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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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67.三つの戦場、一つの空

 俺は今もまだ、あのミラーユニットと殴り合っていた。全身のあちこちに、既に無数の、確かで深い傷跡が刻まれている。それでも、まだ、ここで決して退くわけにはいかなかった。この痛みの一つ一つを、俺は確かに、しっかりと覚悟を持って受け止め続けていた。


 あの覚悟を決めた瞬間から、状況は着実に好転していた。それでも、決定的な一撃には、まだ届かない。互いに、少しずつ削り合うだけの、消耗戦が続いていた。痛みへの覚悟を決めてから、俺はもう、この痛みに動じることはなかった。体力の消耗だけは、それでも、じわじわと蓄積していた。


 その時、不意に、空から降り注ぐ、幾つもの光の筋が見えた。俺は、それが何なのか、正直よくわかっていなかった。警告アラートの類も、一切鳴っていない。


「え、なにこれ……?」


 思わず、そう呟く。それでも、避けるという発想自体が、俺の頭には、まったく浮かんでこなかった。目の前のミラーユニットも、なぜか、まったく同じように、その場から一歩も動こうとしなかった。


 次の瞬間、幾つもの着弾が、俺たちの周囲を激しく揺さぶった。轟音と共に、視界が真っ白に染まる。


「うわっ!?」


 思わず、そんな声が漏れる。それでも、しばらくして視界が晴れると、俺自身には、傷一つ見当たらなかった。一方で、目の前のミラーユニットの方は、装甲のあちこちに、確かな損傷が刻まれていた。


【コメント】え、今の何?

【コメント】るかさんノーダメージなのに、ミラーだけ傷ついてる

【コメント】どこかから援護でも入ったのか?

【コメント】てかこの規模の攻撃でアラート鳴らないのおかしくない?

【コメント】危険水域になると鳴るシステムなら、るかさんはそもそもその水域に入ってなかったってことか

【コメント】さすが不沈艦、判定基準からしてズレてる


「なんか、よくわかんないけど……助かった、のかな……?」


「るかさん、今のは、皇帝牙エリアからの余波みたいです! あちらの戦闘の規模が、大きすぎて……!」


 視界の端に流れた、そんな通知が、慌ただしく目に飛び込んできた。


「え、皇帝牙さんの方から!? なんか、自分の戦いをしながら、こっちにまで力を貸してくれるとか、本当に余裕がすごいですね……!」


 思わず、素直にそう零す。まさか、そんな都合の良い解釈は、あの静かな死闘の実態とは、まったくかけ離れたものだった。それでも、今の俺には、知る由もなかった。


 ふと、あの時、皆さんに預けた言葉が、確かに脳裏をよぎった。俺は、俺自身の力で、決して負けてられなかった。それでも、目の前のミラーユニットは、依然として、圧倒的に手強く恐ろしい相手のままだった。自分一人の力で、この均衡をどう崩すべきか、正直、まだ確かな答えは見えていなかった。それでも、諦めるという選択肢だけは、俺の中に、最初からまったく存在していなかった。


 ちょうどその時、遠くの空一面が、まばゆい輝きに包まれ始めた。先ほどの物々しい閃光とは、明らかに質の違う、温かみを帯びた光だった。その光は、瞬く間に、確かな大きさを増しながら、俺たちのいる場所へと近づいてくる。まるで、空全体が、味方をしてくれているかのような、そんな不思議で確かな感覚があった。


「これは……いったい何だ!」


 思わず、身構える。それでも、敵意めいたものは、一切、まったく感じられなかった。次の瞬間、その光が、まばゆい波のように、俺の機体全体を包み込んでいった。腹の底に、はっきりと響くような音と共に、力が漲ってくるのを感じる。疲弊しきっていたはずの機体に、まったく新しい活力が、静かに吹き込まれていくようだった。


『全戦力強化支援、発令します』


 アナウンスと共に、これまでにない規模の後押しが、戦場全体を包み込んでいった。これまで、幾度となく助けられてきた、あの戦術支援システム。それが今、これまでで一番大きな規模で、発動していた。あの拠点砲撃支援とは、まったく比べ物にならないほどの、圧倒的な力の奔流だった。この援護が、どれほどのリソースを必要とするものなのか、俺には正確には計り知れなかった。それでも、この援護に込められた想いの重みだけは、確かに伝わってきた。誰かが、俺たちのために、確かに動いてくれている。その事実だけで、胸の奥が、熱くなった。


