28.そういえばスキルって何?
朝、いつも通り目を覚まし、階下に降りる。母さんはキッチンで洗い物をしていた。
「おはよう、楓」
「おはよう」
あっさりとした挨拶を交わしながら、朝食を済ませる。窓の外は、よく晴れた青空だった。特に代わり映えのしない、いつも通りの朝のはずだった。それが今日という日を境に、ちょっとした発見の日になるとは、この時の俺はまだ想像もしていなかった。
朝食を済ませ、自室に戻る。ヘッドセットを手に取りながら、俺は小さく伸びをした。
配信を開始すると、コメント欄に、これまでとは少し違う種類の質問が流れてきた。
【コメント】でもスキルの詳細って、そもそも聞いていいものなの?
最後のコメントに、俺は少し首をかしげた。
「あ、それ、確かに気になりますね。スキルの話って、なんか勝手に聞いちゃいけない雰囲気ありますよね」
【コメント】たしかプレイヤーごとのスキルって個人情報扱いだったはず
【コメント】他人のスキル詮索するの、マナー違反って聞いたことある
【コメント】でも本人がいいって言えば別なんじゃない?
このやり取りを見ながら、俺は改めて、これまで自分がどれだけこの話題を素通りしてきたか、実感させられた。考えてみれば、これだけ長く配信を続けてきて、一度もスキルについて深く話したことがない。
そのコメントに、俺は少し考えてから答えた。
「うーん、私自身は別に、詮索されて困るようなことも特にないと思うので……スキルも含めて、みなさん自由に考察してもらって大丈夫ですよ!」
軽い気持ちでそう言った瞬間、コメント欄がにわかに沸き立った。
【コメント】お、公式に許可出た
【コメント】これは考察勢歓喜だな
【コメント】るかのスキルって結局何なんだろうな
賑やかな反応を眺めながら、俺はふと、素朴な疑問を口にした。
「そういえば、私のスキルって、何なんでしょうね」
軽い調子で発した何気ない一言だった。それなのに、コメント欄が一瞬、しんと静まり返った。
【コメント】は?
【コメント】え、まさか把握してないの?
【コメント】いや流石に自分のスキルくらい知ってるでしょ
「あ、いや……その、確認したことがなくて。多分、キャラクリの時に何か割り振られたはずなんですけど」
しどろもどろになりながら、俺は慌ててメニュー画面を開いた。ステータス、装備、そして――「スキル」というタブ。触れてみると、一覧が表示された。
画面には、想像していたよりもずっとシンプルな表示が並んでいた。攻撃系、防御系、機動系……いくつかの大分類の下に、それぞれ項目が並んでいる。俺はその中から、自分に割り振られているらしい項目を、恐る恐る探していった。画面を操作する手が、思わず震えた。長年放置してきた領域に、今更足を踏み入れる緊張感があった。
そこに並んでいたのは、聞き覚えのない専門用語の羅列だった。目を凝らして読み進めていくと、ようやく一つの名前が目に留まった。
```
シャドーダイビング
特殊スキル/パッシブ
```
「あ……あった」
自分の口から漏れた声が、なんだか他人事のように聞こえた。今の今まで、自分にこんな名前のスキルがあることすら、まったく意識したことがなかった。画面をもう一度見返してみても、やはり実感は湧いてこない。まるで、他人のステータス画面を覗き見ているような、そんな奇妙な感覚だった。
【コメント】ファッ!?
【コメント】今まで気づいてなかったの!?
