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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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68.陰の立役者

【アイギス視点】


「そういえば、アイギスさんは、この間の世界大会、出なかったんですか?」


 副ギルドマスターの、ふとした問いに、私は、思わず、大きなため息をついた。


「仕事よ、仕事! 平日開催の大会に、社会人が参加できるわけないでしょう」


「あー……そうでしたね」


「本当に、あの日程を決めた人には、しっかりクレームを入れておいたわ。もう少し、社会人のことも考えてほしいものよね」


「うちのギルメンにも、普通に参加してた人、何人かいましたけど……」


「あの子たち、一体どれだけ時間に余裕があるのよ……」


 思わず、そんな見当違いの愚痴が、口をついて出た。同じギルドの仲間なのに、この差は一体何なのだろう。それでも、こうして軽口を叩き合える相手がいることも、この仕事の、ささやかな楽しみの一つだった。


「るかさんのミラー、瓦礫を投げてますね。あれ、想定外の動きなんじゃないですか」


 副ギルドマスターが、複数のプレイヤー配信を映し出したモニターを見つめながら、そう呟いた。ギルドの本拠地となっているチャットルームには、いつになく、張り詰めた空気が流れていた。


 あのミラーイベントが始まってから、既にしばらく経っていた。それでも、私たちは、まだ実際の行動には移していなかった。


「今、ギルドメンバーを大挙して送り込んでも、正直、あまり意味がないと思うの」


 私は、静かに、そう答えた。


「敵の動きが、まだ、まったく読めていないから、ですか」


「そう。ミラーユニットが、どんな行動パターンを取るのか。どこに数の利を活かせる隙があるのか。それが見えていない段階で、ただ闇雲に人数を投入しても、被害が増えるだけよ」


 だからこそ、今は、様々な配信者たちの視点を、じっくりと観察している段階だった。るかさん、レンさん、皇帝牙さん。それぞれの戦いぶりを見比べながら、ミラーユニットという敵の特性を、少しずつ分析していく。


「三人とも、それぞれまったく違う戦い方をしてますね」


「ええ。だからこそ、見ていて飽きないし、学べることも多いわ」


 こうして情報を集めながら、いざという時に、確かな一手を打てるよう、静かに準備を整えておく。それもまた、ギルドを預かる者としての、大切な役目だった。


「アイギスさん、緊急のご連絡です。運営から、直接のメッセージが届いています」


 副ギルドマスターの声に、私は、思わず、手元の作業を止めた。運営から、ギルド宛てに直接連絡が来ることは、そう頻繁にあることではない。何か、よほどの事態が起きているのだろう。そう直感しながら、私は、画面へと視線を向けた。


「読み上げてくれる?」


「はい。『本日発生中のミラーイベントに関連し、三つの主要戦線の後方で、通常の防衛戦線が、著しく手薄になる見込みです。貴ギルドの実績豊富な連携体制を見込み、可能な範囲での支援をお願いできませんでしょうか』とのことです」


 その文面を聞きながら、私は、小さく息を吐いた。運営が、こうして名指しで頼ってきてくれる。その事実に、確かな重みを感じずにはいられなかった。同時に、この信頼を、決して裏切るわけにはいかないという、確かな責任感も、胸の奥から湧き上がってきた。


 思えば、この関係が築かれるまでには、それなりの積み重ねがあった。サービス開始から間もない頃、まだ右も左もわからない新規プレイヤーたちの避難誘導に、私たちのギルドが率先して協力したことがあった。あの時、運営の担当者から、丁寧なお礼のメッセージが届いたのを、今でもよく覚えている。


 あの頃は、まだギルドとしての規模も、今よりずっと小さかった。それでも、困っている人を見過ごせない。ただ、その一心で動いた結果が、こうして今の信頼関係の礎になっているのだと思うと、なんとも感慨深いものがあった。


 それ以来、大規模な防衛イベントのたびに、運営側から、非公式な形で相談を受けることが、少しずつ増えていった。世界二位という順位以上に、こうした「頼れる存在」としての信頼を、私たちは、時間をかけて積み重ねてきたのだと思う。


