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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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24.泥沼の一戦

 開始の合図と同時に、レンの機体が瞬時に間合いを詰めてきた。まるで最初から勝負を決めるつもりのような、迷いのない踏み込みだった。


「速い……!」


 反応する間もなく、鋭い一撃が腕に叩き込まれる。これまで感じたことのない速度と正確さに、俺は思わず息を呑んだ。それでも、痛みらしい痛みはやはり感じない。この感覚のなさが、逆にどこか現実味を欠いた不思議な緊張感を生んでいた。


 レンの猛攻は止まらなかった。連続する斬撃、フェイントを織り交ぜた変則的な間合い。どれもこれも、長年の研鑽の末に磨き上げられた、洗練された技術の結晶だった。左から右へ、上段から下段へ、目まぐるしく変化する攻撃の軌道を、俺はただガードで受け止め続けることしかできなかった。


「くっ……!」


 防戦一方になりながらも、俺はなんとか両腕でガードを固め続けた。それでも、決定打には至らない。このままガードだけを続けていても、埒が明かないことは、俺自身にもわかっていた。


 周囲の観客たちからは、既にどよめきが起こっていた。「レンさんの猛攻、全部捌かれてる」「いや、捌いてるっていうか、ただ耐えてるだけに見える」――様々な声が、断片的に耳に届く。誰も彼も、この異様な光景に、目が離せなくなっているようだった。中には、思わず身を乗り出して見入っている者もいた。


「よし、いっちょ狙ってみるか」


 レンの連撃の隙を見計らって、俺は踏み込んだ。呼吸を整え、狙いを定める。周囲の音が、一瞬だけ遠のいたように感じられた。これまで何度も決めてきた、自分の代名詞とも言える一撃。今日も、これでどうにかなるはずだと、どこかで思い込んでいた。


「インパクトスマッシャー!」


 拳を振りかぶり、渾身の一撃を放つ――が、次の瞬間、目の前にいたはずのレンの姿が、ふっと消えた。


「なっ……」


 拳が空を切る。振り抜いた勢いのまま、俺の機体はバランスを崩しかけた。まさか初手で見切られるとは、想像もしていなかった。


「甘い」


 背後から響いた声とともに、鋭い斬撃が肩口を掠める。かろうじて体をひねって直撃は避けたものの、体勢は完全に崩れていた。今の一瞬の駆け引きだけでも、これまでの人生で経験したことのない緊張感があった。


【コメント】読まれた!?

【コメント】インパクトスマッシャー、思いっきり空振りしてる

【コメント】そりゃ大振りすぎるもんな、避けられて当然か


「うわ、避けられた……! そうか、あんな大きい動作、見え見えですよね!」


 悔しさよりも先に、妙な納得が浮かんだ。これまで一度もインパクトスマッシャーを避けられたことがなかったから、忘れかけていた。あの一撃は、拳を大きく振りかぶる、いわば「溜め」の長い技だ。動きの速い相手には、当然見切られてしまう。


 考えてみれば、これまでの相手はすべてINVADERだった。決まった行動パターンで向かってくる敵に対しては、多少大振りな技でも、問題なく当てることができていた。それが、意志を持って駆け引きを仕掛けてくる相手には、まるで通用しない。この当たり前の事実に、俺は今更ながら気づかされていた。


 体勢を立て直す間もなく、レンが再び距離を詰めてくる。


「もう一度だ」


 容赦のない斬撃の連続が、また降り注ぐ。ガードは間に合ったが、衝撃で機体がぐらりと揺れた。


「くっ……! それなら、もう一回!」


 隙を見つけて、再びインパクトスマッシャーの構えを取る。しかし――


「同じ手が二度通じると思うか」


 レンの機体が、今度は真横に跳んで回避する。案の定、拳は虚しく空を切った。


【コメント】また外した!

