第74話 ハズレスキル
第74話です。
大型連休までに、なんとか五人目を見つけたい大河たち。
しかし、まだ実績のないグループということもあり、仲間探しはなかなかうまくいきません。
そんな中、ランキングの高さではなく「自分たちにない力」を探してみることに。
そこで、一人の変わったスキルを持つ生徒の名前が挙がります。
今回もよろしくお願いします!
年に一度の大型連休まで、残された日はわずかだった。
昨日の食事会で話した通り、大河たちは放課後になると五人目の仲間探しを始めていた。
最低五人。
その条件を満たさなければ、正式なグループとしてランキングに参加することができない。せっかくライズ、ルル、クララと四人まで集まったのだから、できれば二週間の休みに入る前に最後の一人を見つけておきたかった。
ただ、誰でもいいわけではない。
大河とライズが近接戦闘、クララが魔法による遠距離攻撃と剣術、ルルが回復を担当できる。昨日エリカが言っていたように、次に欲しいのは単純な攻撃役ではなく、自分たちにない能力を持った人間だった。
そこで最初に目をつけたのが、総合格闘とスキル格闘の授業だった。
「強そうなのばっかりだな……」
総合格闘の訓練場を眺めながら、ライズが呟いた。
剣を手にした生徒の正面から魔法が飛ぶ。相手はそれを紙一重でかわすと、一気に距離を詰めて足を払った。別の場所では、身体強化らしき能力を使った生徒同士が激しく打ち合っている。
素手格闘とは明らかに違う。
使えるものを組み合わせて勝つことを前提としているだけに、戦い方の幅が広い。それだけではなく、ここにいる生徒たちは全体的に実戦慣れしていた。
「簡単には入ってくれそうにないわね」
クララが腕を組んだ。
「とりあえず聞いてみようぜ」
大河たちは授業が終わるのを待ち、何人かの生徒に声をかけることにした。
最初の一人には大河が話しかけた。
「ちょっといい?」
「何?」
「今、新しいグループを作ってるんだ。もしまだ入ってなかったら、一緒にやらないかと思って」
「グループ? どこ?」
「まだ作ってる途中なんだ。今四人で、あと一人集まれば正式に――」
「じゃあ、まだランキングにも出てないんだろ? 悪いけど他を当たってくれ」
最後まで聞かれることなく、話は終わった。
二人目はライズが声をかけたが、すでに別のグループから誘いを受けていた。
三人目を見つけたところで、クララが一歩前へ出た。
「今、少しいい?」
声をかけられた男子生徒が振り向く。
クララの顔を見た瞬間、少し驚いたようだった。
「クララ?」
「私たち、今グループを作ってるの。あなた、まだどこにも入ってないでしょ?」
「入ってないけど……」
「だったら、私たちのグループに入らない?」
クララはいつもの調子で、まっすぐ相手を見る。
だが男子生徒は少し困ったように頭を掻いた。
「悪い。俺、入るなら最初から上を狙えそうなところがいいんだ。いくつか声もかけてもらってるし」
「……そう」
「クララがいるなら強くなりそうだけど、まだ四人なんだろ?」
「そうよ」
「だったら今回はやめとく」
男子生徒は軽く手を上げると、そのまま仲間のところへ戻っていった。
クララはしばらく、その背中を見送っていた。
「……何よ」
大河が見ていることに気づいたらしい。
「いや、クララが断られるのって、なんか新鮮だなと思って」
「どういう意味よ」
「数日前まで、誘われても全部断ってた側だったじゃん」
「それとこれとは別でしょ」
「今度はクララが断られたのです」
隣からポルポルが追い打ちをかける。
「分かってるわよ」
クララは少しむっとした顔でポルポルを見る。
「別に気にしてないわ」
「そういうことにしておくのです」
「ポルポル?」
クララが睨むと、ポルポルは大河の後ろへすっと隠れた。
ルルが口元を押さえる。
声こそ出さなかったものの、わずかに笑っていた。
大河はそんなルルに気づいたが、何も言わなかった。以前なら四人でこうして歩くだけでも緊張していたのだから、それだけでもずいぶん変わったと思う。
その後、スキル格闘の方へ移動しても状況はほとんど変わらなかった。
むしろ、こちらの方が露骨だった。
「俺、入るなら上位狙えるところって決めてるから」
グループランキングにはまだ参加すらしていない。
