表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/24

22.対立構図、拡散

 朝、目を覚ましてすぐ、なんとなく胸のざわつきを感じた。昨日の出来事のせいだろうか。布団の中でしばらくぼんやりしてから、俺はようやく身体を起こした。


 階下に降りると、母さんが新聞を読んでいた。


「おはよう、楓。よく眠れた?」


「うーん、まあまあかな」


 あっさりとした朝の挨拶を交わしながら、俺は少しだけ気持ちが落ち着くのを感じた。どれだけ画面の向こうが騒がしくても、この家の中の空気だけは、いつも通り変わらない。


 朝食を済ませ、自室に戻る。ヘッドセットを手に取りながら、俺は小さく深呼吸をした。今日もまた、何か新しい展開が待っているのかもしれない。そんな漠然とした予感を抱えながら、俺はスマホを開いた。


 スマホを開いた瞬間、俺は思わず目を疑った。トレンド欄の上位に、見慣れた名前が二つ、まるでセットのように並んでいる。「神代レン」「るか」。


「うわ、まだ収まってない……」


 むしろ、昨日よりも勢いを増しているように見えた。Pulseのタイムラインを覗いてみると、あちこちで「REN vs るか」という構図を煽るような投稿が飛び交っている。ファンアート風のイラストまで既に出回っていて、俺は思わず苦笑してしまった。


 中には、二人が向かい合っているだけの簡素なイラストから、まるで格闘技の対戦カードのように仰々しく飾り立てられたものまで、様々なバリエーションがあった。作っている人たちは、きっと楽しんでやっているんだろう。それを見ている分には、俺自身も少し面白がってしまう自分がいた。


 中には「不沈艦 vs 努力の天才」というキャッチコピーまでつけられたものもあり、俺は思わず吹き出しそうになった。誰が名付けたのかは知らないが、なかなか的を射た表現だと思う。


「これ、なんかもう対戦カードみたいになってません? 別に戦うって決まったわけでもないのに」


 配信を開始すると、コメント欄にも同じような空気が漂っていた。


【コメント】もう完全に対立構図として定着してるな

【コメント】ファン同士も言い合いになってるらしいw

【コメント】これ、いつか直接対決あるんじゃない?


「対決って、そんな簡単に決まるものなんですか? PvPって、確か申請制でしたよね」


 うろ覚えの知識を頼りに、俺は少し不安げにそう呟いた。


 軽く調べてみると、確かにランクマッチとは別に、プレイヤー同士が直接対戦を申し込める仕組みがあるらしい。もっとも、俺自身、これまで一度もそういう申請をしたことも、されたこともなかった。


【コメント】そのうちレンから直接申請来るんじゃない?

【コメント】受けて立つのか気になる

【コメント】るかは対人戦とかやったことあるの?


「一度もないです! ずっとINVADER相手にしか戦ったことないので、正直ちょっと怖いですね……」


 率直な感想を漏らすと、コメント欄が賑やかに反応した。純粋な好奇心と、少しの心配が入り混じった空気だった。


 対人戦と対INVADER戦とでは、勝手がまるで違うはずだ。敵の行動パターンを読むのと、生身の人間の駆け引きを読むのとでは、求められる技術も感覚も、きっと大きく異なる。そんな未知の領域に足を踏み入れることになるかもしれないと思うと、さすがに緊張せずにはいられなかった。


「まあ、今のところ申請が来てるわけじゃないので、あんまり深く考えすぎないようにします!」


 配信の合間、朝霧さんから短いメッセージが届いた。「SNSの反応、見ていますか? 一応、状況の共有だけさせてください」という文面に続けて、いくつかのリンクが貼られていた。開いてみると、大手ゲームメディアが早速このニュースを取り上げていた。『新人配信者vs実力派プレイヤー、注目の対立構図』という、いかにも煽り気味の見出しが躍っている。


「うわ、もうメディアにまで取り上げられてるんですね……」


 記事の中身を読んでみると、これまでの経緯が、驚くほど詳細にまとめられていた。初撃破の話から、必殺技命名企画、そして今回の疑惑騒動まで。第三者の目を通して自分の歩みを見ると、まるで他人の物語を読んでいるような、不思議な感覚に襲われた。


