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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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4/21

4.説明ゼロの世界

 周囲を見渡しても、案内らしきものは何ひとつ見当たらなかった。


 地面は乾いた土と瓦礫に覆われ、遠くの空には黒煙が立ち上っている。時折、地響きのような重い音が届き、そのたびに地面がわずかに震えた。空気の匂いまで再現されてるのか、焦げたような、金属質の匂いがかすかに鼻をかすめる。太陽の位置からすると昼間のはずなのに、立ち込める煙のせいで、空全体がどこか薄暗く見えた。


 自分の姿を見下ろしてみる。装甲も、武器も、何も纏っていない。ただの人間の姿のままだ。ストリート系の私服にスニーカー。せめて戦闘用の何かを一枚くらい羽織らせてくれてもいいのに、と誰にともなく文句を言いたくなった。


 考えてみれば、キャラクリで作ったのはあくまで見た目だけのアバターだ。戦うための機体にも、装備にも、まだ一切触れていない。「フレーム」って呼ばれてるものに乗って戦うのがこのゲームの基本らしいけど、じゃあそのフレームはどこで手に入るのか、俺は何ひとつ知らなかった。スキップされたチュートリアルの中に、きっとその説明も含まれてたんだろう。今さら悔やんでも遅い。


「え、これ……なんか、結構やばい状況じゃない? っていうか私、素の状態?」


 思わず声が漏れた。周囲を包む轟音と振動、絶え間なく響く警報のような音が、ただならぬ雰囲気を伝えてくる。ここが「ゲームの中」だと頭ではわかってるのに、身体の感覚が「これは本当にやばい場所だ」って警鐘を鳴らしてくる。フルダイブって、こういう緊張感まで律儀に再現するものなのか。開発者を褒めていいのか恨んでいいのか、正直判断がつかなかった。せめて、こういう緊張感を再現する前に、操作説明くらい終わらせておいてほしかった。


 俺は辺りをきょろきょろと見回しながら、独り言みたいに呟いた。カメラアングル越しにも、この不安げな挙動は視聴者にしっかり伝わってるだろう。


【コメント】これもう完全に戦場だよね

【コメント】丸腰で草

【コメント】え、これで大丈夫?

【コメント】運営、初心者放り出しすぎでは

【コメント】自業自得なんだよなぁ


「みんなも心配してくれてるけど、たぶん、大丈夫……なはず……」


 語尾が弱々しく消えていく。自信のかけらもない声だった。実際、根拠なんてどこにもない。ただ、不安な顔をそのまま配信するのも気が引けて、精一杯の虚勢を張ってるだけだ。


 こういう強がりだけは、昔から得意だった。学校でも、本当は泣きそうなときほど、わざと明るく振る舞ってた気がする。誰かに心配されるのが、本音を見透かされるのが、たぶん一番怖かったんだと思う。


 そのとき、少し離れた場所で、ひときわ大きな爆発音が響いた。地面が揺れ、砂埃が視界を覆う。俺は反射的にその場にしゃがみこんだ。


「ひゃあ!?」


 思わず両手で頭を庇うような格好になる。現実の身体はもちろん自室の椅子に座ったままなんだけど、感覚だけはしっかり連動してて、本能的な防御反応が出てしまうらしい。


【コメント】咄嗟の反応かわいい

【コメント】マジで危なくない?