【コメント】てっきり隠してるんだとばかり思ってたのに、まさか本当に知らなかったとは思わなかったwww
最後のコメントに、俺は思わず苦笑した。
「いや、本当にすみません! 隠すも何も、存在自体を忘れてたので……」
【コメント】これもう伝説だろ
【コメント】隠す気すらなかったの草
【コメント】考察勢が必死に議論してた裏で、本人は完全ノーマークだったという
賑やかなコメントの波に、俺はどう反応していいかわからず、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。これまで何日も、何週間も、視聴者たちが真剣に議論を重ねてきたはずの話題を、当の本人がまったく気にも留めていなかった。この温度差を目の当たりにして、コメント欄はさらに勢いを増していく。
【コメント】これがるかクオリティだよな
【コメント】逆に清々しいまである
【コメント】考察勢、報われないの草
改めて画面を見つめながら、俺は自分のこれまでの適当さに、今更ながら呆れてしまった。装備も、機体も、そしてこのスキルも。すべて「なんとなく」で選び、「なんとなく」で放置してきた。それでも、なぜかそのいい加減さが、これまでの自分をここまで運んできてくれた。皮肉なものだと思う。
「せっかくなので、名前くらいはちゃんとお伝えしますね。ええと……」
俺はその名前を、そのまま声に出して読み上げようとした。
――しかし、次の瞬間、コメント欄に戸惑いの声が広がった。
【コメント】あれ、今なんて言った?
【コメント】一瞬声途切れてなかった?
【コメント】え、普通に喋ってたと思ったけど、何も聞こえなかったんだが
「え……?」
困惑しながら、俺はもう一度、同じ名前を読み上げてみた。それでも、コメント欄の反応は変わらなかった。
【コメント】やっぱり聞こえない
【コメント】音声だけプツッと切れてる感じ
【コメント】配信事故かな?
「あれ、聞こえてないですか? じゃあ、文字で打ってみますね」
試しに、コメント欄に自分でも書き込んでみる。それでも、画面に表示された文字は、なぜか意味を持たない記号の羅列に変わっていた。
【コメント】文字も謎の記号になってるw
【コメント】これもしかして
【コメント】あ、それスキル名の自動マスク機能じゃない? 前にどこかで聞いたことある
視聴者の一人が挙げたその指摘に、俺は思わず声を上げた。
「え、そんな機能あるんですか!?」
【コメント】スキルの名前と効果、本人が公開しようとしても、システム側で自動的に伏せられるらしいよ
【コメント】個人情報保護の一環だとか
【コメント】声も文字も画面も、どんな手段でも伝わらないようになってるって話、聞いたことある
思いがけない説明に、俺はしばらく呆然としていた。
「じゃあ……私、今このスキルの名前、自分では見えてるのに、誰にも伝えられないってことですか?」
【コメント】そういうことになるね
【コメント】せっかく許可出したのに、結局謎のままなの草
【コメント】これはこれで新しいオチだな
「なんか、知らなかったことに気づいた直後に、今度は伝えられないという壁にぶつかるとは思いませんでした……」
自分で言いながら、俺は思わず笑ってしまった。無自覚から一転、今度は「知っているのに共有できない」という、また新しい形の空回りに突入している。
【コメント】これもう伝説だろ
【コメント】知らなかった上に、知っても言えないの二段オチ
【コメント】考察勢、永遠に答え合わせできないの草
「あの、一応効果の説明文みたいなのも書いてあるので、読んでみますね」
俺はもう一度、今度は効果の説明文を声に出して読み上げようとした。それでも、結果は同じだった。声はやはり届かず、コメント欄には困惑の声だけが並んでいく。
【コメント】また声途切れてる
【コメント】効果の方も伝わらない仕様なんだな、これ
【コメント】徹底してるw
「これも駄目みたいです……なんか、名前も効果も、本当に一切伝えられない仕組みになってるっぽいですね」
【コメント】じゃあもう、るかの言葉で説明してもらうしかなくない?
【コメント】正確な文章じゃなければ通るかもしれないし
【コメント】自分の言葉で言い換えてみて!
