表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/62

第52話 第三段階

第52話です。


剣術では再び基礎へ戻った大河ですが、休日はエリカとの魔法修行へ。


今回は、水魔法の習得に一区切りがつき、ついに魔力の第三段階を解放します。


力が増えれば、そのぶん強くなる。


でも、強い力ほど「扱えるかどうか」が大事になる。


剣術でも魔法でも、大河が同じ壁へぶつかり始めた回になりました。


そして後半は、久しぶりの冒険者ギルドへ。


今の自分の力を試すため、大河が選んだ相手は……少々危険そうです。


受付嬢の反応にも注目です。

翌日から、大河の剣術訓練は再び基礎へ戻った。


 前日の実戦で一瞬だけ見せた速い踏み込みも、キルギスは特別扱いしなかった。むしろ訓練場へ入るなり木剣を一本放り、いつもの眠たそうな顔で「昨日の一本は忘れろ」と言った。


「忘れるんですか?」


「できた気になって崩れる方が面倒だ」


 それだけ告げると、キルギスは壁際へ移動した。


 その日から四日間、大河はまた同じ動きを繰り返した。足運び、重心移動、踏み込み、振り下ろし。タイラ、ユニオン、ベイも同じメニューを続け、訓練場には朝から夕方まで木剣が空気を裂く乾いた音が響いた。


 初めのうちは、前日の感覚を再現しようとするほど動きが固くなった。速く踏み込もうとすると剣先がぶれ、剣を意識すると腰が遅れる。大河は何度も足を止め、そのたびに先週から繰り返してきた基本へ戻った。


「また基礎なのです」


 壁際に座ったポルポルが、退屈そうにあくびをする。


「見てる方はな」


 大河は額の汗を腕で拭い、木剣を握り直した。


「やってる方は結構きついぞ」


「ポルポルも数えるのです?」


「前みたいに途中で飛ばすだろ」


「今日は正確なのです」


「信用できないな」


 それでも、四日目には少しずつ身体の動きがまとまり始めていた。一瞬だけ偶然出た速さを追いかけるのではなく、同じ足の位置、同じ呼吸、同じ重心から剣を動かす。速さよりも再現することを意識すると、木剣の風切り音は少しずつ揃っていった。


 キルギスはほとんど何も言わなかった。ただ時折、大河の足元や剣先へ視線を向け、ほんの少し顎を動かす。それが褒めているのか、まだ足りないという意味なのか、大河には最後まで分からなかった。


 そして週末。


 学院の授業がない朝、大河はエリカとポルポルを連れて、ランキング協会の魔法訓練場へ向かっていた。


 空はよく晴れ、街の石壁には朝日が白く反射している。訓練場へ近づくにつれて、焦げた空気と湿った水の匂いが混じり始めた。


「今日は水魔法なのです?」


 ポルポルが大河の肩の近くを飛びながら聞く。


「あぁ。そのつもりだけど」


 大河が答えると、隣を歩くエリカが意味ありげに口元を緩めた。


「水魔法だけで終わるかは分からぬぞい」


「何かするんですか?」


「それは見てから決める」


 エリカはそれ以上答えなかった。


 魔法訓練場へ入ると、休日の朝ということもあり、人はまだそれほど多くなかった。火魔法の区画では黒く焦げた的が並び、水魔法の区画では石床に残った水滴が朝の光を反射している。壁際には魔力測定用の水晶がいくつも置かれ、淡い光を宿していた。


