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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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85/95

第85話 最後まで残れ

第85話です。


大規模エリアバトルも、いよいよ決着の時。


仲間たちが次々と脱落し、最後に残されたのは大河一人。


目の前にはグループランキング一位《スターエルミナス》の五人。


体力も限界に近く、逃げることさえ難しい状況です。


果たして大河は、仲間たちが守り抜いてくれた《エリアの玉》を最後まで守れるのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

スターエルミナスの五人が、一斉に動いた。


 湿った土を蹴る音が重なり、銀色の星が木漏れ日の中で揺れる。正面だけではない。二人が左右へ広がり、大河の逃げ道を塞ぐように木々の間を駆けてくる。


 大河は拳を握ったまま、その動きを見ていた。


 逃げようにも脚は鉛のように重く、呼吸をするたびに胸の奥が焼けるように熱い。少し前なら迷わず飛び込んでいたはずの距離が、今はひどく遠く感じられた。


 太腿は震え、足の裏には地面を踏んでいる感覚さえほとんど残っていない。それでも、身体はまだ完全には止まっていなかった。


 クララが消える直前に見せた笑みが、頭から離れない。


『ここまで粘ったんだから……残りなさいよね』


「……分かってるよ」


 大河は小さく呟き、腰を落とした。


 戦うためじゃない。


 勝つ必要もない。


 玉さえ守ればいい。


 スターエルミナスの一人が杖を上げた。先端に青白い光が集まり、周囲の空気がピリピリと肌を刺す。


 大河は奥歯を噛み締めた。


 もう一度だけ。


 言うことを聞かなくなりかけている身体から、残された力をかき集める。


「これで……最後だ!」


 大河は地面を強く踏みしめた。


「《スピード・火力マックス》!」


 ドンッ!


 足元の土が爆ぜた。


 枯れ葉が渦を巻き、次の瞬間、大河の身体が木々の間を駆け抜ける。


「なにっ!?」


 背後から初めて、スターエルミナスの声が聞こえた。


 大河は振り返らない。


 風が頬を叩き、木々が左右へ流れていく。限界を超えて酷使された脚が悲鳴を上げるように軋み、それでも大河は地面を蹴り続けた。


 一歩でも遠くへ。


 少しでも長く。


 今止まれば、ルルとクララが身体を張って繋いでくれた時間まで途切れてしまう。


 けれど、その勢いは長く続かなかった。


「ぐっ……!」


 右脚から突然力が抜ける。


 大河の身体が大きく傾き、肩から木の幹へぶつかった。


 ドンッ。


 ざらついた樹皮が頬を擦る。


 それでも倒れることだけは堪え、幹へ片手をついた。


「はぁ……はぁ……」


 もう一度走ろうと脚に力を入れる。


 動かない。


 足の裏から太腿まで、まるで自分の身体ではなくなったように感覚が薄れていた。


 それでも距離は稼いだ。


 大河が荒い息を吐きながら振り返ると、木々の向こうでスターエルミナスの五人が追跡を再開していた。


     ◇


「走ったのです!」


 ランキング協会の大型モニターの前で、ポルポルが飛び上がった。


「大河さん、まだ走れたのです!」


 隣ではライズが拳を握り、画面から目を離さない。トータも身体を前へ傾け、その横でビスタがモニターの端へ視線を走らせた。


 そこには残された時間が表示されている。


「あと十秒……」


 ビスタの声から、いつもの軽さが消えていた。


 ポルポルが画面へ向き直る。


「十秒なのです……」


 数字が一つ減る。


「九……」


 スターエルミナスが大河との距離を詰めていく。


「八……七……」


「来るな、来るな……」


 トータが誰に聞かせるでもなく呟いた。


 画面の中で、スターエルミナスの一人が杖を持ち上げる。


 大河は木に手をついたまま動けない。


「六……五……」


 ライズの握った拳が震える。


「大河さん!」


 ポルポルが叫ぶ。


 杖の先に光が集まった。


「四……!」


     ◇


 大河の目に青白い光が映った。


 避けられない。


 身体を動かそうとしても、脚が言うことを聞かなかった。


 せめて攻撃を受けた瞬間に倒れないよう、大河は木の幹から手を離し、震える両脚で地面を踏みしめる。


 正面を向いた。


 スターエルミナスの魔法使いが杖を振り下ろす。


 バチバチッ!


