5.誰も選ばない黄色い潜水艦
機体展示エリアは、想像していたよりもずっと広かった。
格納庫全体を見渡せる高さまで天井があって、その空間いっぱいに、無数のフレームがずらりと並んでいる。壮観と言えば壮観だけど、右も左もわからない俺にとっては、ただただ圧倒されるだけの光景だった。
人気の高い骨格が並ぶ区画は、ひときわ明るく照らされ、案内表示や推奨タグのようなものがいくつも浮かんでいた。「初心者おすすめ」「PvP人気No.1」「近接特化」――そんな文字を横目に、俺は奥へ奥へと進んでいく。
「なんか、こっちのエリア人気機体ばっかりっぽいな……あれ、でも私が入った入口って、そもそもこっちで合ってたのかな?」
入口の案内板をもう一度確認しようかとも思ったが、戻るのも面倒だった。とりあえず今いる場所から探索を続けることにする。
自分がどこに向かってるのかも、正直よくわかってなかった。目についた方角へ、ただなんとなく足を進めてるだけだ。人気の機体の周りには、何人ものプレイヤーが群がって、ああでもないこうでもないと相談してる様子が見えた。俺にはとても入っていけそうにない空気だった。周囲を漂う会話の端々には「メタ」「ティア表」みたいな単語が飛び交っていて、耳にするだけで気後れする。
こういう「みんなが当たり前に知ってる共通言語」から取り残される感覚には、正直かなり慣れてる。学校でも、クラスの誰もが知ってる流行りの話題についていけなくて、愛想笑いだけでその場をやり過ごしたことが何度もあった。今もそれと似たような疎外感を覚えてるはずなのに、なぜか今回はそこまで苦しくない。たぶん、誰も俺のことを「話についてこれない奴」だと見てすらいないからだろう。ただ通り過ぎるだけの、名前も知らない一人のプレイヤー。それだけの気楽さが、こんなにも救いになるとは思わなかった。
【コメント】迷子で草
【コメント】人気機体エリアから外れてない?
【コメント】どこ行くんだよw
しばらく人気区画をうろついてみたものの、どの機体も名前や仕組みが専門的すぎて、俺にはさっぱり違いがわからなかった。「フレームレート補正」「関節可動域」「装甲厚換算値」――目に入る単語のほとんどが、初めて聞くものばかりだ。周りのプレイヤーたちの会話にも入っていけず、結局俺は、その賑やかな一角から静かに離れることにした。
(なんか、ここにいると自分だけ浮いてる気がする……)
誰に責められたわけでもないのに、そんな気後れが胸の内に広がる。学校の教室で感じてた、あの居心地の悪さに少しだけ似てた。無意識のうちに、俺は人の少ない方へ、少ない方へと足を向けてた。
やがて、明るかった通路の照明が、少しずつ落ち着いた色合いに変わっていく。周囲に並ぶ骨格の数も、目に見えて減っていった。すれ違うプレイヤーの数も、いつの間にかまばらになっている。
俺がたどり着いたのは、展示エリアの一番奥、他の区画とは明らかに雰囲気の違う一角だった。埃をかぶってるわけじゃないけど、どこか置き去りにされたような空気が漂ってる。案内表示らしきものも、ここにはほとんどなかった。壁際には「NEREID MARINE」ってロゴだけが、静かに掲げられてる。照明も心なしか薄暗く、他の区画の賑やかさが嘘のように、あたりはしんと静まり返ってた。
「……ここ、なんか静かだな」
辺りを見回しながら歩いてたそのとき、視界の隅に、ひときわ大きな影が映り込んだ。
思わず足を止める。
目の前に鎮座していたのは、鮮やかな黄色い装甲を纏った、丸みを帯びた巨大な骨格だった。他の骨格と比べても、明らかに一回り――いや、それ以上に大きい。まだ手足のパーツが装着されてない、いわば土台だけの状態でも、その存在感は圧倒的だった。近づいてみると、思ってた以上に丸みを帯びた輪郭で、どこか愛嬌のある佇まいをしてる。表面には薄っすらと埃が積もっていて、長い間、誰にも触れられてないことが一目でわかった。
「うわ……でっか。なんだこれ」
【コメント】でかすぎん?
