第75話 五人目の仲間
第75話です。
ハズレスキルだと思われていたトータの《目印》。
スキルブックによれば、その本当の能力は仲間の攻撃を必中にするというものでした。
しかし、まだ実際に試したわけではありません。
本当に記録通りの力を持っているのか。
大河たちはさっそく《目印》の検証を始めます。
今回もよろしくお願いします!
その日の夕方、大河たちは学院の訓練場の一角に集まっていた。
大型連休まで、もうほとんど時間は残っていない。
だが、昨日までとは状況が違う。五人目の候補は、すでに目の前にいた。
「いや、つーかさ。本当に俺の《目印》で攻撃が必中になるわけ?」
トータは落ち着かない様子で、自分の右手を何度も眺めていた。
少し前までハズレだと思っていた《目印》。学院のスキルブックを調べたことで、その能力が単なるマーキングではないことが判明した。
使用者となる者に一つ目の印を付け、さらにターゲットへ別の印を付ける。その二つが揃った時、五秒間だけ攻撃が必中になる。
「正確には、あなたの攻撃が必中になるわけじゃないわよ。使用者側の印を付けた人の攻撃が必中になるの」
クララが訂正する。
「いやいや、分かってるって。そこ今そんな大事?」
「大事でしょ。昨日まで自分のスキルの使い方すら知らなかったんだから」
「ちょ待って。そこはもう忘れようよ。過去より未来っしょ?」
「都合のいい未来ね」
クララが呆れたように息を吐く。
トータは気にした様子もなく前髪を軽くかき上げた。
「まあ、ホントに必中なら全部チャラじゃね?」
「チャラにはならないわよ」
「厳しいなあ、クララ」
少し離れた場所では、ルルがポルポルと並んで二人のやり取りを眺めていた。
「仲良くなれそうなのです」
「……そうなのかな」
ルルが小さく首を傾げる。
「とにかく試してみよう」
大河が二人の会話を止めた。
スキルブックに記録されていたとはいえ、まだ自分たちの目で確かめたわけではない。本当に記録通りなら、トータは大河たちが探していた五人目にかなり近い。
「私が魔法を使うわ」
クララが前へ出た。
「一番分かりやすいでしょ」
「じゃ、クララに使用者側の印を付ければいいんだよな」
トータが彼女の前に立つ。
スキルブックに書かれていた内容を思い出しながら、指先へ意識を集中させた。
「たしか、円を描くんだったよな」
「変なところに付けないでよ」
「いや、どこに付けるつもりだと思ってんの?」
「知らないわよ」
「信用ないね、俺」
軽口を叩きながらも、トータの表情が少しだけ真剣になる。
クララの肩へ指を近づけ、円を描くように動かした。
淡い光が一瞬だけ指先に宿る。
次の瞬間、クララの肩に小さな円形の印が浮かび上がった。
「出た!」
ライズが覗き込む。
印はすぐに薄くなったものの、完全に消えたわけではない。
クララ自身も肩を見ようと首を傾ける。
「特に何も感じないわね」
「俺も今までここまではできてたんだよ。で、何これ? ってなって終わり」
トータは自分の指先を眺める。
ここまでは以前から知っていた。
問題は次だ。
「ターゲットはどうする?」
ライズの問いに、大河が周囲を見回した。
訓練用の標的では、必中になったかどうか判断しにくい。動いて避ける相手が必要だった。
「俺で試そう」
「大河に?」
「俺が避ければ分かるだろ」
クララが眉を寄せる。
「当たったらどうするのよ」
「弱いやつにしてくれよ」
「当たり前でしょ。本気で撃つわけないじゃない」
大河が訓練場の中央へ移動すると、トータもその前まで歩いてきた。
「五秒なんだよな?」
「スキルブックにはそう書いてあった」
「じゃ、触った瞬間からいく感じね」
クララはすでに少し離れた場所で構えている。
掌の前には、小さな火の塊が浮かんでいた。普段の攻撃魔法とは比べものにならないほど弱く、大河が直撃を受けても大きな怪我にはならない程度まで威力を落としている。
ライズも少し離れ、三人の動きを見守る。
「準備いい?」
クララの声に、大河が身構えた。
トータも大河の横へ移動する。
「じゃ、いくよ」
トータがスキルを意識しながら、大河の腕へ軽く手を触れた。
「今!」
触れた瞬間、クララが火球を放った。
大河は軌道を見極め、素早く横へ踏み込む。
十分にかわせる。
そう思った直後、火球が空中で曲がった。
「来た!」
ライズの声が響く。
大河がさらに横へ走る。
火球はその動きを追うように軌道を変えた。