 大河は水魔法用の区画へ入り、少し離れた的へ右手を向けた。


 胸の奥に意識を向ける。


 以前なら探すだけでも時間がかかった魔力の流れが、今はすぐに分かる。身体の中心から腕へ、腕から指先へ。静かに流すと、掌の前に透明な水が集まり始めた。


 拳ほどの水塊が形を作る。


 大河は呼吸を整え、そのまま前へ押し出した。


 水弾は真っすぐ飛び、的の中央へぶつかった。乾いた衝撃音とともに弾け、細かな飛沫が周囲へ散る。


「もう一度じゃ」


 エリカの声。


 大河は今度は少しだけ的の端へ狙いをずらした。


 再び水弾が飛ぶ。


 狙った位置へ当たった。


「もう一回。今度は少し弱く」


「はい」


 大河は流す魔力を抑える。


 水弾は小さくなり、威力も落ちた。それでも形は崩れず、しっかり的まで届いた。


 エリカは腕を組み、何度か静かに頷いた。


「よし」


「どうです?」


「水はもう十分使えるようになったのう」


 大河は少し意外に思って眉を上げた。


「もうですか?」


「使えるようになるのと、極めるのは別じゃ。まだ速度も連射も、細かな制御も上にはいくらでもある。じゃが、今の大河くんなら次へ進んでもよさそうじゃ」


「次って……」


 エリカが一歩近づく。


 その表情から、さっきまでの柔らかな笑みが消えた。


「魔力をもう一段階、開くぞい」


 大河の背筋が自然に伸びた。


「三回目ですか」


「そうじゃ」


 ポルポルも空中で動きを止めた。


「また光るのです?」


「それはやってみんと分からんの」


 エリカは大河の正面に立ち、胸元へそっと手を当てた。


 いつものように距離は近い。けれど、その指先はふざける気配を見せず、身体の奥を探るようにゆっくり動いた。


「前より魔力の流れが安定しておる」


「分かるんですか?」


「誰に聞いておる。わしじゃぞ」


 少し得意げな顔をしたあと、エリカはすぐ真面目な表情へ戻った。


「ただし、今回も全部を開くわけではない。おぬしの器は大きいが、扱える技術はまだそこまで追いついておらぬからの」


「分かっています」


「なら、いくぞい」


 エリカの指が大河の肩へ触れる。


 次に胸、背中、腕、腹。


 前回までと同じような動きなのに、感じ方は明らかに違った。


 指が触れるたび、身体の奥にある魔力の流れがはっきり反応する。肩を押されれば胸の奥が熱くなり、背中へ触れられると、その熱が腰まで広がった。


 大河はゆっくり息を吐いた。


「呼吸を止めるな」


 エリカの声が低く響く。


「無理に押さえ込むな。流れを受け入れよ」


 大河は目を閉じた。


 胸の奥にある魔力へ意識を向ける。


 以前は細い流れだった。


 それが第二段階を開いた時に太くなり、今では自分の意思である程度動かせるようになっている。


 そこへ、さらに奥から何かが押し寄せてくる。


 川の上流にあった堰が、少しだけ持ち上がるような感覚だった。


 身体の中心から熱が広がる。


 腕へ。


 指先へ。


 脚へ。


 背中へ。


「今じゃ」


 エリカが大河の右手を取り、その指先へ自分の魔力を流した。


 瞬間。


 胸の奥で何かが開いた。


「っ……!」


 大河は思わず息を飲んだ。


 魔力の流れが、一気に太くなる。


 前回までとは違う。


 ただ増えたのではない。身体の中を流れるものが、はっきりと存在感を持っている。指先まで届く速さも、量も、すべてが別物だった。


「大河くん」


 エリカの声が飛ぶ。


「目を開けよ」


 大河はゆっくり目を開いた。


「水を撃ってみい」


「このままですか?」


「いつも通りでよい」


 大河は的へ向けて手をかざした。


 胸の奥から魔力を流す。


 いつもの感覚。


 いつもの量。


 そのつもりだった。


 水が集まる。


 一瞬で拳より大きな塊になった。


「え?」


 大河が目を見開く。


 止める間もなく、水弾が前へ飛んだ。


 次の瞬間。


 轟音が訓練場へ響いた。


 的へぶつかった水が爆ぜるように広がり、石床まで濡らしながら大量の飛沫が周囲へ吹き荒れた。


「うわっ!」


 大河は思わず腕で顔を庇う。


「大河さん!」


 ポルポルの悲鳴が聞こえた。


 数秒後。


 水飛沫が落ち着く。


 大河がゆっくり腕を下ろすと、目の前にはびしょ濡れになったポルポルが浮かんでいた。


 紫がかったピンク色の毛は完全に水を吸い、身体の大きさが半分ほどに見える。


「大河さん……」


「ご、ごめん」


「ポルポルまで攻撃されたのです」


「そんなつもりじゃなかったんだって」


 大河自身の服もかなり濡れていた。


 エリカだけは少し離れたところで、何事もなかったように立っている。


 周囲の訓練者たちも驚いてこちらを見ていた。


 大河は的へ目を向ける。


 石造りの的は倒れていない。


 だが表面には大きな水跡が残り、根元の石床には細かな亀裂まで入っていた。


「……これ、同じ水魔法ですよね?」


「同じじゃ」


 エリカは満足そうに目を細めた。


「第三段階を開いた分、使える魔力が一気に増えた。それだけじゃ」


「それだけって……」


 大河は自分の手を見る。


 胸の奥の魔力は、さっきまでより明らかに太い。


 強くなった。


 その実感が、否応なく身体へ伝わってくる。


「これなら……」


「喜ぶのはまだ早いぞい」


 エリカの声がすぐ飛んだ。


 大河が顔を上げる。


「強い魔法を撃つだけなら簡単じゃ」


 エリカは濡れた的を指差した。


「今までと同じ威力で撃ってみい」