 このギルドを立ち上げた時、私は、ただ強さだけを追い求める集団にはしたくないと、心に決めていた。誰かが困っている時に、迷わず手を差し伸べられる。そんな在り方こそが、本当の意味での「強さ」なのだと、ずっと信じてきた。あの頃からの理念が、こうして、確かな信頼という形に結実しているのだと思うと、なんとも言えない感慨があった。強さの形は、一つではない。それを、このギルドを通して、これからも証明し続けていきたいと思う。


「アイギスさん、どうしますか」


 副ギルドマスターの問いに、私は迷わず頷いた。


「もちろん、受けるわ。今、ログインしているメンバーに、至急招集をかけて」


「承知しました!」


 こういう時、迷っている暇はない。判断は早く、行動はもっと早く。それが、この立場を預かる者としての、私なりの信条だった。長年ギルドを率いてきた経験が、こうした瞬間にこそ、確かに活きてくる。


「そういえば、ケラウノスにも、今回の要請は行ってるのかしら」


 ふと気になって、私は、そう尋ねてみた。


「行ってないと思いますよ? というか、仮に要請があったとしても、よほど金を積まなきゃ動かないですよ、アイツら」


 副ギルドマスターが、あっさりと、そう返してきた。


「まあ、それもそうよね」


「そういえば、少数精鋭のプロ集団だからこそ、下手にサービスみたいなことをすると、スポンサーに突かれたりするんでしょうね。ああいうところにも、色々な柵があるんでしょう」


 その一言に、私は、思わず、小さく頷いた。あそこは、あそこなりの事情を抱えているのだろう。うちのような、遊びの延長で動けるギルドとは、根本的に立場が違うのだと思う。


 そもそも、あの世界ランキングは、この会社が手がける全タイトルの合算ポイントで決まる仕組みだった。少数精鋭で効率よくポイントを稼ぐあの集団が、総合順位では頭一つ抜けている。それでも、このZERO-DAY ONLINE一本に絞って見れば、規模でも実績でも、うちが数の暴力で圧倒的トップだという自負が、私にはあった。


 だからこそ、今この瞬間、実質的に即座に動ける最大手のギルドは、うちしかない。そんな確かな自負が、私の中に、静かに芽生えていた。


 戦闘は、既に始まっている。悠長に全体招集をかけて、メンバーが集まるのを待っている時間など、どこにもなかった。今この瞬間にログインしていて、まだ防衛任務に就いていないメンバーだけでも、迅速にかき集める必要があった。


 ギルド全体へのメッセージを、私は素早く打ち込んだ。


「今ログイン中で、手が空いてる人、至急集合! 詳しい事情は後で話すから、まずは第三防衛エリアへ!」


 狩りの最中だった者、雑談をしていた者、ちょうど装備の調整をしていた者。それぞれが、それぞれの活動を、すぐさま中断して駆けつけてくれた。「イージス」――世界二位のギルドとして積み重ねてきた、これまでの連携と練度。それを、今日という日のために、惜しみなく注ぎ込むつもりだった。


「アイギスさん、防衛部隊の準備、整いました!」


 通信越しに響く、頼もしい声。振り返れば、いつもの精鋭メンバーたちが、既に臨戦態勢を整えていた。


「みんな、急な招集にもかかわらず、集まってくれてありがとう」


「アイギスさんの頼みなら、断る理由なんてありませんよ」


 そう笑いながら答えてくれたのは、副ギルドマスターだった。長年、共に歩んできたこの仲間たちがいてくれるからこそ、こうした咄嗟の対応も、確かな形で成立するのだと、改めて実感させられた。


「まずは、防衛戦力の配置を確認しましょう。手薄になっている箇所を、優先順位をつけて割り振っていくわよ」


「はい! 現在確認できている、手薄なエリアの一覧です」


 画面いっぱいに表示された、いくつもの防衛エリア。その一つ一つに、メンバーを的確に振り分けていく作業は、まるで、大きな一枚の盤面を見渡しながら指し手を進める、そんな感覚に似ていた。


 どのエリアに、誰を、どのタイミングで送り込むか。その判断一つで、防衛の成否が大きく変わってくる。長年、ギルドを率いてきた経験が、こういう瞬間にこそ、確かに活きてくるのを感じた。


