか、いよいよって感じがしてきた……」


 声のトーンが、自然と少し低くなる。緊張してるのは間違いなかったが、それと同時に、どこか胸の高鳴りのようなものも感じていた。これから何が待っているのか、まだ何もわからないのに。


「みんな、ここまで見ててくれてありがとうございます。なんか、一人で歩いてる感じ、あんまりしなかったです」


 柄にもなく、素直な言葉がぽろりと零れた。それだけコメント欄の存在が、俺にとって大きな支えになっていたってことなんだろう。誰かがいてくれるというだけで、こんなにも歩き続けられるものなのかと、自分でも少し驚いていた。


 この一年、俺はずっと一人だった。誰かと繋がってる感覚を、忘れかけてたと思う。友達と呼べる相手もいなくなって、家族とすらまともに言葉を交わせなくなって、ただ部屋の中で息を潜めるように過ごしてきた。それが今、画面越しとはいえ、誰かと同じ景色を見て、同じことに一喜一憂してる。たったそれだけのことが、こんなにも心を軽くしてくれるなんて、思ってもみなかった。この感覚を、忘れたくないと思った。


 どうやら、目的地はもうすぐそこまで近づいているらしい。丘を登り切れば、きっと戦場の全貌が見えるはずだ。俺は一度大きく深呼吸をしてから、最後の上り坂に足をかけた。心臓の音が、少しずつ大きくなっていくのがわかった。


 この徒歩移動が始まってから、体感でもう一時間近くが経っていた。振り返ってみれば、決して短くない時間だったはずなのに、不思議と長く感じなかった。誰かと言葉を交わし、誰かに助言をもらい、誰かに認識される。そんな小さな出来事の積み重ねが、この道のりを退屈なものにしなかったんだと思う。





【視聴者「夜勤明けおじさん」(るかちゃんねる、視聴歴:この配信が初見)視点】


 夜勤明けで、なんとなくスマホを眺めていたら、急上昇の欄に見慣れない配信が並んでいた。サムネイルには、黄色い丸っこいロボットが、瓦礫の中をとぼとぼ歩いている画像。


 なんだこれ、と思って開いてみた。


 仕事は工場の夜勤で、体力的にはそれなりにキツい。帰りの電車でスマホを触るのが、ここ数年の唯一の楽しみみたいなものだった。今日もいつも通り、急上昇ランキングをなんとなく眺めていただけだった。


 配信者の声は、やたら元気な女の子の声だった。にもかかわらず、画面の中で起きているのは、ひたすら地味な徒歩移動。爆発も戦闘もほとんどなく、ただ黄色い機体が、荒野を延々と歩き続けているだけだった。


 それでも、画面の中のあの機体を見ているうちに、俺はふと、妙な既視感を覚えた。


 丸みを帯びた寸胴の胴体、不釣り合いなくらい太い脚、そしてどこか鈍く光る、くすんだ金色の装甲。派手なCGでヌルヌル動く今時のロボットとは、明らかに質感が違う。むしろ、子供の頃、親父の実家の押し入れから出てきた、古いブリキのロボット玩具を思い出させる佇まいだった。


 あの頃のブリキ玩具は、今の基準で見れば、お世辞にも格好いいとは言えない代物ばかりだった。関節の可動域は狭く、塗装はところどころ剥げていて、頭身バランスも今のプラモデルみたいに洗練されてはいない。それでも、あの無骨な感じ、機能美というより「とりあえず頑丈に作りました」みたいな不器用な作り込みには、今のスマートなデザインにはない、独特の味があった。


 画面の中の黄色い巨体も、まさにそれだった。歩くたびにギシギシと軋むような動き方、腕を振るたびに見える、無骨に剥き出しのままの杭機構。装甲の継ぎ目一つ一つが、まるで手作業で打ち付けたリベットみたいに、ごつごつと存在を主張している。今の若い子たちが見たら、ダサいと笑うかもしれない。それでも、俺くらいの歳になると、この不格好さがなんとも懐かしく、そして愛おしく映るから不思議だった。


 胸のあたりに、控えめに刻まれた錨のマークにも、目が留まった。潜水艦がモチーフの機体、ということなのだろう。子供の頃読んでいた図鑑に載っていた、旧式の潜水艦の丸窓を思い出させる、あの胴体の丸いパネルの並びとも相まって、なんだか懐かしい絵本の一ページを眺めているような、そんな気分になってくる。


 最新のゲームの中に、まさかこんな懐古趣味丸出しの機体が紛れ込んでいるとは、正直予想もしていなかった。それも、誰かに媚びるためではなく、本人が本当に「これでいいや」で選んだらしいというのが、また味わい深い。


 派手さも洗練さもない、あの古臭いブリキ玩具みたいなシルエットを、俺は気づけばじっと見つめ続けていた。


 普通なら三十秒で閉じるところだ。でも、なぜか閉じられなかった。


 配信者の他愛もない独り言、視聴者との緩いやり取り、時々挟まる自虐的なツッコミ。派手さは何もないのに、なんだか眺めていて落ち着く。夜勤明けの気だるい頭には、ちょうどいい温度の配信だった。


 コメント欄を眺めていると、他の視聴者たちも似たような雰囲気を醸し出しているのがわかった。急かす人も、煽る人も見当たらない。みんな、なんとなくこの配信者を見守っているような、そんな空気があった。


 考えてみれば、俺自身も普段はあまり配信を見るタイプじゃなかった。テレビをつけっぱなしにするのと同じ感覚で、たまたま流れてきたものをぼんやり眺めるくらいだ。それなのに、この配信だけは、なぜか能動的に「もう少し見ていたい」と思わせる何かがあった。


 気づけば、コメント欄に「お疲れ様です」と打ち込んでいた。誰かをねぎらうつもりで送ったコメントだったが、なぜか自分自身が労われているような、不思議な気分になった。


 夜勤明けの疲れた体には、けたたましい配信よりも、こういう緩い時間の方がちょうどいい。派手な実況で盛り上げようとする配信者も嫌いじゃないが、今日みたいな日は、ただ誰かの他愛もない一人旅を眺めているくらいがありがたかった。


 結局、俺はその日、目的地に着くまでの一時間近くを、ほとんどそのまま眺め続けてしまった。布団に入る予定だったのに、と苦笑しながら、それでもチャンネル登録のボタンを押している自分がいた。


 こんな地味な配信を最後まで見てしまうなんて、自分でも意外だった。明日も夜勤だし、早く寝なきゃいけないのに。それでも、悪い気分じゃなかった。


 この巨大な黄色いロボットが、この後どんな騒動を巻き起こすことになるのか。このときの俺は、ただ眠い目をこすりながら、なんとなく画面を眺めていただけだった。


 結局、家に着くまでの電車の中でも、あの配信のことをぼんやり思い出していた。特に何が起きたわけでもないのに、なぜか印象に残る配信だった。

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