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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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81/95

第81話 乱戦

第81話です。


初めての戦闘を終えたスペースワンダフル。


次に向かったのは、開始直後に一グループが脱落したエリアでした。


しかし、考えることは他のグループも同じ。


敵を倒すだけでは勝てない《大規模エリアバトル》。


誰が《エリアの玉》を持っているのか分からない中、スペースワンダフルはさらなる戦いへ巻き込まれていきます。


今回もよろしくお願いします!

 《炎界》によって焼けた木々の匂いが、まだ森の中に残っていた。


 黒く縮れた葉の隙間から細い煙が立ち上り、湿った空気の中へゆっくりと溶けていく。先ほどまで敵がいた場所には踏み荒らされた土と焦げ跡が残っているものの、人の姿はもうない。戦闘不能になった一人はランキング協会へ転移し、もう一人は森の奥へ逃げていた。


 大河は地図を広げ、青紫色に染まったエリア63から少し離れた場所へ視線を移した。


「エリア66……」


 そこは、このエリアバトルが始まって間もなく、《グラムゾン》の脱落が放送された場所だった。


 グラムゾンを倒したグループが領地を引き継いでいる以上、エリア66が無人の土地になったわけではない。それでも、倒した側がいつまでもそこに留まっているとは限らなかった。


「行ってみる?」


 クララが大河の手元を覗き込む。先ほど《炎界》を使ったばかりだが、呼吸はすでに落ち着いていた。


「グラムゾンはもういない。倒したグループも別の場所へ動いてるかもしれないし、まず様子を見に行こうと思う」


 大河が顔を上げると、ライズが治してもらった左脚を確かめるように地面を二度踏んだ。


「俺もそれでいい。脚ももう問題ない」


 ルルが小さく頷く。その隣でトータだけは周囲を見回しながら、少し気になるように眉を寄せていた。


「でもさ、俺たちがそう考えるってことは、他の奴らも考えない?」


 その言葉に、大河は一瞬黙った。


 確かにその可能性はある。


 それでも、このままエリア63付近に留まり続ける方が危険だった。逃げた敵が仲間を連れて戻ってくるかもしれない。《炎界》の煙を見た別のグループが近づいてくることも考えられる。


「あり得るな。だから66へ入る前に一度止まって、周囲を確認しよう」


 大河が地図を畳むと、五人は森の奥へ歩き始めた。


 エリア63を離れるにつれて焦げた匂いは薄れ、代わりに湿った土と草の青臭さが鼻をくすぐるようになった。頭上では幾重にも重なった枝葉が陽射しを遮り、その隙間から落ちる光が苔の上にまだらな模様を作っている。


 五人は互いの姿を見失わない距離を保ちながら進んだ。


 ときおり、遠くから魔法の炸裂する音が届く。


 ドォン……。


 しばらくすると、今度は別の方向から低い振動が森を伝ってきた。


 ズズン……!


 大河の視線が自然とそちらへ向かう。


 一度不意打ちを受けたことで、さっきまでとは森の見え方が変わっていた。枝が揺れるだけでも足がわずかに止まり、鳥が飛び立てば、その奥に人影が隠れていないか確かめてしまう。


 やがて木々の間隔が広くなり、前方から強い陽射しが差し込んできた。


「そろそろだと思う」


 大河が声を落とす。


 森の先には、岩の多い開けた土地が広がっていた。腰ほどの高さの岩や低木が点在し、その向こうには緩やかな斜面が続いている。森の湿った空気とは違い、吹き抜けてくる風には乾いた土の匂いが混じっていた。