「第三エリア、防衛完了! 続いて、第七エリアへ回ります!」


 機体を旋回させる合間、ふと、三つのミラー戦が繰り広げられているという方角に、私は視線を向けてみた。


 遠目にも、その規模の異常さは、はっきりと伝わってきた。巨大な瓦礫が宙を舞い、幾度となく閃光と轟音が響き渡っている。まるで、怪獣同士の激突を描いた映画の一場面のようだった。


(……無理ね、あれは)


 思わず、そう独り言ちる。あの領域に、生半可な戦力で割って入ろうものなら、たちまち巻き込まれて終わるのが目に見えていた。るかさんの戦場も、レンさんの戦場も、そして皇帝牙さんの戦場も、どれも、これまで見てきたどんな戦いとも、明らかに次元が違っていた。


 だからこそ、自分たちにできることは、最初から決まっていた。あの舞台に、自ら立つことではない。あの舞台が、確かに成立し続けるための、揺るぎない土台を守り抜くこと。それこそが、今日という日の、私たちの役割だった。


 地味で、目立たない仕事かもしれない。それでも、この役割にこそ、私は、確かな誇りを持っていた。表舞台に立つ者と、それを支える者。どちらが欠けても、今日という日は、決して成り立たなかったはずだった。


 自分の機体を、次の戦場へと素早く旋回させながら、私は、ギルドメンバー全員へと、指示を飛ばし続けていた。今日という日は、ギルドを預かる身として、これまでで一番、目まぐるしい一日だった。


「アイギスさん、第十二エリア、応援要請きてます!」


「了解、そっちは私が直接向かう!」


 機体を反転させながら向かった先、既にそのエリアには、見覚えのある、小さな機体が一つ、奮闘している姿があった。


「あ、アイギスさん! こっちも、なんとか持ちこたえてます!」


 明るい声で、そう呼びかけてきたのは、ハチさんだった。ギルドにも所属せず、いつも気ままにゲームを楽しんでいる、あのエンジョイ勢の彼が、今日ばかりは、自分にできる範囲で、必死に踏ん張ってくれていた。


「ハチさん、無理しないでいいのよ」


「いやいや、俺なりに、恩返ししたくて。るかさんには、いつも元気もらってるから」


 その屈託のない笑顔に、私は、思わず、頬が緩んだ。大きな力を持たない人にも、それぞれの形で、確かに支え合える瞬間がある。今日という日は、そのことを、改めて教えてくれた気がした。


「よし、この敵は、私が引き受けるわ。ハチさんは、後方の立て直しをお願い」


「了解です!」


 二人で連携しながら、目の前の敵を、着実に打ち崩していく。普段はソロで気ままに戦っているはずのハチさんだったが、いざという時の連携の勘所は、驚くほどしっかりしていた。息を合わせるまでもなく、互いの動きが、自然と噛み合っていく。そんな不思議な相性の良さに、私は、少しばかり驚かされていた。


「ハチさんって、意外とチームプレイも得意なのね」


「まあ、これでも、昔は結構、色んなギルド渡り歩いてたので」


 その意外な一言に、私は少しだけ興味を惹かれた。それでも、今は、詳しく聞いている余裕はなかった。今度、時間ができたら、彼のこれまでの歩みを、ゆっくり聞いてみたいと思った。


「そのお話、また今度、ゆっくり聞かせてもらってもいい?」


「もちろんです! いつでもどうぞ!」


 敵の大群を退けながらも、そんな軽口を交わせる余裕があることに、私は、なんだか少しおかしくなった。危機的な状況の最中でも、こうして笑い合える。それもまた、このゲームが持つ、確かな魅力の一つなのだろう。


 機体を反転させながら、私は、ふと、あの人のことを思い出していた。誰よりもソロにこだわり続ける、あの不思議な配信者。何度誘っても、あっさりと断られ続けてきた。それでも、今日という日、こうして陰から支えられることに、不思議な誇らしさを感じている自分がいた。