 読み進めるうちに、自分でも忘れかけていた些細なエピソードまで丁寧に拾い上げられていることに気づいた。取材者は、相当な熱量を持ってこの記事を書いたに違いない。それだけの熱量を、自分という存在が引き出しているのだと思うと、不思議な気分になった。


【コメント】バズりすぎ

【コメント】これもう社会現象では

【コメント】るかの知名度、ここ数日で一気に跳ね上がった感ある


 記事の最後には、運営のコメントも小さく掲載されていた。「現時点で規約違反の事実は確認されていません」という、あくまで事務的な一文だったが、それでも公式が言及したという事実自体が、騒動にさらなる燃料を注いでいるようだった。


 実際、登録者数の伸び方も、これまでとは明らかに違っていた。画面の隅に表示された数字は「168,230人」。ここ数日だけで、二万人近く増えている計算になる。


「なんか、こういう形で数字が伸びるの、複雑ですね……嬉しいのか、そうでもないのか」


 正直な気持ちを吐露すると、コメント欄からも共感するような反応が返ってきた。


【コメント】まあ気持ちはわかる

【コメント】炎上商法とは違うから、その辺は安心していいと思うけど

【コメント】るかは変わらずいつも通りでいいよ


 ふと、以前見たCode-Xの動画のことを思い出した。あの人は、今回の騒動についても何か発信しているんだろうか。気になって検索してみると、案の定、新しい動画が投稿されていた。タイトルは『るか陣営vsレン陣営、冷静に見る争点整理』。


 再生してみると、いつも通りの落ち着いた声で、今回の対立の要点が、驚くほど中立的にまとめられていた。レン側の主張の妥当性、るか側の反応の一貫性、そして双方に共通する「証拠不足」という課題。感情論に流されず、あくまで事実ベースで語られるその内容に、俺は思わず感心してしまった。


「この人、本当にちゃんと調べてくれてるんですね……なんか、逆に信頼できる気がしてきました」


【コメント】Code-Xは変に煽らないから見やすいんだよな

【コメント】中立な立場の人がいるとありがたい

【コメント】この人の考察、そのうち本になりそう


 しばらくすると、朝霧さんから改めて連絡が入った。


「るかさん、Code-Xさんの動画、ご覧になりました?」


「あ、はい! ちょうど今見てたところです。すごく冷静にまとめてくれてて、なんか助かりました」


「ああいう中立的な立場の発信者がいてくれると、こちらとしても心強いです。もし今後、メディアから直接取材の打診があった場合は、必ず私を通してください。個別に対応する必要は一切ありませんので」


「わかりました……なんか、そこまで考えてなかったので、教えてもらえて助かります」


「るかさんは、いつも通り配信を続けることだけ考えていてください。それ以外の面倒事は、私が引き受けますから」


 頼もしい言葉に、俺は素直に安堵した。一人だったら、きっとどう対応すればいいかもわからず、右往左往していただろう。こうして専門的な視点で支えてくれる人がいるという事実だけで、状況の見え方が随分と変わってくる。誰かに任せていい部分と、自分で背負うべき部分。その線引きを、少しずつ覚え始めている自分にも、俺は小さな成長を感じていた。


 防衛戦の通知が届き、俺はいつも通り、担当エリアへ向けて歩き出す。


「よし、今日も頑張りますか。……あ、そういえば、レンさんの動画に対する反応、色々見てみたんですけど」


【コメント】お、どうだった?

【コメント】炎上ウォッチャー気分で聞いてるw


「賛成派と反対派、結構真っ二つに割れてる感じでした。中には、私のこと擁護してくれてる人もいて……なんか、それが一番びっくりしました」


 見ず知らずの誰かが、自分のために声を上げてくれている。その事実が、思っていた以上に胸に響いた。これまでの人生では、誰かに擁護してもらうという経験自体が、ほとんどなかった気がする。教室の隅で、誰かが自分の代わりに何かを主張してくれるなんて場面は、記憶を辿ってもついぞ思い出せなかった。


 歩きながら、俺はふと、SNSという場所の不思議さについて考えていた。顔も名前も知らない誰かたちが、それぞれの立場で、それぞれの思いを込めて言葉を交わしている。その一つ一つが、まるで独立した小さな世界のように広がっていく。自分という存在が、そんな無数の世界の中心に置かれていることに、まだ実感が追いついていなかった。


