第78話 グループ戦の初陣
第78話です。
ついに《スペースワンダフル》の初陣!
昨日はエリカを相手に、五人での戦い方を叩き込まれた大河たち。
そして迎えた初めてのグループ総合格闘ランキング戦。
対戦相手は、同じ0ポイントの《ポットデイ》。
結成したばかりの五人は、最初のポイントを手にすることができるのか。
《スペースワンダフル》、ランキングへの第一歩です!
今回もよろしくお願いします!
長期休暇二日目の朝。
エリカ診療所には、昨日とはまるで違う空気が流れていた。階下から聞こえてくるのは、扉が開閉する音や患者たちの話し声。時折、薬草を煮出した独特の匂いが階段を伝って二階まで漂ってくる。休診日だった昨日は朝から静まり返っていたが、今日はすでに何人もの患者が訪れているらしい。
「わしも見に行きたかったのう。もう一つ体が欲しいわい」
階段の前で振り返ったエリカは、いかにも残念そうに肩を落とした。白衣を羽織り、片腕には患者の記録らしい紙束を抱えている。昨日、ランキング協会の訓練場で五人をまるで子供扱いした姿とは別人のようだった。
「初めてのグループ戦じゃろ? せっかく昨日あれだけ鍛えてやったというのに、見れないなんて」
「仕事してください、仕事」
「分かっとるわい」
エリカは唇を尖らせながら紙束を抱え直した。名残惜しそうに大河を見ていたものの、階下から自分を呼ぶ声が聞こえると、表情がすっと診療所の顔へ戻る。
「昨日教えたことを忘れるでないぞ。五人おるからといって、全員で同じ相手へ突っ込む必要はない。相手を見て、誰をどこへ使うか考えるんじゃ」
「分かってます」
「それと大河くん」
階段へ足をかけたエリカが、もう一度だけ振り返った。
「ランス・ドーは使うでないぞ」
「人間相手には使いませんよ」
「ならよい。初陣で相手を吹き飛ばして出場停止では笑えんからの」
エリカは満足したように頷き、白衣の裾を揺らしながら階段を下りていった。
「大河さん、今日は初めてのグループ戦なのです!」
ポルポルがふわりと大河の肩の高さまで浮かび上がる。その後ろではビスタが大きく伸びをしながら、窓から差し込む朝日を眩しそうに眺めていた。
「俺たちも見に行っていいんだろ?」
「もちろん」
「昨日あれだけエリカにボコボコにされたんだから、今日はどうなるか見たいじゃん」
「嫌な言い方するなよ」
苦笑しながらも、大河は胸の奥に昨日とは違う重さを感じていた。
今日は訓練ではない。
勝敗が記録され、獲得したポイントがそのまま《スペースワンダフル》の順位へつながっていく。
今日から、自分たち五人のグループランキングが本当に始まる。
大河はポルポルたちと診療所を出た。
ランキング協会の正面入口には、すでにライズたち四人が集まっていた。朝の陽射しを受けた石造りの建物の前を、武器を背負ったランカーたちが絶え間なく行き交っている。
「来たな」
腕を組んでいたライズが壁から背中を離した。その隣ではクララが赤い髪を耳へかけながら、腰に下げた剣の位置を確かめている。ルルは少し落ち着かないのか、胸元で指を組んだり離したりしていた。
トータだけは普段と変わらず、片手をひらひらと振る。
「よっ。で、今日って俺もガッツリ戦う感じ?」
「そのことなんだけど、できれば《目印》は使わずに勝ちたい」
大河が答えると、トータの眉が上がった。
「え? 俺、いきなり戦力外?」
「逆だよ。まだ相手に知られてないのが《目印》の強みだろ。使わなくて済むなら、できるだけ隠しておきたい」
トータは何か言いかけたものの、すぐに口を閉じた。顎へ指を当てて少し考え、それから口元を緩める。