「別に、恩を売りたいわけじゃないのよね。ただ、あの人が、思う存分暴れられる舞台を、確かに守ってあげたいだけで」


 誰に言うでもなく、そう独り言ちる。ソロであることを貫く強さも、誰かを陰から支える強さも、きっと、どちらも同じくらい尊いものだと、私は思う。


 思えば、初めてるかさんの配信を見た時から、彼女の中にある、あの真っ直ぐな在り方に、私はどこか惹かれ続けていた。誰かに頼ることを、決して恥じない強さ。それでいて、自分のやり方を決して曲げない、確かな芯の強さ。その両方を併せ持つ人は、実は、そう多くはない。だからこそ、こうして力になれることが、私にとっても、確かな喜びだった。


「アイギスさん、第七エリアの敵集団、数がかなり多いです! 応援お願いします!」


 通信越しに響く、切迫した声。私は、すぐさま機体を、その方角へと向け直した。


「今行くわ! みんな、あと少し持ちこたえて!」


 到着した先には、想像していた以上の数の敵が、押し寄せてきていた。それでも、怯んでいる暇はなかった。


「散開しながら各個撃破よ! 誰か一人に負担が集中しないように!」


 的確な指示を飛ばしながら、私自身も、目の前の敵へと斬り込んでいく。長年培ってきた連携の呼吸が、こういう時こそ、確かにものを言う。


 ブレードを鋭く一閃させ、目の前の敵の装甲を、確実に切り裂いていく。無駄のない、洗練された動き。これまで積み重ねてきた戦闘経験の一つ一つが、この瞬間のために存在していたかのようだった。囲まれかけた瞬間には、素早く反転し、背後から迫る敵の攻撃を、紙一重で躱す。仲間たちの動きにも、常に気を配りながら、自分自身の戦闘にも、一切気を抜くことはなかった。


 一体、また一体と、敵の数を着実に減らしていく。ギルドメンバーたちの動きにも、次第に、確かな余裕が戻ってきているのがわかった。


「アイギスさん、こっちも問題なさそうです! さすがですね、この統率力」


 若手メンバーの一人が、通信越しに、そんな声をかけてきた。


「みんなの練度があってこそよ。一人でできることなんて、たかが知れてるから」


 そう返しながらも、こうして仲間たちから頼りにされることに、正直、確かな誇らしさを感じずにはいられなかった。


「第七エリア、防衛完了しました!」


「よし、次のエリアへ!」


 息をつく間もなく、私は次の指示を飛ばした。それでも、不思議と、疲労感よりも、確かな充実感の方が勝っていた。


「防衛エリア、全域で安定を確認しました!」


 部下からの報告に、私は、大きく息を吐いた。ようやく、肩の力を抜くことができた。


「よし、みんな、本当にお疲れ様! この調子で、最後まで気を抜かずにいきましょう!」


 通信越しに、ギルドメンバーたちの、達成感に満ちた声が、次々と返ってくる。誰かの晴れ舞台を、こうして陰から支えられたことに、私は、確かな誇りを感じていた。


 それでも、まだ気は抜けなかった。肝心の、あの三つのミラー戦の行方が、まだわからないままだった。祈るような気持ちで、私は、報告を待ち続けた。


 しばらくして、三つのミラー戦が、無事にすべて終結したという報告が届いた。その一報に、私は、思わず、ガッツポーズを取っていた。


「よっしゃ、勝った!」


 自分自身の戦いではないのに、まるで自分のことのように、嬉しかった。今度会ったら、また、いつも通り「ソロなんで」と断られるのだろう。それでも、今日この日、確かに力になれたことだけは、誰にも譲れない、私だけの誇りだった。


「アイギスさん、視聴者のコメント欄でも、るかさんの快進撃が話題になってるみたいです」


 部下のその報告に、私は、思わず、口元が緩んだ。表には決して出ないはずの、この裏方の働きが、こうして誰かの晴れやかな瞬間を支えている。その事実だけで、十分すぎるほど、報われた気持ちになれた。


「運営から、正式なお礼のメッセージが届いています」


 副ギルドマスターの声に、私は、思わず、画面を覗き込んだ。「本日の多大なるご協力に、心より感謝申し上げます。貴ギルドの存在なくして、今回の成功はあり得ませんでした」――その丁寧な一文に、私は、なんだか胸が熱くなった。