 考えてみれば、これまでの人生では、自分の存在がこんなふうに誰かの話題になることなんて、一度もなかった。良くも悪くも、空気のような存在として、目立たずに生きてきた。それが今では、見ず知らずの誰かたちが、自分のことをああでもないこうでもないと議論している。恐ろしいような、それでいてどこか誇らしいような、複雑な感情が入り混じっていた。


 討伐対象の反応が視界に浮かび上がる。いつも通り両腕を構え、迫る一撃を受け止めた。


「インパクトスマッシャー!」


 いつも通りの一撃で、敵の姿が崩れ落ちる。続けて現れた二体目、三体目にも、同じ要領で対処していく。今日はどこか、周囲の視線がいつもより多いような気がしたが、それが気のせいなのか、それとも本当に注目度が増しているせいなのか、判断はつかなかった。


【コメント】この状況でも安定の強さ

【コメント】メンタルすごいな

【コメント】いや、単純に鈍感なだけかもしれん


「鈍感って言われると否定できないのが辛いところですね……」


 苦笑しながらも、俺は残りの敵も丁寧に片付けていった。一体、また一体と、いつも通りのリズムで数を減らしていく。周囲の喧騒をよそに、この単調な作業だけは、不思議と心を落ち着かせてくれた。


 防衛戦を終え、拠点へと戻る道すがら、ふとハチからの連絡が届いた。


「るかちゃん、なんか大変なことになってるみたいだけど、大丈夫? 今日も一緒に回る?」


「あ、ハチさん! 大丈夫です、今日はもう防衛戦終わったところで」


「そっか。まあ、無理しないでね。あんまり気にしすぎると、いいプレイもできなくなるし」


 画面越しにもかかわらず、ハチの声には、いつも変わらない安心感があった。


「ハチさんも、あのSNSの騒動見てるんですか?」


「見てるっていうか、勝手にタイムラインに流れてくるんだよね。るかちゃんの名前、今どこ見ても目に入るもん」


「そんなにですか……なんか、想像以上に大ごとになってて、逆に実感湧かないです」


「まあ、当事者はそんなもんじゃない? 俺から見てても、るかちゃんは何も変わってないから、そこは安心していいと思うよ」


 さりげない気遣いに、俺はじんわりとした温かさを感じた。周りにこうして気にかけてくれる人がいるという事実だけで、この落ち着かない状況も、少しは乗り越えられる気がしてくる。


「ありがとうございます、ハチさん。なんか、話聞いてもらえるだけで随分楽になりました」


「困ったときはお互い様だって。それに、るかちゃんが変な方向に潰れちゃったら、俺も寂しいし」


 軽い調子でそう言われて、俺は思わず頬が緩んだ。友人からのこういう何気ない言葉が、今の自分にとって、どれだけ大きな支えになっているか、改めて実感させられる。


 配信を終え、いつものように現実へと戻る。夕食の席で、母さんが尋ねてきた。


「楓、あの喧嘩の件、まだ続いてるの?」


「うん、なんか、SNSでもすごい話題になってるみたいで」


「そう。大変ね」


 あっさりとした一言だったけれど、そこには確かな気遣いが滲んでいた。多くを語らないこの距離感が、今の俺には何よりありがたかった。


「楓は、その人のこと恨んだりしてないの?」


 思いがけない問いに、俺は少し考え込んだ。


「うーん、恨むっていうか……なんか、真剣に向き合ってくれてる感じはするので、悪い人じゃないんだろうなとは思ってます」


「そう。なら、そんなに心配しなくてもいいのかもね」


 母さんのシンプルな言葉に、俺は改めて肩の力が抜けるのを感じた。複雑に考えすぎていたことが、こうして誰かに話すことで、少しずつ整理されていく気がする。


 思えば、母さんはいつもこうだった。難しい理屈をこねるでもなく、余計な心配を押し付けるでもなく、ただシンプルな問いを投げかけて、あとは黙って見守ってくれる。その距離感に、俺はこれまでも何度も助けられてきた気がする。


 食後、部屋に戻ってから、俺はもう一度、今日一日の出来事を反芻していた。対立構図、メディアの報道、そして急激に伸びる登録者数。どれもこれも、自分一人ではコントロールできない、大きなうねりの中に放り込まれている感覚があった。