【コメント】黄色の潜水艦みたいな見た目
【コメント】NEREID MARINEの機体だ、海洋戦用の
【コメント】人気ないやつじゃん、それ
コメント欄の指摘を見て、俺は首を傾げた。
「海洋戦用? え、このゲームって海のマップあるの?」
【コメント】海洋マップ、実装されてないよ
【コメント】まだINVADERの上陸拠点すらわかってないらしい
【コメント】チュートリアルで説明あったはずなんだけどな(白目)
【コメント】お前がスキップしたんだよなぁ
「あ……そっか。私、それも知らないんだった」
バツが悪そうに笑いながら、俺は目の前の骨格をまじまじと見上げた。近くの表示パネルには「潜水母艦型ベースフレーム」って文字が浮かんでる。試しに詳細を開いてみようとしたけど、専門用語らしき文字が並んでるのを見て、すぐに閉じてしまった。せめて一行くらいは読んどけばよかったかもしれない、と少しだけ後悔したけど、その後悔もすぐに好奇心にかき消される。
近くを通りかかった別のプレイヤーらしき人影が、俺の視線に気づいて声をかけてくる。
「あー、それ? やめといた方がいいよ」
「あ、こんにちは! やっぱりそうなんですか?」
「海洋マップないから潜水機能とか完全に死に性能だし、人型に組んでも足めちゃくちゃ遅いし。俺もβテストで一回組んでみたことあるけど、正直、微妙だったな」
「そうなんですね……」
「みんな一応組んではみるけど、大体すぐ他のに乗り換えるやつだよ。俺の知り合いも三人くらい触ってたけど、全員一週間持たなかったんじゃないかな」
「そうなんですね……。ちなみに、なんでみんなそんなに早く乗り換えちゃうんですか?」
「単純に見せ場がないからじゃない? 海洋マップないから活躍の場もないし、動きも遅いし。使ってて楽しいって感じにはなりにくいと思うよ」
その言葉に、俺は素直に頷いた。言われてることの半分くらいしか実感が湧かなかったけど、少なくとも「人気がない理由」はなんとなく理解できた。
【コメント】沈める海もないんだから、そりゃ不沈艦にもなるわなw
【コメント】草
【コメント】沈みようがないだけで不沈艦名乗るの逆に悲しい
コメント欄に流れてきたその一言に、俺はきょとんとした。
「不沈艦? ……あ、それ、沈める海がないから沈みようがないってだけの話ですか?」
「そうそう、それ! 前から言われてるんだよ、その機体。『沈める海がないんだから、そりゃ不沈艦だわ』って。要するに、ただの馬鹿にした呼び方」
目の前のプレイヤーが、苦笑しながら教えてくれた。なるほど、確かに言い得て妙というか、皮肉が効いている。沈まない理由が「頑丈だから」ではなく「そもそも沈む機会がないから」だという、身も蓋もない事実がそのままあだ名になっている。
「うわ、それ結構ひどい言われようですね……」
「まあ、それくらい誰も本気で使ってない機体ってことだよ。悪いこと言わないから、他のにしときな」
軽く肩を叩かれるようにそう言われて、俺は曖昧に頷いた。この時はまだ、その呼び名が自分に定着するとも、ましてやその意味がこの先まったく別のものに変わっていくとも、想像すらしていなかった。
「そうなんですね……教えてくれてありがとうございます!」
「いや別に、止めはしないけどさ。まあ、頑張って」
プレイヤーはそう言うと、興味を失ったように別の区画へと歩いて行ってしまった。その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐く。せっかく忠告してくれたのに、まともにお礼も言えなかった気がして、少しだけ申し訳ない気持ちになった。考えてみれば、ここまで誰かとまともに会話をしたのは、この人が初めてだった。ほんの数十秒のやり取りだったけど、見知らぬ誰かと言葉を交わせたことに、俺は少しだけほっとしてた。
