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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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90/98

第90話 空を支配する者

第90話です。


スペースワンダフルとして初めて挑んだ冒険者ギルドの依頼。


討伐対象は、空を飛ぶ魔物《ガルドスカルノ》。


しかし、現地で待ち受けていたのは二十体を超える大群と、依頼書には載っていなかった巨大な魔物でした。


ランキング戦とは違い、命の危険が伴う冒険者の仕事。


果たして大河たちは、五人の力を合わせてこの危機を乗り越えられるのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

谷の上空を埋め尽くす黒い影を見上げ、大河は思わず息を呑んだ。


 ガルドスカルノの群れは二十体を優に超えている。灰黒色の翼が陽射しを遮り、橋の上へ幾重もの影を落としていた。大きく湾曲した鉤爪に、獲物の肉を引き裂くための鋭い嘴。その姿は依頼書に描かれていたものと同じだったが、実際に空を飛んでいる姿を見ると、想像していた以上に大きい。


 バサッ、バサバサッ!


 幾十もの翼が空気を叩く音が重なり、谷を吹き抜ける風に混じって低い轟きとなっていた。


 その群れから離れた高い場所を、一際巨大な個体がゆっくりと旋回していた。


「あれは……もしかしてキングスカルノなのです?」


 ポルポルが珍しく真剣な声を出した。


「キングスカルノ?」


「A級に指定されている強力な魔物なのです。普通のガルドスカルノはC級なのですが、キングスカルノは大きさも強さも別格なのです。それに、とても頭がよくて、ガルドスカルノの群れを従えるのです」


「A級か……」


 大河の脳裏に、以前戦ったアーマードオーガの姿が浮かんだ。


 硬い胸の核を破壊するために、あの時は《ランス・ドー》を使った。あれもA級の魔物だったが、相手は地上にいた。今回は空を飛び、しかも二十体以上の群れを従えている。


 同じA級でも、戦い方はまったく違うだろう。


「どうする、大河?」


 ライズが拳を握りながら尋ねてくる。


「まずは橋の手前で迎え撃とう。無理に向こうへ渡る必要はない。ルルとトータは後ろにいてくれ」


「分かった」


 ルルが小さく頷く。


「俺も後ろかよ」


「トータの《目印》は強力だけど、相手に触れないと使えないだろ。無理に前へ出るなよ」


「分かってるって」


 不満そうな顔をしながらも、トータはルルの隣へ下がった。


 その時、上空から甲高い鳴き声が響いた。


 キィィィッ!


 巨大なキングスカルノが翼を広げると、それまでばらばらに旋回していたガルドスカルノたちが一斉に向きを変えた。


「来るぞ!」


 大河が叫ぶと同時に、五体のガルドスカルノが急降下を始めた。


 ヒュオオッ!


 先頭の一体が翼を畳み、凄まじい速度で迫ってくる。大河は右手を突き出し、掌の前へ火球を作り出した。


「ファイア!」


 ボシュッ!


 放たれた炎が空中を走る。


 ガルドスカルノは翼を傾けて避けようとしたが、間に合わなかった。炎が胴体を捉え、黒い羽毛を散らしながら谷の方へ弾き飛ばす。


 続く二体が左右へ分かれた。


「ライズ、そっちは任せた!」


「おう!」


 ライズが橋の入口へ踏み込み、低空まで降りてきた一体を待ち構える。


 ブンッ!


 鋭い鉤爪が頭上を掠めた瞬間、身体を沈めてかわし、その腹へ拳を叩き込んだ。


 ドゴォッ!


