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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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79/95

第79話 大規模エリアバトル

第79話です。


初めてのグループ戦を勝利で飾った《スペースワンダフル》。


次に挑むのは、これまでとはまったく違う大規模ランキング競技です。


参加するのは100グループ、総勢500人。


広大な島を舞台に、五時間でどれだけ自分たちのエリアを広げられるか。


そして今回、何より重要になるのが《エリアの玉》。


どれだけ領土を広げても、たった一つの玉を奪われればすべてを失います。


戦うのか、守るのか、それとも奪うのか。


《スペースワンダフル》初めての大規模エリアバトル、開幕です!


今回もよろしくお願いします!

長期休暇に入って五日目の朝。


 ランキング協会の正面玄関をくぐった瞬間、大河は普段とは違う空気を感じ取った。


 高い天井の下を行き交う人の数が明らかに多い。背丈ほどもある大剣を背負った男の横を、揃いのローブをまとった五人組が通り過ぎ、少し離れた場所では弓を携えた女性たちが地図らしき紙を囲んでいる。金属製の防具が擦れる硬い音、受付から聞こえる職員の声、ランカーたちの話し声が重なり、朝だというのに建物の中には熱気がこもっていた。


「今日はすごい人なのです」


 大河の肩の横を飛んでいたポルポルが、忙しそうに左右へ顔を向ける。


「これ、みんな今日のやつ?」


 ビスタも足を止め、吹き抜けになった広いロビーを見回した。


「たぶんそうじゃないかな」


 大河は答えながら、入口近くで待っていたライズたちを見つけた。


 長期休暇二日目に《ポットデイ》を破り、スペースワンダフルはグループとして最初の10ポイントを獲得した。その翌日は身体を休め、四日目はそれぞれが個人練習や自分のランキング活動に時間を使った。


 そして今日、挑戦するのは二つ目のグループ競技。


 《大規模エリアバトル》。


 グループを登録した際に参加申請を済ませていたものの、競技そのものは全員が初めてだった。


「揃ったな」


 ライズが壁から背中を離す。


「とりあえず受付に行きましょう。ルールもちゃんと聞いておかないと」


 クララの隣では、ルルが周囲の人混みに圧倒されたように杖を両手で抱えている。トータはそんな二人とは対照的に、珍しそうに参加者たちの装備を眺めていた。


 五人でグループ競技用の受付へ向かい、大河がランキングカードを差し出す。


「スペースワンダフルですね」


 女性職員がカードを装置へ通すと、淡い光とともにグループ名が浮かび上がった。


《スペースワンダフル》


《グループ総合ポイント 10pt》


《グループ総合ランキング 圏外》


「本日は大規模エリアバトルへの参加ですね。皆さんは今回が初参加となっていますので、先に競技説明を行います」


「お願いします」


「では、こちらへどうぞ」


 案内されたのは受付の奥にある小さな説明室だった。


 部屋の中央には大きな円形の机が置かれ、その上には何もない。五人が周囲へ立つのを確認すると、職員が机の縁にある小さな魔石へ触れた。


 青白い光が広がる。


 次の瞬間、机の上に巨大な島が浮かび上がった。


「おお……」


 トータが思わず身を乗り出す。


 緑の濃い森、その向こうに広がる平原。島を横切る川が細い光となって流れ、北側には岩山が連なっている。反対側には崩れかけた建物が密集した廃墟まであり、小高い丘や谷も立体的に再現されていた。


 大河も島へ顔を近づける。


 作り物の地図だと分かっているのに、木々一本一本にまで影が落ちていた。


「こちらが本日の競技フィールドです。ランキング協会が魔法空間内に作り出した島で、端から端までおよそ三十キロあります」


「三十キロ?」


 ルルが目を丸くした。


「そんなに広いんですか?」


「参加するのは100グループですからね。一グループ5名、合計500名が同時にこの島へ転送されます」


「五百人……」


 ルルの声がさらに小さくなる。


 その横でトータは地図を見つめたまま眉を寄せた。


「これ、もしかして五百人で最後の一人になるまで戦うとか?」


 職員が微笑みながら首を横へ振る。


「いいえ。大規模エリアバトルの目的は、敵を倒した人数ではありません」


 職員が地図へ指を向けると、島全体に細い境界線が浮かび上がった。


「開始時には、各グループに一つずつスタートエリアが与えられます。制限時間は五時間。午後一時に開始し、午後六時に終了します。その時点で所有しているエリアの広さによって順位が決まります」