「マジかよ……」
トータ自身が目を見開いている。
大河は急に方向を変えた。
それでも火球は再び曲がる。
「三……四……」
ライズが時間を数える。
大河は火球を引きつけながら、もう一度大きく横へ踏み込んだ。
「五!」
その瞬間だった。
それまで大河を追っていた火球が、今度は軌道を変えなかった。
大河の横を抜け、その先でクララが手を握る。
火球が小さく弾け、光の粒となって消えた。
夕方の訓練場に静けさが戻る。
大河は火球が消えた場所を見てから、自分の腕へ視線を落とした。
「……本当に五秒だ」
「五秒までは大河を追ってたわ」
クララの目つきが変わっている。
ライズも興奮を隠せない様子でトータを見る。
当の本人だけは、まだ状況を飲み込めていないようだった。
「いや、ちょ待って」
トータが両手を上げる。
「これ、俺のスキル?」
「そうよ」
「マジで?」
「自分で使ったでしょ」
「いやいや、使ったけどさ。実際見ると話違うじゃん。俺のスキル、めちゃくちゃ使えるじゃん」
「昨日までハズレって言ってたのに」
「だから、それは昨日の俺じゃん。今日の俺はもう違うから」
「数時間しか経ってないわよ」
「人間、成長する時は一瞬っしょ?」
胸を張るトータに、クララが呆れたように首を振った。
ルルの隣では、ポルポルが楽しそうにくるくる回っている。
大河も笑ったが、すぐに先ほどの検証を頭の中で振り返った。
五秒。
思った以上に短い。
今回はクララが最初から構え、トータが触れた瞬間に魔法を撃ったから十分に効果を使えた。
実戦なら、こうはいかない。
「トータって、格闘はどのくらいできる?」
「俺?」
トータが自分を指す。
「いや、ほぼ初心者。マジで。スキル出たから、これ俺の時代来たんじゃね? ってスキル格闘行ったくらいだし」
「ランキングは?」
「ないない。そこ期待されても困るって」
悪びれもせず手を振る。
「だから素手格闘に変えて、一からやろうかなって思ってたわけ」
ライズが腕を組んだ。
「問題は、どうやって相手に触るかだな」
「それなんだよな」
大河は先ほどトータに触れられた腕を擦った。
「でも、触られた時は何も分からなかった」
「でしょ?」
トータが大河を指さす。
「俺、ただ触っただけじゃん。痛くもなんともなかったっしょ?」
「何されたか全然分からなかった」
「だったら使えるわね」
クララが少し考えながら口を開く。
「近接戦なら、大河かライズが相手と戦ってる間にトータが後ろへ回ればいいんじゃない?」
大河の頭にも同じ光景が浮かんだ。
自分が正面から相手と戦う。
相手の意識がこちらへ集中したところで、トータが死角へ回る。
殴る必要はない。
蹴る必要もない。
背中でも肩でも、ほんの一瞬触れればいい。
そこから五秒。
「それならいけそうだな」
ライズも納得したように頷いた。
「俺と大河が前で相手を引きつけて、その間にトータが触る。触ったら五秒以内に攻撃する」
「私なら離れたところからでも撃てるわ」
クララが自分の肩に残る薄い印へ目を向ける。
「私に使用者側の印を付けておけば、トータが触った瞬間に魔法を撃てる」
「ちょっと待って。俺、後ろから触るだけ?」
トータが口を挟んだ。
「今のところは、それが一番使えそうだな」
「何それ。めっちゃ楽じゃん」
「戦ってる相手の後ろまで行くんだぞ」
「……あー、そこね」
トータの笑顔が少しだけ引きつる。
「やっぱ俺も動けないとダメな感じ?」
「当然でしょ」
クララが即答した。
「速さは必要だと思う」
大河はトータの足元へ目を向ける。
「相手に近づく速さもそうだけど、触ったあとに離れる速さもあった方がいい。攻撃力を上げるより、《目印》を付けるための動きを鍛えた方がいいかもしれない」
「なるほどね」
トータは顎に手を当て、少しだけ考え込んだ。
「俺、素手格闘行ってガンガン殴れるようにならなきゃダメかと思ってたけど、方向ちょい違うってことか」
「基礎は鍛えた方がいいぞ」
「そこはやっぱ逃げらんない?」
「逃げられないわよ」
「クララ、俺に厳しくない?」
「普通よ」
トータが肩を落とすと、ポルポルが目の前まで飛んでいった。
「いっぱい走れば速くなるのです」
「走るの?」
「大河くんはいっぱい走ってるのです」
トータが大河を見る。
「マジ?」
「走ってるよ」
「じゃ、効果あるじゃん。やるしかない感じね」
「切り替え早いな」
ライズが笑う。
大河もつられて笑ったが、もう一つ気になることがあった。