 青白い雷が弾けた。


 その瞬間。


『エリアバトル、終了です』


 空から声が響いた。


「……え?」


 大河の目の前で景色が白く染まる。


 迫っていた雷も、木々も、スターエルミナスの五人も光の中へ溶けていった。


 足元の感覚が消える。


 次に大河の視界へ飛び込んできたのは、ランキング協会の白い天井だった。


「……終わった?」


 呟いた瞬間、身体が傾いた。


 立っていられない。


 膝が床へ落ちる。


 ガクッ。


 手をつこうとしたが、腕にもほとんど力が残っていなかった。


「大河さん!」


 聞き慣れた声が近づいてくる。


 ポルポルが勢いよく飛んできた。


「残ったのです! 最後まで残ったのですよ!」


「……そっか」


 それだけ答えるのが精一杯だった。


 視界の端にライズとトータ、ビスタの姿も見えた。


「おい、大河!」


「大丈夫か!?」


「大丈夫に見える?」


 大河は床へ座り込んだまま、口元だけで笑った。


「見えないじゃん」


 ビスタが呆れたように返す。


 すぐにランキング協会の職員たちが駆け寄ってきた。大河は両脇を支えられ、立ち上がろうとしたものの、膝が笑ってまともに体重を支えられない。


「無理をしないでください。そのまま救護室へ運びます」


「歩けると思ったんだけどな……」


「その状態でですか?」


 職員の声に、大河は返す言葉を失った。


     ◇


 救護室には薬草の匂いが漂っていた。


 白い布で仕切られた寝台がいくつも並び、あちこちから治療を受ける参加者たちの声が聞こえてくる。壁際では治療師たちが忙しそうに行き来し、その掌から淡い光が絶えず生まれていた。