 大河は太い木の幹に身体を隠しながら、そっと顔を出した。


 誰もいない。


 そう思った直後、斜面の向こうで何かが動いた。


 人影だった。


 一人、二人と姿を現し、やがて五人になる。


「いるな」


 ライズも大河の横から覗き込む。


「一グループか……」


 大河が呟いたとき、後ろにいたクララが反対方向へ顔を向けた。


「待って。あっちにもいるわ」


 右手の林から、別の集団が姿を現す。


「マジかよ」


 トータが目を見開いた。


 それだけでは終わらなかった。斜面の奥からも人影が現れ、さらに少し離れた岩場にも別の五人組が見える。


 大河は思わずトータを見た。


「大当たりだったな」


「こういうのは当たりたくなかったんだけど……」


 スペースワンダフルを含めれば、五グループ。


 どうやら考えることは皆同じだったらしい。


 しかし、誰もすぐには動かなかった。


 風だけが岩の間を抜け、乾いた草をざわざわと揺らしている。


 誰が《エリアの玉》を持っているのか分からない。それどころか、どの集団がどのグループなのかさえ分からなかった。


 向こうも同じなのだろう。


 一人の男が剣の柄へ手を置いた。


 別の女が杖を握り直す。


 その小さな動きに反応するように、周囲の者たちの足が少しずつ開いていった。


 大河も腰を落とす。


 四方に敵がいる。


 最初に一グループへ仕掛ければ、背後から別のグループに狙われるかもしれない。逆に様子を見すぎれば、複数のグループから同時に狙われる可能性もある。


「大河」


 クララが周囲から目を離さず、低い声を出した。


「囲まれる前に動いた方が――」


 ドゴッ!


「ぐあっ!」


 鈍い音がクララの言葉を遮った。


 大河が振り向く。


 ライズの拳が、近くにいた男の頬へ深くめり込んでいた。男の身体が半回転し、砂埃を上げながら地面へ倒れる。


「ライズ!?」


「考えてても仕方ねえだろ!」


 ライズが拳を引く。


 倒れた男もすぐに片手を地面について起き上がろうとした。


「てめえ!」


 その声が号砲になった。


「やれ!」


 どこかから怒鳴り声が飛んだ瞬間、それまで張り詰めていた均衡が一気に崩れた。


 ドンッ!


 ゴオッ!


 火球が岩へ激突し、剣と剣が甲高い音を響かせる。四方から人が駆け込み、さっきまで静かだった岩場が瞬く間に戦場へ変わった。


「ルル、下がって!」


 クララが叫びながら腕を振る。


 ルルへ向かって飛んできた火球へ横殴りの風がぶつかった。


 ボンッ!


 軌道を逸らされた炎が岩肌へ炸裂し、赤い火花が飛び散る。


 その横を一人の男が駆け抜けようとした。


 大河は伸びてきた拳を半歩下がってかわし、その手首を掴んだ。相手の勢いを殺さないまま懐へ入り、腰を落とす。


「ふっ!」


「なっ――!」


 男の身体が宙を舞った。


 ドンッ!


 背中から地面へ叩きつけられ、男の口から息が漏れる。それでもすぐには消えない。歯を食いしばって身体を起こそうとしたため、大河は追撃せずに距離を取り、別方向から迫る敵へ身体を向けた。


 視界の端ではライズが二人を相手にしている。


 一人の拳を肩でかわし、脇腹へ拳を叩き込む。


 ドッ!


「ぐっ!」


 身体を折った相手の肩を押し退けると、間髪入れずにもう一人の蹴りを腕で受けた。鈍い音が響いたが、ライズは下がらない。その脚を抱え込むように掴み、軸足へ自分の脚を引っかける。


「おらっ!」


 バタンッ!


 男が背中から倒れる。


 ライズはすぐに胸元へ膝を置き、拳を振り上げた。


「まだやるか?」


「……くそっ!」


 男が顔を背けながら片手を上げる。


「降参だ!」


 その瞬間、身体が淡い光に包まれ、ランキング協会へ転移していった。


「ライズ、後ろ!」


 大河の声にライズが顔を上げる。


 風の刃が迫っていた。


「させない!」


 クララが右手を薙ぐ。


 ゴオッ!


 強烈な風が風刃を呑み込み、そのまま術者へ襲いかかった。


「うわっ!」


 男の身体が後ろへ吹き飛び、岩へ背中を打ちつける。


 ドガッ!


「がっ……!」


 男は岩肌を滑るように崩れた。それでも杖を握ったまま立ち上がろうとする。


 クララの目が細くなる。


 右手の指先に赤い光が灯った。


「まだやるなら、次が来るわよ」


 男が顔を上げる。


 その目の前で、小さな炎が一気に拳ほどの大きさへ膨らんだ。


「……降参する」


 杖が地面へ落ちた。


 淡い光が身体を包み、男の姿が消えていく。


 だが、クララの周囲にはさらに三人が迫っていた。


「一人に三人なら!」


 剣を持った男が正面から突っ込んでくる。その左右から二人が回り込み、逃げ道を塞ごうとした。


 クララは動かなかった。


 赤い髪だけが風に揺れる。


 右手を正面へ向けた瞬間、空気が大きく震えた。


 ゴオオオッ――!


