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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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58/64

第58話 新規区画

第58話です。


初めてのパーティーで、地下迷宮へ挑む大河。


一人で戦う時とは違う、仲間と連携して進む感覚を少しずつ覚えていきます。


そして一行は、ついに未調査の新規区画へ。


今回もよろしくお願いします!

ダンジョンへ一歩足を踏み入れた瞬間、外の空気が背中で切れた。


 岩肌から滲み出した冷気が頬を撫で、湿った土と苔、それに古い石の匂いが鼻へ入ってくる。入口付近には壁に取りつけられた魔石灯が一定間隔で並び、青白い光が奥へ細く続いていた。床には長年多くの冒険者が踏み固めた跡があり、土の上に靴底や獣の爪痕が重なっている。


 先頭を歩くハクサンが盾の位置を確かめながら振り返った。


「ここはまだ既存区画だ。何度も調査されてるし、出る魔物もある程度分かってる。ただし油断はするなよ」


 その声はギルドにいた時より低く、必要なことだけを伝える響きに変わっていた。


 大河は軽く頷き、周囲へ目を向けた。


 天井は思っていたより高い。場所によっては人が三人並んでも余裕があり、壁面には人工的に削られたような直線も残っている。自然洞窟というより、古い建造物がそのまま地下へ埋もれたような印象だった。


