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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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23/24

23.初PvP

 朝、目を覚ましてすぐ、いつものように通知欄を確認する。前日のPvP騒動の余韻は、まだ完全には冷めていなかった。SNSでは、依然として「REN vs るか」の話題が飛び交っている。


 昨夜はなかなか寝付けなかった。レンの動画を何度も見返してしまい、気づけば深夜まで画面を眺めていた。寝不足の頭のまま、俺はぼんやりと天井を見上げていた。時計の針が、いつもより重たく感じられる朝だった。


 今日は、これまでとは違う種類の通知が届いていた。


```

PvP対戦申請が届いています

申請者:神代レン

```


「……来た」


 思わず声が漏れた。心のどこかで、いつかこうなるだろうと予感していたはずなのに、実際に通知を目の当たりにすると、胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚があった。


 しばらくの間、俺は通知画面を見つめたまま、動けずにいた。承認すれば、間違いなく大きな注目を浴びることになる。断れば、それはそれで別の憶測を呼ぶかもしれない。どちらの選択肢も、これまでの自分には縁のなかった種類の重さを持っていた。


 布団の中で、俺はしばらく天井を見上げていた。あの動画で見た、まっすぐな瞳。あの人は、本気で自分のことを「不正をしている」と信じている。それなのに、こちらには反論する材料が何もない。この状況で対戦を受けるということが、果たして正しい選択なのか、正直まだ自信は持てずにいた。


 朝霧さんに相談しようかとも思ったが、結局、自分の中で答えは既に決まっている気がした。逃げても、状況は変わらない。それなら、正面から向き合う方が、まだ気持ちの整理がつく。


 布団の中で、俺はしばらく目を閉じたまま、これから起きるであろう出来事に思いを馳せた。勝つにせよ負けるにせよ、この対戦が何かの転換点になることだけは、なんとなく確信していた。


 朝食もそこそこに、俺は自室に戻ってヘッドセットを手に取った。今日という日が、これまでとはまるで違う一日になることだけは、朝から確信していた。


 配信を開始し、この件を視聴者に報告する。


「みなさん、あの、ついに来ました。レンさんから、PvPの申請」


【コメント】キタ!!!

【コメント】ついに直接対決か

【コメント】これは見逃せない


 コメント欄が、これまでにない勢いで沸き立った。俺自身は、その熱量に置いていかれそうになりながらも、なんとか気持ちを落ち着けようとしていた。


「受けるかどうか、正直すごく悩んだんですけど……逃げても、多分状況は変わらない気がするので、受けようと思います」


【コメント】その判断、応援する

【コメント】頑張れ

【コメント】レンさんも本気で来るだろうから気をつけて


 自分の口から出た言葉を、俺はもう一度、頭の中で反芻していた。受けようと決めたのは、勇気があったからというより、逃げ場がないと悟ったからかもしれない。それでも、決めてしまった以上、あとはもう前を向くしかなかった。


 配信の合間、朝霧さんから通話の申請が届いた。


「るかさん、対戦を受けられるとのこと、承知しました。念のため、対戦のルールと、放送上の注意点だけ確認させてください」


「あ、はい、お願いします」


 少し上ずった声で返事をすると、朝霧さんは変わらず落ち着いた調子で続けた。彼女のこの安定感が、今の自分にはどれほど心強いか、改めて実感させられる。


「今回の対戦は、あくまで一対一の正式な申請制PvPです。運営としても中立の立場を取りますので、るかさんの方から何かを証明する必要は一切ありません。いつも通り、自然体で臨んでもらえれば大丈夫です」


 朝霧さんの声は、いつも通り落ち着いていた。その安定感が、今の自分には何よりありがたかった。


 その言葉に、俺は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。誰かがきちんとルールを整理して説明してくれるだけで、漠然とした不安が、輪郭のはっきりしたものに変わっていく気がした。


「わかりました……なんか、そう言ってもらえると少し楽になります」


 電話越しの声には、いつもと変わらない落ち着きがあった。それだけで、これから向き合う対戦への緊張が、少しだけ和らいだ気がした。


「もし対戦後、レンさんや周囲から何か言われることがあっても、感情的に反応せず、まずは私に一報ください。対応は、こちらで責任を持ちます」


 頼もしい言葉に、俺は素直に安堵した。誰かがこうして自分の代わりに矢面に立つ準備をしてくれている。その事実だけで、これから向き合う対戦への緊張が、少しだけ和らいだ気がした。


