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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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93/96

第93話 新たな可能性

第93話です。


A級魔物《キングスカルノ》を討伐し、初めての冒険者依頼を成功させたスペースワンダフル。


しかし、今回の戦いでは仲間たちの成長とともに、今後の課題も見えてきました。


特にトータの《目印》は強力な反面、敵に直接触れなければならないという危険な弱点があります。


そこで大河たちは、手に入れた報酬を使ってスキルの進化と新たなスキルの獲得に挑戦することに。


果たして、仲間たちに新しい力は宿るのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

 長期休暇十二日目の朝。


 エリカ診療所の窓から差し込む陽射しは、昨日よりも少し暖かく感じられた。庭先では小鳥が鳴き、開け放した窓から流れ込む風が、食卓に置かれた薄い布を静かに揺らしている。


 大河は椅子に腰掛けたまま、右手を握ったり開いたりしていた。指先に痛みはなく、腕を伸ばしても肩に違和感はない。昨日のキングスカルノとの戦いでは何度も死を覚悟したが、一晩眠り、エリカの治療を受けた身体は驚くほど軽くなっていた。


「大河さん、今日は何個買うのです?」


 食卓の上をふわふわと漂っていたポルポルが、期待に満ちた目で顔を覗き込んできた。


「まだ決めてないよ。まずはトータの結果を見てからかな」


「一個で進化したら大儲けなのです!」


「一個百万マールもするんだけどな」


 大河が苦笑すると、ポルポルは得意げに胸を張った。昨日、冒険者ギルドで受け取ったキングスカルノの討伐報酬は四百万マール。決して小さな金額ではないが、スキルの実を四個買えば消えてしまう。命懸けで戦った報酬が、ほんの数粒の果実に変わると考えると、さすがに気軽な買い物とは言えなかった。


 昨日の帰り道、大河は仲間たちに報酬の使い道を相談した。キングスカルノとの戦いで、トータの《目印》がどれほど重要な役割を果たしたか、全員が身をもって知っている。もしあの能力が進化すれば、次に強敵と戦うとき、仲間を危険にさらす場面を減らせるかもしれない。


 大河の提案に仲間たちは驚いたが、トータが遠慮する必要はないことを伝えると、最後には全員が賛成してくれた。スキルの実だけでなく、まだスキルを持っていない仲間たちも種に挑戦してみようという話になり、今日の予定が決まったのだった。


 それでも、トータの《目印》が進化する可能性には、それだけの価値があるように思えた。あの五秒間がなければ、キングスカルノを倒すことはできなかったかもしれない。大河は戦いの最後に見た光景を思い返しながら、残っていたお茶を飲み干した。


 ランキング協会の前に到着すると、すでに仲間たちが待っていた。


 朝の大通りには荷車の車輪が石畳を叩く音が響き、協会へ出入りするランカーたちの姿も多い。白い建物の壁には陽射しが反射し、入口の脇に植えられた木々の葉が風に揺れていた。


「おはようございます、大河さん」


 最初に気づいたのはルルだった。青いボブヘアを耳にかけながら微笑む彼女の隣では、クララが何やらトータに話しかけている。


「だから、失敗しても落ち込まないこと。わかった?」


「わかってるって。そんなに心配しなくても大丈夫だって」


 軽い調子で答えるトータだったが、落ち着きなく動く指先が、その言葉ほど余裕のないことを物語っていた。ライズは少し離れたところで腕を組み、協会の入口を見上げている。


「みんな早いな」


「今日は楽しみだからな。俺もスキルの種を試せるし」


 ライズはそう言って笑ったが、その視線はすぐに協会の奥へ向かった。昨日の戦いで、自分に何ができたのか。そんなことを考えているのだろうかと、大河は横顔を見ながら思った。


 全員が揃ったところで建物に入り、普段利用するランキング受付とは別の通路へ進む。磨かれた床には高い窓から光が落ち、廊下の奥には薬草に似た甘い香りが漂っていた。


 スキル販売所を訪れるのは、大河にとって二度目だった。以前ここで《スキルの種》を一個購入し、《火力マックス》を獲得している。あのときは自分の能力が増えることに驚くばかりだったが、今日は仲間たちのために訪れたという違いがあった。