「うわっ!」


 三人の身体がまとめて浮き上がる。


 一人は地面へ転がり、もう一人は低木へ突っ込んだ。正面にいた男だけは背後の岩へ激しく叩きつけられる。


 ドガッ!


「ぐっ……!」


 剣が手から落ちた。


 それでも男は震える腕で地面を押し、立ち上がろうとする。


 クララはそこへ歩み寄りながら、掌を向けた。


 ボウッ。


 赤い炎が生まれる。


「待っ――」


 炎は男ではなく、そのすぐ横の地面へ叩きつけられた。


 ボンッ!


 熱風と土煙が弾ける。


 男が反射的に顔を庇ったところへ、クララがもう一度風を放った。


 ドンッ!


「がっ!」


 身体が横へ転がり、今度こそ男は起き上がらなかった。


 剣から離れた指が地面へ落ち、全身から力が抜ける。


 数秒遅れて淡い光が男を包んだ。


『エリア59、《ホットリバーサイド》の脱落を確認しました』


「一組!」


 ライズの声が戦場を抜ける。


 クララが倒した男が《エリアの玉》を持っていたらしい。周囲で戦っていた何人かが同時に光へ包まれ、次々と姿を消していった。


 人数が一気に減る。


 その光景を見た二人の男が顔を見合わせた。


「まずい、逃げるぞ!」


 背を向けて走り出す。


 大河は地面を蹴った。


「逃がすか!」


 ザッ!


 距離が一気に縮まる。


 一人目が足音に気づいて振り返り、剣を横薙ぎに振った。


 大河は身体を沈める。


 刃が髪の上を通過した。


 懐へ入ると同時に剣を持つ手首を掴み、相手の身体へ肩を入れる。そのまま腰を回した。


「うおっ!」


 ドンッ!


 男が地面へ叩きつけられる。


 それでも男はすぐに身体を捻り、空いた拳を大河へ振り上げた。


 大河は顔を引いてかわすと、その腕まで掴んだ。背後へ回り込み、男の首へ腕を回す。


「ぐっ……!」


 男が大河の腕を両手で掴む。


 脚が地面を蹴り、必死に身体を起こそうとする。


 大河は締める力を調整しながら、逃げ道だけを塞いだ。


「降参するか?」


「だ、誰が……!」


 男はなおも腕を剥がそうとしたが、その動きが少しずつ弱くなっていく。


 握っていた指が緩んだ。


 大河は意識を失う直前に腕を解いた。


 男の身体が地面へ崩れ落ちる。


 そこで初めて淡い光が広がった。


『エリア61、《ナンヨーソーレ》の脱落を確認しました』


「もう一人!」


 大河はすぐに立ち上がった。


 もう一人はかなり先まで逃げている。


 男が振り返り、掌を大河へ向けた。


 水が渦を巻きながら集まっていく。


「来る!」


 大河は走りながら右手を下へ向けた。


 男の足元に薄い氷が走る。


「なっ!」


 水魔法を放とうと踏ん張った足が滑った。


 身体が大きく傾く。


 それでも男は倒れまいと片脚を踏み出した。


 その瞬間には、大河が目の前まで来ていた。


「速っ――」


 腹へ掌底を叩き込む。


 ドンッ!


「がっ……!」


 男の口から息が吐き出され、身体がくの字に折れる。


 大河はその腕を取り、脚を払った。


 ドサッ!


 男が背中から地面へ落ちる。


 だが、まだ終わらない。


「く……そっ……」


 男は肘を立て、起き上がろうとした。


 大河は一瞬だけその様子を見る。


 まだ戦う意思がある。


 ならば、ここで止める。


 起き上がりかけた男の背後へ回り、腕を取ったまま地面へ押さえ込む。


「ぐっ!」


 男が暴れる。


 大河は関節を決めたまま、それ以上力を入れずに待った。


「まだやる?」


「……降参、する」


 掠れた声が聞こえた瞬間、大河はすぐに手を離した。


 淡い光が男の身体を包む。


『エリア54、《ソンナーアホーナル》の脱落を確認しました』


 三つ目の放送が響いた。


 大河が顔を上げる。


 戦場に残っていた者たちも動きを止めていた。


 クララの周囲では熱を帯びた空気が揺らぎ、ライズは拳を構えたまま荒い呼吸を整えている。地面には魔法で抉られた跡や砕けた石が散らばり、少し前まで二十人以上が入り乱れていた岩場から、人の姿が急速に減っていた。