「あの、朝霧さん。正直、勝っても負けても、なんだか気まずい結果になりそうな気がしてるんです」


「そう感じるのは、るかさんが誠実な証拠だと思います。ただ、対戦は対戦です。全力を尽くすことは、決して失礼なことではありません」


 その言葉に、俺は小さく頷いた。全力を尽くす。当たり前のようで、今の自分には、その言葉の意味を噛み締める必要があるように思えた。誰かに遠慮して手加減するようなことは、そもそも自分にはできない。今日という日は、ただ自分にできることを、いつも通りやり切るしかなかった。


 申請を承認すると、対戦日時と場所の詳細が表示された。数時間後、専用の対戦エリアで行われるらしい。それまでの時間、俺は落ち着かない気持ちを抱えたまま、いつも通りの防衛戦をこなしていた。


「対人戦、初めてなんですよね……INVADER相手とは、多分勝手が全然違いますよね」


 誰にともなく呟いたその一言に、少しの不安が滲んでいた。それでも、後に引けない状況であることに変わりはなかった。


【コメント】相手の攻撃パターン読むゲームだからな

【コメント】でも、るかの場合それすら関係ない可能性

【コメント】それな


 軽口交じりのコメントに、俺は苦笑した。自分でも、この規格外の頑丈さが、対人戦でどう影響するのか、正直まったく想像がつかなかった。これまで一度も自覚したことのない「強さ」というものを、初めて試される瞬間が近づいている。


 これまでのINVADER戦では、相手は決まったパターンで攻撃してくる、いわば「読める」相手だった。それに対して、生身の人間が操る機体は、意志を持ち、駆け引きを仕掛けてくる。その違いが、どれほど大きな差になるのか、正直まったく想像がつかなかった。


【コメント】でも技術云々の前に、るかの機体固すぎるからな

【コメント】頑丈さでゴリ押すスタイルは変わらなそう

【コメント】むしろ変に工夫しない方がいいまである


 視聴者たちの様々な予想に、俺は思わず苦笑した。自分自身、どう立ち回ればいいのか、正直まったく指針を持ち合わせていない。結局は、いつも通りのやり方で臨むしかなさそうだった。


 防衛戦をこなしながらも、頭の片隅ではずっと、これから始まる対戦のことを考えていた。相手は、努力を積み重ねてきたプロフェッショナルだ。技術も、経験も、自分とは比べ物にならないほど蓄積しているはずだった。それでも、なぜか恐怖よりも、奇妙な落ち着きの方が勝っていた。


 考えてみれば、これまでも似たような場面が何度もあった。理解が追いつかないまま、目の前のことに一つ一つ向き合ってきた。今回もきっと、同じなんだろう。深く考えすぎず、いつも通りに立ち向かうしかない。


 これまでの配信生活を振り返ってみると、いつも予想外の展開の連続だった。チュートリアルの誤操作から始まり、誰も選ばない機体との出会い、そして今日のこの対戦。どれも自分から望んで選んだわけではないのに、気づけばいつも、目の前の状況に必死で食らいついてきた。それが結果的に、ここまで自分を運んできてくれたのかもしれない。


 防衛戦を終えた後も、対戦時刻まではまだ少し余裕があった。俺は待機エリアで、ぼんやりと自分の機体を眺めていた。丸みを帯びた黄色い装甲、不格好な巨体。この機体で、これから世界ランク5位の実力者と渡り合うことになる。想像しただけで、胃の辺りがきゅっと締まる感覚があった。


【コメント】緊張してる?

【コメント】いつも通りでいいと思うよ

【コメント】見てるこっちも緊張してきた


「正直めちゃくちゃ緊張してます! でも、なるようになれの精神でいこうと思います!」


 精一杯の虚勢だったが、口に出してみると、少しだけ本当にそう思えてくる気がした。これまでも、深く考えすぎずに飛び込んできたことばかりだった。今回も、きっとそのやり方で乗り越えるしかない。


 待機エリアの隅で、俺は何度も両手を握ったり開いたりを繰り返していた。実際の手は動いていないはずなのに、緊張のせいか、機体の指先が同じような動きを繰り返しているのが、視界の端に映る。


 対戦時刻が近づき、俺は指定されたエリアへと向かった。既に大勢の観客――他のプレイヤーたちが、遠巻きにこの様子を見守っている。


 歩きながら、俺はこれまでの数々の防衛戦を思い返していた。INVADER相手には、迷わず両腕を構え、迷わず踏み込んできた。それなのに、今回は生身の、しかも同じ人間が操る機体を相手にする。この違いが、これほどまでに緊張を煽るものだとは、想像していなかった。