 こうして正式な感謝の言葉をもらえることは、正直、そう多くはない。それでも、こうして届く一つ一つの言葉が、これまでのギルド運営の、確かな支えになってきたのだと思う。


「これで、また少し、運営との信頼関係が深まったかしらね」


「間違いなく。次に何かあった時も、きっとまた頼ってきてくれると思います」


 その言葉に、私は、静かに頷いた。表舞台に立つことは、きっとこれからもないのだろう。それでも、こうして誰かの見えないところで、確かな力になれる。その役割にも、十分すぎるほどの、確かな誇りがあった。


 いつか、このギルドの在り方が、誰かにとっての道標になる日が来るかもしれない。そんな未来を、ぼんやりと思い描きながら、私は、静かに息を整えた。


 窓の外を眺めながら、私は、今日一日の出来事を、改めて振り返っていた。誰かの晴れ舞台を、陰から支える。それは、決して華やかな役割ではない。それでも、こうして積み重ねてきた信頼が、確かな形になっていく瞬間には、何物にも代えがたい喜びがあった。


 いつか、るかさんが、今日という日の裏側を知る機会があるかどうかは、正直わからない。それでも、知られなくても構わない。この誇りは、私自身の中にだけ、静かにしまっておけば、それで十分だった。





【神代レン視点】


 あの一戦を終えた後、俺は、しばらくの間、機体を降りることもできずにいた。全身にのしかかる疲労感と、それから、拭いきれない気まずさが、同時に押し寄せてきていた。


 配信で、あんな悪態をついてしまった。よりにもよって、皇帝牙さんに対して。あの瞬間の自分を、今すぐにでも取り消したい気持ちでいっぱいだった。


「すみません、さっきは、配信中に、思わず失礼な言葉を使ってしまって……」


 視聴者に向けて、素直に頭を下げる。


【コメント】いやいや、あの状況なら仕方ないでしょ

【コメント】むしろ人間味あって良かったよ

【コメント】お疲れ様でした!


 視聴者たちの温かい反応に、俺は思わず、胸が熱くなった。


【コメント】あ、なんかコメント欄に、見慣れない名前が……

【コメント】え、これって、まさか……

【コメント】皇帝牙さん!? 本物!?


 思わず、俺は、画面に流れるコメント欄を二度見した。


【皇帝牙】悪かったな。あの余波、こちらの都合で、そちらにまで及んでしまった。


 たった一言、それだけの書き込みだった。それでも、コメント欄は、たちまち大騒ぎになった。


【コメント】え、本当に本人!?

【コメント】皇帝牙さんが配信にコメントとか事件だろ

【コメント】これ歴史的瞬間なのでは


「あ、いえ、こちらこそ、失礼な態度を取ってしまって……」


 思わず、そう打ち込んで返す。


【皇帝牙】気にしていない。あの状況なら、当然の反応だろう。それより、見事な立ち回りだったな。飛行機形態と人型形態を、あれだけ素早く切り替え続けるとは。


 短い、それでいて確かな称賛だった。あの寡黙な人から、こうして直接褒められる機会など、そう多くはなかった。


【コメント】皇帝牙さんに褒められてるの草

【コメント】レンさん良かったなあ

【コメント】この化学反応、控えめに言って最高すぎる


【皇帝牙】型に囚われない、その柔軟さこそが、これからのお前の武器になるはずだ。


 その一言に、俺は、思わず、胸が熱くなった。


「あ、ありがとうございます……!」


 それを最後に、皇帝牙さんのコメントは、静かに途絶えた。それでも、コメント欄は、しばらくの間、その余韻でざわめき続けていた。


 窓の外に広がる夕暮れの空を、俺はしばらくの間、ぼんやりと眺め続けていた。あんな悪態をついてしまった自分を、今でも恥じる気持ちはある。それでも、あの人が、そんな些細なことを気にする人ではないと知れたことは、今日という日の、確かな収穫の一つだった。


 るかさんや皇帝牙さんとの出会いが、俺の中の何かを、確かに変えてくれた。この繋がりを、これからも、大切にしていきたいと思った。

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