「なるほどね。秘密兵器ってやつ?」
「自分で言う?」
クララが呆れたように横を見る。
「いいじゃん。秘密兵器。響きは強そうだし」
「実際、決まれば強いでしょ」
そう返したクララの表情は真面目だった。
大河も同じことを考えている。《目印》は仕組みを知られていない今だからこそ、不意を突ける。ここぞという場面まで隠しておく価値は十分にあった。
「じゃあ、行こう」
五人は並んでランキング協会へ入った。
グループ総合格闘ランキング戦の受付には、すでにいくつかのグループが集まっていた。壁際には武器を持った者たちが並び、受付上部の大きな表示板には、参加申請中らしいグループ名が次々と浮かんでは消えている。
大河が《スペースワンダフル》のグループランキングカードを提出すると、受付の女性が専用の装置へ差し込んだ。
「グループ総合格闘ランキング戦への参加ですね」
「お願いします」
カードの表面を淡い光が走る。
しばらくすると、表示板の一角に二つの名前が並んだ。
《スペースワンダフル 0pt》
《ポットデイ 0pt》
「対戦相手が決まりました。《ポットデイ》です。皆さんと同じ0ポイントのグループですね」
表示を見上げていた大河は、ふと疑問を覚えて受付の女性へ視線を戻した。
「対戦相手って、どうやって決まるんですか?」
「参加申請を出しているグループの中から、現在のグループ総合ポイントが近いところを優先して組み合わせます。まったく同じポイントでなければいけないわけではありませんが、大きく離れたグループとは基本的に対戦しません」
「じゃあ、俺たちが0ポイントだから……」
ライズが表示へ目を戻す。
「同じ0ポイントのポットデイと当たったってことか」
「そういうことです。ポットデイは今回が二戦目ですね」
「二戦目でまだ0ポイントってことは、一戦目は負けたのね」
クララが呟く。
受付の女性は記録を確認して小さく頷いた。
「ポイントが増えていけば、それに合わせて対戦相手も変わっていきますよ」
大河はもう一度、表示板に並んだ二つの《0pt》を見た。
勝てばポイントが増える。
そして次は、その増えたポイントに近いグループが相手になる。
ランキング戦なのだから当然といえば当然だが、勝ち続ければ同じように結果を残してきたグループとぶつかることになる。
「それでは第3会場へ転移してください。観戦される方はこちらから同じ会場の観客席へ移動できます」
「大河さん、応援してるのです!」
ポルポルが両手を上げた。
「まだ始まってないだろ」
大河が笑う横で、ビスタは気楽そうに片手を振った。
「昨日よりは楽だと思うよ」
その一言にクララの眉がぴくりと動く。
「昨日と比べる方がおかしいでしょ」
五人は案内された転移室へ入った。
床いっぱいに描かれた魔法陣から青白い光が立ち上がる。足元の感覚がふっと消え、一瞬だけ身体が宙へ置き去りにされたような浮遊感に包まれた。
次の瞬間、靴底へ硬い感触が戻る。
大河の視界いっぱいに、灰色の石床が広がっていた。
「広っ……」
トータが思わず声を漏らす。
第3会場。
およそ五十メートル四方のフィールドを白い境界線が囲み、その外側には半透明の防護障壁が立ち上がっている。天井は高く、観客席から漏れるざわめきが広い空間の中で薄く反響していた。石と金属の乾いた匂いに、わずかに焦げた臭いが混じっている。直前まで別の試合が行われていたのか、床の一角には黒い焼け跡まで残っていた。
昨日の訓練場とは違う。
ここでは、本当に勝敗が記録される。
大河は無意識に拳を握った。
「大河さーん!」