 この時の俺は、まだ知らなかった。これほどの規模の支援を、運営が思い切って送り出せた背景に、確かな理由があったことを。


【コメント】規模やばすぎる

【コメント】これ相当なリソース使ってるでしょ

【コメント】運営、思い切ったな


 力が確かに漲る両腕を、俺はしっかりと強く構え直した。この確かな後押しがある限り、まだまだ戦える。そんな確信が、胸の奥から、静かに、しかし確かに、力強く込み上げてきた。


 ――この援護の裏側にあった、確かな事情を、俺が知ることになるのは、もう少し後のことだった。イージス――あの世界二位のギルドが、他の戦線を一手に引き受けてくれていたおかげで、この貴重なリソースを、こちらへ回す余裕が生まれていたのだと、俺は、ずっと後になってから知ることになる。


 運営が、この判断を下せたのも、アイギスさんたちが、身を挺して他の場所を支え続けてくれていたからだった。表舞台には決して出てこない、こうした裏方の頑張りがあったからこそ、この瞬間が成り立っていたのだと、俺は改めて実感していた。


 これまで何度も「ソロなんで」と断り続けてきた俺のために、快く力を貸してくれる。その懐の深さに、俺は思わず、素直に感謝せずにはいられなかった。何度断られても、決して見捨てずにいてくれる。そんなアイギスさんの在り方に、俺はどこか、救われた気持ちになった。ソロだと強がって言い張ってきた俺自身、実はずっと、誰かに支えられていたのだと、今更ながらに気づかされた。


 視界の端に、緊急の通知が流れ込んできた。


『速報:神代レン、自身のミラーユニットの撃破に成功』


「え、本当にまじですか!?」


 思わず、大きな声が漏れる。あの想像を絶する死闘を、レンさんは、本当に見事に乗り越えたのだ。あの全戦力強化支援の後押しがあったからこそ、あの最後の一押しを、実らせることができたのだろう。あの完成された型を、自らの手で崩す。その決断がどれほどの重みを持つか、俺には正確には、はっきりと計り知れなかった。それでも、レンさんが、何か大切なものを乗り越えたのだということだけは、はっきりと伝わってきた。


 あの再戦の日、俺に真正面から確かに挑んできたレンさんの姿を、俺は今でも、はっきりと鮮明に覚えている。あの再戦での負けを、あの人は、決して無駄にはしなかった。あの頃とはまったく違う、新しい強さを、レンさんは確かに手に入れたのだろう。長年、技術を積み重ねる強さと、それをあえて手放す勇気。その両方をしっかりと併せ持てる人は、そう多くはないはずだった。俺には決して真似のできない、レンさんだけの、まさに確かな強さだった。


【コメント】レンさんおめでとう!

【コメント】これでるかさんの方も勢い付くな

【コメント】皇帝牙さんの方は、まだ続いてるのか


 視聴者たちのコメント欄にも、確かで大きな喜びの声が溢れていた。俺自身、この状況を、まだ完全には頭の中で整理しきれずにいた。それから間もなく、追加の通知が届いた。


「皇帝牙さんも、見事に撃破に成功したとのことです!」


 思わず、俺は両拳を強く握りしめた。三人のうち、二人が、既に自分自身との戦いに、決着をつけている。残るは、もう俺一人だけだった。あの上空で、たった一人、それでも黙々と戦い続けていた皇帝牙さんの姿を思うと、胸の奥が、じんと熱くなった。配信もせず、誰に見られることもなく、それでもただ黙々と己自身と向き合い続ける。あの寡黙な背中を、俺はどこかで、ずっと密かに尊敬していた。俺には決して真似のできない、確かで独自の強さの形だった。


 あの光が、俺だけでなく、三つの戦場すべてに、同時に降り注いでいたのだと、俺は今になって、はっきりと実感していた。


「よし……! 今のこの機会に、決めましょう!」


 俺は、大きく体勢を崩したミラーユニットへと、渾身の力を込めて攻撃を叩き込んでいった。それでも、決定打には、あと一歩届かない。


(あ、そういえば――)


 ふと、そんな考えが頭をよぎった。片腕だけじゃなくて、両腕で同時に撃ったら、一体どうなるんだろう。深い考えがあったわけじゃない。ただ、なんとなく、そうすればいいことが起きそうな気がした。それだけだった。


「両腕でいきます!」


【コメント】るかちゃんちょっと待って!

【コメント】それ絶対やばいやつ!

【コメント】ステイ! ステイ!!