「あ、それなら……簡単に言うと、隠れる的な効果だと思います」
試しにそう言い換えてみると、今度はちゃんと声が届いたらしい。コメント欄にも、普通に反応が返ってくる。
【コメント】お、今度はちゃんと聞こえた
【コメント】正確な文章じゃないと駄目ってことか
【コメント】隠れる系の効果、ね……
「あ、伝わった! じゃあ、正確な文章じゃなければ大丈夫、ってことなんですかね」
【コメント】隠れるって言ってたけど、るか普通に丸見えだよな
【コメント】むしろ一番目立つ機体してるよなw
【コメント】これは本当に効果発揮してるのか怪しい
もっともな指摘に、俺は思わず頷いた。
「言われてみれば、隠れた覚え、一度もないですね……なんか、記憶と実態が合ってない気がします」
軽い笑いとともに、コメント欄はさらに盛り上がっていった。それでも、俺自身は、この発見にどこか他人事のような感覚しか抱けずにいた。名前を知ったところで、これまでの戦い方が何か変わるわけでもない。ただ、ずっと気にせずにきたことに、今更ながら気づかされ、しかもその正確な中身は結局誰にも共有できない。ただ、そういう結末だけが、はっきりと残った。
【コメント】この徹底したガードぶり、なんか意味深だな
【コメント】絶対誰にも知られたくない理由でもあるのかもな
【コメント】考察のしがいがありそうだ
視聴者たちの反応を眺めながら、俺は改めて、自分がいかにこの手のことに無頓着だったかを思い知らされていた。効果の説明を読んでも、実感が伴わない。それが自分の身に起きていることだというのに、まるで他人事のカタログを眺めているような感覚だった。
防衛戦の通知が届き、俺はいつも通り、担当エリアへ向けて歩き出す。
「なんか、スキルの正体がわかったところで、特に実感湧かないんですよね。今まで通り、殴って戦うだけですし」
【コメント】そこがるからしいな
【コメント】知っても知らなくても変わらない生き方してる
【コメント】ある意味一番強いメンタルかもしれん
道中、討伐対象の反応が視界に浮かび上がる。いつも通り両腕を構え、迫る一撃を受け止めた。
「インパクトスマッシャー!」
いつも通りの一撃で、敵の姿が崩れ落ちる。スキルの名前を知った後も、戦い方は何一つ変わらなかった。ガードして、踏み込んで、殴る。この単調な繰り返しだけが、相変わらず自分のすべてだった。
続けて現れた二体目にも、同じ要領で対処していく。名前を知った程度で、これまで積み上げてきたやり方を変える理由は、正直どこにも見当たらなかった。
【コメント】名前わかっても戦い方変わらないの、るからしくて安心する
【コメント】むしろ変に意識してぎこちなくなる方が心配だった
【コメント】いつも通りが一番だよな
配信の合間、朝霧さんから短いメッセージが届いた。「スキルの件、拝見しました。ちなみに、本人が公に許可を出した以上、これ以上は運営としても特に問題視しません。ただ、正解かどうかの確認だけは、システム上どうしても難しいので、その点はご了承ください」という、いつも通り的確な一文だった。
「あ、そっか。名前がわかっても、それが実際どういう効果なのか、確認する手段はないんですね」
返信を打ちながら、俺は妙に納得した。名前を知ったところで、結局は霧の中にいるのと変わらない。それでも、視聴者たちにとっては、これだけでも十分に盛り上がる材料になっているらしかった。
もう少し詳しく聞いてみようと、俺は返信を続けた。
「あの、こういうの、公表しちゃって本当に大丈夫だったんですか? 後から問題になったりしないですよね」
「大丈夫です。本人の意思で公開する分には、規約上も問題ありません。今回のように、視聴者との交流の一環として扱われる範囲であれば、むしろ良好な事例として見られると思います」
「よかった……なんか、あとから怒られたらどうしようって、ちょっと不安になってました」
「その点は私が責任持って確認しますので、ご安心ください。るかさんは、いつも通り楽しんでもらえれば大丈夫です」