 指定されたエリアに近づくにつれ、観客たちのざわめきが徐々に大きくなっていくのが聞こえてきた。誰もが、この一戦の行方を今か今かと待ちわびている。その熱気に当てられるように、俺の緊張もじわじわと高まっていった。


 周囲を見渡すと、見覚えのあるアイコンもいくつか混じっていた。もしかすると、SNSで話題になっているこの対戦を、多くの人がわざわざ見に来ているのかもしれない。そう思うと、急に緊張感が増してきた。


 これまでの人生で、これほど多くの人に注目された経験は一度もなかった。教室の隅で、できるだけ目立たないように過ごしてきた日々を思えば、今のこの状況は、まるで別人の人生を生きているような感覚さえある。それでも、この視線の中心にいるのは、紛れもなく自分自身だった。


 配信の視聴者数も、いつの間にか普段の数倍にまで膨れ上がっていた。画面の隅に表示された数字を見て、俺は思わず息を呑む。これほど多くの目が、たった今、自分に注がれている。その事実だけで、押し潰されそうな緊張感が押し寄せてきた。


 対面に立つ神代レンの機体は、俺のものとは対照的に、鋭く、無駄のないシルエットをしていた。近接戦闘に特化した、機動力重視の作り。動画で見たままの、洗練された強さを感じさせる佇まいだった。


 装甲は、デジタル迷彩を思わせる、細かく不規則な柄で覆われていた。肩に掲げた盾には、三日月と星を組み合わせた紋章が刻まれている。手にした長剣は、装飾を排した実用一辺倒の造形でありながら、そのシルエットだけで、積み重ねてきた鍛錬の年月を感じさせるものだった。


 全身を覆う装甲は、無駄な装飾を一切排した、実用性重視のデザインだった。関節部の駆動音一つとっても、丁寧な整備が行き届いていることが窺える。この機体を作り上げるまでに、どれだけの試行錯誤と調整があったのか、想像するだけで気が遠くなりそうだった。


 自分の機体と見比べて、俺は改めてその違いを実感していた。丸みを帯びた不格好な巨体と、鋭く洗練されたシルエット。見た目だけでも、積み重ねてきたものの差は歴然としていた。それでも、この対比こそが、今日という日の意味を物語っているような気もした。


「……本当に来るとはな」


 レンの声には、緊張と、それを上回る覚悟のようなものが滲んでいた。


「あの、よろしくお願いします。正直、対人戦初めてなので、色々至らないところあると思いますけど」


「変に卑下する必要はない。俺は、お前の実力を確かめに来た。手加減はしない」


 まっすぐな言葉に、俺は思わず背筋が伸びる思いだった。この人は本気だ。冗談でも、揶揄いでもなく、真正面から向き合おうとしている。それが伝わってくるからこそ、こちらも半端な気持ちで応じるわけにはいかなかった。


「正直、何が正解かもよくわからないまま来ちゃったんですけど……全力は尽くします」


 絞り出すようにそう言うと、レンは僅かに目を細めた。それが呆れなのか、それとも別の感情なのか、俺には読み取ることができなかった。


 しばらくの沈黙の後、レンは静かに剣を抜いた。その動作一つにも、積み重ねてきた自信が滲んでいるように見えた。


「はい、よろしくお願いします」


 深く一礼するように機体を傾けると、レンは一瞬だけ意表を突かれたような表情を見せた。それでも、すぐにいつもの鋭い眼差しに戻る。


 じっと見つめ合う中、俺はふと、この人の機体の細部に目をやった。使い込まれた装甲の傷跡、丁寧に手入れされた関節部。どれもこれも、積み重ねてきた時間の証のように見えた。それに比べて、自分の機体は、選んだ理由すら「なんかこれでいいや」という、あまりにも軽いものだった。この対比だけで、既に埋めようのない差を感じずにはいられなかった。


 周囲のざわめきが、次第に静まっていく。観客たちの視線が、一斉にこちらへと集まっているのがわかった。誰も彼も、固唾を飲んでこの瞬間を見守っている。


【コメント】始まる……

【コメント】緊張で心臓バクバクする

【コメント】どっちも頑張れ、としか言えない


 俺自身、こんなにも大勢の視線を一身に受けるのは初めての経験だった。それでも、不思議と足はすくまなかった。むしろ、腹の底から静かな高揚感が湧き上がってくるのを感じる。