 境界線で区切られた土地を見ながら、大河は職員の言葉を頭の中で追った。


「広い順ってことですか?」


「はい。1位が100ポイント、2位が90ポイント。その後は10ポイントずつ下がり、10位が10ポイントを獲得します。11位以下にはポイントは入りません」


 ライズが地図を覗き込みながら腕を組む。


「じゃあ五時間生き残っても、エリアが狭かったら意味がないのか」


「そのとおりです」


「逆に言えば、誰とも戦わなくても十位以内ならポイントが入る?」


 クララの問いに、職員が頷いた。


「入ります。敵を倒した人数そのものにはポイントはありません」


「なんか今までと全然違うな」


 トータが地図の上を指で追う。


「でも、どうやってエリアを増やすんです?」


 大河が尋ねると、職員は机の下に備えられた小さな箱を開いた。


 中から取り出したのは、手のひらに収まるほどの透明な球体だった。


「こちらを使用します」


 球体を机の中央へ置き、その横へスペースワンダフルのランキングカードをかざす。


 ふっと光が灯った。


 透明だった球体の中心から、青と紫が溶け合ったような光が広がっていく。


「綺麗……」


 ルルが球体を覗き込む。


「これがスペースワンダフルの《エリアの玉》です」


 職員が大河へ差し出した。


 受け取ってみると、見た目より少し重い。表面はガラスのように滑らかで、掌へひんやりとした感触が残った。


「この玉は一グループにつき一個だけ与えられます。誰が所持しても構いません。途中で仲間へ渡しても、服や荷物の中へ隠しても問題ありません」


「誰が持ってるか、相手には分かるんですか?」


 クララが尋ねる。


「分かりません」


 その答えに、クララの視線が大河の掌へ落ちた。


「そして敵グループの《エリアの玉》を奪えば、そのグループが所有しているすべてのエリアが皆さんのものになります」


「全部?」


 トータが顔を上げる。


「例えば相手が三つエリアを持ってたら?」


「三つともスペースワンダフルの所有エリアになります。奪った敵の玉はその時点で消滅しますので、皆さんが守る玉は最後までこの一個だけです」


 職員が地図へ手をかざすと、一つのエリアが青紫色に染まった。


 続いて隣の土地も、その隣も同じ色へ変わっていく。


「一度獲得したエリアだけを別のグループが奪うことはできません。所有権が移るのは《エリアの玉》を奪われたときです」


 ライズの眉がわずかに寄った。


「待ってくれ。ってことは俺たちが十個エリアを持ってても、この玉を奪われたら……」


「スペースワンダフルはその時点で脱落。所有していた全エリアが、玉を奪ったグループへ移ります」


 部屋の空気が、それまでとは少し変わった。


 大河は掌の球体へ目を落とす。


 直径数センチしかない小さな玉。


 しかし、これ一個を失っただけで五時間かけて手にしたものがすべて消える。


「これ……めちゃくちゃ大事じゃん」


 トータの声から、いつもの軽さが少し消えていた。


「敵を倒すより、まずこれを守ることを考えた方がよさそうだな」


 大河が呟くと、ライズも小さく頷いた。


 職員は続けて戦闘不能や棄権による個人脱落、武器や魔法、スキルが使用可能であること、殺害は禁止されていることなどを説明していった。五人全員が倒れなくても、玉さえ奪われれば終わる。一方で一人や二人が戦闘不能になっても、玉を保持している限り残った仲間で競技を続けられる。


 説明を聞き終えた頃には、最初に島を見たときとは地図の印象がまるで違っていた。


 森も、川も、岩山も、ただの景色には見えない。


 隠れる場所。


 逃げる場所。


 待ち伏せする場所。


 そして敵の玉を奪うための戦場になる。


「最後にスタートエリアについてです」


 職員が記録へ視線を落とした。


「スペースワンダフルは参加申請55番目ですので、スタートエリアの選択も55番目になります。順番になりましたらお呼びします。それまではこちらの地図を使って作戦を考えていただいて構いません」