いつも通りの、頼もしい返答だった。こうして専門的な視点で支えてくれる人がいるという事実だけで、今日のちょっとした失態も、笑い話として受け止められる余裕が生まれてくる。
しばらくすると、ハチからもメッセージが届いた。
「るかちゃん、さっきの配信見てたよ! まさかスキルの存在すら忘れてたとは……」
「あはは、ハチさんにまで呆れられました」
「呆れるっていうか、逆に清々しいわ。普通、自分のスキルくらい把握してるもんだけどな」
「今度からちゃんと確認するようにします……多分」
「その『多分』が、るかちゃんらしくて安心するよ」
軽いやり取りに、俺は思わず笑ってしまった。こういう気の置けない会話が、今の自分にとって、何よりの息抜きになっている。
「でもさ、名前わかったところで、実際何か変わりそう?」
「うーん、多分変わらないと思います。今まで通り、ガードして殴るだけなので」
「るかちゃんらしいや。まあ、それで結果出てるんだから、無理に変える必要もないだろうしね」
「ですよね! なんか、ハチさんに言われると説得力あります」
軽口を交わしながら、俺は改めて、この関係のありがたさを噛み締めていた。強さや技術の話ではなく、ただ気軽に「らしいね」と受け止めてくれる誰かがいる。それだけで、今日という日の気恥ずかしさが、随分と和らいでいく気がした。
配信を終え、いつものように現実へと戻る。夕食の席で、母さんが尋ねてきた。
「楓、今日は何かあったの? なんか、ちょっと恥ずかしそうな顔してるけど」
「うん……なんか、自分のゲームの能力、今日初めて知ったんだ。ずっと気づいてなかったみたいで」
「あら、そんなこともあるのね」
あっさりとした反応に、俺は思わず拍子抜けした。
「そんなに驚かないの?」
「だって、楓、昔から説明書とか読まない子だったし」
母さんの何気ない一言に、俺は苦笑するしかなかった。確かに、昔からそうだった。ゲームのマニュアルも、学校の配布プリントも、大事な部分ほど読み飛ばしてしまう癖がある。それが、こんなところにまで表れているとは、自分でも思っていなかった。
「まあ、それが楓らしいところなんじゃない」
その一言に、俺はなんだか救われた気がした。欠点のように思えていたこの性格が、こうして肯定的に受け止めてもらえる。それだけで、今日一日の気恥ずかしさが、少しだけ和らいだ気がした。
「小さい頃から、説明書読むより先に触ってみるタイプだったもんね、楓は」
「そうだったっけ……あんまり覚えてないや」
「ゲームのコントローラー、説明書見ないで適当にボタン押して、変な操作ばっかり覚えてたじゃない」
懐かしそうに笑う母さんの言葉に、俺も釣られて笑ってしまった。言われてみれば、そういう記憶がうっすらとある気がする。昔から変わらない自分の性質が、こんな形で今にまで繋がっているのかと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。
食後、部屋に戻ってから、俺はもう一度、今日の出来事を振り返ってみた。名前は知った。それでも、正確な効果は、結局誰にも――自分自身にすら、はっきりと共有できないままだった。何度読み返しても、これまでの自分の戦いぶりとは、あまりにもかけ離れた説明に感じられる。
それでも、名前を知ったことで、これまで漠然としていた自分の強さの謎に、少しだけ輪郭が与えられた気がした。答えそのものにはまだ届いていないけれど、手がかりの一つが、ようやく形になった。そんな感覚だった。
考えてみれば、これまでの自分は、自分自身のことを知ろうとする努力を、ほとんどしてこなかった。機体も、戦い方も、スキルも、すべて「なんとなく」で済ませてきた。それでも、そのいい加減さのおかげで、誰も予想しない結果に辿り着けたことも事実だ。真面目に一つ一つ確認していたら、今の自分はいなかったのかもしれない。そう思うと、この「いい加減さ」も、あながち悪いものではない気がしてくる。
ベッドに横になり、天井を見上げる。今日という日は、これまで見過ごしてきた自分自身の一部と、ようやく向き合った一日だったのかもしれない。そう思うと、少しだけ、自分のことをちゃんと見てみようという気持ちが芽生えていた。