【コメント】そりゃ同じ技何度も見せてたら読まれるよ

【コメント】るか、技のバリエーションないのがバレてる


「え、ちょ、待って、これどうすれば……」


 これまで、INVADER相手には迷わず繰り出してきた必殺の一撃が、まるで通用しない。困惑する俺の目の前で、レンがさらに畳みかけてきた。連続する斬撃の雨に、俺はただガードを固めることしかできない。


 それでも、諦めるわけにはいかなかった。俺はもう一度、拳を握り締めて突撃を試みた。


「なら、これならどうだ!」


 今度は、フェイントを入れてから踏み込むという、自分なりの工夫を凝らしたつもりだった。それでも、レンの目には、そんな付け焼き刃の工夫など、はなから見え透いていたらしい。付け焼き刃は、しょせん付け焼き刃でしかなかった。


「見え見えだ」


 軽々と体をかわされ、また拳は空を切る。勢い余った俺の機体は、大きく前のめりによろめいた。


【コメント】工夫しようとしたのにあっさり見抜かれてる

【コメント】場数が違いすぎる

【コメント】これもう技術の差がえげつない


 このまま同じことを繰り返していても、埒が明かない。何か、違うやり方を試す必要がある。焦りが募る中、俺の頭に浮かんだのは、これまで何度か窮地で使ってきた、あの荒っぽい戦法だった。


「よし、こうなったら……!」


 深く考える余裕もないまま、俺は両腕を広げ、機体ごとレンに向かって突進した。狙いも何もない、ただ体当たりで押し潰そうとする、なりふり構わない突撃だった。以前にも、似たような場面で似たようなことをした記憶がふと蘇る。理屈より先に体が動く、これもまた自分らしいやり方なのかもしれない。


【コメント】は!?

【コメント】急に体当たりで草

【コメント】技術も何もあったもんじゃないw


「な――」


 レンが咄嗟に横に跳んで回避する。狙いを外した俺の巨体は、そのまま勢い余って地面に突っ込んだ。土煙が派手に舞い上がる。


「うわあああ!」


 受け身も何もない、無様な転倒だった。機体は地面を何度もバウンドしながら転がり、ようやく止まった時には、すっかり体勢が入れ替わっていた。仰向けに近い格好で、俺はしばらく状況を把握できずにいた。


【コメント】盛大に転んでるwww

【コメント】これもう技じゃなくて事故だろ

【コメント】観客もどよめいてるw


 周囲の観客からも、困惑交じりのどよめきが起こっているのがわかった。慌てて起き上がろうとする俺に向かって、レンが追撃を仕掛けてくる。


「隙だらけだぞ!」


 鋭い斬撃が降り注ぐ。まだ体勢が整わないまま、俺はとっさに片腕だけでガードした。衝撃で機体が地面に叩きつけられる。それでも、痛みはやはり感じない。


「ぐ……! よし、もう一回!」


 起き上がりざま、俺は再び突進を試みた。今度は狙いを変えて、低い姿勢から相手の足元を狙う。しかし、レンは軽やかにその場で跳躍し、俺の頭上を飛び越えていった。


「そう何度も同じ手には引っかからない」


「くっ……!」


 勢い余った俺の機体は、そのままつんのめるように地面に転がった。受け身を取る余裕もなく、そのままゴロゴロと数十メートル転がっていく。土埃が舞い、視界が一瞬真っ白になった。


【コメント】また転んでるwww

【コメント】ある意味すごい体力

【コメント】レンさん完全に翻弄されてない?むしろ空回りしてる


 転がりながらも、俺は次にどう動けばいいか、必死に考えていた。技術で崩せないなら、力業でいくしかない。それしか、今の自分に取れる手段が思いつかなかった。無様だとわかっていても、他に方法が浮かばない以上、体を張るしかなかった。


「はあっ!」


 転がった勢いのまま、俺は地面を蹴って再び突進した。今度は、腕を振り回すような、およそ洗練とは程遠い、めちゃくちゃな動きだった。


 レンは冷静にその軌道を見切り、体をひねってかわそうとした。それでも、俺の巨体が振り回す腕の範囲は、思いのほか広い。かわしきれなかったレンの機体の端に、腕がわずかに触れた。


「ちっ……」


 軽い接触だったが、レンの体勢が僅かに崩れる。その隙を見逃さず、俺はもう一度、めちゃくちゃに腕を振り回した。


【コメント】もうめちゃくちゃで草

【コメント】でも当たり始めてる!?