 木製の棚には小さな箱や透明な容器が整然と並び、奥の壁にはスキルに関する古い書物が何冊も収められている。中央には大きなカウンターがあり、その脇に置かれた真鍮色の魔道具が、大河の目を引いた。


「いらっしゃいませ!」


 明るい声とともに、カウンターの向こうから若い女性が顔を上げた。肩のあたりで揺れる髪を整え、親しみやすい笑顔を浮かべている。


「スキルの実と種をお探しですか? 私はミレイです。ご案内しますね!」


 その奥では、五十歳ほどに見える女性が椅子に腰掛け、分厚い帳簿をめくっていた。こちらに目を向けたものの、すぐに視線を紙面へ戻してしまう。


「……朝から大勢だね。全員が挑戦するのかい」


「マーサさん、そんな言い方しないでくださいよ」


「人数を聞いただけだろうに」


 マーサと呼ばれた女性は面倒そうに帳簿を閉じると、ゆっくり立ち上がった。その動作には気だるさがあったが、大河たちの顔を見渡す目は意外なほど鋭かった。


 まずトータがスキルの実を試すと伝えると、ミレイは棚から小さな木箱を取り出した。蓋が開かれると、柔らかな布の上に、赤みを帯びた丸い果実が二つ並んでいた。親指ほどの大きさしかないが、表面には細かな金色の筋が走っている。


「一個百万マールになります。進化する保証はありませんので、そこだけはご了承ください」


「わかってます。まず一個、お願いします」


 トータが答えると、大河は持参した討伐報酬から百万マールを取り出し、カウンターへ差し出した。ミレイは金額を確かめてから、果実を小皿に載せてトータの前へ置いた。


「それじゃ、いくぞ」


 仲間たちに見守られながら、トータは果実を口に運んだ。薄い皮が歯の間で弾け、甘酸っぱい香りがふわりと広がる。思っていたより普通の果物に近かったらしく、彼は一度だけ目を丸くしてから飲み込んだ。


 しばらく待っても、身体に目立った変化は起こらなかった。


「……どうなんだ?」


「見た目じゃわからないよ。こっちへおいで」


 マーサが顎で示したのは、先ほど大河が気になっていた真鍮色の魔道具だった。


 形は地球で見た顕微鏡に似ている。ただし、レンズの下には標本を置く台ではなく、人間の手を載せられるほどの平たい板が取り付けられていた。


「これ、前に使ったやつじゃん」


 トータが魔道具へ歩み寄ると、マーサは小さく頷いた。


「なら使い方はわかるね。ほかの子たちは初めてかい?」


 大河たちが頷くと、マーサは装置の側面にある小さな調整輪を指先で回した。


「身体に宿っているスキル波動を読み取る道具さ。レンズを覗くと、染色体みたいな複雑な波動が見える。その形を過去の記録と照らし合わせて、スキルの名前に変換するんだよ」


「そんな仕組みなんですね」


 大河は興味深そうに装置を眺めた。以前《火力マックス》を獲得したときは、ランキングカードに表示された名前で確認したため、この魔道具を使ったことはなかった。


「進化していれば、名前が変わるってことですね」


「そういうこと。ほら、覗いてごらん」


 トータは慣れた様子で右手を台に載せ、接眼部へ顔を近づけた。


 レンズの奥には淡い光が漂い、その中心で細長い糸のようなものが幾重にも絡み合っていた。二本の線が寄り添うように伸び、ところどころで枝分かれしている。しばらくすると輪郭がぼやけ、代わりに文字が浮かび上がった。