「大河さん」


 肩の近くを飛ぶポルポルが、奥の暗がりを覗き込む。


「思ったより広いのです」


「俺もそう思った」


「暗いのです」


「それは入る前から言ってただろ」


「実際に入ると、もっと暗いのです」


 大河が小さく笑う。


 その前を歩いていたビスタが振り返った。


「ポルポル、怖かったら俺の肩来る?」


「嫌なのです」


「即答?」


「ビスタさんの肩は信用できないのです」


「なんでだよ」


「何となくなのです」


「何となくで断られた」


 ビスタは苦笑し、そのまま前へ向き直った。


 隊列はハクサンが先頭。その少し後ろに大河とビスタ。さらにケイ、最後尾にニックという形だった。


 少し進んだところで、ハクサンが片手を上げる。


 全員の足が止まった。


「来る」


 大河にはまだ何も見えない。


 数秒後、前方の暗がりから低い唸り声が響いた。


 三匹。


 犬に似た魔物がゆっくり姿を現す。身体は灰色の毛で覆われ、額には一本ずつ短い角が生えていた。


 大河は反射的に右足へ力を入れた。


 距離は近い。


 あれくらいなら、自分が前へ出ればすぐ終わる。


 そう思った瞬間。


「大河、待て」


 ハクサンの声が飛んだ。


 大河の足が止まる。


「ここは俺が受ける」


 ハクサンは盾を前へ構えた。


 魔物の一匹が走る。


 地面を蹴り、正面から飛びかかってきた。


 ガンッ。


 牙が盾へぶつかる。


 金属音が通路へ響いた。


 ハクサンの身体はほとんど動かない。


「ニック」


「分かってる」


 後方から弦の音。


 矢がハクサンの肩越しを抜け、魔物の前脚へ突き刺さった。


 体勢が崩れる。


「ケイ」


「はい!」


 ケイの杖先に淡い赤い光が集まった。


「火よ!」


 小さな火球が飛び、別の一匹の進路を塞ぐように床へ落ちる。


 魔物が横へ逃げた。


「今」


 ハクサンの声。


 ビスタが前へ出る。


 片手剣を抜きながら、もう片方の手を軽く振った。


 横風が魔物の身体をわずかに押す。


 その瞬間、剣が首筋へ滑り込んだ。


 ザシュッ。


 一匹が崩れる。


 大河はその流れを見ていた。


 誰か一人が全部やっているわけではない。


 ハクサンが受け、ニックが崩し、ケイが動きを制限し、ビスタが仕留める。


 残った一匹が横から飛び出した。


「大河、右!」


 ハクサンの声に、大河はすぐ身体を向けた。


 魔物の牙が迫る。


 今度は止められない。


 大河は一歩外へずれ、勢いを利用して肩を押した。


 重心が崩れる。


 そのまま足を払う。


 魔物が横倒しになったところへ拳を叩き込んだ。


 ドッ。


 身体から力が抜ける。


「そこまで」


 ハクサンが盾を下ろした。


 戦闘が終わる。


 大河は軽く息を吐き、倒れた魔物を見た。


「……俺一人なら、もう少し早く終わったかもしれない」


 思わず口から出た。


 ハクサンは大河を見たが、怒った様子はなかった。


「だろうな」


「否定しないんですね」


「お前ならそうだろ。でも俺たちの目的は、早く倒すことじゃない」


 ハクサンは盾の表面を確認する。


「怪我をせず、消耗を抑えて、奥まで行って、帰ることだ」


 大河は少し黙った。


「なるほど」


 言葉にすると簡単だった。


 それでも、一人で戦う時とは考え方が違う。


 自分が倒せるかどうかではない。


 全員が無事に先へ進めるか。


「ダンジョンじゃ、一戦ごとに全力なんて使ってたら持たないよ」


 ビスタが剣を拭きながら言う。


「だから楽に勝てるなら、その方がいいじゃん」


「お前が言うと急に軽く聞こえるな」


「ひどいなあ」


 再び歩き始める。


 既存区画では、その後も何度か魔物と遭遇した。


 甲殻を持つ虫型の魔物。


 天井近くを這う小型の爬虫類。


 数は多くない。


 ハクサンの指示通りに動けば、危険な場面もほとんどなかった。


 大河は少しずつ、前へ出るタイミングを待つことに慣れ始めていた。


 一人なら自分の判断だけでいい。


 ここでは仲間の位置を見る。


 後ろにケイがいる。


 さらに後ろにはニック。


 ビスタがどこに動くのか。


 ハクサンの盾がどこを塞いでいるのか。


 意識するものが増える。


 それでも、何戦かするうちに不思議と視界が広がっていく感覚があった。


「止まって」


 突然、最後尾のニックが低い声を出した。


 全員が止まる。


 大河は前を見る。


 何もいない。


 魔石灯の光が届かない先には、黒い闇が広がっているだけだった。


「何かいるのか?」


 大河が小声で尋ねる。


「いる」


 ニックはすでに弓を構えていた。


「どこ?」


「奥」


 大河は目を凝らす。


 見えない。


 耳を澄ませても、何も聞こえない。


「見えてるのか?」


「見えてない」


「え?」


「音」


 ニックはそれだけ言うと、弦を引いた。


 指が離れる。


 ヒュッ。


 矢が闇へ消えた。


 しばらく何も起こらない。


 その直後。


 暗闇の奥から、短い悲鳴が響いた。


 何かが床へ倒れる音。


 大河は思わずニックを振り返った。


「今の距離で?」


「音がしたから」


「どの辺にいるか分かったのか?」


「だいたい」


「だいたいで当てたのか……」


 ニックは特に誇る様子もなく、もう一本矢を取り出した。


「近づけば分かるよ」


 大河はしばらくニックの横顔を見ていた。


 弓ランキング世界二位。


 数字だけは聞いていた。


 けれど、実際に見ると意味が違う。


「すごいのです」


 ポルポルも小声で呟く。


「ポルポルでも何も見えなかったのですよ」


「俺もだよ」


 ビスタが笑う。


「ニックはこういうの得意だからね」


「こういうのって言い方やめろ」


 ニックが少しだけ眉を寄せた。


 さらに奥へ進むと、通路の造りが少し変わり始めた。


 壁には古い石積みが増え、天井も低くなる。


 やがて前方に大きな崩落跡が見えてきた。


 床には新しい岩片や砂が広がり、その向こうに今までの通路とは角度の違う暗い穴が開いている。


 ハクサンが足を止めた。


「ここだ」


 大河は穴を見つめる。


「新規区画?」


「そう。数日前、この壁が崩れた」


 ハクサンは崩れた石へ触れた。


 表面にはまだ細かな粉が残っている。


「この奥は未調査だ」


 ケイが小さく息を吐く。


「やっぱり空気違うね」


 大河も感じていた。


 新しい通路の奥から流れてくる空気は、これまでよりさらに冷たい。


