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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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88/95

第88話 勝利のあとで

第88話です。


ワイナ先生との激闘を制し、ついに素手格闘ランキング19位、シルバーランカーとなった大河。


しかし、勝利の代償は大きく、身体にはかなりのダメージが残っています。


一方、大河に続いてクララも魔法格闘のシルバーランカーへ挑戦中。


果たしてクララも、大河に続いて昇格することができるのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

 救護室へ運ばれてからしばらく経っても、大河の耳にはまだ大闘技場の歓声が残っていた。


 白い布を張った天井を眺めながら息を吸うと、胸の奥に鈍い痛みが走る。背中も脇腹も痛み、少し身体を動かすだけで、流水拳を受けた場所が順番に存在を主張してきた。


「いってぇ……」


「動かないでください。今、確認していますから」


 ベッドの横に立つ救護隊の治療師が、大河の脇腹へ手をかざしていた。淡い光が服の上から身体へ染み込んでくると、熱を持っていた痛みが少しずつ和らいでいく。


 周囲には同じように試合を終えたランカーたちが何人も横になっていた。ハイランカー祭という名前の通り、今日は朝から上位ランカー同士の激しい戦いが続いている。奥のベッドでは腕に包帯を巻かれた男が横になり、その隣では額から血を流した女が治療を受けていた。


 大河は自分の腕を持ち上げようとして、すぐに諦めた。


 ワイナ先生に勝った。


 素手格闘ランキング十九位。


 シルバーランカー。


 頭では分かっているのに、まだ妙な感じがする。


 一か月前、ワイナがシルバーランカーになったと聞いて祝いに行った。その時には、自分が一か月後に本人を倒して同じ場所へ上がるなど、本気で想像していなかった。


 最後にワイナが大河の腕を二度叩いた感触が、今も残っている。


「スリーパーホールドか……」


 思い返すと、自分でもよくあんなことをやったと思う。


 流水拳を食らって頭がまともに働いていなかったからこそ、できたのかもしれない。


 その時、救護室の扉が勢いよく開いた。


「大河さん!」


 聞き慣れた声とともに、紫がかった小さな身体が飛び込んでくる。


「ポルポル」


「大丈夫なのです!?」


 ポルポルは一直線に大河のベッドまで飛んでくると、顔のすぐ近くで止まった。大きな瞳が大河の額から頬、胸元へ忙しなく動いている。


「見れば分かるだろ。生きてるよ」


「途中で本当にダメかと思ったのです! 大河さん、ずっとバキバキ、ドカドカやられてたのです!」


「もう少し言い方ないのか?」


 大河が苦笑していると、その後ろからエリカが入ってきた。


 いつものゆったりとした服を揺らしながらベッドへ近づき、大河の顔を覗き込む。頬の腫れや腕に残る痣を順番に確認すると、細い眉がわずかに寄った。


「結構やられたのう、大河くん」


「先生、本気でしたからね」


「それにしても派手にやられたものじゃ。あの流水拳とやら、なかなかの技じゃったな」


 そう言いながらも、エリカの口元は緩んでいる。


「じゃが、よく勝った。さすが大河くんじゃ」


「ありがとうございます」


 エリカは満足そうに頷くと、ベッドの横にいた治療師へ目を向けた。


「ちと代わってくれるかの」


「え?」


「大河くんは特別じゃ。わしが手当てしてやろう」


 その言葉を聞いた治療師の表情が止まった。


 エリカの顔を二度見したあと、目が大きく開く。


「もしかして……エリカ様ですか?」


「そうじゃが?」


「回復ランキング一位の……?」


「ほかに誰がおる」


 エリカが首を傾げる。


 その声を聞いたのか、近くにいた別の治療師まで振り返った。


「エリカ様?」


「本物?」


 小さなざわめきが救護室へ広がっていく。


 大河はベッドに寝たまま周囲を見回した。


 普段から一緒に暮らしているせいで忘れそうになるが、エリカは回復ランキング一位。この世界で回復魔法を扱う者にとっては、雲の上の存在なのだろう。


 その本人は周囲の視線など気にする様子もなく、大河の身体へ手をかざした。


「では始めるぞ。少し温かくなるからの」


「お願いします」


 柔らかな光がエリカの掌から広がった。


 先ほど受けていた治療とは明らかに違う。淡い光に包まれた場所から、身体の奥へ染みついていた痛みが溶けていく。熱を持っていた脇腹が軽くなり、息を吸った時の胸の痛みも消えていった。