「……《目印》」


 トータの肩がわずかに下がった。


「うわー、変わってなかった」


「残念でしたね。でも、一度で進化する方が珍しいんですよ」


 ミレイが優しく声をかけると、トータは苦笑しながら顔を上げた。


「もう一個、お願いします」


「おい、無理するなよ」


 大河が声をかけると、トータは一瞬だけこちらを見た。昨日、キングスカルノの巨大な身体へ飛び込み、必死に印を付けたときの顔が重なった。


「昨日の戦いで思ったんだ。俺のスキル、もっと役に立てるようにしたいって。だから、もう一回だけ試したい」


 その言葉を聞いて、大河はそれ以上止めなかった。


 二個目の代金を支払い、果実を受け取ったトータは、今度は迷わず口に入れた。噛み砕く音が小さく響き、飲み込んだあと、すぐに鑑定台へ手を伸ばす。


 全員が息を潜めた。


 トータがレンズを覗き込んだまま動かなくなったのは、それから数秒後だった。


「……え?」


「どうした?」


 ライズが身を乗り出す。


 トータは返事をせず、接眼部から一度顔を離した。信じられないものを見たように目を瞬かせ、もう一度覗き込む。


「《必中刻印》……?」


 その声を聞いたマーサが、勢いよく顔を上げた。


「ちょっと、どいてごらん!」


 先ほどまでの気だるさはどこへ消えたのか、マーサはトータの隣へ歩み寄り、レンズを覗き込んだ。調整輪をわずかに動かすと、口元がゆっくり持ち上がる。


「……本当だ。《必中刻印》になってるじゃないか!」


「進化したんですか!」


 ミレイの声が店内に響いた。


 トータは自分の右手を見つめたまま、しばらく何も言えなかった。昨日まで《目印》と呼ばれていた能力が、別の名前を持つスキルへ変わった。その事実を確かめるように、何度も指を曲げ伸ばししている。


「やったじゃないか、トータ!」


 大河が肩を叩くと、ようやくトータの顔がほころんだ。


「大河さん……俺、本当に進化したんだな」


「そうだよ。おめでとう」


 クララが勢いよく背中を叩き、ルルも嬉しそうに拍手した。ポルポルはトータの頭上をくるくる回りながら、まるで自分が進化したかのようにはしゃいでいる。


「すごいのです! これでトータさんもパワーアップなのです!」


 大河は昨日のキングスカルノとの戦いを思い返した。あの巨大な魔物に近づき、危険を冒して《目印》を付けたトータの姿が、今も鮮明に残っている。


「これで、離れたところから印を付けられるんだよな」


 大河が声をかけると、トータは何度も頷いた。


「そうだよ! しかも、一度印を付ければ五秒で消えることもない。昨日これが使えてたら、もっと楽に戦えたかもしれないな」


「印を避けられる可能性はあるけど、当たれば攻撃は避けられなくなるんだよね」


 クララの言葉に、トータは嬉しそうに笑った。


「防御はされるけどな。それでも、今までとは全然違うよ!」


 以前スキルブックで確認した進化後の能力が、ようやく現実のものになった。トータの笑顔を見ながら、大河は昨日の自分の提案が間違っていなかったことを実感していた。


 続いて大河もスキルの実を一個購入した。


 百万マールという金額を聞いても、以前ほど驚かなくなっている自分に気づき、少し複雑な気分になる。もっとも、それだけの金を使って何も得られなければ、やはり惜しいことに変わりはない。


 果実を食べ終え、鑑定台へ手を置く。


 初めて覗くレンズの向こうでは、見覚えのない複雑な波動がゆっくりと揺れていた。細い線が絡み合い、光の粒がその間を流れていく。やがて現れた文字を見て、大河は小さく息を吐いた。


《火力マックス》


 以前と同じ名前だった。


「うー駄目だったか」


 顔を上げると、ポルポルが心配そうに近づいてきた。


「もう一個買うのです?」


「いや、今日はやめておくよ。トータが進化したんだから、それで十分だ」


 そう答えながらトータを見ると、彼はまだ鑑定台のそばで、ミレイから祝福の言葉をかけられていた。普段は軽口ばかり叩いている男が、照れくさそうに何度も頭を下げている。その姿を見ていると、百万マールを使ったことよりも、昨日の戦いが彼に新しい道を開いたことの方が、ずっと大きく感じられた。