 鈍い衝撃音とともにガルドスカルノの身体が跳ね上がり、橋の欄干へ激突する。石の欠片が飛び散り、魔物は翼を痙攣させながら動かなくなった。


 もう一体はライズを避け、大河の頭上を通り抜けようとした。


 しかし、その進路へ赤い炎が走った。


「逃がさないわよ!」


 クララの魔法が翼を捉え、ガルドスカルノが悲鳴を上げながら落下する。


「いい感じじゃないか!」


 トータが後ろから声を上げた。


 だが、大河は油断しなかった。


 最初の五体を退けても、上空にはまだ数え切れないほどの影が残っている。しかも、キングスカルノは一度も攻撃してこない。


 ただ高い場所を旋回し、こちらの様子を観察しているようだった。


「大河、上!」


 クララの声に顔を上げると、今度は十体近いガルドスカルノが一斉に降下してきた。


 バサバサバサッ!


 翼が重なり合い、空気を震わせる。先頭の魔物が嘴を大きく開き、甲高い声を上げながら大河へ突っ込んできた。


 大河は氷魔法で鋭い氷塊を作り、先頭の一体へ放つ。


 シュバッ!


 氷塊が胸元へ突き刺さり、魔物の身体が空中で大きく傾いた。続けて火球を撃ち込み、迫ってくる敵を次々と迎撃する。


 しかし、すべてを落とせるわけではない。


 ガルドスカルノは空中で自在に方向を変え、攻撃をかわしながら距離を詰めてくる。大河が一体へ意識を向けた隙に、別の個体が横から襲いかかってきた。


「くっ!」


 身体を捻って鉤爪を避ける。


 ヒュンッ!


 鋭い風切り音が耳元を通り過ぎ、頬に冷たい風が当たった。ほんの僅かに反応が遅れていれば、顔を切り裂かれていただろう。


 その瞬間、頭上から強い風が吹き下ろした。


 ゴオッ!


 大河が顔を上げると、クララの身体が地面から離れていた。


「……え?」


 赤い髪を風になびかせながら、クララがゆっくりと上昇していく。足元には渦を巻くような風が生まれ、身体を支えているようだった。


「クララ、飛べるのか!?」


「飛べるわよ。私を誰だと思ってるの?」


「聞いてないぞ!」


「聞かれてないもの!」


 クララは得意そうに笑うと、風を操って一気に高度を上げた。


 上空のガルドスカルノが彼女へ向きを変える。


 だが、クララは慌てなかった。


 迫ってきた一体を風魔法で横へ弾き飛ばし、続けて炎を放つ。


 ゴオォッ!


 燃え上がった魔物が谷へ落ちていくと、今度は背後へ回り込んだ二体へ向けて身体を回転させた。


 空中で赤い髪が大きく広がる。


 その周囲に生まれた炎が、二体のガルドスカルノをまとめて飲み込んだ。


 ボワッ!


 炎の塊が空中で膨れ上がり、黒い羽毛が火の粉とともに舞い散った。


「すげえ……」


 大河は思わず呟いた。


 自分も魔法を使えば空中の敵を攻撃できる。実際、ここまで何体も撃ち落としている。それでも、空を自由に移動できれば、戦い方はさらに広がるだろう。


 クララは地上からでは届きにくい位置へ回り込み、ガルドスカルノの逃げ道を塞いでいる。


 いつか自分も、あんなふうに飛べるようになりたい。


 そんな考えが一瞬よぎったが、すぐに目の前の戦闘へ意識を戻した。


 ライズも橋の入口で奮闘していた。


 空を飛ぶ相手に自分から近づくことはできないが、ガルドスカルノが低空へ降りてくれば話は別だ。拳だけでなく蹴りも使い、襲いかかってくる魔物を次々と撃退していく。


 ドガッ! バキッ!


 拳が胴体へめり込み、蹴り上げた脚が魔物の顎を捉える。ガルドスカルノは翼をばたつかせながら地面へ叩きつけられた。


 しかし、別の一体が死角から飛び込んできた。


 ザシュッ!