「おお……」


「どうじゃ?」


「やっぱり全然違いますね」


「当然じゃ。誰が治療しとると思っとる」


 エリカが得意そうに顎を上げる。


「大河さん、もう一回戦えるのです?」


「いやもう戦わないよ」


「今日はハイランカー祭なのです。相手ならいっぱいいるのです!」


「なんで勝った直後に次を探すんだよ」


「今なら勢いがあるのです!」


「俺の身体のことも考えてくれよ」


 二人のやり取りを聞いていたエリカが、くつくつと笑う。


 大河もつられて笑った。


 その時、救護室の外から大きな鐘の音が聞こえてきた。


 クララが壁に掛けられた時計へ目を向ける姿が、大河の頭に浮かぶ。


「そういえば、クララの試合……」


「もうすぐなのです」


 ポルポルも扉の方を見る。


 大河の試合が終わったあと、クララには魔法格闘部門のランキング戦が控えていた。観戦に来ていたライズ、トータ、ルル、ビスタたちは、そのままクララと一緒に試合会場へ向かっている。


「見たかったな」


「今から行ってはいかんぞ」


 エリカがすぐに釘を刺した。


「まだ治療中じゃ」


「分かってますよ」


「大河さんはポルポルたちと待ってるのです」


 大河はベッドへ頭を戻した。


「勝てるかな」


「クララさんなら大丈夫なのです!」


「そうじゃな。あやつもなかなか強いからの」


 エリカの掌から流れ込む温かな光を感じながら、大河は天井を見つめた。


 自分は勝った。


 次はクララ。


 グループランキング戦を一緒に戦い、最後には自分を残して脱落した仲間だ。


 できれば勝って戻ってきてほしい。


 そう思いながら、大河はゆっくり目を閉じた。


 それから三十分ほどが過ぎた。


 エリカの治療が終わる頃には、大河の身体に残っていた痛みはほとんど消えていた。


 試しにベッドの上で腕を回してみる。


「やっぱりすげえ……」


 流水拳をあれだけまともに食らった身体とは思えない。


「じゃが、今日は無茶するでないぞ」


「分かってます」


「本当に分かっとるのか?」


「分かってますって」


 疑わしそうなエリカの視線を受けながら、大河が身体を起こした時だった。


 救護室の扉が開いた。


 大河は反射的にそちらを見る。


 最初に入ってきたのは救護隊の男だった。


 その後ろから、一人の少女が歩いてくる。


「……クララ?」


 大河は思わず目を丸くした。


 クララの長い髪は乱れ、頬には薄い傷が走っていた。服の一部は焦げ、肩から腕にかけても赤い痕が残っている。自分の足で歩いてはいるものの、足取りには普段の軽さがない。


 クララもベッドの上にいる大河に気づいた。


「あら。もう起きてるの?」


「エリカさんに治してもらったからな。それより……」


 大河はクララを上から下まで眺めた。


「こっぴどくやられたな」


「誰かさんに言われたくないわよ」


「俺はもう治ってるから」


「三十分前までボロボロだったでしょうが」


 クララはそう言い返したものの、近くのベッドへ腰を下ろした途端、肩から力が抜けた。


 大河はその顔を見つめる。


「それで、試合はどうなったんだ?」


 クララは少しだけ俯いていた顔を上げた。


 疲れの残る頬に、ゆっくり笑みが浮かぶ。


「もちろん勝ったわよ」


「おお!」


 大河の声が救護室に響いた。


 ポルポルも勢いよく飛び上がる。


「やったのです!」


「私も今日からシルバーランカーよ。魔法格闘十五位」


「十五位か。すごいじゃん!」


「まあね」


 クララは得意そうに髪を払おうとして、途中で腕を止めた。


「いたた……」


「無理するなよ」


「分かってるわよ。それより相手がしぶとくて、《炎帝》を何度も使わされたの。もう魔力もほとんど残ってないわ」


「そんなに使ったのか」


「勝つためだから仕方ないでしょ」


 クララは背中からベッドへ倒れ込み、長く息を吐いた。


 その様子を見ていたエリカが立ち上がる。


「仕方ないのう」


「え?」


 クララが顔だけを向けた。


