第94話 予想外の人気
第94話です。
長期休暇も終わり、いよいよ学院生活が再開します!
エリアバトルで8位という好成績を残し、さらに大河とクララという二人のシルバーランカーを擁するスペースワンダフル。
その活躍は、本人たちが思っている以上に学院中で話題になっているようです。
一方、休暇中に新たなスキル《従魔契約》を獲得したライズ。
今回は、その能力を詳しく調べることになります。
果たして、ライズの新しい力にはどんな可能性が秘められているのでしょうか。
今回もよろしくお願いします!
長期休暇十三日目の朝、大河はエリカ診療所の庭で軽く身体を動かしていた。まだ陽射しの弱い庭には夜露が残り、踏みしめる土から湿った草の匂いが立ち上っている。大きく息を吸い込みながら腕を伸ばすと、昨日までの疲れが身体の奥にわずかに残っているのを感じた。
キングスカルノとの戦いから二日が過ぎ、あのとき受けた傷はエリカの治療ですっかり癒えていた。それでも、巨大な魔物が振り下ろした腕の重さや、地面を揺らした衝撃は、今も鮮明に思い出せる。大河は拳を握り、ゆっくりと足を踏み出した。以前より身体は強くなっているはずなのに、まだ足りないものがいくつもある。そう考えると、自然に動きへ力が入った。
「大河さん、休暇なのに朝から訓練なのです?」
窓から顔を出したポルポルが、眠たそうに目をこすりながら声をかけてきた。
「少しだけな。身体を動かしておかないと落ち着かないんだよ」
「ポルポルは休むことも大切だと思うのです」
「それは間違ってないけど、お前は休みすぎじゃないか?」
大河が笑うと、ポルポルは不満そうに頬を膨らませ、ふわふわと部屋の中へ戻っていった。
残り二日となった長期休暇は、仲間たちもそれぞれ自由に過ごすことになっていた。身体を鍛える者もいれば、街へ出かける者もいる。大河も無理なランキング挑戦は控え、午前中だけ身体を動かし、午後は診療所でエリカの手伝いをしながら穏やかな時間を過ごした。
十四日目も同じように過ぎていったが、その間に仲間たちから嬉しい知らせが届いた。
ルルが回復魔法ランキングでローランカーからミドルランカーへ昇格し、ライズも素手格闘ランキングでハイランカーになったという。二人とも休暇の最後まで挑戦を続けていたらしい。
大河はその報告を聞きながら、自分だけでなく仲間たちも着実に前へ進んでいることを実感した。昨日まで同じ場所に立っていたはずの仲間が、気づけば一歩先へ進んでいる。置いていかれたくないという気持ちと、仲間が強くなっていくことへの喜びが胸の中で重なり、大河は翌朝の学院再開が少し楽しみになっていた。
そして長期休暇が明けた朝。
学院へ続く坂道には、久しぶりに多くの生徒たちの姿があった。制服の裾を揺らしながら歩く者、休暇中の出来事を楽しそうに語り合う者、まだ眠気が抜けないのか大きな欠伸をする者。石畳を踏む靴音と笑い声が重なり、静かだった学院の周囲にいつもの活気が戻っていた。
大河はポルポルを肩の近くに浮かせながら、ライズたちと並んで坂を上っていた。
「それにしても、ライズがハイランカーか。すごいじゃないか」
大河が声をかけると、ライズは照れくさそうに頭をかいた。
「何とか昇格できたよ。でも、まだまだだ。大河の戦いを見ていると、もっと鍛えないといけないって思うからな」
「俺だって同じだよ。この前のキングスカルノみたいな相手がまた現れたら、今のままじゃ危ない」
「二人とも、朝から訓練の話ばっかりね」
クララが呆れたように笑うと、隣を歩いていたルルも小さく微笑んだ。
「でも、ライズさんが昇格できてよかったです」
「ルルだってミドルランカーになったんだろ。おめでとう」
トータに声をかけられたルルは、少し恥ずかしそうに視線を落とした。青い髪が頬にかかり、それを指先で耳にかけながら、小さな声で礼を言う。その姿を見て、大河は以前よりも彼女が仲間の会話に自然に加わるようになったことに気づいた。
学院の正門が見えてきたところで、大河は足を緩めた。
門の周辺に、妙に多くの生徒が集まっていた。普段なら登校する生徒たちがそのまま校舎へ向かう時間なのに、今日は何人もの生徒が門の近くに立ち止まり、誰かを待っているように通りを見渡している。
「何かあったのかな?」
大河が首を傾げた、そのときだった。
「あっ! 望月大河さんだ!」
突然、誰かが大きな声を上げた。
その声を合図にしたように、門の周辺にいた生徒たちが一斉にこちらを振り向いた。最初は数人だった視線が、次々に周囲へ広がっていく。