そう伝えただけで話が終わってしまう生徒もいた。
大河自身の素手格闘での順位や、クララが魔法のハイランカーであることに興味を示す者はいる。それでも、個人のランキングとグループの実績は別物だった。
強い生徒ほど、自分がどこへ所属するかを慎重に選んでいる。
「全然相手にされないな」
訓練場を離れたところで、大河が頭を掻いた。
「こっちの授業にいる奴らって、ランキング高いの多いしな」
ライズも苦笑している。
「だからって、まだ何もしてない私たちに実績を見せろって言われても無理でしょ」
クララが不満そうに言った。
「断られる側も大変なのです」
「まだ言うの?」
クララが振り返ると、ポルポルは今度こそ大河の肩の反対側へ逃げた。
その様子を見ながら、大河はふと足を止めた。
「俺たち、ランキングが高い奴ばっかり探してないか?」
ライズが振り返る。
「でも、弱いより強い方がいいだろ」
「それはそうだけど、昨日話してたのって、強い奴を探そうってことじゃなかっただろ。俺たちにないものを持ってる奴がいいって」
「……そうね」
クララも少し考えてから頷いた。
「ルルだって、ランキングだけ見てたら候補にしてなかったかもしれないし」
突然自分の名前が出て、ルルが目を瞬かせた。
大河は彼女を見る。
「悪い意味じゃないぞ」
「……うん」
小さな返事だった。
それでも今度はポルポルを通さず、大河へ直接返している。
「だったら、スキル格闘の奴らに聞いてみるか。変わった能力を持ってる奴がいないか」
ライズの提案に、大河は頷いた。
ちょうど訓練を終えたらしい男子生徒が一人、近くで荷物をまとめている。
大河たちはそちらへ向かった。
「ちょっと聞いてもいい?」
男子生徒が顔を上げる。
「何?」
「この授業に、変わったスキルを持ってる人っていないかな。ランキングは別に高くなくてもいいんだけど」
「変わったスキル?」
「戦う以外でもいいんだ。普通の人があんまり持ってないような能力とか」
男子生徒は荷物を持ち上げながら、しばらく考え込んだ。
「それなら……トータかな」
「トータ?」
「十七歳の男の子。見た目派手だから、見ればすぐ分かると思う。でも最近こっち来てないぞ」
「どうして?」
「スキルがハズレだったんだよ」
その言葉に、大河たちの視線が集まった。
「どんなスキルなの?」
クララが尋ねる。
「《目印》だったかな。何かに印を付けられるらしい」
「それだけ?」
「たぶん。本人も最初は何かすげえ能力が隠れてると思ってたみたいだけど、何日か試しても印が付くだけだったらしい。それでしばらく休んでた。今は素手格闘に移ろうとしてるって聞いたけど」
印を付けるだけ。
確かに、それだけ聞けば戦闘で役立つ姿は想像しにくい。
だが、大河はなぜかその名前が引っかかった。
「そのトータって、今どこにいるか分かる?」
「さあ。素手格闘の訓練場にいるんじゃね?」
礼を言い、大河たちは場所を移した。
そして、トータはすぐに見つかった。
壁際の長椅子に腰を下ろし、素手格闘の授業を眺めている少年がいる。明るく染めた髪に、耳元には小さな飾り。制服も規則に違反しない程度に着崩しており、周囲の生徒より明らかに派手だった。
「トータ?」
大河が声をかける。
少年が振り向いた。
「ん? 俺?」
「《目印》ってスキルを持ってるって聞いたんだけど」
「いきなり傷口えぐってくんじゃん」
トータは笑いながら立ち上がった。
落ち込んでいるようには見えない。むしろ初対面の大河たちを面白そうに見回している。
「何? 俺のハズレスキル見に来た感じ?」
「ハズレって決まったのか?」
「決まったようなもんじゃね? 俺もさ、スキル出た時はテンション上がったんだよ。これ絶対なんかすげえやつじゃんって」
トータは軽く肩をすくめた。
「で、その勢いでスキル格闘選んだわけ。能力もよく知らねえのに。何日かやって分かったのが、マーキングできるだけ。マジで笑うしかなくね?」
「どうやって付けるの?」
「こういう感じ」
トータが指先を動かした。
「スキルを使うって意識しないと出ないぜ。普通に触ったもの全部に印が付いたら、生活できねえし」
「人だけ?」
「いや。物にも付く」
大河は少し考え込んだ。
人にも物にも印を付けられる。
それだけなら、確かに戦闘能力とは呼びにくい。