【コメント】早くその場離れた方がいいて


 しばらく身を縮めてたけど、どうやら直接被害を受けたわけじゃないらしい。砂埃が晴れると、遠くでプレイヤーらしき機体が何かと交戦してる様子が見えた。誰も、俺の方には見向きもしない。当然だ。それぞれが自分の戦いで手一杯なんだから。


 こんなに大勢の人がいるのに、誰も自分を気にかけてくれない状況には、不思議と既視感があった。教室にいるときも、似たような感覚をよく味わっていた気がする。それでも今は、あの頃ほど心細さを感じなかった。理由はよくわからない。


「あの、すみませーん、ちょっと聞きたいんですけどー!」


 試しに、近くを飛び去っていく別プレイヤーの機体に向けて声を張ってみたけど、返事はなかった。声援程度の距離ではボイスチャットも届かないのか、それとも単純に無視されたのか、判断のしようがない。


 もう一体、少し離れた場所を移動していく機体にも手を振ってみる。相手は一瞬こちらを見た――ような気がしたけど、そのまま速度も緩めずに走り去っていった。


「うわ、完全にスルーされた……」


 少し前まで、視聴者の温かいコメントに励まされてたのに、ゲーム内のプレイヤーたちの塩対応との落差が地味にこたえる。まあ、命がかかった戦場で見知らぬ新人に構ってる余裕なんてないのは、頭ではわかってる。わかってるけど、へこむものはへこむ。


 もう一度、別のプレイヤーにも声をかけてみたけど、結果は同じだった。誰もが自分の戦闘に必死で、見知らぬ新規プレイヤーに構ってる余裕なんてないんだろう。当たり前と言えば当たり前だけど、少しだけ心細さが募る。


「みんな冷たいなー……まあ、しょうがないか」


 ぼやきながらも、俺はひとまず自力でなんとかするしかないと腹を括った。ここで立ち止まっていても、何も変わらない。


 諦めかけたところで、簡素な制服らしきものを着たNPCらしき人影が、少し離れた場所に佇んでるのが目に入った。案内係みたいな雰囲気がある。俺は藁にもすがる思いで駆け寄った。


「あの、すみません! ちょっと状況がよくわかってなくて……」


「ようこそ、傭兵殿。ご武運を」


 NPCはにこやかにそう言うと、決まりきった台詞を一度だけ告げて、あとは何も答えてくれなかった。何度話しかけても、返ってくるのは同じ一言だけだ。


「……役に立たない」


【コメント】NPCで草

【コメント】定型文しか喋らないやつだ

【コメント】無情すぎる


 思えば、俺はこういう「決まりきったやり取りしか返ってこない相手」に、妙な安心感を覚えるタイプだった。現実の人間関係みたいに、言葉の裏を読んだり、機嫌を伺ったりする必要がない。何を言っても同じ答えが返ってくるなら、それはそれで気楽だ。教室で誰かに話しかけるより、よっぽど心のハードルが低い。


 もっとも、今欲しいのは安心感じゃなくて、具体的な情報だった。安心してる場合じゃない。この場に突っ立ったまま、いつまでも同じやり取りを繰り返してるわけにもいかない。俺は気を取り直して、周囲をもう一度見渡した。


 念のため、NPCの周囲にある案内表示のようなものにも触れてみたけど、表示されるのは施設の場所を示す簡素なマップだけだった。文字は小さく、細かい地名までは読み取れない。それでも、少なくとも自分が今どのあたりにいるのか、なんとなくの見当はついた。


 肩を落としかけたそのとき、俺は自分の足元にうっすらと光る線が伸びてることに気づいた。


「あれ、これ……なんだろ?」


 目を凝らすと、それは地面に沿って淡く発光する、細い誘導ラインだった。視界の端には、小さな矢印のアイコンも表示されている。試しにその方向へ数歩進んでみると、ラインもアイコンも、それに合わせてすっと先へ伸びていった。


【コメント】それガイドじゃない?