「スペースワンダフルの人たちだ!」
「本当に来たぞ!」
大河が状況を理解するより早く、生徒たちが駆け寄ってきた。足音が石畳に重なり、あっという間に周囲を囲まれてしまう。
「望月さん! スペースワンダフルに入れてもらえませんか!」
「僕も入会希望です!」
「まだメンバーを募集していますか?」
次々に差し出される手と、重なる声。大河は思わず半歩後ろへ下がったが、背後にも生徒が集まっており、簡単には動けそうになかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どういうことなんだ?」
困惑する大河の横では、トータが目を丸くして周囲を見渡していた。クララは突然の騒ぎに眉を寄せ、ルルは押し寄せる人波から逃れるように、大河の少し後ろへ身を寄せている。
「すごいことになったな……」
ライズが呆然と呟いた。
「まさか、ここまで話題になってるなんて」
その言葉に、大河も周囲を見渡した。集まっている生徒たちの表情には、興奮と期待が入り混じっている。誰もが自分たちに何かを伝えようとし、少しでも近づこうと身体を乗り出していた。
「エリアバトルで八位なんですよね!」
「しかもシルバーランカーが二人もいるって聞きました!」
「僕たちのグループじゃ、そんな成績は絶対に無理ですよ!」
生徒たちの声を聞いて、大河はようやく事情を理解し始めた。
長期休暇中に行われたエリアバトルで、スペースワンダフルは八位という結果を残している。しかも、所属する五人のうち二人がシルバーランカーという、学院でも珍しい構成だった。
自分たちにとっては必死に戦った結果にすぎなかったが、周囲の生徒たちから見れば、かなり注目される存在になっていたらしい。
「大河さん、人気者なのです!」
ポルポルが嬉しそうに宙を舞う。
「いや、喜んでる場合じゃないだろ!」
大河が返事をした瞬間、また別の生徒が前へ出てきた。
「僕、料理ランキングに挑戦してるんです! 戦闘は得意じゃないですけど、入れてもらえませんか?」
「魔道具の製作なら自信があります!」
「知識ランキングで上位を目指してます。役に立てると思います!」
戦闘系のランキングだけでなく、さまざまな分野の生徒が入会を希望しているらしい。大河は一人ひとりの顔を見ようとしたが、次から次へと声をかけられ、誰が何を話しているのかもわからなくなってきた。
「ちょっと、みんな落ち着いて!」
クララが声を張り上げた。
その声に何人かが足を止めたものの、後ろから押し寄せる生徒たちの勢いはなかなか収まらない。大河は仲間たちと顔を見合わせ、どうしたものかと頭を抱えた。
「これ、全員の話を聞いてたら授業に間に合わないぞ」
トータが苦笑する。
「そもそも、俺たちのグループは十人までだろ?」
ライズの言葉に、大河は頷いた。現在のメンバーは五人。新しく加入できるのは、あと五人だけだった。
目の前にいる生徒だけでも、その数をはるかに超えている。さらに後ろの方では、順番を待っているらしい生徒たちが何人も手を振っていた。
「みんな、聞いてくれ!」
大河は少し声を張り上げた。
ざわめきが徐々に小さくなり、集まっていた生徒たちの視線が一斉に向けられる。その数の多さに一瞬言葉が詰まったが、大河は小さく息を吸い、できるだけ落ち着いた声で続けた。
「入会を希望してくれるのは嬉しい。でも、俺たちもこんなに希望者がいるとは思ってなかったんだ。だから、すぐに誰かを選ぶことはできない」
前列にいた生徒たちが、互いに顔を見合わせた。
「じゃあ、募集はしないんですか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、どうやって選ぶかも決めてないから、少し時間をもらいたいんだ」
大河は仲間たちへ視線を向けた。ライズが頷き、クララもそれでいいというように小さく手を上げる。
「新しいメンバーの募集は、ひとまず保留にさせてほしい。方針が決まったら、ちゃんと知らせるから」
しばらく不満そうな声も聞こえたが、やがて生徒たちは少しずつ道を開け始めた。大河たちは何度も礼を言いながら人垣を抜け、ようやく学院の敷地へ入ることができた。
門をくぐったところで、トータが大きく息を吐いた。
「いやあ、すごかったな。あんなに囲まれたの初めてだよ」
「私、途中から何人いるのかわからなくなったわ」
クララが乱れた髪を整えながら言うと、ルルも静かに頷いた。大河は振り返って正門の方を見た。まだ何人かの生徒がこちらを見ており、その中には入会希望を書いた紙を握りしめている者もいる。