【コメント】洗練された技術が、力任せの乱打に押されてる


 レンも、この予測不能な動きには、さすがに手を焼いているようだった。整った間合いの読み合いを得意とする戦い方が、こちらの支離滅裂な動きの前では、うまく噛み合わない。


「くそ、読めない……!」


 苛立ちの滲む声で、レンが呟いた。それでも、まだ致命的な一撃には至っていない。俺たちは互いに、地面の上でもみ合うように攻防を繰り広げていた。


 巨体同士がぶつかり合い、土煙が絶え間なく舞い上がる。もはや、どちらが優勢なのか、傍目にもわかりにくい乱戦になっていた。互いの機体がぶつかり合うたびに、重い金属音と地響きが交錯する。優雅さも洗練さも、そこにはもう欠片も残っていなかった。


【コメント】完全に泥仕合になってる

【コメント】これもう美しさの欠片もない戦いだw

【コメント】でも目が離せない


 レンが体勢を立て直そうと後方に飛び退いた隙に、俺はもう一度、がむしゃらに突撃した。狙いなど最初からない。ただ、少しでも距離を詰めて、めちゃくちゃに腕を振り回すことしか考えていなかった。


「まだ来るか!」


 レンが剣を構え直し、迎え撃とうとする。しかし、俺の動きは、これまでのどんな相手の動きとも違う、予測不可能なものだった。振り上げた剣が空を切り、俺の巨腕がその隙をすり抜けるように振り抜かれる。


「ぐっ……!」


 装甲が軋む音がした。レンの体勢が、また僅かに崩れる。それでも、まだ倒れるほどのダメージには至っていない。互いに息をつく間もなく、次の攻防が始まった。


 俺自身、もはや何をどうやっているのか、正確には把握できていなかった。ただ、目の前の相手に向かって、腕を振り、体をぶつけ、転がる。その繰り返しだけが、今の自分にできる精一杯だった。額から冷や汗が滲むような感覚があったが、実際には機体越しの操縦にそんな感覚があるはずもない。それでも、緊張と混乱で、そう錯覚してしまうほどの攻防だった。


【コメント】もう格闘技というより取っ組み合いだな

【コメント】でも意外と拮抗してる

【コメント】技術と無茶苦茶さのぶつかり合い、なんか熱い


 何度目かの体当たりを繰り出した瞬間、俺の機体はまたバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。すぐさま起き上がろうとするが、勢い余って、今度は横向きにゴロゴロと転がってしまう。


「うわっ、また……!」


 転がる俺を追撃しようと、レンが剣を振りかぶって踏み込んできた。しかし、地面を転がる巨体の動きは、あまりにも予測不能だった。狙いを定めきれないまま、レンの剣が空を切る。


「なっ――」


 その隙に、転がっていた俺の腕が、偶然にもレンの機体の脚部に引っかかった。とっさのことで、俺自身、何が起きたのかまるで理解できていなかった。


「あ――」


 声を上げる間もなく、レンの機体が体勢を崩し、大きくよろめく。俺は転がった勢いのまま、無我夢中で腕を突き出した。狙ったわけでも、計算したわけでもない、ただの偶然の一撃だった。


 時間の流れが、一瞬だけ引き伸ばされたように感じられた。突き出した拳の先に、レンの機体の中心部が、なぜか正確に重なっている。狙ったわけではない。それでも、まるで吸い寄せられるように、その位置に収まっていた。まるで運命のいたずらのような、そんな瞬間だった。


 肘の杭が、たまたまレンの機体の中心部に、深々と突き刺さった。


「――え」


 自分でも、何が起きたのかよくわからなかった。転がりながら、闇雲に突き出した腕が、まさか当たるとは思っていなかった。頭が真っ白になったまま、俺はただその場に立ち尽くしていた。


 轟音と共に、レンの機体が大きく後退する。装甲は大きく損傷し、足元がふらつき始めた。


【コメント】は?