 大河は寝台へ横になり、治療師の回復魔法を受けていた。


 温かな光が脚を包み、張り詰めていた筋肉の奥へゆっくり染み込んでいく。


「かなり無理をしましたね」


 治療師が大河の脚へ触れながら眉を寄せた。


「ちょっとだけです」


「ちょっと?」


「……かなりです」


 大河が言い直すと、治療師は小さく息を吐いた。


 隣の寝台ではクララも治療を受けている。少し離れたところにはルルが座り、その背中へ治癒魔法がかけられていた。


 大河はその姿へ視線を向けた。


「ルル」


 呼ばれたルルが振り返る。


「背中、大丈夫?」


「うん。もう痛くないよ」


 そう答えたあと、ルルは少し視線を落とした。


「大河くんは?」


「俺も大丈夫。たぶん」


「たぶんって何よ」


 隣からクララの声が飛んでくる。


 大河が顔を向けると、クララは寝台へ腰掛けたまま呆れたようにこちらを見ていた。


「あれだけ走っておいて、よく言うわね」


「でも残ったぞ」


 その言葉に、クララの眉がわずかに上がった。


「……そうね」


 顔を背けたものの、口元には小さな笑みが浮かんでいる。


 しばらくして治療が一段落すると、三人は観戦フロアへ戻った。


 そこにはライズ、トータ、ポルポル、ビスタが待っていた。


「来たじゃん」


 ビスタが片手を上げる。


「歩けるようになったのです!」


 ポルポルが大河の周りを飛び回った。


「さっきまで床に座り込んでいたのです!」


「それはもう言わなくていい」


「事実なのです」


 大河が苦笑したところで、観戦フロアの照明がわずかに落ちた。


 ざわめいていた参加者たちが一斉に大型モニターを見る。


『ただいまより、エリアバトルの最終結果を発表します』


 大河たちもモニターへ向き直った。


 画面に大きな文字が浮かび上がる。


『第一位 スターエルミナス 獲得エリア数四十九』


「四十九!?」


 トータの声が裏返った。


「そんなに取ってたのかよ……」


 ライズも目を見開いている。


 大河は数字を見たまま言葉を失った。


 自分たちが一つの玉を守るために、どれだけ走り、どれだけ戦ったか。それを思えば、四十九という数字は同じ競技の結果とは思えないほど遠かった。


 表示が切り替わる。


『第二位 スターワン 獲得エリア数十三』


『第三位 ダブルスター 獲得エリア数十』


『第四位 トリプルスターダム 獲得エリア数九』


 次々と名前が並ぶ。


『第五位 グリーデン 獲得エリア数五』


『第五位 ファミリアル 獲得エリア数五』


『第五位 タイトルベアード 獲得エリア数五』


 そして画面が切り替わった。


 大河は息を止めた。


『第八位 スペースワンダフル 獲得エリア数四』


 誰も声を出さなかった。


 大河は画面に映った文字をじっと見つめる。


「……俺たち?」


「そう書いてあるだろ」


 ライズが大河の肩を叩いた。


 次の瞬間、トータが両腕を突き上げた。


「よっしゃあ! 八位だ!」


「やったな!」


 ライズも拳を上げる。


「8位なのです!」


 ポルポルが二人の頭上を勢いよく飛び回る。


「スペースワンダフルが8位なのです!」


「初参加で8位って、やるじゃん!」


 ビスタも笑いながら大河の背中を叩いた。


「痛っ! まだ治療途中だって!」


「あ、ごめんじゃん」


「軽いな!」


 笑い声が広がる。


 その中で、クララだけは腕を組んだまま大型モニターを見上げていた。


 八位に表示された自分たちの名前ではなく、その上に並ぶグループ名を順番に追っている。


「……ちょっと待って」


「どうした?」


 大河が顔を向ける。


 クララはモニターから目を離さず、わずかに眉を寄せた。


「上位四組、スターエルミナスとその傘下じゃない」


 言われて、大河も改めて順位を見る。


 一位のスターエルミナス。その下にはスターワン、ダブルスター、トリプルスターダムが並んでいる。


「それに、アイナルファイターとロックフィッシャーの名前がないわね」


「強いグループなのか?」


「どっちも大きな派閥の本体よ。最後まで残っていてもおかしくないわ」


 クララの視線が、一位のスターエルミナスへ戻る。


「おそらくスターエルミナスにやられたんだわ」


 大河の脳裏に、銀色の星を胸につけた五人が浮かんだ。


 自分たち三人を追い詰め、クララとルルを脱落させた相手。その強さを思い返せば、クララの推測を簡単に否定する気にはなれなかった。


「そんな中で、ここまで残ったのはすごいのです!」


 ポルポルが順位表の前までふわりと飛んでいく。


 クララはもう一度、五位から八位までの名前を追った。


「確かに、初出場で最後まで残ったのは私たちだけね。それに上の七組は……全部グループランキングベスト10じゃない」


「……マジか」