「同じ威力?」


「そうじゃ。必要以上に強い魔法を撃てば魔力の無駄じゃし、近くに味方がおれば巻き込む。街中ならなおさら使えぬ」


 大河は頷き、もう一度的へ手を向けた。


 今度は魔力を抑える。


 慎重に。


 できるだけ少なく。


 水が集まる。


 小さすぎた。


 放った水弾は的へ届く前に形を失い、石床へ落ちる。


「……弱すぎましたね」


「もう一度じゃ」


 今度は少し増やす。


 水弾が飛ぶ。


 的へぶつかった瞬間、また思った以上の衝撃音が響いた。


「強いのう」


「難しいですね……」


「そこからじゃ」


 エリカは柔らかく笑った。


「今までは魔力を出すことを覚えておった。これからは、どれだけ出すかを覚える」


 大河は濡れた右手を見つめた。


 剣術でも似た感覚があった。


 身体は速い。


 けれど、その速さへ剣が追いつかなければ使えない。


 魔法も同じだ。


 魔力が増えた。


 だから強くなった。


 でも、使いこなせなければただ大きな力を振り回しているだけになる。


「制御ですね」


「そういうことじゃ」


「やってみます」


「うむ。大河くんならできる」


 エリカはそう言うと、びしょ濡れのポルポルへ視線を向けた。


「まずはポルポルを乾かした方がよさそうじゃがの」


「早くするのです!」


 ポルポルが身体を震わせると、周囲へ水滴が飛び散った。


「今度は俺たちが濡れるだろ」


「仕返しなのです!」


 訓練場に小さな笑いが広がった。


 その日の午後、大河は何度も水魔法を繰り返した。


 強すぎる。


 弱すぎる。


 少しずつ狙った威力へ近づけていく。


 完璧には程遠かったが、第三段階を開いた魔力を少しずつ身体へ馴染ませていった。


 そして翌日。


 もう一日の休日。


 大河は朝から支度をしていた。


 腰にはいつもの装備をまとめ、動きやすい服へ着替える。


「今日はどこへ行くのです?」


 ポルポルが寝台の上から飛び上がる。


「冒険者ギルドに行く」


「久しぶりなのです!」


「魔法を実戦で試してみたいんだ」


 大河は手を握り、軽く開いた。


「それと、素手格闘も」


 サムパレスとのランキング戦を経て、自分の技術は確実に上がっている。


 人間相手では試した。


 なら次は魔物相手に、どこまで使えるか確かめたい。


「今日はお金を稼ぐのです?」


「いや。金は目的じゃない」


 ポルポルが驚いたように目を見開く。


「一千万マールを超えると、人は変わるのです……」


「そんな大げさな話じゃない」


 二人は街を歩き、久しぶりに冒険者ギルドへ入った。


 朝のギルドにはすでに多くの冒険者が集まっていた。酒場からは焼いた肉の匂いが漂い、受付前では依頼書を手にした男たちが声を交わしている。


 大河は掲示板の前へ立った。


 討伐依頼。


 採取依頼。


 護衛。


 さまざまな紙が並ぶ。


「これ、報酬が高いのです」


 ポルポルが一枚を指差す。


「今日は金じゃなくて練習だって」


「でも高い方がいいのです」


「弱い魔物じゃ試す意味がないんだよ」


 大河は一枚ずつ依頼書へ目を通した。


 少し強い程度では足りない。


 今の自分の素手格闘と、第三段階まで解放した魔力を試すなら、それなりの相手が必要だ。


 視線が一枚で止まった。


 厚い紙。


 赤い印。


 討伐対象の名前。


 大河はしばらくそれを見つめたあと、掲示板から静かに剥がした。


「これにする」


 ポルポルが横から覗き込む。


「大河さん……これ、強いのでは?」


「そのくらいがちょうどいい」


 二人は受付へ向かった。


 受付嬢はいつもの笑顔で依頼書を受け取る。


「討伐依頼ですね。確認します」


 紙へ視線を落とした。


 数秒。


 その表情が止まった。


 依頼書を見る。


 大河を見る。


 もう一度、依頼書を見る。


「……望月さん」


「はい?」


 受付嬢は目を大きくした。


「これ……アーマードオーガですよ」


「はい」


「はい、じゃありません!」


 声が思わず大きくなり、近くの冒険者たちまで振り返った。


 受付嬢は依頼書を両手で持ったまま、大河へ身を乗り出す。


「これはAランク指定の魔物ですよ!?」

第52話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、剣術、魔法、冒険者と、大河の成長を三つの方向から描きました。


剣術では、一度うまくできたからと先へ進まず、もう一度基礎へ。


キルギスらしい教え方ですが、大河も少しずつ「速さを出すこと」ではなく、「同じ動きを何度でも再現すること」の大切さを理解し始めています。


そして魔法では、ついに第三段階を解放。


使える魔力そのものは大きく増えましたが、今度は出力の調整という新しい課題が生まれました。


強ければ強いほどいいわけではない。


必要な時に、必要なだけ使えることも強さの一つです。


……その最初の犠牲者は、びしょ濡れになったポルポルでしたが。


後半では、久しぶりに冒険者ギルドへ。


今の素手格闘と魔法が、魔物相手にどこまで通じるのか。


大河が選んだのは、まさかのAランク指定魔物、アーマードオーガです。


受付嬢が思わず声を荒げるほどの相手。


果たして、ハイランカーとなり第三段階の魔力を手にした今の大河は、Aランク魔物を相手にどこまで戦えるのか。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