【コメント】今の、まぐれ当たりだよな!?

【コメント】でもしっかり効いてる……


 呆然と立ち尽くす俺をよそに、レンはなんとか体勢を立て直そうとしていた。それでも、先ほどの一撃のダメージは大きかったらしく、足元が明らかにおぼつかない。


【コメント】これで決まったか?

【コメント】いや、レンさんまだ立ってる

【コメント】最後まで諦めない姿勢、さすがだな


「まだ……まだだ……!」


 最後の気力を振り絞るように、レンが剣を構え直す。それでも、その姿は、これまでの洗練された佇まいとは、明らかに違っていた。肩で息をするように、機体全体が小刻みに震えている。


 俺は慌てて体勢を立て直し、もう一度両腕を構えた。狙って当てた一撃ではない。それでも、このチャンスを逃すわけにはいかない、という思いだけが先行していた。


「よし、いく……!」


 転倒の勢いを利用するように、俺は不格好なタックルの体勢のまま、レンに向かって突進した。狙いなど何もない、ただがむしゃらな一撃だった。


 レンは咄嗟に剣を構えて防ごうとしたが、既にふらついていた体勢では、まともに受けきれなかった。巨体の体当たりをまともに受け、レンの機体は大きく吹き飛ばされる。


 地響きと共に、レンの機体がその場に崩れ落ちた。対戦終了の合図が、静まり返った戦場に響き渡った。


 辺りには、しばらくの間、誰の声もなかった。土煙がゆっくりと風に流されていく中、静寂だけが残っていた。


【コメント】決着!?

【コメント】いや、今の勝ち方どう見てもまぐれの連続だっただろ

【コメント】でも結果は結果、るかの勝利だ


「……勝った、のか」


 実感の湧かないまま、俺は言葉を漏らした。今の戦い方のどこにも、誇れるような技術はなかった。ただがむしゃらに転がって、たまたま当たっただけの、なりふり構わない結果だった。


 周囲の観客たちも、しばらく声を失ったまま、この結末を見つめていた。誰も彼も、今起きたことをどう受け止めればいいのか、うまく整理できずにいるようだった。


 中には、思わず笑い出してしまう者もいた。「なんだこの試合……」と呆れたように呟く声、それに釣られて小さく笑う声。緊張感に満ちていた会場の空気は、いつの間にか、どこか脱力したような、不思議な雰囲気に変わっていた。


 自分の機体を見下ろしながら、俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。装甲のあちこちに、転げ回った際についたであろう土埃がこびりついている。誇らしい勝利のはずなのに、この泥だらけの姿は、まるで負け犬のそれのようだった。


 それでも、対戦終了の表示だけは、はっきりと自分の勝利を告げていた。この結果を、どう受け止めればいいのか。まだ、答えは出ていなかった。


 視聴者のコメント欄も、これまでにない奇妙な熱気に包まれていた。称賛でも、単純な驚きでもない、もっと複雑な反応が入り混じっている。「これは強いって言っていいのか?」「なんかもう次元が違う話になってきた」――そんな言葉の数々が、画面を埋め尽くしていた。


 俺はしばらく、その場に立ち尽くしたまま、動けずにいた。勝った。それは確かな事実だった。それでも、これのどこに誇れる部分があるのか、正直まったくわからなかった。技術も、戦略も、何一つ発揮できないまま、ただ無我夢中で転げ回っただけの結果だった。