【コメント】道しるべっぽいな

【コメント】チュートリアルすっ飛ばしてても表示されるやつなんだ


「あ、これ道案内的なやつなんだ! 助かったー!」


 思わず声が弾んだ。誰が用意してくれたのかはわからないけど、とにかく縋れるものが見つかった。人生でも、こういう「とりあえず縋れるもの」に出会えることは、あんまり多くなかった気がする。学校を辞めてからの一年、俺には道しるべなんて何もなかった。毎日、何をすればいいのかもわからないまま、ただ時間だけが過ぎていった。それに比べたら、たとえゲームの中だけでも、目の前に一本の光る線が伸びてるってだけで、ずいぶん恵まれてるように思えた。


 俺は光る線をたどって、瓦礫だらけの地面を歩き始めた。


 試しに前に進もうと足を踏み出してみる。ゲーム内の視点がそれに合わせてゆっくりと前進した。歩けることは歩けるらしい。それだけは確認できた。


「よし、歩ける。歩けるだけでも、まあ、なんとかなる……のかな?」


 視聴者からは「歩けるだけでポジティブすぎる」ってツッコミが飛んできたけど、俺にとっては、この状況で「できること」がひとつでも見つかっただけで、十分な収穫だった。何もできない、何もわからないっていう状態が、俺にとっては一番怖い。逆に言えば、ひとつでも「できること」が見つかれば、それだけで少し息がしやすくなる。


 途中、崩れかけた建造物の残骸が行く手を阻んでた。回り道をしようか迷ったけど、よく見ると隙間から向こう側が見えたので、俺は強引に瓦礫をよじ登ることにした。


「うわ、これ結構キツいな……」


 視点がぐらぐらと揺れる。ゲーム内の身体感覚に、まだ慣れてないせいもあるんだろう。フルダイブって、視界も感覚も現実そっくりに再現される割に、こういう不慣れな動作をすると途端にぎこちなさが出る。まるで、久しぶりに運動した時の筋肉痛みたいなもどかしさだった。何度か体勢を崩しかけながらも、なんとか瓦礫の向こう側へと降り立った。


【コメント】地味に苦戦してて草

【コメント】その動き見てるだけで疲れる

【コメント】頑張れー


 しばらく進むと、遠くに巨大な人影のようなものが見えた。目を凝らすと、それは人間じゃなく、金属質の巨大な機体だった。全高は優に十数メートルはありそうで、鈍い光を反射する装甲が、俺の目にも異様な迫力で映る。


「うわ、でっか……」


 装甲の継ぎ目からは蒸気のようなものが漏れ、動くたびに重々しい駆動音が響いてくる。人が作った機械のはずなのに、まるで生き物みたいな存在感があった。俺はしばらくの間、言葉も忘れてその機体に見入ってた。あんなものに、いつか自分も乗ることになるんだろうか。想像すると、恐怖より先に、単純な好奇心の方が勝った。昔からそうだ。怖いものほど、目が離せなくなる。


 その機体は、俺から少し離れた場所で、何か禍々しい形をした敵らしき存在と戦ってた。轟音と共に閃光が走り、地面が大きく揺れる。ぶつかり合う金属音が、腹の底まで響いてくるようだった。


【コメント】INVADERってやつじゃない?

【コメント】敵じゃんそれ

【コメント】離れた方がいいのでは


「わ、わかりました。近づかないようにします……」


 素直に頷きながらも、俺の足は自然と後ずさりしてた。得体の知れないものへの恐怖心だけは、こういう時ちゃんと働くらしい。


 あの禍々しいシルエットを見てると、なんとなく既視感があった。理由もわからないまま、大きくて訳のわからないものに押し潰されそうになる感覚――教室でクラス全員の視線を浴びたときの、あの感覚と少し似てる。もっとも、あっちは物理的に殴りかかってくることはなかったから、まだこっちの方がわかりやすい脅威と言えるかもしれない。


 幸い、ガイドの光る線は、その戦闘の起きてる方角とは違う方向へ伸びてた。


「よかった、こっちの道、あっちには向かってないっぽい」


 ほっと胸を撫で下ろしながら、俺は光る線をたどる歩みを再開する。


 視界の隅で、時間だけがどんどん過ぎていく。遠くの戦闘音が、少しずつ近づいてるような気もする。心なしか、地面の揺れも先ほどより頻繁になってる気がした。


「あ、やば、なんか近づいてきてる? ……よし、まあいっか! とにかくこの道についてけば、なんとかなるっしょ!」


 根拠のない明るさだけを武器に、俺は光る線をひたすら追い続けた。丘を越え、瓦礫の谷を抜け、しばらく歩いたところで、前方に巨大な建造物のシルエットが見えてくる。周囲には他のプレイヤーらしき人影もちらほらと歩いていて、皆一様に、その建物を目指してるようだった。