観客席からポルポルの声が飛んでくる。
見上げると、防護障壁の向こうでポルポルが大きく両手を振っていた。その隣ではビスタが座席へ腰を下ろし、こちらへ軽く手を上げている。
反対側の入口が開いた。
五人の男女がフィールドへ姿を現す。
前にいる二人は剣を持ち、その後ろには杖を手にした二人。最後尾の一人も杖を持っているが、服装や装備を見る限り回復役だろう。
「剣が二人、魔法が二人、後ろが回復役か」
ライズが拳を軽く握り直す。
「分かりやすい編成ね」
クララの視線が五人の間を素早く往復する。
大河も相手の立ち位置を一人ずつ確かめた。
昨日のエリカの言葉が頭に浮かぶ。
五人いるからといって、五人が同じことをする必要はない。
「俺とライズが前に出る。ルルとトータは後方で待機してくれ」
「……うん」
ルルが頷く。
大河は続けてクララを見る。
「クララは二人の方も見ていてくれるか?」
「分かったわ。近づけさせなければいいのね」
「俺、マジで立ってるだけになりそうじゃん」
トータが肩を落とした。
「秘密兵器なんだろ?」
大河が返すと、トータは一瞬黙り、それから苦笑する。
「それ言われると何も言えないわ」
両グループが開始位置へ並ぶと、フィールド脇に立っていた審判が前へ出た。
「これより《スペースワンダフル》対のグループ総合格闘ランキング戦を開始します。試合は五対五。武器、魔法、スキル、すべて使用可能です。場外、棄権、戦闘不能となった選手はその時点で脱落。相手グループ五名全員を先に脱落させた側を勝者とします」
大河は正面の剣士へ視線を固定したまま、ゆっくり腰を落とした。
「ただし、相手選手を死亡させた場合は失格となります。死亡させた選手は以後、グループランキングへの参加資格を永久に失い、所属グループも一か月の活動停止処分となります」
大河は右手を一度握り直した。
ランス・ドーは使わない。
エリカに念を押されるまでもなく、この場所で人間へ向けて放つ技ではなかった。
審判が片腕を上げる。
「双方、準備はいいですか?」
空気が張りつめる。
ポットデイの二人の剣士が腰を落とし、その後ろでは魔法使いたちの杖へ赤と青の光が集まり始めた。
ライズが一歩前へ出る。
クララの赤い髪が、場内を抜ける微かな風に揺れた。
「始め!」
ダンッ!
石床を蹴る音が重なった。
真っ先に飛び出したのはライズだった。
「速い!」
正面の剣士が慌てて剣を振り下ろす。
ライズは身体を半歩横へ滑らせ、刃が肩口を通り過ぎた瞬間には懐へ入っていた。
ドッ!
拳が脇腹へめり込む。
剣士の身体が折れたところへ、ライズの右脚が低く走った。
バシッ!
太腿を蹴られ、相手の膝が揺れる。それでも剣士は歯を食いしばって剣を振り戻したが、ライズは上体を反らしてかわし、腹へ左拳を叩き込むと、その勢いのまま肩口へ蹴りを放った。
一方、大河の前にももう一人の剣士が迫っていた。
横薙ぎの刃が胸元へ走る。
大河は後ろへ逃げず、一歩踏み込んだ。
刃が速度に乗り切る前に相手の腕へ自分の腕を絡ませる。
「なっ!」
驚いた顔が間近に見えた。
大河は腰を落とし、相手の重心を引き寄せる。そのまま身体を浮かせ、一気に投げた。
ブンッ!
剣士の足が石床から離れ、大河の肩越しに宙を舞う。
狙ったのは床ではない。
白い境界線の外。
ドンッ!
相手が場外へ転がった。
「一名、場外!」
審判の声が響く。
その直後、大河の視界の端で赤い光が膨らんだ。
敵の魔法使いが杖を向けている。
「大河、右!」
ライズの声と同時に炎が飛んできた。
ゴオッ!
大河は右手を前へ突き出す。
バシャッ!