 エリカはベッドの横まで歩くと、クララの傷を眺めた。


「大河くんも世話になっとるからの。おぬしも今日は特別じゃ。わしが手当てしてやろう」


 クララの目が大きくなる。


「いいの?」


「嫌ならやめてもよいぞ」


「誰も嫌なんて言ってないわよ!」


 さっきまで疲れ切っていたクララが勢いよく身体を起こしかけ、すぐに顔をしかめた。


「ほれ、動くでない」


 エリカが呆れたように笑う。


 再び柔らかな光が救護室を照らした。


 クララは最初こそ珍しそうに光を眺めていたが、やがて身体から力が抜けていく。張りつめていた表情も少しずつ和らいだ。


「すご……」


「だろ?」


 隣から大河が声をかける。


「俺なんかもうほとんど治ってるぞ」


「なんであんたが自慢するのよ」


「エリカさんのすごさを教えてやろうと思って」


「それくらい知ってるわよ。回復ランキング一位なんだから」


「ほっほっほ。もっと褒めてもよいぞ」


「エリカさん、嬉しそうですね」


「当然じゃ」


 そんな話をしていると、廊下から賑やかな足音が近づいてきた。


 扉が開き、最初に顔を出したのはトータだった。


「クララ!」


 その後ろからライズ、ルル、ビスタも入ってくる。


「お、大河も元気そうじゃん」


 ビスタが大河を見て笑った。


「エリカさんに治してもらったからな」


「そりゃ元気になるわ」


 ライズは大河のベッドへ近づくと、軽く拳を差し出した。


「おめでとう。シルバーランカー」


「ありがとう」


 大河も拳を合わせる。


「クララも勝ったし、今日はすごいな」


 トータがクララのベッドの横へ来て、興奮したように二人を見比べる。


「スペースワンダフルから一日で二人だぞ」


「大河さんは素手格闘十九位、クララさんは魔法格闘十五位なのです!」


 ポルポルが二人の間を飛び回る。


「シルバーランカーが二人なのです!」


 救護室だということを忘れたような声量に、近くの治療師が苦笑していた。


 大河は集まった仲間たちを眺めた。


 つい二日前まで、このメンバーでエリアバトルを戦っていた。


 何度も追い詰められ、一人ずつ脱落し、それでも最後には八位に残った。


 そして今日、自分とクララがそれぞれの部門でシルバーへ上がった。


 ライズが腕を組み、大河とクララを交互に見る。


「俺たちも負けてられないな」


「だな」


 トータが大きく頷いた。


「俺はまずランカーにならないとな」


「そこからなのです!」


「お前に言われると腹立つな!」


 トータがポルポルへ手を伸ばすと、ポルポルはひらりと頭上へ逃げた。


「事実なのです!」


「分かってるよ!」


 笑い声が広がる。


 その横で、ルルは大河とクララを見つめていた。


 みんなが騒ぐ中、少し迷うように指先を重ねてから、小さく口を開く。


「私も……もう少し上に行きたいな」


 声は大きくなかった。


 けれど隣にいたライズには届いたらしく、静かに頷いた。


「一緒に上がればいい」


 ルルは一瞬だけライズを見て、それから小さく笑った。


 大河はその光景を眺めながら、胸の奥に温かなものが広がっていくのを感じていた。


 グループを作った頃とは、何かが違う。


 ランキングも違う。


 強さも違う。


 それ以上に、みんなの目が少しずつ上へ向き始めている。


 大河はふと、自分の腰に下げたランキングカードへ視線を落とした。


 素手格闘では十九位。


 シルバーランカー。


 けれど、まだ試していないものがある。


「そうだ」


 大河が口を開くと、近くにいたポルポルが振り返った。


「どうしたのです?」


「俺、休みの間にもう一つやってみようと思ってる」


「まだランキングに出るのです?」


「うん」


 大河は自分の手を見つめた。


 一か月以上、学院で剣を握ってきた。


 最初は武器を持って戦うことそのものに違和感があり、足の運びも距離の取り方も素手格闘とはまるで違った。それでも授業を重ねるうちに、少しずつ剣を振る感覚が身体へ馴染んできている。