 歩きながら、俺はふと考える。このガイドは、いったい誰のために用意されてるんだろう。チュートリアルを飛ばした間抜けな新人のためだけに、こんな親切設計があるとは思えない。もしかしたら、これはもっと普遍的な、初期スポーン地点から拠点までの標準的な導線なのかもしれない。だとしたら、俺はただ、他の誰もが最初に見ているはずのものを、今さら新鮮な気持ちで見ているだけなのかもしれなかった。


「あ、なんか大きい建物見えてきた! みんなもあそこ目指してるっぽい?」


【コメント】やっと何か見えてきたね

【コメント】あれが目的地なのかな

【コメント】頑張った甲斐があったね


 視聴者数はいつの間にか三十人近くまで増えてた。誰も彼もが、俺の次の一手を見守ってる。プレッシャーを感じないと言えば嘘になるけど、それ以上に、なんだか少し楽しくなってきてる自分にも気づいてた。知らない世界を、手探りで歩いていく感覚は、悪いもんじゃない。数字が増えるたびに、責任みたいなものを感じつつも、それが不思議と嫌じゃなかった。


 考えてみれば、俺はずっと「わからないこと」から逃げてきた人間だった。授業でわからないところがあっても、質問なんてできなかった。友達の輪に入れなかったのも、たぶん「どう話しかければいいかわからない」って不安が先に立ってたからだ。わからないことは、いつも俺を立ち止まらせる理由だった。


 なのに今は、わからないことだらけの世界を、平然と歩き続けてる。理由は単純だ。ここには、わからないことを笑う人がいない。コメント欄の誰も、俺の無知を馬鹿にしない。むしろ、一緒になって「これなんだろうね」って考えてくれる。それだけで、わからないことが、怖くなくなった。


 振り返ってみれば、学校っていう慣れた場所ですら、あれほど息苦しく感じてたのに、今こうして見知らぬゲームの世界を歩き回ってることに、不思議と抵抗はなかった。誰も俺の過去を知らない、まっさらな場所だからこそ、なのかもしれない。


 現実の俺を知ってる人間は、誰もここにいない。上比留楓が高校を中退したことも、教室で固まって動けなくなったことも、この世界の誰も知らない。ここでの俺は、ただ「るか」という、少し抜けてるけど憎めない新人プレイヤーでしかなかった。その身軽さが、今の俺にはちょうどよかった。


 その建造物の入口らしき場所には、大きく「MAINTENANCE BASE」って文字が掲げられてた。近づいてみると、入口付近には他のプレイヤーたちも次々と吸い込まれるように入っていくのが見えた。誰もが慣れた足取りで、迷う様子もない。


「メンテナンス……えっと、整備? 拠点? なんか、それっぽい響き!」


 建物の外壁には、大小さまざまな機体が整備を受けているらしい様子も見えた。火花を散らしながら装甲を溶接しているNPCの整備士、パーツを台車で運んでいくプレイヤー――ここまで歩いてきた荒れ果てた戦場とは対照的に、どこか活気のある光景だった。


 その先で、俺はまだ知らない。誰にも選ばれず、ずっとそこに放置され続けてる一体の骨格と、これから出会うことになるとは。





【ARES Entertainment カスタマーサポート部】


「あの、ちょっといいですか。問い合わせの内容、ちょっと変わってて」


 新人サポートスタッフが、隣の席のベテランに声をかけた。手元のモニターには、届いたばかりの問い合わせチケットが表示されている。


「なんだ?」


「これなんですけど。『配信を見ていたら、配信者が誤操作でチュートリアルをスキップしてしまったようです。この場合、後からチュートリアルをやり直す方法はありますか? 本人は特に気にしていないようですが、視聴者としてちょっと心配になったので』……だそうです」