 五人は説明室を出ると、近くの待機スペースにある机を囲んだ。


 渡された地図を広げた途端、トータの視線が大河の手へ向く。


「で、それ誰が持つ?」


 大河は青紫に光る玉を机の中央へ置いた。


「一番大事なのは間違いなさそうだな」


「ルルに持ってもらって、森とかに隠れててもらうのは?」


 トータが地図の森を指差す。


「わ、私?」


 突然名前を出されたルルが背筋を伸ばした。


「見つからなければ安全だけど、見つかったら危険すぎるわ」


 クララが首を横へ振る。


「玉を持っている人間が弱いと分かったら、複数で狙われる可能性だってあるもの」


 大河はクララを見る。


「クララとルルが一緒に動くのはどうかな」


「私はそのつもりよ。五時間もあるんだから回復役は重要でしょ。ルルを一人にするより、私が近くにいた方がいいわ」


 クララなら魔法で広範囲を警戒できるうえ、近づかれても剣で戦える。


「ライズには前で動いてもらいたい」


「任せろ」


 ライズは迷わず答えた。


 残ったトータが自分の顔を指差す。


「俺は?」


「隠れる?」


 クララがさらりと言う。


「さっき俺がルルに言ったやつじゃん」


 トータが苦笑したところで、大河はふと彼の手元を見た。


「トータ。《目印》って物にも付けられるんだよな?」


「付けられるよ」


 トータは指先で小さな円を作る。


「人じゃなくても大丈夫」


「だったら、この競技で何かに使えるかもしれない」


「何かって?」


 大河は地図を眺めたが、すぐに使い道が浮かんでくるわけではなかった。


「まだ分からない。でも覚えておこう」


「そこはノープランなのね」


 トータが肩をすくめる。


 大河は小さく笑いながら、机の中央の玉へ手を伸ばした。


「これ、俺が持つよ」


 クララが顔を上げる。


「大河が?」


「俺かクララが一番守りやすいと思う。クララにはルルと動いてほしいし、ライズも前で自由に戦ってほしい」


「でも、お前も前に出るだろ?」


 ライズの視線が玉へ落ちる。


「だからいいと思うんだ。誰が持ってるかは相手には分からない。それに狙われても、俺なら簡単には取られない」


 大河は玉を握った。


 自分がハイランカーだと知っている相手なら、正面から狙うのを避けるかもしれない。逆に強敵が来れば、自分が玉を持っていることは危険にもなる。


 どちらが正解かは分からない。


 初めてなのだから当然だった。


 それでも、五人の中で最も守れる可能性が高い人間に預ける。その考えだけは間違っていないと思えた。


「じゃあ決まりね。ただし、玉を持ってることを忘れて突っ込まないでよ」


 クララが念を押す。


「気をつけるよ」


 大河は玉を服の内側へしまった。胸元に触れる球体の冷たさが、競技の重さを伝えてくるようだった。


 しばらくして、受付からスペースワンダフルの名前が呼ばれた。


 五人が再び説明室へ入ると、先ほどの島にはすでにいくつもの選択済みの印が浮かんでいた。


「やっぱり半分以上埋まってるわね」


 クララが地図の周囲を歩く。


 川沿いや背後を岩山に守られた場所など、分かりやすく条件の良さそうなエリアはすでに選ばれている。


「ここはどうだ?」


 ライズが島の中央から少し外れた場所を指差した。


 深い森と平原が接するエリアだった。


 片側には木々が密集し、反対側には見通しのいい草地が広がっている。


「森なら隠れられるし、平原側から来る敵は見つけやすいわね」


 クララが周囲の地形を確認する。


「逃げ道もありそう」


 ルルも地図を覗き込んだ。


 大河は少し考えてから頷いた。


「ここにしよう」


 職員へ伝えると、そのエリアが青紫色へ染まった。


 中央に《スペースワンダフル》の文字が浮かび上がる。


 今は、たった一つ。


 五時間後、この青紫がどれほど広がっているのか。


 それとも途中で消えているのか。


 大河はしばらく、その小さな領土を見つめていた。


     ◇


 午後一時が近づく頃には、ランキング協会の転移ホールは朝以上の熱気に包まれていた。


 参加する100グループ、総勢500人。剣や槍を持つ者、巨大な盾を背負った者、色とりどりのローブをまとった魔法使い。見渡しても端が分からないほどのランカーが集まり、低い話し声が高い天井へ幾重にも反響している。