勢いよく噴き出した水が火球へ正面からぶつかり、ジュウッという音とともに白い蒸気が広がった。
視界が霞む。
熱を含んだ湿った空気が頬を撫で、大河はその白い幕の中で低く身を沈めた。
蒸気の向こうで、もう一度杖が光る。
見える。
昨日はエリカの指先一つさえ追い切れなかった。それに比べれば、魔力が集まり、狙いを定め、放たれるまでの流れがはっきり分かる。
大河は魔法が完成するより早く床を蹴った。
その頃、もう一人の魔法使いは前線ではなく、後方へ視線を向けていた。
「後ろの二人を狙え!」
杖の先に炎が集まる。
ルルの肩がびくりと揺れた。
隣でトータが身構えるより早く、赤い髪が二人の前へ滑り込んだ。
「させないわよ!」
クララが片手を振り抜く。
ゴオッ!
横殴りの風が火球へ激突した。
炎は大きく軌道を変え、防護障壁へ叩きつけられる。
ボンッ!
赤い火の粉が障壁の表面を走った。
「ルルさんたちが狙われたのです!」
観客席でポルポルが身を乗り出す。
隣のビスタは慌てる様子もなく、フィールドへ視線を向けたまま頬杖をついた。
「大丈夫じゃない? クララが見てるじゃん」
その言葉通り、クララの視線はすでに次の敵を捉えていた。
ライズと戦っていた剣士が、突然進路を変える。
前線を抜け、ルルたちへ向かって駆け出した。
「行かせない!」
クララが風を放つ。
剣士は腕で顔を庇いながら強引に風を突き抜けた。
「魔法さえ撃たせなければ!」
一気に距離を詰める。
クララは下がらなかった。
腰へ手を伸ばす。
シュッ!
鞘から剣が抜ける。
ガキンッ!
二本の刃が正面でぶつかり、甲高い音が会場へ響いた。
「魔法使いじゃないのか!」
「誰が魔法しか使えないって言ったのよ!」
クララは相手の剣を受け流し、身体を半歩ずらした。剣士の重心が前へ流れた瞬間、空いた左手を脇腹へ向ける。
「飛びなさい!」
ボンッ!
圧縮された風が至近距離で炸裂した。
「うわっ!」
剣士の身体が横へ吹き飛び、石床を二度、三度と転がる。その勢いのまま白い境界線を越えた。
「ポットデイ二人目、場外!」
クララは追わなかった。
すぐに振り返り、ルルとトータを確認する。
二人とも無事だ。
その動きを見た大河の口元がわずかに緩んだ。
昨日なら、クララはそのまま次の敵へ攻撃を向けていたかもしれない。けれど今日は、自分が倒すことだけではなく、後ろの二人と戦場全体へ意識を向けている。
エリカとの訓練が、もう戦い方に現れていた。
残る三人。
魔法使い二人と回復役。
そのうち一人がライズへ杖を向けた。
大河は石床へ手を向ける。
冷気が掌から流れ落ちた。
パキッ、パキパキッ!
白い霜が床を這い、魔法使いの足元へ伸びていく。
「え?」
気づいたときには遅かった。
踏み出した靴が氷の上で滑る。
「うわっ!」
体勢が崩れた。
ライズが見逃すはずがない。
石床を強く蹴り、一気に間合いを詰める。
ドッ!
拳が腹へ突き刺さり、魔法使いの身体が浮いた。
「まだだ!」
着地する前にライズの蹴りが横から入る。
バシンッ!