現実だったら、こんなふうに見知らぬ人に自分から話しかけることなんて、絶対にできなかった。声をかける前に百通りの失敗パターンを想像して、結局何も言えずに終わる。それが俺のいつものパターンだ。なのに今は、変な機体の前で突っ立ってるだけで、向こうから話しかけてくれる。画面一枚隔てるだけで、こんなにも人付き合いのハードルが下がるなんて、自分でも不思議だった。
【コメント】親切な人いたね
【コメント】でも結局選ぶんでしょ、これ
【コメント】もう選ぶ流れ見えてる
プレイヤーが立ち去った後も、俺はしばらくその黄色い骨格を眺め続けてた。
性能がどうとか、人気がどうとか、正直よくわからない。忠告してくれた内容も、半分くらいしか理解できてなかった。けど――。
「なんか、かわいいんだよな、コレ」
丸っこいフォルムと、鮮やかな黄色。理由と呼べるほどの理由はない。ただ、なんとなく目が離せなかった。他の骨格を見て回る気力も、もうあまり残ってなかった。何より、こんなに大きくて存在感のある機体を、自分が動かしてるところを想像すると、単純に楽しそうだと思えた。
性能で選ぶなら、さっきの人気区画に戻るべきなんだろう。頭ではわかってる。でも、俺はいつだって「なんとなく」で物事を決めてきた人間だ。進路も、部活も、友達付き合いも、深く考えて選んだことなんてほとんどない。だったら、ゲームの中の機体選びくらい、好きなように決めてもいいじゃないか。
「よし、これにしよ! これをベースにする!」
【コメント】結局そこで決めるのかw
【コメント】性能無視で草
【コメント】黄色い潜水艦、採用決定?
深く考えることなく、俺は骨格に表示された「このフレームを選択」ってボタンに、迷いなく触れた。
```
NEREID MARINE製ベースフレーム
「潜水母艦型」を選択しました。
続けてパーツを装着してください。
```
次の瞬間、骨格の周囲に、装着可能なパーツの一覧がずらりと浮かび上がった。頭部、胴体、腕部、脚部――それぞれのカテゴリごとに、この骨格の可動域や接続規格に収まる範囲のパーツだけが、初期配布分として自動的に絞り込まれて表示されてる。項目数はそれなりに多く、同じ「腕部」ってカテゴリの中にも、細身のものから武骨なものまで様々な形が並んでた。
一覧の隅に、「スキル」というタブもあることに気づいた。触ってみると、キャラクリエイト時に自動で割り振られたらしい特殊技能が、一覧としてずらりと並んでいる。「シャドーダイビング」だとか、何やら難しそうな名前と説明文が続いていて、俺はさっと目を滑らせただけで画面を閉じてしまった。何が書いてあったのかは、正直まったく覚えていない。
「あ、これ組み合わせられるんだ。じゃあ、見た目で選んでいこ!」
俺は迷わず、直感だけを頼りにパーツを選び始めた。
胴体は、いくつかの候補を順番に試着させてみた。細身で角ばったもの、装甲が薄く軽そうなもの、逆にゴツゴツと武骨なもの。ひとつひとつ切り替えるたびに、視界の中で全体のシルエットが変わっていくのが面白くて、俺はしばらくその作業に夢中になった。最終的に選んだのは、一番丸みのある胴体だった。「なんか、ずんぐりしてて愛嬌あるな」ってのが理由だった。
脚部も同じように何種類か試す。細長くスマートなものは、見た目はかっこよかったけど、なんとなく頼りない印象を受けた。逆に、太くてがっしりした造形のものを装着してみると、途端に安定感のある佇まいになる。
「これなら安定感ありそう」
これまた見た目だけの判断で、俺は太い脚部を選んだ。
腕部を選ぶ段になって、手が止まった。候補の中に、ひときわ大きく、無骨な造形のパーツがあった。拳の形をしていながら、肘の後ろに何か杭のような機構が畳まれてる。他の腕部パーツと比べても、明らかに大きく、重量感のある見た目をしてた。詳しい説明文が付いてたけど、俺はそれを読むこともなく、見た目の迫力だけで即決した。
「これ、めちゃくちゃ強そうじゃん! これにする!」
直感だけで即決した瞬間、視界の端でコメント欄がざわついたのが見えた。
【コメント】説明文読んでなくて草
【コメント】なんか物騒な見た目のパーツ選んだな
【コメント】そのパーツ、地味に武器一体型のやつじゃない?