 トータが上から順番に数えるように指を動かし、目を丸くする。


 ライズも順位表を見上げ、その口元をゆっくり緩めた。


「だったら、胸張っていいだろ。俺たち」


 大河は隣を見た。


 ルルが胸の前で両手を重ねている。


 大騒ぎするトータたちを見て、それからもう一度、画面に表示された「スペースワンダフル」の文字へ視線を戻した。


 やがて大河と目が合う。


「……8位なんだね」


 ルルが小さく笑った。


「そうみたいだな」


「よかったね、大河くん」


 大河はルルの顔を見てから、ライズ、トータ、クララへ視線を移した。


「やったな、みんな」


「何言ってんのよ」


 クララが腕を組んだまま横目を向ける。


「まだ8位でしょ。次はもっと上よ」


「もう次の話かよ」


「当然じゃない」


 その言葉にライズが笑い、トータも大きく頷いた。


 ポルポルだけはまだ興奮が収まらないらしく、「8位なのです」と何度も繰り返しながら宙を飛び回っていた。


     ◇


 ランキング協会を出るころには、空はすっかり暗くなっていた。


 昼から続いたエリアバトルの熱気が嘘のように、夜風が火照った頬を冷ましていく。通りには店先から漏れる灯りが並び、夕食時を少し過ぎた街からは料理の匂いが漂っていた。


 ライズとトータは途中の通りで別れ、クララとルルもそれぞれ自分の家へ帰っていった。


 大河たちがエリカ診療所へ戻ったころには、一日の診療もすでに終わっていた。


 昼間は患者たちの声が絶えなかった一階も静まり返り、窓の外には夜の街の灯りが小さく揺れている。薬草を煮出した匂いだけが室内に薄く残っていた。


「まったく、ずいぶん派手にやったようじゃのう」


 エリカは寝台に横たわる大河の脚へ手をかざした。


 淡い光が掌から溢れ、ランキング協会の治療では取り切れなかった重さが、じんわりと身体の奥から抜けていく。


 寝台の横ではポルポルが治療の様子を覗き込み、少し離れた椅子にはビスタが腰掛けていた。


「これでもランキング協会でかなり治してもらったんですけどね」


「無茶をした身体は、そう簡単には元に戻らんよ」


 エリカは大河の脚から胸元へ手を移し、光をゆっくり広げていく。


「大河さん、最後は立つこともできなかったのです」


 ポルポルが横から口を挟む。


「それ、エリカさんに報告する必要ある?」


「重要な情報なのです」


「ほっほっほ。よほど頑張ったようじゃな」


 エリカは楽しそうに笑いながら治療を続ける。


「初めてのエリアバトルで8位じゃろ?」


「みんながいたからですよ」


「それでも最後まで残ったのは大河くんじゃ」


 エリカの掌から溢れていた光が、ゆっくりと弱まっていく。


 大河が脚を少し動かしてみると、さっきまでまとわりついていた重さがかなり薄れていた。


「すごいのう、大河くん。わしも大河くんの勇姿を見たかったわい」


「勇姿って……最後は逃げてただけですよ」


「あれ、逃げたっていうより消えたみたいだったじゃん」


 椅子に座っていたビスタが笑う。


「急にビューンっていなくなるから、追ってた奴らも止まってたし」


「逃げ切ったのです!」


 ポルポルも負けじと声を上げる。


「大河さん、ものすごい速さだったのです!」


「ほう。それはますます見たかったのう」


 エリカは大河の顔を眺めながら、満足そうに何度も頷いた。


 そして頬へ片手を添え、にんまりと笑う。


「さすが、わしの未来の旦那さまじゃ」


「誰がですか」


 大河の返事は早かった。


 エリカの楽しそうな笑い声が、静かな夜の診療所に響いた。

第85話を読んでいただき、ありがとうございました。


ついに決着した《大規模エリアバトル》。


スペースワンダフルは初参加ながら、見事8位に入りました!


最後の最後まで諦めなかった大河。そして、大河を守るために戦ったライズ、クララ、ルル、トータ。


五人全員の頑張りが実を結んだ結果だと思います。


しかし、今回もっとも印象的だったのは、スターエルミナスの圧倒的な強さではないでしょうか。


獲得エリア数は、なんと49。


大河たちの4エリアと比べても、その差は歴然です。


さらに上位にはスターエルミナスとその傘下グループが並び、現在のグループランキング上位勢の強さも見えてきました。


それでも、初参加で8位という結果は、スペースワンダフルにとって大きな一歩。


これから五人がどこまで成長していくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


面白かった、続きも読みたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


皆様の応援が執筆の励みになります。


次回もよろしくお願いします!

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