 昨日までなら気になったかもしれない強そうなランカーの姿も、今日は一人ひとり確かめている余裕などなかった。


 この中の99グループが敵になる。


「大河さん、頑張るのです!」


 ポルポルが大河の目の前まで飛んできた。


「大型モニターから応援してるのです!」


「向こうには聞こえないらしいぞ」


「それでも応援するのです!」


 胸を張るポルポルの後ろで、ビスタが困ったように笑った。


「俺、五時間ずっと横で聞くことになるんじゃない?」


「ビスタさんも応援するのです」


「分かった、分かった」


 ビスタは片手を上げると、大河たち五人へ視線を向けた。


「まあ、五時間もあるんだから無茶しないようにね」


 大河は胸元へ手を当てた。


 服の下から《エリアの玉》の硬い感触が返ってくる。


 そのとき、転移開始を告げる低い鐘の音が響いた。


 ざわめいていたホールが少しずつ静かになる。


 五人の足元へ青白い魔法陣が広がった。


「参加者の皆様を、それぞれのスタートエリアへ転送します」


 職員の声がホールへ響く。


 大河はライズ、クララ、ルル、トータを順番に見た。


「行こう」


 四人がそれぞれ頷いた。


 光が一気に立ち上がり、視界を白く染めた。


 身体の重さが一瞬だけ消える。


 次に大河の靴底へ伝わってきたのは、石ではなく柔らかな土の感触だった。


 草の青い匂いが鼻をくすぐる。


 頬を撫でる風には、森の湿った冷気が混じっていた。


 振り返れば太い木々が連なる深い森。その反対側には陽光を浴びた平原が広がり、風が吹くたびに草原全体が大きな波のように揺れている。さらに遠くには岩山の稜線が薄く霞み、その向こうには地図で見た廃墟らしき影まで見えた。


「……これ、本当に魔法空間なの?」


 ルルが近くの木へそっと触れた。


 指先が樹皮の凹凸をなぞる。


「匂いまで普通の森と変わらないわね」


 クララが赤い髪を押さえながら周囲を見渡す。


 大河は地図を開いた。


 広大な島の中で、一か所だけ青紫色に染まっている。


《スペースワンダフル》


 ほかのエリアにはグループ名も色もない。


 この島のどこに、どんな相手がいるのか分からない。


 残り99グループ。


 495人。


 その中には、自分たちより遥かに強いランカーがいるかもしれない。


 大河が地図を閉じると、胸元の玉が身体へ小さく触れた。


 やがて空のどこからともなく、澄んだ声が降ってきた。


『全100グループの転送を確認しました』


 ライズが拳を握る。


 クララの視線が森の奥へ走り、ルルは杖を胸元へ引き寄せた。トータも先ほどまでの軽い表情を消し、平原の向こうを見つめている。


『制限時間は五時間』


 風が吹き抜けた。


 平原の草が一斉に傾き、ざわざわという音が五人の周囲を包む。


『これより、大規模エリアバトルを開始します』


 午後一時。


 大河は青紫色の地図を握り、まだ誰の姿も見えない平原の彼方へ目を向けた。


 その瞬間、広大な島の各地で、百のグループが一斉に動き始めた。

第79話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は《大規模エリアバトル》のルール説明と、いよいよ開幕までのお話でした。


100グループ、総勢500人。


しかも敵をたくさん倒せば勝ちという単純な競技ではありません。


五時間後にどれだけ広いエリアを所有しているか。


そして何より、《エリアの玉》を最後まで守り切れるかが重要になります。


今回は大河が玉を持つことになりましたが、誰が持っているかは敵には分かりません。


このルールをどう利用するかも、今後のポイントになってきます。


さらに、トータの《目印》は物にも付けられる。


大河が何となく気にしていたこの特徴も、今回の競技で使い道が見つかるかもしれません。


現在、《スペースワンダフル》の領土はたった一つ。


五時間後、この青紫色の領土はどこまで広がっているのか。


それとも、途中で《エリアの玉》を奪われて消えてしまうのか。


次回から、いよいよ500人が入り乱れる大規模エリアバトル本番です。


次回もよろしくお願いします!

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