 残っていた一グループの男が周囲を見回す。


 仲間と視線が重なった。


「撤退するぞ!」


 五人が一斉に走り出す。


「追うか?」


 ライズが大河を見る。


 大河は逃げていく背中と、別方向へ続く岩場を交互に見た。


 追った先に何があるか分からない。


 それに、自分たちはすでに三グループを脱落させている。


「いや、ここで止めよう」


 ライズは少し名残惜しそうに拳を下ろした。


 そのときだった。


「痛たた……」


 聞き慣れた声が後ろからした。


 大河が振り返る。


 岩の陰でトータが額を押さえて座り込んでいた。その指の隙間から細い血が流れ、ルルが心配そうに顔を覗き込んでいる。


「トータ、怪我したの?」


「なんか途中で石が飛んできた」


 クララが乱れた赤い髪を手で整えながら近づいてくる。


 トータの額を見たあと、その手元へ視線を落とした。


「……あんた、何もしてないのになんで怪我してるの?」


「俺だって好きで怪我したんじゃないよ!」


「戦ってない人が一番分かりやすく怪我してるじゃない」


「乱戦って怖いんだよ! 何もしてない奴にまで飛んでくるんだから!」


 ライズが堪えきれず吹き出した。


 クララも呆れたように息を吐きながら、口元だけはわずかに緩んでいる。


「トータ、動かないで」


 ルルだけは真面目な表情を崩さず、トータの額へ両手を近づけた。


 淡い光が傷を包み込む。


「おお……気持ちいい」


「喋ると動くから」


「はい」


 素直に口を閉じたトータを見て、大河も思わず笑った。


     ◇


 ランキング協会の観戦スペースでは、大型魔法モニターに映し出された地図を前に、ポルポルが忙しなく上下へ飛び回っていた。


「増えたのです! また増えたのです!」


 スペースワンダフルを示す青紫色が、一つ、また一つと増えていく。


 エリア59。


 エリア61。


 エリア54。


 ビスタも腕を組んでいた姿勢を崩し、画面へ少し身を乗り出していた。


「三グループ一気か。やるじゃん」


「大河さんたちは強いのです!」


 ポルポルが誇らしげに胸を張る。


 ところが画面が切り替わり、ルルに治療してもらっているトータが大きく映し出された。


 ポルポルの耳がぴくりと動いた。


「トータさん、怪我してるのです!」


 ビスタは画面を眺めたまま首を傾げる。


「……あいつ、何してたっけ?」


     ◇


「もう大丈夫」


 ルルが手を離すと、トータは額を何度か触った。


「治ってる。ルル、ありがと」


「次は気をつけてね」


「何をどう気をつければいいのか分かんないけど、頑張る」


「まず周りを見なさいよ」


 クララの声に、またライズが笑う。


 大河はそのやり取りを聞きながら地図を広げた。


 開いた瞬間、指が止まる。


 エリア63。


 エリア59。


 エリア61。


 エリア54。


 四つの場所が青紫色に染まり、それぞれに《スペースワンダフル》の名が浮かんでいた。


「本当に増えてる……」


 ルルが大河の横から地図を覗き込む。


 最初は一つだけだった自分たちの領地が、たった一度の乱戦で四つになった。


 大河は地図から顔を上げた。


 岩場には戦いの痕跡が生々しく残っている。砕けた石、抉れた地面、焦げた草。乾いた風が吹くたびに土埃が舞い、火魔法の残した焦げ臭さが鼻をかすめた。


 三グループを倒した。


 確かな成果だった。


 それでも大河の脳裏には、開始直後に遠くの空を赤く染めた、あの巨大な炎が残っている。


 この島には、自分たちより遥かに強い者たちがいる。


 そして五時間のエリアバトルは、まだ始まったばかりだった。

第81話を読んでいただき、ありがとうございました。


様子を見るはずが、ライズの一撃からまさかの大乱戦へ。


結果は三グループを脱落させ、スペースワンダフルの領地は一気に四エリアまで拡大しました!


大河、ライズ、クララもそれぞれの強みを発揮し、ルルも回復役としてしっかり活躍。


そして秘密兵器のトータは――なぜか何もしていないのに負傷しました。


《目印》の出番は、まだ先になりそうです。


とはいえ、開始直後に見た巨大な炎の存在も忘れてはいけません。


順調に領地を増やし始めたスペースワンダフルですが、五時間の戦いはまだ序盤。


この先、どんなグループとぶつかるのか。


続きが気になる、面白かったと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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