「でも、《目印》はなるべく知られない方がいいかもな」
「なんで?」
「今はトータに触られても、何されたか分からないだろ?」
トータの軽い表情が少しだけ真面目になる。
「何度もランキングで使ってたら、そのうち気づく奴が出てくると思う。トータに触られた直後だけ攻撃が避けられないって」
「なるほどね。俺が原因ってバレるわけか」
「一回や二回じゃ分からなくても、ずっと隠せるとは限らないわね」
クララも同意する。
「知られたら、相手はトータに近づかせないようにするはずよ」
「じゃあ俺、能力バレた瞬間めっちゃ狙われんじゃん」
「その時は俺たちが隙を作ればいい」
ライズが言った。
大河もその言葉に頷く。
「相手の注意を俺たちに向ける。トータをできるだけフリーにする。そこからどう触るかは、みんなで練習していけばいい」
大河は話しながら、少し不思議な感覚を覚えていた。
これまでランキングで戦う時、考えるのは自分がどう勝つかだった。
だが今は違う。
ライズがどう動くか。
クララがどこから攻撃するか。
トータをどうやって相手へ近づけるか。
そこにルルの回復も加わる。
一人ではできない戦い方が、少しずつ形になり始めていた。
昨日までは、五人目を探していた。
ランキングが高い生徒にも声をかけた。しかし、まだグループランキングにすら参加していない大河たちは相手にされなかった。
その末に見つけたのが、ランカーですらないトータだった。
戦闘経験もほとんどない。
それでも《目印》には、大河にも、ライズにも、クララにも、ルルにもない力がある。
「みんなはどう思う?」
大河が尋ねた。
「俺はいいと思う」
最初に答えたのはライズだった。
「今は初心者でも、これから鍛えればいい。それに《目印》はグループ戦ならかなり使える」
「私も賛成よ」
クララも迷わなかった。
「五秒しかないとも言えるけど、五秒もあるとも言えるわ。使うタイミングを合わせれば十分よ。それに、私たちが探してたのは普通の攻撃役じゃないでしょ?」
残るルルへ自然と視線が集まりかけ、大河はすぐに目を逸らした。まだ全員から一斉に見られるのは苦手だと知っている。
ルルはポルポルの横で少しだけ指を握り、それからトータを見た。
「……私も、いいと思う」
小さいが、はっきりした声だった。
「ポルポルも賛成なのです」
「お前も決める側なの?」
「もちろんです。大事な役目なのです」
「何の役目?」
「食べ物を守る役目なのです」
「いや、それグループ関係なくない?」
トータが吹き出した。
その笑顔を見てから、大河は一歩前へ出た。
「トータ」
「ん?」
「俺たちのグループに入らないか?」
トータの表情が少しだけ変わった。
いつもの軽い返事は、すぐには返ってこない。
自分の右手を見て、それから大河たちを順番に眺める。
「俺、ランカーでもないしさ。格闘もほぼ初心者なんだけど……それでもいいわけ?」
「これから鍛えればいい。それに俺たちは、トータの《目印》が役に立つと思ってる」
「そっか」
トータは一度視線を外した。
少し照れくさそうに鼻の下を指で擦り、もう一度大河たちを見る。
「まあ、ここまで俺のスキル調べてもらってさ、入らないってのも違うじゃん?」
そこでいつもの軽い笑みが戻った。
「こんな俺でも役に立てるなら、よろしく」
「決まりだな」
「これで五人なのです!」
ポルポルが勢いよく宙を一回転した。
ライズが笑い、クララも満足そうに頷く。ルルもポルポルを見上げながら、小さく笑っていた。
大河は改めて四人を見回した。
ライズ。
ルル。
クララ。
そしてトータ。
得意なことも、性格も、ランキングもまるで違う。
それでもようやく、五人が揃った。
第75話を読んでいただき、ありがとうございました。
《目印》の必中効果は、スキルブックに記されていた通り本物でした。
ただし、効果は五秒間。
さらにトータ自身が相手へ触れる必要があるため、どうやって近づき、どうやって五秒を活かすのか。
これからは五人で連携を考えていく必要がありそうです。
そして、トータが五人目として加入!
大河、ライズ、ルル、クララ、トータ。
ようやくグループ結成に必要な五人が揃いました。
ランキングも得意分野もバラバラな五人ですが、だからこそ一人ではできない戦い方が生まれるかもしれません。
いよいよグループランキングへの挑戦が始まります。
次回もよろしくお願いします!