魔法使いが白線の外へ転がった。
「ポットデイ三人目、場外!」
「ライズさんも強いのです!」
観客席でポルポルが両手を叩く。
ビスタは口元を少し上げた。
「素手格闘のミドルランカーだしね。これくらいはやるっしょ」
最後の魔法使いが大河へ杖を向ける。
青白い光が集まり始めた。
大河はその光を見ながら、一気に踏み込む。
「くっ!」
魔法使いが杖を振る。
しかし魔法が形になるより、大河の方が早かった。
腕を外側から絡め、そのまま背後へ回る。
首へ腕を回した瞬間、相手の身体が強張った。
力を込めれば落とせる。
だが、そこまでする必要はない。
「降参する?」
耳元で問いかけると、相手の手から杖が落ちた。
「……降参!」
「ポットデイ一名、棄権!」
残された回復役が、杖を胸元へ引き寄せる。
フィールドを見回す視線が止まった。
仲間四人はすでに脱落。
正面には大河とライズが立ち、少し離れた場所ではクララが剣を手にしている。
その後ろには、一度も戦わなかったルルとトータまで無傷で残っていた。
回復役はしばらく杖を握っていたが、やがて肩から力を抜いた。
「……私も棄権します」
審判が腕を上げる。
「試合終了! 勝者、《スペースワンダフル》!」
その声が会場に響いた瞬間、張りつめていた空気がほどけた。
「勝ったのですー!」
観客席からポルポルの声が飛んでくる。
大河はゆっくり息を吐いた。額には薄く汗が浮かんでいるものの、呼吸はほとんど乱れていない。
隣ではライズが拳を開いたり閉じたりしながら、場外へ出た相手を見ていた。
「思ったより動けたな」
「昨日の相手が悪すぎたんじゃない?」
剣を鞘へ戻しながらクララが答える。
誰のことかは聞くまでもなかった。
大河も昨日の光景を思い出す。
五人で挑んで、一度もエリカへ触れることができなかった。
それに比べれば、今日の相手は動きを目で追える。魔法を使う前には魔力が膨らみ、剣を振る前には肩や腰が動く。
昨日の訓練がどれほど異常だったのか、むしろ今日になって実感した。
「……私、本当に何もしなかった」
後ろからルルの声が聞こえた。
振り返ると、ルルが自分の両手を見つめている。
その横ではトータがさらに複雑そうな顔をしていた。
「ルルはまだいいじゃん。回復役なんだから怪我人いなかったら出番ないし。俺なんて初陣でマジで立ってただけだからね?」
「勝ったんだからいいだろ」
大河が笑う。
「《目印》はまだ隠しておきたい。使わなくても勝てるなら、その方がいい」
「秘密兵器って、思ったより暇だな……」
トータが頭の後ろで両手を組むと、クララが小さく笑った。
試合場を出たところで、観客席から降りてきたポルポルが勢いよく飛んできた。
「大河さん、初勝利なのです!」
「まだ一勝だけどな」
「一勝しなければ二勝目はないのです!」
「それは確かにそうだな」
ビスタも少し遅れて歩いてくる。
「昨日とは全然違ったじゃん。特にクララ、ちゃんと後ろまで見てたし」
「ちゃんとって何よ。最初からそのつもりだったわ」
そう返しながらも、クララの口元は少し緩んでいた。
転移陣でランキング協会へ戻ると、大河たちはそのまま受付へ向かった。
グループランキングカードを女性職員へ差し出す。
カードが装置へ置かれ、表面を淡い光が走った。
昨日までゼロだった数字が書き換わっていく。
《スペースワンダフル》
《グループ総合ポイント 10pt》
《グループ総合ランキング 圏外》
「初勝利、10ポイント獲得おめでとうございます」
受付の女性が笑顔でカードを差し出した。
「この調子で、ぜひ連勝を目指して頑張ってくださいね」
受け取ろうとした大河の手が止まった。
「連勝?」
横にいたライズも、聞き慣れない言葉に眉を寄せる。
「連勝すると何かあるんですか?」
「ご存じありませんでしたか?」
女性は少し意外そうに目を瞬かせ、それからカウンターの上へカードを戻した。
「グループ総合格闘ランキング戦では、連勝すると次の勝利で獲得できるポイントが増えるんです。一勝目は10ポイントですが、二連勝目なら20ポイント、三連勝目なら30ポイント。その後も連勝が続くごとに、獲得ポイントが10ポイントずつ増えていきます」
「ちょ待って」
トータが指を折り始める。
「じゃあ三連勝したら、十、二十、三十で……合計六十ポイント?」