「……俺たち、そんなに有名になってたんだな」
誰に聞かせるでもなく呟くと、ライズが隣で苦笑した。
「エリアバトル八位って、俺たちが思ってた以上に大きな結果だったんだろうな」
大河はもう一度門の方へ目を向けた。王になるためにランキングを上げることばかり考えていたが、順位が変われば周囲の見方も変わる。そんな当たり前のことを、今日初めて実感した気がした。
やがて授業開始を知らせる鐘が鳴り響き、生徒たちはそれぞれの教室へ向かって歩き始めた。
午前中の授業では、大河も何度か周囲から声をかけられた。休暇中のエリアバトルについて質問され、どんな戦いをしたのか聞かれることもあったが、授業が始まると教室にはいつもの空気が戻ってきた。
窓から差し込む陽射しが机の表面を照らし、教師の声が教室の奥まで響いている。大河は久しぶりの学院の雰囲気を感じながら、授業に集中した。
午後の授業が終わるころには、朝の騒ぎも少し落ち着いていた。
大河たちは校舎の廊下で合流し、学院長室へ向かうことにした。ライズが新しく獲得した《従魔契約》について、スキルブックで詳しく調べるためだった。
学院長室の前に到着すると、大河は扉を軽く叩いた。
「どうぞ」
落ち着いた声が聞こえ、扉を開ける。
室内には古い木製の家具が並び、壁には学院の歴史を記した絵画や賞状が飾られていた。大きな窓からは中庭が見え、夕方に近づいた陽射しが机の上の書類を柔らかく照らしている。
学院長ボーデンは書類から顔を上げると、大河たちを見て穏やかに微笑んだ。
「おお、君たちか。長期休暇はどうだったかな?」
「いろいろありましたけど、いい経験になりました」
大河が答えると、ボーデンは楽しそうに頷いた。
「エリアバトル八位、おめでとう。学院でもずいぶん話題になっているようだね」
「今朝、身をもって知りました」
大河が苦笑すると、ボーデンも小さく笑った。
「それで、今日はどうしたのかな?」
「実は、ライズが新しいスキルを獲得したんです。スキルブックで詳しく調べたいので、閲覧の許可をいただけませんか?」
ボーデンの視線がライズへ向いた。
「ほう、新しいスキルか。何という名前だね?」
「《従魔契約》です」
その名前を聞いたボーデンは、わずかに眉を上げた。
「珍しいスキルを手に入れたものだね。もちろん構わないよ。しっかり調べてくるといい」
許可を得た大河たちは礼を言い、スキルブックが保管されている部屋へ向かった。
重厚な扉を開けると、古い紙と革の匂いが漂ってきた。高い書棚が壁一面に並び、窓から差し込む光の中で細かな埃がゆっくりと舞っている。部屋の中央には大きな机が置かれ、その上に分厚いスキルブックが静かに収められていた。
ライズは本の前に立ち、少し緊張した様子で表紙を見つめた。
「これに、俺のスキルのことも書いてあるんだな」
「前にトータの《目印》を調べたときも、詳しく載ってたからな」
大河が答えると、ライズは頷き、ゆっくりと本を開いた。
厚いページが擦れる音が静かな室内に響く。ライズが《従魔契約》の項目を探すと、やがてページの中央に文字が浮かび上がった。
『従魔契約』
その下には、能力の説明が細かく記されていた。
ライズは指先で文字を追いながら、慎重に読み進めた。
「魔物を倒したあとに、契約を試みることができる……ただし、必ず成功するわけではない」
「倒せば仲間になるってわけじゃないんだな」
トータが横から覗き込むと、ライズは頷いた。
「それだけじゃない。倒さなくても、魔物が契約に応じれば成立するらしい」
「じゃあ、戦わずに仲間にできる可能性もあるのね」
クララが興味深そうに身を乗り出した。
ライズはさらに読み進めた。幼い魔物や穏やかな性格の魔物、弱っている魔物は比較的契約しやすく、興奮して暴れている魔物ほど難しいらしい。また、契約できる魔物は一度に一体までで、別の魔物と契約したい場合は現在の契約を解除する必要があると記されていた。
「契約した魔物は召喚したり、戻したりできるのか」
「ずっと連れて歩かなくてもいいんだな」
大河が感心すると、ライズはさらにページへ目を近づけた。
「それに、総合格闘やスキル格闘のランキングでも使用できるって書いてある」
その言葉を聞いた大河は、ライズの横顔を見つめた。これまで素手格闘を中心に鍛えてきた彼にとって、従魔と一緒に戦うというのは、まったく新しい可能性になるはずだった。
ライズも同じことを考えたのか、しばらく黙って文字を見つめていた。