 湿気も強い。


 そして妙に重い。


 ハクサンが全員を見回す。


「ここから本番だ。何か見つけても勝手に触るな。魔物を見ても、俺が言うまで攻撃しない」


「了解」


 大河が答える。


 ポルポルだけは通路の奥をじっと見つめていた。


「ポルポル?」


 大河が声をかける。


 返事がない。


「どうした?」


 少しして、ポルポルがゆっくり振り向いた。


「大河さん」


「ん?」


「ここ……嫌なのです」


 いつもの調子とは違った。


 声が小さい。


 羽もほとんど動いていない。


「何かいるのか?」


「分からないのです」


「匂い?」


「違うのです」


 ポルポルは胸元へ小さな手を当てた。


「何なのか分からないけど……ポルポルの中の何かが、戻った方がいいって言ってるのです」


 大河の表情から笑みが消えた。


「ハクサン」


「聞こえた」


 ハクサンも奥を見ている。


「無理に進まない。少し入って異常があれば戻る」


 その判断に誰も反対しなかった。


 一行はゆっくり新規区画へ入った。


 足元の感触が変わる。


 今まで踏み固められていた床とは違い、細かな砂や砕けた石が多い。


 壁には長い亀裂が走っている。


 そして。


 音がない。


 既存区画では、遠くから魔物の鳴き声や爪が床を擦る音が聞こえていた。


 ここには何もない。


 足音だけがやけに大きく響く。


「静かすぎるな」


 ビスタが珍しく声を抑えた。


 ニックも弓を構えたまま周囲を探っている。


「何もいない」


「それが逆に怖いね」


 ケイが杖を握り直した。


 少し進んだところで、ハクサンが突然立ち止まる。


「止まれ」


 大河が前を見る。


 床に何かが転がっていた。


 最初は黒い岩に見えた。


 近づくと、それが魔物の身体だと分かった。


 大きな甲殻を持つ虫型魔物。


 ただし、原形をほとんど残していない。


 厚い殻は中央から砕け、身体が地面へ押し潰されている。


「これ……」


 ケイが口元へ手を当てた。


 ハクサンはしゃがみ込み、死骸を確認する。


「最近だ」


「何にやられた?」


 大河が尋ねる。


「分からない」


 ハクサンの声が少し低くなる。


 さらに少し先にも死骸があった。


 一匹。


 二匹。


 今度は大型の獣型魔物。


 その身体も壁へ叩きつけられたように潰れている。


「これ、普通じゃないよな」


 ビスタの顔から笑みが消えていた。


 ニックが壁を指差す。


「これ見て」


 全員の視線が向く。


 岩壁に、深い溝が三本走っている。


 爪痕。


 一本一本が大河の腕より太い。


「でかい……」


 大河は思わず呟いた。


 さらに床へ目を向けると、くぼみがあった。


 足跡。


 人間の何倍もある。


 ポルポルが大河の肩へぴったり身体を寄せた。


「大河さん……」


「うん」


 大河自身も、身体の奥が冷たくなるような感覚を覚えていた。


 ハクサンが立ち上がる。


「戻る」


 迷いのない声だった。


「もう?」


 ビスタが尋ねる。


「ああ。十分だ」


 ハクサンは巨大な爪痕へ一度視線を向けた。


「未知の大型魔物がいる。しかも、この辺の魔物を一方的に殺してる。これだけ持ち帰れば調査として成立する」


「正解だと思う」


 ニックもすぐ頷く。


 大河も異論はなかった。


 誰も奥を見ようとは言わない。


 一行は来た道へ戻り始めた。


 その時。


 ズズズ……。


 足元が揺れた。


 大河は反射的に壁へ手をついた。


「地震?」


「違う」


 ハクサンが天井を見る。


 細かな砂がぱらぱらと落ちてくる。


「崩落だ!」


 次の瞬間。


 後方から轟音が響いた。


 ドォン!


 全員が振り返る。


 さっきまで通ってきた通路の一部が崩れ、大量の岩が積み重なっていた。


「嘘だろ……」


 ビスタが低く呟く。


 ハクサンがすぐ岩へ近づく。


「塞がった」


「壊せる?」


 ケイが聞く。


「時間がかかる」


 大河も崩落した壁を見る。


 自分の力なら多少は動かせるかもしれない。


 だが、その時だった。


 ドン……。


 奥から音がした。


 全員の動きが止まる。


 ただの落石ではない。


 重いものが地面を踏んだ音。


 ドン……。


 また一つ。


 今度は少し近い。


 床の小石が微かに跳ねる。


 ポルポルの毛が逆立った。


「大河さん……」


 声が震えている。


「来るのです」


 ハクサンが盾を構える。


 ニックが矢をつがえた。


 ケイの杖先に魔力が集まる。


 ビスタも黙って剣を抜いた。


 大河は拳を握り、暗闇を見る。


 ドン……。


 さらに近い。


 魔石灯の光が届かない奥で、何か巨大なものが動いた。


 まず見えたのは前脚だった。


 黒い。


 岩そのものが動いているような太い脚。


 次に、光を吸い込むような鱗。


 巨大な頭部が、ゆっくり暗闇から姿を現す。


 通路が急に狭くなったように見えた。


 大河は息を止めた。


 アーマードオーガとは比べものにならない。


 存在しているだけで、周囲の空気が重く感じられる。


 巨大な瞼が開く。


 鈍い金色の瞳が、こちらを捉えた。


「……嘘だろ」


 ハクサンの声が掠れた。


 大河は横顔を見る。


「知ってるのか?」


 ハクサンは答えず、盾の縁を強く握った。


 指が白くなる。


「……アビス・ヴルム」


「何?」


 ハクサンの顔から血の気が引いていく。


「S級だ」


 次の瞬間、ハクサンが叫んだ。


「戦うな! 全員、逃げろ!」

第58話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は大河にとって、初めて本格的に「パーティーで戦う」回になりました。


ハクサンが守り、ニックが射抜き、ケイが魔法で動きを制限し、ビスタが仕留める。


一人なら自分だけを見ればいいですが、仲間と戦う時は全員の位置や役割を見る必要がある。


大河にとっても、新しい経験になったと思います。


そして未調査区画で見つけた、明らかに普通ではない痕跡。


引き返す判断は正しかったはずなのですが……。


最後に現れたのは、S級アビス・ヴルム。


「戦うな、逃げろ」


果たして、逃げ道を失った五人はどうするのか。


次回もよろしくお願いします!

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