 一度くらい、今の自分がどこまで通用するのか試してみたい。


「剣術格闘に挑戦してみようと思ってる」


「剣術格闘?」


 トータが興味深そうに身を乗り出した。


「大河、剣でもランキング始めるのか?」


「そのつもり。一か月以上習ってるし、せっかく休みもまだ一週間あるからな」


「また忙しくなりそうね」


 クララがベッドから呆れたような視線を向ける。


「今日はシルバーになったばかりなんだから、少しくらい休んだら?」


「明日は休むよ」


「明日は、ってところが大河さんなのです」


 ポルポルが妙に納得した顔で頷いた。


 大河は苦笑しながら肩をすくめた。


 剣術格闘。


 素手とはまったく違う、新しいランキング。


 考えただけで、少し胸が騒ぐ。


 そんな大河を眺めていたエリカが、クララへの治療を終えて立ち上がった。


「よーし!」


 突然の大声に、全員の視線が集まる。


 エリカは腰へ両手を当て、得意げに胸を張った。


「今日はめでたい日じゃ! 大河くんとクララのシルバー昇格祝いに、わしがみんなに飯を奢ってやるぞい!」


「本当か!」


 真っ先に反応したのはトータだった。


「好きなもの頼んでいいのか?」


「もちろんじゃ。好きなだけ食うがよい!」


「やった!」


「ポルポルも好きなだけ食べるのです!」


「おぬしは少し遠慮せい」


「なんでなのです!?」


 ポルポルが空中で身体を反らす。


 大河は威勢よく胸を張っているエリカを見ながら、ふと現実的なことを思い出した。


「エリカさん」


「なんじゃ、大河くん」


「借金だらけでしょ」


 救護室が一瞬だけ静かになった。


 エリカの頬がぴくりと動く。


「大河くん……」


「はい」


「いいではないか」


 エリカは少しだけ頬を膨らませると、大河へ顔を近づけた。


「こういう時くらい、わしに格好つけさせておくれよ」


 大河は思わず吹き出した。


「じゃあ、ご馳走になります」


「うむ! 大河くんは好きなだけ食うがよい!」


「ポルポルも!」


「おぬしは遠慮せいと言うとるじゃろ!」


「差別なのです!」


「食べる量の問題じゃ!」


 ポルポルとエリカの声が救護室いっぱいに響き、トータが腹を抱えて笑い始める。ライズも堪えきれず口元を緩め、ビスタは遠慮なく声を上げて笑っていた。


 クララは治療を終えた身体を起こしながら呆れたように首を振り、ルルもその隣で小さく肩を揺らしている。


 大河はそんな仲間たちを眺めながら、ベッドからゆっくり立ち上がった。


 長期休暇は、まだ半分。


 次に挑むものも決まった。


 けれど今くらいは、ランキングのことを忘れてもいい。


「よし、行こうか」


 大河がそう言うと、ポルポルが真っ先に扉へ飛んでいった。


「ご飯なのです!」


「待て! まだ店も決めとらんぞ!」


 慌てて追いかけるエリカの背中を見ながら、大河たちは笑い声とともに救護室をあとにした。

第88話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は激闘のあとの、少し賑やかな一日となりました。


ワイナ先生との戦いで満身創痍だった大河ですが、回復ランキング一位のエリカのおかげで無事に復活!


そして、クララも見事に魔法格闘ランキング15位となり、シルバーランカーへ昇格しました!


これでスペースワンダフルには、シルバーランカーが二人。


初めての大規模エリアバトルで8位に入ったことも含め、グループ全体が着実に成長しています。


そんな中、大河が次に目を向けたのは《剣術格闘》。


学院で一か月以上学んできた剣術が、ランキング戦でどこまで通用するのか。


新たな挑戦も楽しみにしていただけたら嬉しいです。


そして、エリカ主催の昇格祝い。借金のことは少し心配ですが、今日くらいはみんなで楽しんでもらいましょう!


面白かった、続きも読みたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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