 視聴者たちの必死な制止の声が、コメント欄に次々と流れていくのが見えた。それでも、俺は、既に両方の拳を、真っ直ぐにミラーユニットへと向けてしまっていた。


「インパクトスマッシャー!」


 両の拳と杭が、同時に機体の中心を捉える。恐怖を抱えたまま、それでも前へ進む。あの覚悟が、この一撃に込められていた。あの過呼吸に苦しんだ瞬間から、俺は、一歩、また一歩と、決して止まることなく、着実に前へと進み続けてきた。


 あの狭い瓦礫の下で、震えながら聞いていた鼓動。それが今、この巨大な機体の中心で、まったく違う音を立てて脈打っているのがわかった。誰にも選ばれなかった、この不格好な巨躯。その奥底に眠っていたはずの力が、今、限界を超えて、全身へと満ち渡っていく。


 次の瞬間――両手のレバーが、これまでにない、凄まじい勢いで跳ね返った。片腕の時とは違い、逃げ場のない反動が、真後ろへとまとめて突き抜けていく。俺の機体は、ミラーユニットごと、周囲の瓦礫やビルの残骸を派手に巻き込みながら、大きく後方へと吹き飛ばされていった。


 激しい衝撃と共に、視界が真っ白に染まる。次に気づいた時には、俺は瓦礫の山の中に、背中から深く突っ込んでいた。


「い、ったあ……!」


『異常操作ペナルティが発動しました。機体への負荷が、確認されています』


 聞き慣れない、無機質な通知音が、コックピット内に静かに響いた。それでも、そんな通知の中身を、じっくり気にしている余裕は、正直、どこにもなかった。


 真っ先に襲ってきたのは、勝利の実感でも、達成感でもなかった。両手のひらに走る、痺れるような鋭い痛み。そして、コックピット内で激しく揺さぶられたせいか、頭の奥までずきずきと痛んでいた。締まらないことこの上ないが、それが、今の俺の正直な感想だった。


「て、手と頭が、めちゃくちゃ痛い……」


 思わず、そんな情けない声が漏れる。目の前の敵がどうなったかよりも、まず自分の痛みの方が気になってしまう。なんとも締まらない幕引きだった。


【コメント】え、大丈夫!?

【コメント】めっちゃ痛がってて草

【コメント】でも敵の方はもう消えてるよね?


 視聴者の指摘に、俺はようやく、はっとして顔を上げた。ミラーユニットがいたはずの場所には、既に何も残っていなかった。あの一撃は、大きく眩い光を放ちながら、確かにその姿を消し去っていたのだ。あれほど激しかった戦いが、たったこの一瞬で幕を下ろしたことが、俺自身、まだ信じられずにいた。長い長い戦いだったはずなのに、こうして振り返ると、なんだか、あっという間の出来事だったようにも感じられた。


【コメント】両腕で撃つとかいう発想やばw

【コメント】自分も吹っ飛んでて草

【コメント】これで三体とも撃破完了か!

【コメント】お疲れ様!!!


 視聴者たちの祝福の声が、次から次へと流れ込んでくる。俺は思わず、その場に座り込みそうになった。これまで張り詰めていた全身の緊張が、一気に解けていくのを感じる。それでも、今は、まだゆっくりと休んでいる場合じゃなかった。


 しばらくすると、遠くから、見覚えのある機影が、二つ、こちらへと近づいてくるのが見えた。それぞれが、確かな死闘を潜り抜けてきたであろうことは、その傷だらけの装甲を見れば、一目瞭然だった。それでも、その足取りには、確かな力強さが宿っているように見えた。


「るかさん!」


 レンさんの声だった。傷だらけになりながらも、その声には、確かな達成感が滲んでいた。


「レンさん! 本当にお疲れ様でした!」


 思わず、大きく手を振りながら、笑顔がこぼれる。無事な姿を、この目で確認できたことが、何よりも嬉しかった。あの死闘を、レンさんが本当に乗り越えられたのだという実感が、今、確かに込み上げてきた。


「あなたもですよ。それに、皇帝牙さんも」


 少し遅れて、皇帝牙さんの機体も、静かにその場へと降り立った。あの上空での孤独な死闘の激しさを物語るように、機体のあちこちに、深い傷跡が刻まれている。それでも、その佇まいには、これまでと何一つ変わらない、確かな威厳が宿っていた。