「配信者本人からじゃなくて、視聴者からの問い合わせか。珍しいな」


 ベテランは画面を覗き込みながら、少し驚いたように呟いた。


「ええ。しかもかなり具体的に状況が書かれてて、対象のユーザーIDも添えられてます。『RUKA-0417』」


「へえ、律儀な視聴者もいるもんだな。……で、実際どうなんだ、この人の状況は」


 新人スタッフが該当のプレイログを検索する。しばらくして、モニターに表示された数値を見て、二人とも同時に眉を上げた。


「あ、本当だ。チュートリアル所要時間、0.4秒って出てます」


「……は? 0.4秒?」


 ベテランがモニターを覗き込む。数値は確かにそう表示されていた。チュートリアルの平均所要時間はおよそ十二分。0.4秒という数字は、明らかに異常値だった。


「これ、バグですかね」


「いや……たぶん、スキップだ。ボタンの位置的に、誤操作でスキップに触れたパターンだろうな。たまにあるんだよ、こういうの」


「そうなんですか。でも、これって放置していいものなんですか? チュートリアル一切見てないまま、戦場に転送されてますよ、この人」


「うーん……」


 ベテランは腕を組んで、少し考え込んだ。


「システム的には『受講済み』扱いだから、こっちからは何もできない。というか、そもそも」


「そもそも?」


「チュートリアルをやり直せる導線、ウチには存在しないんだよ」


「え、じゃあこの人、詰みってことですか?」


「詰みっていうか……まあ、詰みだな。うん」


 あっさりと言い切られて、新人スタッフは絶句した。


「なんでそんな重要な機能、実装されてないんですか……」


「重要度の見積もりが低かったんだよ、単純に。開発の優先順位的に、『誤操作でスキップを押してしまうユーザー』の想定発生率が、社内テストの段階でほぼゼロだったらしくてな。確認ダイアログをつけるかどうかの議論も一応あったらしいんだが、リリース直前でスケジュールがカツカツで、優先度の低い項目から落とされたって話を聞いたことがある」


「うわ……」


「まあ、ゲーム開発なんてそんなもんだよ。どんなに丁寧に作っても、想定してなかった動きをする奴が必ず出てくる。特に、こういう " 何も読まずにとりあえず触ってみる " タイプのユーザーの動きは、テストプレイヤーにはあんまりいないパターンだったりするからな」


 新人スタッフは、もう一度モニターに表示された「RUKA-0417」というIDを見つめた。


「この人、この後どうなるんでしょうね」


「さあな。まあ、大抵はすぐにログアウトするか、詳しい人に聞くかして、なんとかするもんだよ」


 ベテランはそう言いながら、コーヒーの入った紙コップに口をつけた。長年この部署にいると、こういう小さな異常値には慣れっこになる。ユーザーの数だけ、想定外の行動パターンがあるものだ。


「ちなみに、この手の異常値って、他にもよくあるんですか?」


「そりゃあるさ。武器を全部売り払って丸腰で突っ込んでいくやつとか、なぜかチュートリアルエリアから一歩も動かずに一日中喋ってるだけの配信者とか。人間、想像以上に自由に遊ぶもんだよ」


「なるほど……勉強になります」


 新人スタッフは素直に頷きながら、手元のログを次のページへとスクロールした。似たような異常値の報告は、この後もいくつか続いていく。その中に紛れて、「RUKA-0417」の名前は、この日はそれ以上目立つことなく、静かに埋もれていった。


 ベテランはそう言うと、興味を失ったように次のログへと視線を移した。「RUKA-0417」というIDが、この後どれほど頻繁にこの部署の話題に上ることになるか――このときの二人は、まだ何も知らない。

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