 鉤爪がライズの右腕を掠め、赤い筋が走った。


「ライズ!」


 ルルがすぐに駆け寄り、傷口へ手をかざす。


 淡い光が傷を包み、流れていた血が止まっていく。


「助かる!」


「無理しないで」


「これくらい平気だ!」


 ライズは笑いながら再び前へ出た。


 その様子を、トータは少し離れた場所から見つめていた。


 大河は魔法で敵を撃ち落とし、クララは空を飛んで戦っている。ライズは近づいてきた魔物を拳で叩き落とし、ルルも回復魔法で仲間を支えていた。


 自分だけが、何もできていない。


 トータは右手を握りしめた。


 《目印》を付けることさえできれば、大河たちの攻撃を確実に当てられる。だが、相手は空を飛んでいる。近づいてくるのを待つしかなく、触れようとすれば鋭い嘴や鉤爪が襲ってくる。


「……くそっ」


 その時だった。


 上空でキングスカルノが再び鳴いた。


 キィィィィッ!


 耳を突き刺すような声が谷に響き渡る。


 すると、ガルドスカルノたちの動きが変わった。


 それまで大河たちへ正面から向かってきていた群れが、突然左右へ分かれ始めたのだ。


「なんだ?」


 大河が空を見上げる。


 数体が自分へ向かって降下してくる一方、別の群れは大きく旋回し、橋の反対側へ回り込んでいた。


 クララもその動きに気づいた。


「大河! 気をつけて!」


 声が届いた時には、すでにガルドスカルノが動き始めていた。


 大河へ向かってきた三体が、互いに距離を取りながら攻撃を仕掛ける。一体を魔法で撃ち落とした直後、残りの二体が左右から迫った。


 ライズの前にも四体が集まり、代わる代わる急降下を繰り返している。


 そして、クララの周囲にも数体がまとわりつき、彼女を橋から遠ざけるように空中戦を仕掛けていた。


 大河は目の前の敵をかわしながら、ようやく気づいた。


 これは偶然ではない。


 自分たち三人を、それぞれ別の場所へ引きつけている。


「まさか……!」


 大河が振り返った。


 橋の入口近くに残されたルルとトータ。


 その頭上へ、三体のガルドスカルノが急降下していた。


「ルル! トータ!」


 叫んだ瞬間、目の前の一体が翼を広げて進路を塞ぐ。


「邪魔だ!」


 大河は《火力マックス》を発動し、強化した火魔法を叩き込んだ。


 ゴオォッ!!


 炎に包まれたガルドスカルノが吹き飛ぶ。


 しかし、その間にも敵はルルたちへ迫っていた。


「トータ、下がって!」


 ルルが叫ぶ。


 トータは反射的に身を屈め、頭上を通り過ぎる鉤爪を避けた。


 ヒュンッ!


 目の前を巨大な脚が通過する。


 今なら触れられる。


 トータは右手を伸ばした。


「今だ!」


 だが、指先が届く寸前、ガルドスカルノが翼を打って急上昇した。


 バサッ!


 空を掴んだトータの身体が前へ流れる。


 そこへ別の一体が横から突っ込んできた。


「危ない!」


 ルルがトータの腕を掴み、力いっぱい引き寄せる。


 ザシュッ!


 鋭い鉤爪が二人の間を通り抜け、トータの服を切り裂いた。


「うわっ!」


 よろめいたトータを支えようとして、ルルも足を滑らせる。


 その背後には橋の欄干があった。


 さらに三体目のガルドスカルノが、二人を狙って急降下してくる。


 ルルはトータを押し出した。


「逃げて!」


 次の瞬間、ガルドスカルノの翼がルルの身体を強く打った。


 ドンッ!


 小さな身体が後ろへ弾き飛ばされる。


 欄干に背中がぶつかり、その勢いのまま上半身が外側へ倒れた。


「……あっ」


 ルルの足が橋から離れた。


 それまで靴の裏に感じていた石の硬さが、突然消えた。


 反射的に伸ばした手は何も掴めず、身体が欄干の向こうへ投げ出される。


「ルル!!」


 トータの叫び声が聞こえた。


 けれど、その声はすぐに遠ざかっていった。


 ヒュオオオオッ!