 次はスキルの種だった。


 ミレイが持ってきた小箱には、茶色い小さな種がいくつも収められていた。見た目は植物の種とほとんど変わらず、これが人間の能力を変えるものだとは、とても思えない。


「一個一万マールです。スキルを獲得できるのは、だいたい二十人に一人くらいと言われています」


「そんなに少ないのか」


 ライズが種をつまみ上げると、マーサが椅子に腰掛けながら口を挟んだ。


「本人の適性も関係するからね。最近の統計じゃ、魔法能力が高い人ほど発現しにくい傾向があるらしいよ」


「へえ、そうなんですか」


 大河は意外に思った。魔法を使える人間ほど、スキルも簡単に身につけられるような気がしていたからだ。


「昔はそんなこともわかってなかったんだけどね。長年の記録を調べて、ようやく傾向が見えてきたのさ」


 マーサはそう言って肩をすくめた。


 最初に挑戦したのはライズだった。


 一個目を食べ、魔道具に手を置く。レンズの奥には細かな光の粒が漂っていたが、いつまで待っても文字は現れなかった。


「うわー駄目か」


 ライズは静かに顔を上げた。予想していた結果だったのか、表情に大きな変化はない。それでも、手を台から離すまでには少し時間がかかった。


「もう一個やってみる」


 彼が二個目の種を受け取る間、クララも五個の種を選んだ。大河がまとめて代金を支払うと、クララは申し訳なさそうに彼を見た。


「本当にいいの?」


「昨日みんなで決めただろ。せっかくの報酬なんだから、遠慮しなくていいよ」


「じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」


 クララは小さく微笑み、種を一つ手に取った。


 一個ずつ食べ、そのたびに鑑定台へ手を載せる。しかし、レンズの奥に文字が浮かぶことはなかった。三個目を終えたあたりから口数が減り、五個目の鑑定を終えると、クララは接眼部から顔を離して天井を見上げた。


「……五個とも駄目だったわ」


「残念でしたね」


 ミレイが申し訳なさそうに眉を下げる。


「まあ、仕方ないわね。そんなに簡単に手に入るものじゃないんでしょうし」


 クララはそう言いながらも、空になった小皿をしばらく眺めていた。


 続いてルルが三個の種を試したが、結果は同じだった。


 最後の鑑定を終えたルルは、静かに息を吐いて髪を耳にかけた。少しだけ残念そうな顔をしたものの、すぐに大河たちへ向き直る。


「私は駄目でした。でも、トータさんが成功しただけでもよかったですね」


「まだライズがいるのです!」


 ポルポルの声に、全員の視線がライズへ集まった。


 彼は二個目の種を指先で転がしていた。小さな茶色い粒を見つめる目には、どこか真剣なものが宿っている。


「これで最後にするよ」


 ライズは種を口に入れ、ゆっくり噛み砕いた。わずかな苦みが舌に広がったのか、眉を寄せながら飲み込む。


 そして鑑定台の前に立ち、右手を載せた。


 レンズを覗き込んだライズは、最初のうち何も言わなかった。周囲では誰も声をかけず、窓の外から聞こえる荷車の音だけが妙にはっきりと耳に届いていた。


 やがてライズの背筋が伸びた。


「……文字が出た」


「えっ?」


 クララが真っ先に反応する。


「何て書いてあるの?」


 ライズは接眼部に顔を近づけたまま、文字を一つずつ確かめるように読んだ。


「《従魔契約》……」


 マーサが椅子から立ち上がった。


「《従魔契約》だって?」


 今度はトータのとき以上に素早く鑑定台へ近づき、ライズと場所を替わってレンズを覗き込む。


「……へえ、こいつは珍しいね。本当に《従魔契約》だよ!」


 マーサの声が弾んだ。


「やりましたね、ライズさん!」


 ミレイが両手を合わせて喜ぶと、ライズは呆然としたまま仲間たちを振り返った。


「俺にも……スキルができたのか」


 その言葉を聞いた大河は、昨日の戦いを思い返した。強大な魔物を前にしても、ライズは最後まで逃げなかった。自分にできることを探し、仲間と一緒に戦い続けていた。


「おめでとう、ライズ」


 差し出した手を、ライズが強く握り返してきた。


「ありがとう。これで俺も、もっとみんなの役に立てるかもしれない」


「何言ってるんだよ。今だって十分助かってるよ」


 大河がそう言うと、ライズは少し照れくさそうに視線を落とした。


「それで、従魔契約ってどんなスキルなんですか?」


 ルルの問いに、マーサは少し考えるように顎へ手を添えた。


「《従魔契約》かい。珍しいスキルだね。名前の通り、魔物を従魔にできる能力だと思うよ」


「魔物を仲間にできるのか!」


 トータが目を輝かせると、ライズも驚いたように自分の右手を見つめた。


「どんな魔物でも契約できるんですか?」


「そこまではわからないね。詳しい条件はスキルブックで調べることだよ」


 マーサはそう言って、鑑定用の魔道具を軽く叩いた。


「こいつにわかるのは、スキルの名前までだからね」


 ライズは自分の右手を見下ろした。これまで何度も拳を握り、素手格闘の訓練を重ねてきた手だった。大河たちに少しでも追いつこうと、何度も汗を流してきた。その手に、今まで持っていなかった新しい力が宿っている。ライズはゆっくりと指を曲げ、確かめるように拳を握ると、口元に小さな笑みを浮かべた。