「無事のようだな」


 短い一言だった。それでも、そこには、確かな、そして温かい安堵が込められているように感じられた。皇帝牙さんらしい、飾らないその言葉が、俺にはとても、それでいて確かに心強く響いた。多くを語らないからこそ、その一言一言に、これまで以上の確かな重みが宿っているように感じられた。


「はい! これも、みなさんのおかげです!」


 俺がそう答えると、レンさんが、少し照れくさそうに笑った。


「それにしても、まさか自分自身と戦うことになるとは、思いもしませんでしたね」


 レンさんが、苦笑しながら、そう零す。その表情には、これまでとは違う、確かな柔らかさが滲んでいた。あの負けず嫌いだったレンさんの雰囲気が、少しだけ、確かに丸くなっているようにも感じられた。


「本当に……。でも、なんだか、いい経験になりました」


 俺がそう返すと、皇帝牙さんも、静かに、それでいて確かにしっかりと頷いてくれた。多くを語らないその仕草一つからも、確かな共感が伝わってくるような気がした。言葉にせずとも、確かに通じ合えるものが、この世にはあるのだと、俺は今、実感していた。


「それにしても、あの全戦力強化支援、本当にすごいタイミングでしたね」


 レンさんが、しみじみとそう零す。もう少し遅ければ、この結末も、また違ったものになっていたかもしれない。そう思うと、俺は改めて、あの光の確かな温かさを、思い出さずにはいられなかった。


「あれがなければ、正直、もう少し、いや、正直、かなりの時間がかかっていたかもしれません」


 俺がそう答えると、皇帝牙さんも、静かに頷いた。


「運営も、色々と考えてくれているのだろう」


 短いその一言にも、確かで深い感謝の念が滲んでいるように感じられた。皇帝牙さんらしい、飾り気のない、それでいて確かで大きな重みを持つ言葉だった。


「そういえば、ハチさんの方は、どうなったんでしょう」


 俺がふと、そう呟くと、レンさんが、通信画面を確認しながら答えてくれた。


「別エリアで、最後まで遠距離支援に徹していたそうです。無事だったみたいですよ」


「よかった……」


 思わず、深い安堵の息が漏れる。ハチさんの、あの明るい笑顔を思い浮かべながら、俺は心の底から安心していた。初めてゲーム内でできた、あの大切な友達。ハチさんの無事を確認できたことが、何よりも嬉しかった。それぞれが、それぞれの持ち場で、確かに戦い抜いていた。


「るかさん、お疲れ様でした!」


 ちょうどその時、聞き覚えのある声と共に、アイギスさんの機体が、こちらへと歩み寄ってきた。


「アイギスさん! 援護、本当に本当にありがとうございました!」


 深く、しっかりと頭を下げると、アイギスさんは、いつもの朗らかで温かい笑顔で応えてくれた。あの何度も断られ続けてきたはずのアイギスさんが、それでも、こうして真っ先に、確かに駆けつけてくれたことが、俺には何よりも嬉しかった。


「いえいえ、これくらい当然のことです。それより――」


 アイギスさんが、いつものように、少しだけ、それでも確かに悪戯っぽい笑みを浮かべた。何度断られても、決してめげることのない、あの逞しい、そして頼もしい笑顔だった。


「今回の働きぶり、しっかりと、この目で見てもらえましたよね? そろそろ、うちに来る気になりました?」


「あ……えっと、ソロなんで」


 俺がいつも通り、そう返すと、周囲から、小さな笑い声が漏れた。レンさんも、皇帝牙さんまでもが、わずかに、それでも確かに口元を緩めているのが見えた。この空気が、今この瞬間だけは、何よりも心地よかった。


 瓦礫の残る、この戦場に、夕暮れの光が、静かに、そして優しく差し込んでいた。それぞれが、それぞれの形で乗り越えてきた、長く濃密な一日だった。それでも、こうして誰かと笑い合えることの温かさを、俺は今、確かに噛み締めていた。ソロで戦うことに、これまでこだわり続けてきたはずの俺自身が、今、こんなにも温かい気持ちでいることが、少しだけ不思議だった。





【プレイヤーサポート視点】


「大規模支援、発令できます!」


 オペレーターの声に、私は思わず、モニターへと勢いよく身を乗り出した。あの緊急要請から、ようやく、あの回復ゲージが満タンに達していた。これまで、何度も画面の隅で確認しては、じれったい思いを重ねてきた、あのゲージだった。あの日、緊急要請が来た瞬間から、私たちは、休む間もなく、ずっとこの瞬間を待ち続けていた。