 谷底から吹き上がる風が青い髪を激しく乱し、服をばたばたとはためかせる。


 ルルは必死に手足を動かした。


 何かに掴まろうとしても、指先に触れるものは何もない。目の前にあった橋はみるみる小さくなり、頭上へ遠ざかっていった。


 身体が回転する。


 青い空が見えたかと思うと、次の瞬間には切り立った岩壁が視界いっぱいに広がった。


 岩肌の凹凸が、凄まじい速さで上へ流れていく。


 息を吸おうと口を開いたが、風が喉へ押し寄せ、うまく呼吸ができなかった。


 怖い。


 ルルは目を見開いたまま、遠ざかる橋へ手を伸ばした。


 しかし、どれだけ腕を伸ばしても届くはずがない。


 身体は落ち続けている。


 遥か下に見えていた谷底の川が、少しずつ大きくなっていく。


「……誰か……」


 絞り出した声は風にかき消された。


 その時だった。


「ルル!!」


 頭上から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 大河だった。


 橋の端を蹴り、迷うことなく谷へ飛び込んでいく。


 その姿を見たトータは、欄干に掴まったまま動けなかった。


 自分は手を伸ばすことしかできなかった。


 それなのに大河は、何の躊躇もなく飛び降りたのだ。


「大河!?」


 上空で戦っていたクララが叫んだ。


 大河は風を切りながら、落下していくルルへ向かって両腕を伸ばしていた。


「ちょっと! あんた、風魔法使えるの!?」


「いや、使えない!」


「はあ!? じゃあどうするつもりよ!」


 クララは慌ててガルドスカルノを振り払い、風魔法で谷へ向かって急降下した。


 しかし、大河はすでにかなり下まで落ちている。


 しかも、ルルの方が先に落下を始めていた。


 大河は必死に身体を伸ばしたが、距離が縮まらない。


 ヒュオオオッ!


 耳元では風が唸り、崖の岩肌が凄まじい速さで上へ流れていく。


 谷底はまだ遠い。


 それでも、このままでは間に合わないことだけは分かった。


「くそっ……!」


 大河は歯を食いしばった。


 飛行魔法は使えない。


 風を操って身体を浮かせることもできない。


 だが、魔法なら使える。


 大河は身体を捻り、両足を上へ向けた。


「《火力マックス》!」


 全身を巡る魔力が一気に高まり、足元へ熱が集中していく。


「ファイア!!」


 ゴオオオォッ!!


 両足から激しい炎が噴き出した。


 反動で大河の身体が強く押し出され、落下速度が一気に増す。


「うおおおっ!」


 制御などできていない。


 炎の向きが少しずれるだけで身体が回転し、熱風が足を焼くように吹きつける。それでも大河は、ルルの姿だけを見つめていた。


 十メートル。


 五メートル。


 あと少し。


「ルル! 手を伸ばせ!」


 声に気づいたルルが顔を上げる。


 恐怖で強張っていた表情が、大河の姿を見た瞬間に変わった。


「大河……!」


 ルルが必死に右手を伸ばす。


 大河も腕を伸ばした。


 指先が触れる。


 次の瞬間、大河はその小さな手を力いっぱい握りしめた。


「掴んだ!」


 しかし、二人の落下は止まらない。


 むしろ、大河が追いついた勢いも加わり、二人はさらに速く谷底へ向かって落ちていく。


 大河はルルを引き寄せながら、崖の岩壁へ目を向けた。


 このまま炎を噴射しても、二人を安全に止められるとは限らない。身体の向きを変えれば岩壁へ激突する危険もある。


 だが、何もしなければ谷底へ落ちる。


 大河は右腕でルルを抱き寄せ、左腕を崖へ突き出した。


「もう一度……《火力マックス》!」


 左腕から凄まじい冷気が噴き出した。


 シュゴオオッ!


 白い氷が腕の先から一気に伸び、数メートル離れた岩壁へ到達する。


 バキバキバキッ!!