「だったら、S級魔物の幼体なんてどう?」


 クララが冗談めかして言うと、トータが声を上げて笑った。


「そんなの見つかったら苦労しないって!」


「でも、夢は大きい方がいいのです!」


 ポルポルまで話に加わり、店内には明るい笑い声が広がった。


 ライズも笑っていたが、その視線は何度も自分の右手へ戻っていた。まだ見ぬ魔物との出会いを想像しているのかもしれない。


 販売所を出るころには、太陽がすっかり高く昇っていた。大通りには買い物客が行き交い、軒先に並べられた果物が陽射しを受けて鮮やかに輝いている。どこからか焼いた肉の香ばしい匂いが漂ってくると、ポルポルが真っ先に反応した。


「大河さん、お腹が空いたのです!」


「さっき朝ご飯を食べただろ」


「スキルの進化と発現をお祝いするのです!」


 もっともらしい理由をつけるポルポルに、大河は思わず笑ってしまった。確かに今日は急いで帰る必要もない。昨日は命懸けで戦ったのだから、こんな一日があってもいいだろう。


「せっかくだし、みんなで昼飯でも食べて帰らないか?」


 大河の提案に反対する者はいなかった。


 通り沿いの食堂に入ると、店内には焼きたてのパンと煮込み料理の匂いが満ちていた。窓際の大きな席に腰を下ろし、それぞれ料理を注文する。やがて運ばれてきた皿には、こんがり焼かれた肉と色鮮やかな野菜が盛り付けられ、湯気の向こうで香草の香りが広がっていた。


「それにしても、トータのスキルが本当に進化するとはな」


 ライズが肉を切り分けながら言うと、トータは嬉しそうに右手を持ち上げた。


「俺もびっくりしたよ。早く試してみてぇ」


「ライズさんのスキルも、学院が始まったら調べられますね」


 ルルが微笑むと、クララも頷いた。


「魔物と契約できるなんて、面白そうじゃない」


「まずはスキルブックで詳しく調べないとな。どんな魔物と契約できるのかもわからないし」


 ライズはそう答えながら、窓の外へ目を向けた。通りの向こうでは荷馬車がゆっくりと進み、その脇を小さな子供たちが駆け抜けていく。


「早く自分の従魔を連れて戦ってみたいな」


「だったら、休みの間に探しに行くのもいいんじゃないか?」


 トータの言葉に、ライズは少し驚いた顔をした。


「まだ能力もよくわかってないんだぞ」


「だから、まずは調べるんだよ。学院が始まってからでもいいしさ」


 大河は二人のやり取りを聞きながら、温かいスープを口に運んだ。香草の風味が舌に広がり、昨日の戦いで張り詰めていた気持ちが、ようやくほどけていくようだった。


「まあ、焦る必要はないよ。せっかくの長期休暇なんだし、今日はゆっくりしよう」


「賛成なのです! ポルポルはおかわりが欲しいのです!」


 いつの間にか皿を空にしていたポルポルが、元気よく小さな手を上げた。


「お前は本当に食べることばっかりだな」


 大河が呆れると、テーブルを囲んだ仲間たちから笑い声が上がった。


 食事が終わっても、誰もすぐには席を立たなかった。これから挑戦したいランキングのこと、学院での訓練のこと、次に冒険者ギルドで受ける依頼のこと。話題は次々に移り変わり、窓から差し込む陽射しも、いつしか柔らかな午後の光へと変わっていた。


 大河は仲間たちの顔を順番に眺めた。昨日は同じ場所で命を懸けて戦い、今日はこうして食卓を囲んで笑っている。王を目指すためにこの世界へ来たはずなのに、いつの間にか、こうした何気ない時間も大切なものになっていた。