「よし、アイギスさんのギルドとの連携も込みで、全戦力強化支援を発令しろ!」


 ずっと待ち続けてきた、この瞬間だった。私は、確かで強い手応えと共に、その指示を出した。声にも、自然と、いつも以上の力がこもった。三つの離れた戦場、それぞれに同時に効果を及ぼせるこの支援だからこそ、今、まさに使うべき時だった。


「了解しました!」


 これまで、限られたリソースの中で、あちこちに頭を下げながら、なんとか苦労してやりくりしてきた成果が、ようやく実を結ぶ瞬間だった。この一瞬のために、これまでの苦労が、すべて報われたような気がした。


「三エリア、同時に効果が出ています! それぞれの戦況が、一気に好転しています!」


 画面に映る三つの戦況が、それぞれ、はっきりと確かに動き始めているのが見えた。


「よし……! ようやくか……!」


 思わず、安堵のため息が漏れる。長かったこの一連のミラーイベントも、ようやく終わりが見えてきていた。振り返れば、あっという間のようで、それでいて、実に長く濃密な一日だった。


「三体とも、無事に撃破完了とのことです」


 部下からの報告に、私は、大きく、そして深く頷いた。胸の奥に、確かな達成感が、じんわりと広がっていく。全戦力強化支援という、あの大きな賭けが、確かに実を結んだ瞬間だった。


「よくやった。全チーム、本当に、心の底からよくやってくれた」


 心からの労いの言葉が、自然と口から漏れる。それぞれの持ち場で、それぞれが、確かな結果を残してくれていた。この一連の騒動を、こうして無事に乗り越えられたことに、私は、心の底から安堵していた。アイギスさんのギルドが、他の戦線を支えてくれていなければ、この判断そのものが、下せなかったかもしれない。


「それにしても、皇帝牙さんの戦いぶりは、本当に見事でしたね」


 部下が、しみじみとそう零す。あの上空での孤独な死闘の記録映像を、部下も、既にしっかりと確認していたのだろう。


「あの人の戦い方は、本当に、他の誰とも一線を画している」


「そういえば、皇帝牙さんって、自分から皇帝を名乗るなんて、なかなかすごいですよね」


 部下が、ふと思い出したように、そう口にした。私は、しばらく少し考えてから、答える。


「ああ、それなんだが、前作の頃だったか、皇 帝牙って、確か苗字と名前の間に、はっきりとスペースが入っていたはずだ」


「え、それって……」


 部下が、興味津々といった様子で、思わず身を乗り出してくる。


「すめらぎ、たいがか、てぃがか、正確な読みまでは知らないが、あれは、普通に本名なんじゃないか」


「マジですか……全然知りませんでした」


 部下が、驚いたようにそう呟いた。私自身も、初めてその事実に気づいた時は、まったく同じように驚いたものだった。長年、あの二つ名として親しまれてきた響きが、まさか本名そのものだったとは、正直、想像もしていなかった。


「まあ、本人に直接確認したわけじゃないから、確証はないがな」


 そう言いながらも、私は、なんとなく、それが真実のような気がしていた。あの寡黙な佇まいと、飾らないその名前が、不思議と、実にしっくりと重なるような気がしたからだった。


「それにしても、今回のイベントは、本当に色々ありましたね」


 部下の言葉に、私は深く、そして静かに頷いた。


「敵運用チームの調整ミスから始まり、想定外の余波、そして三人それぞれの、確かな成長。振り返ってみれば、実に濃密な、そして忘れがたい一日だった」


 一つ一つの出来事を、丁寧に、一つずつ思い返しながら、私は、ゆっくりと頷いた。


 窓の外は、既に夕暮れをすっかり過ぎ、夜の帳が下りようとしていた。それでも、モニターに映る三人の姿は、確かで大きな充実感に満ちているように見えた。あの緊迫した表情はすっかりと消え去り、代わりに、確かな安堵と達成感が、その姿から溢れ出しているように感じられた。


「さて、今回のイベントの後処理も、まだまだ数多く残っている。気を抜かずに、最後まで頑張ろう」


「はい!」


 部下の元気な返事に、私は、思わず小さく微笑んだ。長く、そして忘れがたい一日だった。それでも、こうして無事に終えられたことに、確かな喜びを感じずにはいられなかった。三人それぞれが見せてくれた、確かな成長の軌跡。それを、この場所から静かに見守り続けられたこともまた、この仕事の何よりの喜びだった。

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