【コメント】読まずに選ぶスタイル一貫してる
「え、そんな怪しいパーツだった!? まあでも、かっこいいからいいか!」
深く気にした様子もなく、俺は次の項目に進んでしまう。コメント欄がどれだけ心配してくれても、説明文を読み直すって選択肢だけは、俺の中に存在しないらしい。
頭部は、最後になんとなく丸みのあるものを選んで、全身のバランスを整えた。他の頭部候補と比べて選ぶ理由らしい理由はなかったけど、「顔っぽく見えるところがいい」って、これまた感覚だけの判断だった。
できあがった全体像を、俺は満足げに眺める。丸みを帯びたずんぐりとした胴体、太くたくましい脚、そして武器と一体化したような無骨な巨腕。パーツごとの統一感は正直あまりないけど、そのちぐはぐさが逆に愛嬌になってる、そんな仕上がりだった。
「うん、なんかいい感じ! これで決定!」
できあがった機体を眺めながら、俺はふと思う。性能表もろくに見ず、視聴者の心配もそこそこに聞き流して、全部「見た目が好きだから」で決めた構成だ。効率とか、勝率とか、そういう物差しで見たら、たぶん褒められたものじゃない。でも、これでいいと思った。何かを選ぶとき、いつも「正解」を探して身動きが取れなくなるくらいなら、直感で選んで、あとから好きになっていく方が、俺には向いてる。
```
機体編成が完了しました。
機体名を設定してください。
```
入力欄が表示される。俺は少し考えて、そのまま口にした。
「黄色い潜水艦だし……『イエローサブマリン』でいいか」
特にひねりのない名前だったが、口に出してみると、意外としっくりくる響きだった。何度か「イエローサブマリン、イエローサブマリン」と呟いてみて、俺は満足そうに頷いた。他の候補も一応頭をよぎったけど、結局最初に浮かんだ名前を超えるものは出てこなかった。
```
機体名「イエローサブマリン」に設定しました。
この機体は整備拠点でのみ召喚可能です。
```
【コメント】ネーミングセンスw
【コメント】そのまますぎる
【コメント】でも似合ってる気がする
【コメント】愛着湧いてきた
最後の一文に、俺は軽く首を傾げた。
「え、整備拠点でしか呼べないんだ? じゃあ今から呼んでみよ!」
パネルに表示された「召喚」のボタンに触れると、目の前の骨格が淡く発光し、周囲に組み付けたパーツが次々と吸い込まれるように合体していく。轟音と共に、丸くて大きな、どこか間の抜けたシルエットの巨大フレームが、格納庫の一角にその全身を現した。
「よーし、決まった! これで出撃してみます!」
得意げにそう言って、俺は胸を張った。視界の端に表示された全身像を、もう一度満足げに眺める。丸くて、大きくて、どこか間の抜けたその見た目が、不思議と自分に合ってる気がした。
視聴者数はいつの間にか四十人近くまで増えてた。誰ひとりとして、この選択が正しいとは思ってないだろう。それでも、俺自身は満足してた。性能や勝率よりも、まずは「かわいい」「かっこいい」って気持ちを優先する。それが、俺なりのゲームの楽しみ方だった。
得意げにそう言ったものの、俺はまだ気づいていない。
この機体をどうやって動かせばいいのか――その基本操作すら、自分がまだ何ひとつ知らないってことに。この後、その事実を思い知らされることになるとは、まだ想像もしていなかった。
【ARES Entertainment公式チャンネル「ZERO-DAY DEVELOPER'S VOICE」 定期配信アーカイブより】
軽快なオープニングBGMと共に、見慣れたロゴが画面に浮かぶ。ARES Entertainmentが週に一度配信している、開発者向けの公式トーク番組だ。プレイヤーからの質問に答えたり、新規コンテンツの裏話を語ったりする内容で、コアなファンの間ではそれなりに人気がある。
「はい、ということで今週のZERO-DAY DEVELOPER'S VOICE、始まっていきます! 本日のゲストは、先日実装された新規大型INVADER、通称『鋼殻種』のデザインを担当されたお二人です」