「……これなら、俺にも新しい戦い方ができるかもしれないな」
そう呟いたあと、ライズはページの下に続く文字へ目を移した。
そこには、進化先として別のスキル名が記されていた。
「……《従魔王》?」
ライズが声に出すと、全員が本へ顔を近づけた。
進化後の能力として記されていたのは、最大十体の魔物と契約でき、さらに契約した魔物を同時に召喚することも可能になるというものだった。
「十体!?」
トータの声が静かな部屋に響いた。
「そんなにたくさんの魔物を従えられるのかよ!」
クララも目を丸くして説明を読み直している。ルルは驚いたように口元へ手を添え、ポルポルはライズの肩の周りを興奮した様子で飛び回っていた。
「ライズさんが魔物の王様になるのです!」
「まだ一体も契約してないんだけどな」
ライズは苦笑したが、その視線はスキルブックから離れなかった。
十体の魔物を従え、同時に戦わせる。そんな光景がどれほど先の未来にあるのか、今は想像もつかない。けれど、目の前の文字は確かに、自分にもそこへ至る道があることを示していた。
ライズはゆっくりと右手を持ち上げ、拳を握った。何度も訓練を重ね、傷だらけになった手のひらを見つめてから、再び本へ視線を戻す。
「すごいな……俺の未来って、こんな可能性があるのか」
その声には、いつもの明るさとは少し違う響きがあった。
大河は隣に立ちながら、何も言わずにライズの横顔を見ていた。昨日まで拳一つで戦っていた仲間が、今は新しい力を手に入れ、その先に広がる未来を見つめている。自分もまた、この世界へ来たばかりのころは、王になるという途方もない目標を前に立ち尽くしていた。
「まずは一体目からだな」
大河が声をかけると、ライズは顔を上げた。
「そうだな。いきなり十体なんて無理だし、まずは契約できる魔物を探さないと」
「だったら、次の休みに冒険者ギルドへ行ってみないか?」
トータが提案すると、クララも頷いた。
「依頼を受けながら探せば、訓練にもなるしね」
ルルは少し考えてから、控えめに口を開いた。
「危険の少ない魔物から探せるといいですね」
「そうだな。無理に強い魔物を狙う必要はないよ」
大河が答えると、ライズは仲間たちを順番に見渡した。誰もが当然のように自分のために時間を使おうとしてくれている。そのことに気づいたのか、ライズは少しだけ目を伏せ、照れくさそうに笑った。
「ありがとう、みんな。次の休み、付き合ってくれるか?」
「もちろんだよ」
大河が答えると、トータも笑いながら肩を叩いた。
「どんな魔物が仲間になるか、楽しみだな!」
スキルブックを閉じると、重い表紙が静かな音を立てた。窓の外では夕陽が学院の屋根を赤く染め始め、書棚の影が床の上へ長く伸びている。
大河はライズと並んで部屋を出ながら、次の休日のことを考えていた。
キングスカルノとの戦いを終え、仲間たちはそれぞれ新しい力を手に入れた。そして今度は、その力をどう使い、どこまで伸ばしていくのかを考える段階に来ている。
廊下の先からは、まだ学院に残っている生徒たちの声が聞こえていた。朝の入会希望者たちのことも、いずれきちんと考えなければならない。
けれど今は、隣を歩くライズの表情が、何よりも印象に残っていた。
まだ見ぬ従魔との出会い。
それがどんな未来につながっていくのか、大河にもわからない。
ただ、次の休日がいつもとは少し違う冒険になりそうなことだけは、確かな気がしていた。
第94話を読んでいただき、ありがとうございました!
長期休暇が終わり、久しぶりの学院生活が始まりました。
しかし、登校初日から大河たちは大勢の入会希望者に囲まれることに!
エリアバトル8位という実績と、二人のシルバーランカーの存在が、想像以上の注目を集めていたようです。
現在のスペースワンダフルは五人。最大十人まで所属できるため、新たな仲間を迎える余地はありますが、誰を選ぶのか悩ましいところですね。
そして、今回明らかになったライズの《従魔契約》。
魔物と契約し、召喚して一緒に戦えるという珍しい能力です。
さらに進化先の《従魔王》では、最大十体の魔物を同時に召喚できることも判明しました!
まずは最初の一体を見つけることが目標になります。
どんな魔物がライズの仲間になるのか、今後の展開を楽しみにしていてください。
面白かった、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
次回もよろしくお願いします!