「はい」
「五連勝なら?」
「一勝目から順に10、20、30、40、50ポイントですから、合計150ポイントですね」
「マジか。勝ち続けたら一気に増えるじゃん」
トータの目が輝く。
大河も頭の中で数字を追った。
一勝ずつ同じポイントを積み上げるのではない。勝ち続けるほど、一試合の価値そのものが大きくなる。
「負けた場合は?」
クララが尋ねる。
「それまでに獲得したポイントが減ることはありません。ただし連勝はそこで途切れますので、次に勝利したときは再び10ポイントからになります」
「なるほどね」
クララが小さく頷く。
「出るメンバーを変えたら?」
ライズが続けて尋ねる。
「連勝記録は個人ではなくグループのものです。試合ごとに出場メンバーを変更しても、グループが勝ち続けている限り継続されますよ」
大河は手元のカードへ視線を落とした。
次に勝てば20ポイント。
その次も勝てば30ポイント。
しかし、そこで朝に聞いた受付の説明が頭の中でつながった。
「……でも、ポイントが増えたら」
大河が顔を上げる。
「次の相手も、それに近いポイントのグループになるんですよね?」
「はい」
受付の女性が頷いた。
「勝ち続ければポイントは早く増えますが、その分、同じようにポイントを獲得しているグループと対戦する可能性も高くなります」
「そういうことか」
ライズの目がわずかに細くなる。
連勝すればするほど、一度の勝利で得られるポイントは大きくなる。
けれど、その頃には自分たちのポイントも上がっている。同じように勝利を積み重ねてきた相手とぶつかるようになれば、最初の一勝と同じようにはいかない。
大河はカードに刻まれた《10pt》を親指でなぞった。
「連勝するほど、難しくなるんだな」
「その分、連勝記録の長いグループは評価されますよ」
「面白くなってきたじゃん」
ライズの口元が上がった。
クララもカードを覗き込みながら、赤い髪を耳へかける。
「次に勝てば20ポイント追加だから、合計30ね」
「じゃあ次も俺、立ってるだけ?」
トータが大河を見る。
「勝てそうなら」
「やっぱり?」
「秘密兵器だからな」
「便利な言葉だな、それ」
トータが苦笑すると、隣でルルも口元を押さえて小さく笑った。
大河はもう一度カードへ目を落とした。
《グループ総合ポイント 10pt》
《グループ総合ランキング 圏外》
世界の上位百グループだけに表示される正式な順位には、まだ遠い。
それでも昨日まで、ここにはゼロしかなかった。
大河とライズが前へ出て、クララが戦場を見ながら二人を守り、ルルとトータは必要になる瞬間まで力を残した。
誰か一人で手にしたポイントではない。
《スペースワンダフル》の五人で初めて手にした10ポイントだった。
そして次に勝てば20ポイント。
勝つほど得られるものは大きくなり、同時に待ち受ける相手も強くなっていく。
大河はカードを握り直し、仲間たちを見た。
「次も勝とう」
その言葉に四人の視線が集まった。
まだ世界ランキングに順位すら表示されない。
頂点から見れば、ほんの小さな10ポイントにすぎない。
それでも《スペースワンダフル》のランキングは、この日、確かにゼロから動き始めた。
第78話を読んでいただき、ありがとうございました。
《スペースワンダフル》、初勝利です!
昨日は五人がかりでもエリカに触れることすらできませんでしたが、その訓練は無駄ではありませんでした。
大河とライズが前線へ出て、クララが戦場全体を見ながら後方を守る。
ルルは回復が必要になる時に備え、トータの《目印》はあえて温存。
全員が戦うことだけがグループ戦ではない。
エリカから教わったことが、早速最初の一戦で生きた形になりました。
そして手にした最初の10ポイント。
まだランキングは圏外ですが、ついにゼロから数字が動きました。
さらにグループ総合格闘には「連勝するほど獲得ポイントが増える」という仕組みも判明。
次に勝てば20ポイント。
その次なら30ポイント。
ただしポイントが増えるほど、待っている相手も同じように実績を積んだグループになっていきます。
果たして《スペースワンダフル》は、どこまで連勝を伸ばせるのか。
そして秘密兵器トータに出番は来るのか……。
次回もよろしくお願いします!