「他に何か試した?」
「いろいろやったって。印付けて殴ってみたり、物に付けたり。でも何も起きねえ。だから素手格闘に変えようかなって。結局、自分で殴れる方が早くね?」
そう言ってトータは笑った。
その時だった。
「……調べられるかもしれないわよ」
クララが口を開いた。
「何を?」
「そのスキルよ」
トータが眉を上げる。
「学院の図書館にスキルブックがあるの。過去に確認されたスキルの記録をまとめたものよ」
「そんなのあんの?」
トータだけでなく、大河も初耳だった。
「あるわ。ただ、普通の本棚には置かれてないのよ。管理されてる資料だから、勝手には見られないわ」
「じゃあ意味なくね?」
「学院長の許可があれば見られると思うわ」
大河はすぐに決めた。
「早速行ってみよう」
「マジで?」
「ここまで来たんだから調べてみたい」
トータはしばらく大河を見たあと、苦笑した。
「好きにすれば? たぶん『印を付けられます』で終わると思うけど」
大河たちはその足で学院長室へ向かった。
ボーデン学院長は突然訪ねてきた大河たちに少し驚いたものの、事情を聞くと、机の上で指を組んだ。
「スキルブックか」
「はい。グループの五人目に考えてる生徒がいるんですけど、本人も自分のスキルをよく分かってなくて」
「なるほど」
ボーデンは少し考えたあと、立ち上がった。
「本来、自由に閲覧させる資料ではない。だが、学院のグループ活動に関係する調査なら理由としては十分だろう。ただし、持ち出しは認められんぞ」
「ありがとうございます」
学院長の許可を得て、大河たちは図書館の奥にある管理資料室へ通された。
普段利用する場所とは違い、室内はひっそりとしていた。窓は小さく、壁一面に古びた書棚が並んでいる。外から聞こえていた生徒たちの声もここまでは届かず、紙をめくる音だけが妙に大きく感じられた。
クララが司書から受け取った分厚い本を机へ置いた。
「これね」
「でかいのです……」
ポルポルが本の上から覗き込む。
「全部のスキルが載ってるのか?」
「そんなわけないわ。過去に確認されて、記録が残ってるものだけよ」
クララがページをめくっていく。
聞いたことのない名前がいくつも並んでいた。中には効果の一部しか判明していないものもあり、進化後の記録が空白になっているものもある。
しばらく探したところで、クララの指が止まった。
「あったわ」
「本当か?」
大河とライズが身を寄せる。
そこには確かに書かれていた。
《目印》。
過去にも同じスキルを得た者がいたらしい。
大河は記録を目で追っていった。
「印が……二種類?」
一つは、指で円を描いて付ける印。
これは時間制限がなく、スキルの効果を利用する側を指定するものだった。
そしてもう一つ。
スキルを発動した状態で対象へ直接触れることで付ける、ターゲットの印。
人間だけでなく、魔物や物体にも使用できる。
「ちょっと待って」
クララの声が変わった。
「これ……」
大河も同じ一文を見ていた。
ターゲットへのマーキングが成立してから五秒間。
最初の印を付けられた者が放った攻撃は、そのターゲットに対して必中となる。
「必中?」
ライズが思わず声を上げた。
「避けられないってことか?」
「そうみたいね。ただし、防御そのものはできるって書いてあるわ」
大河はもう一度文章を読み返した。
五秒。
短い。
だが、グループ戦なら話はまるで違う。
トータが敵に触れ、あらかじめ印を付けられた仲間が攻撃する。相手がかわそうとしても、その攻撃は逃さない。
「これ……すごくないか?」
「すごいどころじゃないわよ」
クララの目が完全に変わっていた。
「私の魔法が避けられなくなるってことでしょ?」
「五秒間だけだけどな」
「五秒もあれば十分よ」
さらに記録には続きがあった。
過去の取得者には、《スキルの実》を使って進化させた者までいた。
進化後は、ターゲットマークの五秒という制限が消える。
トータ自身が解除するか、何らかの方法で印が消されない限り、必中効果が続く。
それだけではない。
「目印を……飛ばせる?」
大河が読み上げる。
進化後は、直接触れなくてもターゲットマークを飛ばして付与できる。ただし、飛ばされた目印そのものには必中効果はなく、相手がかわすことは可能だった。
「当てさえすれば、その後はずっと必中……」