 それでも――と、俺はふと思い直した。技術や戦略の話とは、また別のところで、何かが変わった気がする。


 これまでの人生で、誰かと真正面からぶつかり合うということを、俺は徹底的に避けてきた。学校で意見がぶつかりそうになれば、先に折れた。誰かに強く言われれば、言い返す前に黙り込んだ。対立という状況そのものが、ただただ怖かった。だから、レンから宣戦布告を受けたときも、正直、逃げ出したい気持ちの方が大きかった。


 それなのに、気づけば今日、大勢の視線が集まる中で、怖くて仕方なかったはずの相手と、無様に転げ回りながらも、最後まで向き合い続けていた。技術も何もない、ただがむしゃらな抵抗だったかもしれない。それでも、逃げなかった。目を逸らさなかった。それだけは、紛れもない事実だった。


 「るか」としての勝利は、正直まだピンと来ない。強いて言葉にするなら、これは「るか」の勝利である以上に、上比留楓という一人の人間が、初めて誰かと真剣にぶつかり合い、そこから逃げずに最後までやり切った、という出来事なんだと思う。無様でみっともなくて、誇れる中身は何もなかったとしても、逃げなかったという事実だけは、自分の中に確かな形で残った。


 それは、これまでの自分なら絶対に選ばなかった道だった。人見知りで、争いごとが何より苦手で、誰かに強く出られるとすぐに縮こまってしまう自分。その自分が、今日という日、最後まで踏みとどまった。技術的な勝利より、そちらの方が、よほど大きな意味を持つ気がした。





【神代レン視点】


 崩れ落ちる直前、俺の頭には、ただ一つの疑問だけが渦巻いていた。


 ――なぜ、こんな滅茶苦茶な動きに、翻弄されている?


 これまで積み重ねてきた技術は、確かに機能していた。相手の大振りな必殺技は、二度までは完璧に見切った。それなのに、相手が技術を捨てて、ただがむしゃらに転がり、体当たりを繰り返し始めた瞬間から、歯車が狂い始めた。


 洗練された間合いの読み合いは、相手にも一定の「型」があることを前提にしている。それなのに、あいつの動きには、型と呼べるものが一切なかった。転んで、起き上がって、また転んで。まるで、幼子が無我夢中で暴れているような、そんな予測不可能な動きの連続だった。


 これまで対戦してきた相手は、皆それぞれの流派や理論に基づいた「型」を持っていた。だからこそ、その型を読み解き、上回ることに全力を注いできた。それが自分の強さの根源だったはずだ。それなのに、目の前の相手には、そもそも読み解くべき型そのものが存在しない。技術で対抗しようにも、対抗する対象がどこにもなかった。


「くそ……」


 薄れゆく意識の中で、悔しさとも呆れともつかない感情が込み上げてくる。技術で崩せない相手というのは、これまでも何人か経験してきた。それでも、今回のような負け方は、初めてだった。


 あの最後の一撃も、明らかに狙って放たれたものではなかった。転がった勢いのまま、たまたま自分の急所に突き刺さっただけの、偶然の産物だ。それなのに、結果として自分は、その一撃に沈められた。


 実力で負けたのか、それとも運に見放されただけなのか。今の自分には、その境界線すら、はっきりと見極めることができなかった。むしろ、この曖昧さこそが、一番の敗因だったのかもしれない。相手を「型のない存在」として認識できなかった時点で、既に読みが甘かったのだろう。


「……こんな終わり方、認めたくない」


 誰に言うでもなく、そう呟く。意識が完全に途切れる直前、俺の中に残っていたのは、悔しさよりも、深い困惑だった。あの得体の知れない強さの正体を、いつか必ず突き止めてやる。その思いだけを胸に、俺は静かに意識を手放した。


 薄れゆく視界の中で、最後に浮かんだのは、対戦相手の困惑した表情だった。勝ち誇るでもなく、ただ呆然と立ち尽くすその姿は、演技には到底見えなかった。あいつ自身も、この結末を予想していなかったのだろう。その事実だけが、今の俺には、かすかな救いのように思えた。

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