 ふと、視界の端に、これまで見てきたどんな戦闘記録よりも鮮明な緊張感を纏ったレンの姿が映った。剣を握る手には、力がこもりすぎているようにも見えた。この人にとって、この一戦がどれほどの重みを持つものなのか、今更ながら実感させられる。


 その緊張感は、決して悪いものには見えなかった。むしろ、真剣に何かに向き合う人間だけが纏える、独特の張り詰めた空気だった。俺自身、そんな空気に当てられるように、自然と背筋が伸びていくのを感じた。


 対戦開始のカウントダウンが、対戦エリア全体に響き渡る。


「三――」


 レンが、静かに剣を構え直した。その眼差しには、これまで積み重ねてきたものへの自負と、それを証明せんとする強い意志が滲んでいた。


「二――」


 俺も、両腕を前に構える。いつも通りの、ガードの姿勢だ。心臓の鼓動が、いつもより少しだけ速い気がした。それでも、不思議と落ち着いていた。


「一――」


 レンの瞳に、これまでにない鋭い光が宿るのが見えた。周囲の観客たちも、誰一人として声を上げない。張り詰めた静寂の中、俺はただ、目の前の相手だけを見つめていた。


 ――開始の合図が、戦場に響いた。





【観客プレイヤー「対戦マニア田中」視点】


 こんな対戦、滅多にお目にかかれるもんじゃない。俺は仕事終わりに急いで駆けつけて、対戦エリアの端で息を整えていた。


 世界ランク5位の神代レンと、あの謎多き新人配信者「るか」。SNSを騒がせている二人の直接対決を、この目で見られる機会を逃す手はなかった。


 俺自身、そこそこ長く前作からゲームをプレイしてきた自負がある。とはいえ、ランキング上位に食い込めるほどの実力はなく、もっぱら観戦専門の立場に落ち着いていた。だからこそ、こういう頂上決戦めいた対戦には、人一倍思い入れがある。


 振り返れば、これまでも何度か大きな対戦を観戦してきた。それでも、これほどまでにネット上を騒がせている一戦は、記憶にない。世界ランカーと、謎に包まれた急上昇配信者。この組み合わせだけで、既に十分な話題性があった。


 周囲を見渡すと、俺と同じような野次馬が、続々と集まってきているのがわかる。プレイヤーだけじゃない。何人かは、明らかに配信用のカメラらしきものを構えていた。この一戦は、間違いなく後々まで語り継がれることになるだろう。


 中には、既にリアルタイムで実況を始めている配信者らしき者もいた。「これより、世界ランク5位神代レンさんと、話題の新人配信者るかさんのPvPが始まります」という声が、風に乗って断片的に聞こえてくる。この対戦が、単なる一プレイヤー同士の争いを超えて、一つの「イベント」として扱われている実感が、じわじわと湧いてきた。


 これほどの注目を浴びる対戦の当事者になるとは、配信を始めた頃の自分には、想像すらできなかった出来事だった。


 対戦者二人が向き合う様子を見ながら、俺は思わず唾を飲み込んだ。レンの構えは、これまで何度も見てきた対戦動画そのままの、隙のない姿勢だった。長年鍛え上げられた、洗練された佇まい。一方の「るか」は、ただ両腕を掲げているだけの、素朴な構え。この対比だけでも、既に見応えがある。


 周りの観客たちの間でも、既に予想合戦が始まっていた。「レンさんの技術なら圧勝だろ」「いや、あの機体の頑丈さは尋常じゃないぞ」――様々な意見が飛び交う中、俺自身も、正直どちらに転ぶか、まったく読めずにいた。


 これまで見てきた「るか」の戦闘映像は、どれも一方的な蹂躙としか言いようのないものばかりだった。それでも、相手はNEREID MARINEの巨体を苦にせず翻弄できるだけの機動力と技術を持つ、生粋の実力者だ。今回ばかりは、これまでとは違う展開になるかもしれない――そんな予感も、心のどこかにあった。


 周りの空気は、異様なまでに張り詰めていた。誰も彼も、この対戦の行方を、固唾を飲んで見守っている。俺自身、こんなにも緊張感のある対戦を観戦するのは、初めての経験だった。手のひらに、じんわりと汗がにじんでいるのがわかる。


 カウントダウンが始まる。三、二、一――誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。


 この後、一体何が起きるのか。俺自身、想像もつかないまま、ただじっとその瞬間を待ち続けていた。

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