ライズが呟く。
「トータ、自分のスキルがこんなのだって全然知らないんだよな?」
「知らないだろうな」
大河は思わず笑った。
ハズレスキル。
本人はそう言っていた。
だが実際には、昨日話していた条件にこれ以上ないほど当てはまっている。
戦場を有利にできる、特殊な能力。
「大河」
クララが本を見ながら声をかけた。
「あなたもスキル持ってるんでしょ?」
「持ってるよ」
「ついでに調べてみたら?」
大河は一瞬考えた。
「《火力マックス》もあるかな」
再びページを探す。
そして、しばらくしてクララの手が止まった。
「……あるわよ」
「本当に?」
大河は身を乗り出した。
そこには、自分が《スキルの種》から得たものと同じ《火力マックス》が記録されていた。
現在の身体能力を、一時的にその時点で発揮できる最大まで引き上げる。
そこまでは大河も知っている。
だが、その下に見覚えのない記述があった。
《スキルの実》による進化例。
大河の視線が、その名前で止まった。
「……《限界突破》」
現在の限界まで引き上げる《火力マックス》とは違う。
その限界そのものを、一時的に超える。
大河はしばらくページから目を離せなかった。
「これ、すごいわね」
クララも感心したように言う。
「大河さん、食べるのです?」
ポルポルが尋ねる。
「スキルの実か……」
欲しくないと言えば嘘になる。
総合ランキング一位を目指す以上、強くなれる可能性があるなら試したい。今の《火力マックス》だけでも戦い方の幅は広がる。それが自分の限界そのものを超えられるようになるのなら、その力が欲しいという気持ちは自然に湧いた。
けれど、すぐに買いに行こうとは思えなかった。
スキルの実は一つ百万マニー。
しかも、食べれば必ず一度で進化するわけではない。
一個で成功するかもしれない。二個でも足りないかもしれない。何個必要になるかは、実際に試してみるまで分からない。
「……ちょっと考えるよ」
「それがいいのです。百万マニーを何個も食べることになったら大変なのです」
「食べるのは実だけどな」
「お金も一緒に食べてるようなものなのです」
それには大河も苦笑するしかなかった。
百万マニーを一口で飲み込むようなものだと思えば、さすがに勢いだけでは手を出しにくい。
大河はもう一度《限界突破》の文字へ目を落とした。
いつかは欲しい。
だが、今すぐである必要はない。
スキルブックを閉じ、大河たちは管理資料室を出た。
今は《限界突破》より先に、やることがある。
素手格闘の訓練場近くまで戻ると、トータはまだ長椅子に座っていた。
大河たちに気づくと、片手を上げる。
「お、どうだった? やっぱ俺の《目印》、印付けるだけだった?」
「いや、違った」
その一言で、トータの笑顔がわずかに止まった。
「……何が?」
「お前の《目印》、攻撃を必中にできる」
トータは何も言わなかった。
軽い笑みを浮かべていた顔から、初めて表情が消える。
「……必中?」
「ターゲットに印を付けてから五秒間だけ。でも記録に残ってた。過去にも同じスキルを持ってた人がいる」
「ちょ、待って」
トータは長椅子から立ち上がった。
「マジで言ってんの?」
大河はまっすぐ頷いた。
トータはしばらくその顔を見つめていた。
そして自分の右手へ視線を落とす。
何日試しても何の役にも立たないと思い、スキル格闘まで諦めた能力。
その手をゆっくり握り締めてから、トータはもう一度大河を見た。
「……俺のスキル、ハズレじゃなかったのか?」
第74話を読んでいただき、ありがとうございました。
本人から「ハズレ」とまで言われていたトータのスキル《目印》。
しかし、その本当の能力は仲間の攻撃を五秒間必中にするという、グループ戦でこそ力を発揮するものでした。
ランキングの数字だけではルルの実力が分からなかったように、スキルも名前や第一印象だけでは分からないようです。
そして今回は、大河の《火力マックス》にも進化先があることが判明。
その名は《限界突破》。
こちらはスキルの実の値段もあり、すぐに手を出すわけにはいきませんが、大河にとって新たな強化の選択肢になりそうです。
まずは目の前のトータ。
自分のスキルがハズレではなかったと知った彼が、どう動くのか。
次回もよろしくお願いします!