番組の視聴者数は、いつも数千人程度。決して爆発的な人気番組ではないが、ゲームの裏側を知りたい熱心なファンには根強く支持されている。コメント欄には「待ってました」「今日はどんな裏話が聞けるかな」といった書き込みがぽつぽつと流れていた。
司会の掛け声に合わせて、二人のスタッフがカメラに向かって軽く会釈する。
「よろしくお願いします。敵デザインチームの者です」
「よろしくお願いします。ちなみに僕らのチームは、実はプレイヤーサポート班とはオフィスのフロアが別なんですよ。あちらは三階、僕らは五階です」
「そうなんです。意外と社内でもフロアが分かれてる部署って多くて。敵側の情報がプレイヤーサポートに漏れないように、というのもあるんですが、単純に元々の組織図がそうなってるだけだったりします」
「まあ、たまにエレベーターで一緒になって、世間話ついでに軽く小言を言い合うくらいの交流はありますけどね」
「小言て」
「いや、この前も『今回のあれ、ちょっと硬すぎません?』って苦情もらいましたし」
「それ僕らも同じこと思ってました」
スタジオに笑いが起きる。二人はどうやら、割と気心の知れた間柄らしい。
二人は笑いながら顔を見合わせた。司会が話を本題に戻す。
「では早速、今回の『鋼殻種』のデザインについて伺いたいんですが、特にこだわったポイントはどのあたりですか?」
「そうですね、今回は装甲の厚みにかなりこだわりました。見た目だけでも『これは正面から殴っても無駄だぞ』って伝わるような、重厚感のあるシルエットを目指しています」
「見た目だけじゃなく、実際の耐久数値もそれに見合った形に調整してあります。正直、通常のプレイヤー火力だけだと少し厳しいバランスになってるかもしれません」
「そのあたりは、今回新しく実装した戦術支援イベントでカバーする想定です。同時弾着射撃支援とか、ああいうチームプレイ前提の攻略ルートを、今後もっと増やしていきたいなと」
司会が頷きながら合いの手を入れる。
「なるほど、ちゃんと連携すれば突破できる、っていう設計なんですね」
「そうですね。……まあ、正直に言うと、単純な火力調整だけだと結構ギリギリのラインを攻めてる部分もあって、そこをイベント側の演出でうまく吸収してもらってる、という側面も、なくはないです」
「あ、それ言っちゃいます?」
スタジオに小さな笑いが起きる。司会が慌てて話題を変えた。
「え、えっと、そのあたりの裏話はまたの機会に……! 続いてはリスナーの皆様からの質問コーナーです」
画面に、視聴者から寄せられた質問がいくつか表示される。司会がその中のひとつを読み上げた。
「えー、『NEREID MARINE系の機体、いつになったら日の目を見ますか?』というご質問です」
その瞬間、敵デザインチームの二人が、揃って微妙な表情を浮かべた。
「あー、それは僕らの管轄じゃないので、なんとも……」
「海洋マップの実装状況次第、としか言えないですね。個人的には、あの潜水艦型のフレーム、デザインとしては結構好きなんですけど」
「わかります。ロマンありますよね、ああいう大型機体」
司会が場を和ませるように続ける。
「そういえば最近、社内で話題になってる新規配信者さんがいるらしいですね。その、まさにNEREID MARINE系の機体を使ってる方だとか」
「あ、その話、僕らのフロアにも回ってきてますよ。防衛戦のクリップ、結構バズってるらしくて」
「へえ、そうなんですか。今度、社内共有のログ見てみようかな」
軽い雑談を挟みつつ、番組はその後も淡々と進んでいった。プレイヤーからの質問には丁寧に答えつつも、核心的な内部事情には決して深入りしない――そのバランス感覚もまた、この番組が長く続いている理由のひとつなのかもしれなかった。
配信はその後も和やかに続いていった。この放送を見ていた視聴者の中には、後にとある新人配信者の防衛戦クリップを見て、「ああ、この前の配信で言ってたやつだ」と思い出す者も、少なからずいた。