 氷は岩肌の凹凸を覆い、無数の亀裂へ食い込みながら広がっていった。


 大河の左腕と崖を結ぶ、太い氷の柱。


 その柱が二人の落下を受け止めた。


 ゴキッ!


「ぐああっ!!」


 左肩に凄まじい衝撃が走った。


 身体が大きく振られ、ルルを抱えた右腕まで引きちぎられそうになる。


 ミシミシッ!


 氷の柱には無数の亀裂が走り、細かな破片が谷底へ降り注いだ。


 それでも、大河はルルを離さなかった。


 振り子のように揺れる身体が岩壁へ近づき、靴底が岩肌を擦る。大河は歯を食いしばり、右腕の中のルルを庇いながら衝撃に耐えた。


 やがて激しい揺れが収まり、二人の身体が岩壁の前で止まった。


「はぁ……はぁ……」


 大河は荒い息を繰り返した。


 左肩が焼けるように痛む。少し動かそうとしただけで激痛が走り、腕に力が入らなかった。


「大河くん……?」


 腕の中でルルが顔を上げる。


「大丈夫か?」


 大河が尋ねると、ルルは何度も頷いた。


 しかし、すぐに大河の左肩へ目を向け、表情を変えた。


「肩……!」


「ちょっと痛めただけだよ」


 そう言って笑おうとしたが、痛みで顔が引きつった。


 ルルは何も言わず、大河の左肩へ手を伸ばした。


「私が治す」


 小さな掌から淡い光が溢れ、大河の肩を包み込んでいく。


 熱を持っていた痛みが少しずつ和らぎ、引きつるような感覚が薄れていった。


 エリカの診療所で患者を相手に回復魔法を使ってきた経験が、ルルの手を迷わせなかった。


 大河は左肩を少し動かしてみた。


 まだ鈍い痛みは残っているが、先ほどとは比べものにならないほど楽になっていた。


「ありがとう、ルル。助かったよ」


 ルルは大河の顔を見つめ、小さく首を振った。


「私の方こそ……ありがとう」


 その時、頭上から風が吹き下ろした。


 ゴオッ!


「大河! ルル!」


 クララがようやく追いついた。


 岩壁から伸びる氷の柱と、そこにぶら下がる二人を見て、目を見開く。


「……何やってるのよ、あんた!」


「見てのとおり、ちょっと困ってる」


「ちょっとじゃないでしょ!」


 クララは呆れたように叫びながらも、すぐに二人の周囲へ風を集めた。


「氷を解除する前に言って。支えるから」


「頼む」


 クララの風が二人の身体を包み込み、落下しないよう支え始める。


 大河は氷魔法をゆっくり解除した。


 パキパキッ!


 岩壁に張りついていた氷が砕け、白い破片が谷底へ落ちていく。


 しかし、今度は身体が落ちなかった。


 クララの風魔法が二人をしっかりと支えていた。


「まったく……飛べもしないのに飛び込むなんて、普通じゃないわよ」


「考えてる暇がなかったんだよ」


「それで死んだらどうするの!」


 クララの声が少し震えていた。


 大河は言い返しかけたが、その表情を見て口を閉じた。


「……悪かった」


「分かればいいのよ」


 クララは大河とルルを支えながら、ゆっくりと高度を上げ始めた。


 だが、その頃。


 橋の上では、ライズが苦戦を強いられていた。


「くそっ! 何匹いるんだよ!」


 バサバサッ!


 左右から襲いかかるガルドスカルノを、ライズは拳で迎え撃った。


 ドゴッ!


 一体を殴り飛ばした直後、別の一体が背後へ回り込む。ライズは身体を捻って鉤爪をかわしたが、肩口を浅く切り裂かれた。


 ザシュッ!