 やがて店を出るころには、街を吹き抜ける風も少し涼しくなっていた。


 大河は仲間たちと別れ、エリカ診療所へ戻った。


 西日が窓から差し込み、室内の棚に並んだ薬瓶を琥珀色に染めている。薬草を煮出した独特の香りが漂う奥の部屋では、エリカが診療記録を整理していた。


「おかえり、大河くん。今日はずいぶん遅かったのう」


「ただいま戻りました。実は、みんなでスキルの実と種を試してきたんです」


 大河が椅子に腰掛け、トータの進化とライズのスキル発現について話すと、エリカは興味深そうに耳を傾けた。


「ほう、《必中刻印》に《従魔契約》か。二人とも、よいものを手に入れたのう」


「そうなんですよ。俺は進化しませんでしたけど、二人が成功したのでよかったです」


 エリカは湯気の立つカップを手に取り、しばらく考えるように目を細めた。


「それにしても、スキルの種か……懐かしいのう」


「エリカさんも試したことがあるんですか?」


「あるとも。わしなんぞ百回以上挑戦したが、一度も発現せんかったわい」


「百回以上ですか?」


 大河は思わず身を乗り出した。


 エリカほどの回復魔法の使い手なら、スキルも簡単に獲得できそうなものだと思っていた。しかし、彼女は苦笑しながら首を振った。


「何度食べても、さっぱりじゃった。若いころは、わしにはスキルの才能がないのかと思ったものじゃ」


「そういえば、今日お店で聞いたんですけど……」


 大河はマーサから聞いた話を思い出し、魔法能力が高い人ほどスキルが発現しにくいという統計について説明した。


 エリカの手が止まった。


 カップを口元へ運びかけた姿勢のまま、大河をじっと見つめている。


「……なんと、そういうことじゃったか」


 やがてカップを静かに置くと、エリカは小さく頷いた。


「なら納得じゃわい。わしが挑戦しておったころには、そんな話は聞いたこともなかったからのう」


「長い間、理由がわからなかったんですね」


「そうじゃな。まさか、得意な魔法が邪魔をしておったかもしれんとは思わなんだ」


 エリカは窓の外へ目を向けた。夕暮れの空には薄い雲が流れ、庭の木々が柔らかな風に揺れている。


 数百年を生きてきた彼女にも、知らないことはまだあるのだろう。大河はその横顔を見ながら、今日の販売所で見た光景を思い返した。


 スキルの波動を読み取る魔道具。進化したトータの驚いた顔。そして、新しい力を手に入れたライズが、自分の手を見つめていた姿。


 この世界には、まだ知らない仕組みがいくつもある。


 その一つを知るたびに、進むべき道が少しずつ広がっていくような気がした。


「大河さん、次はきっと進化するのです!」


 窓辺から飛んできたポルポルが、励ますように肩へ乗った。


「そうだな。でも、次はもう少しお金を貯めてからにするよ」


「そのときはポルポルにも、おいしいものを買ってほしいのです!」


「結局それかよ」


 大河が笑うと、エリカも肩を揺らした。


 窓の外では、街に少しずつ夕闇が降り始めていた。


 長期休暇も、残りわずか。


 学院へ戻れば、ライズの新しい能力を詳しく調べることができる。どんな魔物と契約できるのか、そしてその力がこれからのランキングにどんな変化をもたらすのか。


 大河は窓の向こうに見えるランキング協会の白い塔を眺めながら、学院が再開する日を静かに楽しみにしていた。

第93話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回はスキルの実と種に挑戦するお話でした!


まずはトータの《目印》が、二個目のスキルの実で《必中刻印》へ進化!


これまで必要だった直接接触が不要になり、遠距離から印を付けられるようになりました。さらに、五秒間という時間制限もなくなり、戦い方の幅が大きく広がりそうです。


そして、もう一つの大きな出来事がライズのスキル発現。


二個目のスキルの種で、珍しい《従魔契約》を獲得しました!


どんな魔物と契約できるのか、どのように戦闘へ活かせるのか。まだ分からないことも多いですが、今後の楽しみが増えましたね。


一方、大河の《火力マックス》は今回も進化せず、クララとルルもスキル発現には至りませんでした。


エリカが過去に百回以上挑戦して失敗していたという話もあり、スキルの獲得がいかに難しいかが分かります。


長期休暇も残りわずか。


新しい力を手に入れた仲間たちが、学院でどんな成長を見せるのか、ぜひ楽しみにしていてください!


面白かった、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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