スマホの画面を閉じて、俺は静かに目を閉じた。明日は、また新しい発見があるだろうか。そんなことを考えながら、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。
【考察系動画投稿者Code-X視点】
「るか」本人が、スキルについて自由に考察していいと発言した。その一報を目にした瞬間、俺は思わずデスクから身を乗り出していた。
これまで、プレイヤースキルの詮索は、暗黙のマナーとして避けてきた。個人情報に類する扱いだという認識は、考察を生業にする者として、当然弁えているつもりだった。それが今日、本人の口から「自由に考察していい」という言葉が出た。これは、またとない好機だった。
それにしても、と俺は当該配信のアーカイブを見返しながら思う。本人が実際に名前や効果を読み上げようとした瞬間、音声が不自然に途切れる場面が、何度も記録されていた。文字チャットに打ち込んだ際も、表示が謎の記号に置き換わっている。これは明らかに、システム側の意図的な処理だった。
プレイヤースキルの名称や効果の文言そのものは、どうやらどんな手段を使っても、本人以外には伝達できない仕組みになっているらしい。これまで「暗黙のマナー」だと思っていたものが、実は技術的に強制されたルールだったと知り、俺は妙な感慨を覚えた。
それでも、本人が自分の言葉で言い換えた内容――「隠れる、みたいな効果」という曖昧な表現だけは、きちんと配信に乗っていた。正確な文言でなければ、規制の対象にはならないということなのだろう。
「隠れる、か……」
断片的な情報ではあったが、十分に示唆的だった。それにしても、と俺は思う。これまでの「るか」の戦闘スタイルは、隠密とは対極にあるものだった。巨大な機体で正面から突撃し、真正面から殴り合う。物陰に隠れる素振りも、奇襲を仕掛ける素振りも、一度も見た記憶がない。
だとすれば、このスキルは、本来の使い方をされないまま、何らかの形で作用しているのかもしれない。あるいは、スキル自体に、想定外の副作用が生じている可能性もある。「隠れる」という曖昧な自己申告と、常に堂々と丸見えのまま戦い続ける本人の姿。この矛盾こそが、真相に近づくための最大の手がかりのはずだった。
早速、これまでの戦闘映像を、もう一度洗い直す作業に取り掛かった。被弾のタイミング、ダメージ判定の有無、そして機体の見た目の変化。一つ一つを丹念に照らし合わせていけば、何か新しい発見があるかもしれない。
これまでの考察は、あくまで状況証拠の積み重ねに過ぎなかった。それが今、「隠れる系の効果」という、断片的ながらも初めての具体的な手がかりを得て、より踏み込んだ検証ができる段階に入った。同業の考察勢たちも、既にこの話題に飛びついているはずだ。先を越されないよう、俺は集中して作業を進めた。
資料を並べながら、ふと、この機体が「潜水艦型」であることを思い出した。海洋マップが実装されていない現状、ほとんど話題にも上らない設定だが、もしかすると、この「隠れる」という性質と、機体そのものの「潜水艦」という属性の間に、何らかの関連があるのかもしれない。まだ確証には程遠い、単なる直感の域を出ない仮説だったが、俺はその可能性を、頭の片隅にそっとメモしておいた。
SNSを覗いてみると、既に同業の考察勢たちが、同じ話題に飛びついているのがわかった。「るかスキル考察スレ」のようなものまで立ち上がり、様々な仮説が飛び交っている。中には的外れなものも多かったが、一部には、俺と近い視点に立った鋭い指摘も混じっていた。この競争の中で、誰よりも早く真相に辿り着く。その野心が、俺の中でむくむくと膨らんでいくのがわかった。
「……面白くなってきたな」
誰にともなく呟いて、俺は編集ソフトを立ち上げた。断片的な手がかりの向こうにある真相を、いつか必ず解き明かしてみせる。そんな確信めいた予感を抱きながら、俺はその夜、遅くまで作業に没頭し続けた。