「ぐっ!」


 それでも、トータの前から離れるわけにはいかなかった。


 ガルドスカルノたちは一体ずつ突っ込んでくるのではなく、互いに間隔を空けながら何度も攻撃を繰り返している。ライズが一体へ拳を振るえば、別の個体が反対側から襲いかかってくる。


 橋の石畳には羽毛が散らばり、ライズの足元にも何体かのガルドスカルノが倒れていた。


 それでも上空の影は途切れない。


 トータは欄干の近くで立ち尽くしていた。


 ルルが落ちていった瞬間の光景が、頭から離れない。伸ばした手は届かず、助けに飛び込むことさえできなかった。


 自分には何もできなかった。


 そして今も、ライズが傷だらけになりながら自分を守っている。


 その時、頭上から低い鳴き声が響いた。


「グルルルル……」


 トータが顔を上げる。


 上空を旋回していたキングスカルノが、いつの間にか橋の真上まで移動していた。


 遠くから見ていた時も大きかった。だが、近づいてくるにつれ、その大きさが想像を遥かに超えていることに気づいた。


 翼を広げた巨体が陽射しを遮り、橋の上に巨大な影を落とす。


 そして、その顔。


 羽毛の薄い頭部には硬そうな灰黒色の皮膚が露出し、深く窪んだ眼窩の奥で、黄色く濁った二つの目がぎらついていた。


 太い嘴は先端が鉤状に曲がり、縁には獲物の肉を引き裂くための鋭い突起が並んでいる。


 普通のガルドスカルノとは、何もかもが違った。


「……なんだよ、あれ……」


 トータの声が震えた。


 キングスカルノの黄色い目が、ゆっくりとトータへ向けられる。


 その瞬間、視線が合った。


 自分が狙われている。


 それだけは、はっきりと分かった。


 キィィィィィッ!!


 鼓膜を突き刺すような鳴き声とともに、キングスカルノが翼を畳んだ。


 ヒュオオオオッ!!


 巨体が急降下を始める。


 近づくにつれて、その顔が視界いっぱいに広がっていく。


 翼の先端から先端まで、橋の幅を軽々と超えていた。胴体だけでも馬車ほどの大きさがあり、太い脚から伸びる鉤爪は、トータの胴を丸ごと掴めそうなほど巨大だった。


 さらに距離が縮まると、嘴の表面に刻まれた深い傷まで見えるようになった。開いた口の奥は暗く、縁に並ぶ鋭い突起には、何かを引き裂いたような赤黒い汚れがこびりついている。


 バサァッ!!


 巨大な翼が一度だけ空気を叩いた。


 吹き下ろした風にトータの髪が乱れ、足元の砂埃が巻き上がる。


「……う、嘘だろ……」


 逃げなければ。


 頭では分かっているのに、足が動かなかった。


 膝が震え、身体を支えきれなくなる。


 ガクッ。


 トータはその場に尻もちをついた。


 ヒュオオオオッ!!


 巨大な翼が風を巻き起こし、キングスカルノの恐ろしい顔が目の前へ迫る。


 鋭く湾曲した嘴が開き、太い脚から伸びる鉤爪がトータを捉えようとしていた。


 その光景を見たライズが、喉が裂けんばかりに叫んだ。


「トータ! 逃げろぉぉ!!」

第90話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回はスペースワンダフルにとって、かなり危険な戦いとなりました。


通常のガルドスカルノはC級ですが、群れを率いていたのはA級魔物《キングスカルノ》。


高い知能を持ち、仲間を指揮して大河たちを分断するなど、厄介な相手です。


そして今回は、クララが風魔法で空を飛べることも明らかになりました!


一方、ルルを助けるために迷わず谷へ飛び込んだ大河。


飛行魔法が使えないにもかかわらず、炎の噴射と氷魔法を組み合わせ、なんとかルルを救出しました。


しかし、危機はまだ終わっていません。


橋に残されたライズとトータの前へ、ついにキングスカルノが降下。


恐怖で動けなくなったトータに、巨大な鉤爪が迫ります。


果たしてトータは無事なのか。そして、キングスカルノを倒すことはできるのでしょうか。


面白かった、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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