 それでも、不思議と嫌な気分ではなかった。むしろ、この騒動の中心にいながらも、周りに支えてくれる人たちがいる。その事実だけで、何とか踏ん張れる気がした。今の自分には、それだけで十分すぎるくらいだった。誰かに支えられているという実感が、これほど心強いものだとは、これまであまり知らずにいた。改めて、そのことに気づかされた一日だった。


 ベッドに横になり、天井を見上げる。明日、この構図がどう転がっていくのか、まだ何もわからない。それでも、逃げ出したいとは、今日も思わなかった。


 思えば、この一週間ほどで、自分を取り巻く環境は目まぐるしく変わり続けている。担当がつき、収益化が始まり、そして今度は思いがけない対立の渦中に立たされている。それぞれの出来事は、一つ一つを取り出せば、きっと誰かにとっては一大事のはずなのに、自分の中では奇妙なくらい、淡々と受け止められている自分がいた。


 もしかしたら、これも一種の慣れというやつなのかもしれない。予想外の出来事が立て続けに起きすぎて、驚くこと自体に、少しずつ慣れてきているんだろう。良いことなのか悪いことなのか、自分でもよくわからない。それでも、こうして毎日を乗り越えていけているという事実だけは、確かなものとしてそこにあった。


 スマホの画面に、もう一度Pulseのトレンド欄を表示させてみる。「神代レン」「るか」の文字は、相変わらず上位に並んでいた。それでも、明日にはまた別の話題に取って代わられるかもしれない。そういう移り変わりの速さもまた、この世界の一部なんだろう。


 画面を閉じて、俺は静かに目を閉じた。今日という一日を、少なくとも自分らしく乗り越えられた気がする。それだけで、十分だった。






【一般視聴者「深夜のROM専」視点】


 最近、タイムラインを開くたびに、同じ二つの名前が目に飛び込んでくる。「神代レン」「るか」。正直、最初はどうでもいい話題だと思っていた。


 それでも、気づけば俺も、いつの間にかこの騒動を追いかける一人になっていた。きっかけは、友人に勧められて見た「るか」の配信だった。あの飾らない喋り方、失敗も笑いに変えてしまう強さ、そして誰も予想しない強さ。見ているうちに、いつの間にか応援したい気持ちが芽生えていた。


 一方で、神代レンの動画も見てみると、そちらはそちらで、確かな説得力があった。データに基づいた冷静な指摘、そして何より、努力を積み重ねてきた人間だからこその説得力。どちらの言い分にも、一理あるように思えてしまう。


 俺自身、こういう対立構図をわざわざ煽り立てるような投稿は、あまり好きじゃない。それでも、タイムラインを開けば否応なく、そういった投稿が次々と流れ込んでくる。「るか信者」「レン信者」――そんなレッテルまで生まれ始めている光景を見ていると、なんとも言えない気持ちになった。


 仕事終わりの深夜、俺はいつものように、布団の中でスマホを眺めていた。今日一日だけでも、この話題に関する投稿は数えきれないほど流れてきた。中には、明らかに面白半分で煽っているだけの投稿も少なくない。当事者たちの気持ちなど二の次で、ただ「盛り上がるから」という理由だけで燃料を投下し続ける人たち。そういう光景を見るたびに、俺は少しだけ複雑な気分になった。


 それでも、心のどこかで、一つだけ確信していることがあった。どちらの人間も、悪意で動いているわけじゃない。ただ、それぞれの信じるもののために、真剣に向き合っているだけだ。だからこそ、この対立の行く末が、変な形で歪んでしまわないことを、俺は静かに願っていた。


 ふと、コメント欄で見かけた「るか」本人の発言を思い出す。「レンさんも、悪い人ではないと思う」――そう語る声には、皮肉も嫌味も感じられなかった。むしろ、相手の立場を尊重しようとする、素直な態度が滲んでいた。この温度感を見る限り、少なくとも「るか」の方から騒動を煽るようなことは、この先もなさそうだった。


 問題は、それを取り巻く周囲の熱狂の方だ。当事者同士が冷静でいようとしても、周りが勝手に対立を大きくしていく。そういう構造は、この手の炎上騒動によくあるパターンだと、俺は経験上知っていた。


 スマホの画面を閉じて、俺はもう一度、明日の展開に思いを馳せた。この騒動が、一体どんな結末を迎えるのか。今はまだ、誰にも予想がつかない。それでも、願わくば、当事者たちが望まない形で、この対立が独り歩きしないことを、俺は静かに祈っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