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異世界ランキング王~総合1位だけが王になれる世界〜  作者: れいじ


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第39話 正式な学院生

第39話です。


休みの間にセレナを破り、ミドルランカーへ昇格した大河。


学院へ戻ると、その勝利はすでに多くの学生へ知られていました。


そして月末を迎え、ついにランキング報酬が支給されます。


仮入学生だった大河が、自分の力で正式な学院生になるまでを描きます。

休み明けの朝、学院へ続く石畳には、まだ夜の冷たさが薄く残っていた。通りに面した店々は重い木戸を開け始めたばかりで、焼き窯に火を入れる音や、荷車の車輪が石の継ぎ目を越えるたびに立てる乾いた響きが、目覚めかけた街の空気へ溶け込んでいる。屋根の向こうから差し込む朝日は建物の壁を斜めに照らし、行き交う学院生たちの影を長く地面へ落としていた。


 大河は肩に鞄を掛け、学院の高い尖塔を見上げながら歩いていた。数日間の休みを挟んだだけなのに、正門へ続く道が少し違って見える。初めてこの道を歩いた時は、入学金すら支払えない自分が、場違いな場所へ紛れ込んでいるような居心地の悪さがあった。それが今は、腰の革袋に収めたランキングカードの存在が、歩くたびに小さな重みとなって身体へ伝わってくる。


 四百三十六位。


 数字そのものは変わらないはずなのに、カードへ刻まれてからは、その重さが日に日に増しているように感じられた。


「今日は久しぶりの学院なのです」


 隣を浮かぶポルポルが、朝の光を背中の小さな翼へ受けながら嬉しそうに身体を揺らした。紫がかった桃色の毛が柔らかな風に撫でられ、短い手足が歩調に合わせるように宙で動いている。


「久しぶりっていっても、数日だけだけどな」


「大河さんはその数日の間に、ただの仮入学生からミドルランカーになったのです。これはとても大きな変化なのです」


「正式な学院生には、まだなってないけどな」


 大河が苦笑すると、ポルポルは空中でぴたりと止まり、丸い頬を少し膨らませた。


「それも、あと少しなのです。月末になれば、大河さんのところへ五百三十六万マールが、どーんと入ってくるのです」


「そこだけ言うと、急に大金持ちになったみたいだな」


「実際に大金なのです」


 ポルポルは胸元で短い腕を組み、金色の硬貨が降ってくるところでも想像しているのか、目を細めた。その表情を横目に見ながら、大河は正門へ向かって歩き続けた。


 学院の周囲には、朝から多くの学生が集まっていた。剣を腰に下げた者、杖を抱えた者、分厚い書物を胸へ抱いた者。専門分野の違いが、そのまま服装や持ち物に現れている。いつもなら誰もが自分の授業や訓練のことだけを考え、足早に門をくぐっていく時間だった。


 しかし、その日は大河が近づくにつれ、いくつもの視線がこちらへ流れてきた。


 最初は偶然かと思った。だが、二人組の学生が話を止め、すれ違った後で振り返る。訓練用の木剣を抱えた青年が隣の仲間へ顔を寄せ、声を落として何かを囁く。その囁きは朝のざわめきに紛れて聞き取れなかったが、視線の先だけははっきりと自分へ向いていた。


 大河は無意識に頬を指先で擦った。何か付いているわけではない。服装も普段と変わらない。隣ではポルポルが得意そうに鼻先を上げている。


「やっぱり噂になっているのです」


「やっぱりって、知ってたのか?」


「ランキング戦の結果はすぐに広まるのです。しかも相手は、ミドルランカーだったセレナさんなのです。学院に通い始めたばかりの大河さんが勝ったのだから、話題にならない方がおかしいのです」


 ポルポルの声に応じるように、近くを通った女子学生たちの会話が耳へ届いた。


「ほら、あの人よ」


「本当に? もっと大きな人かと思ってた」


「セレナ先輩に勝ったんでしょう?」


 声を抑えているつもりなのだろうが、距離が近いため一言ずつはっきり聞こえる。大河がそちらへ目を向けると、三人は肩を寄せ合ったまま慌てて正面へ顔を戻した。そのうちの一人は耳まで赤くし、抱えていた本を胸へ強く押し当てている。


 大河は視線を外し、正門の向こうへ目を向けた。


 注目されたいと思ったことがないわけではない。学生時代、競技場へ立っていた頃は、自分の走りを多くの人に見てもらいたかった。歓声の中で名前を呼ばれ、記録を残し、誰かの記憶に焼きつく選手になりたいと願っていた時期もあった。


 だが、こうして歩いているだけで見られることには、競技場とは違う落ち着かなさがある。身体の表面をいくつもの目が滑っていくようで、肩や背中に余計な力が入ってしまう。


「どうも慣れないな、こういうのは」


 大河が小さく呟くと、ポルポルは隣まで高度を下げた。


「王になったら、もっとたくさんの人から見られるのです」


「今から考えると気が重くなるな」


「王様は堂々としていればいいのです」


「まだ四百三十六位だぞ」


「最初は七百五十七位だったのです。大河さんは、もう三百位以上も上がったのです」


 ポルポルは当然のように言ったが、大河は返事をせず、腰のランキングカードへそっと手を触れた。


 たった三度のランキング戦で、ミドルランカーまで上がった。自分でもまだ現実味がない。セレナとの戦いで身体へ残った痛みは薄れていたが、相手の拳を受けた感触も、最後に床を踏み抜いた瞬間の張りつめた感覚も、胸の奥には鮮明に残っている。


 あの勝利は偶然ではないと思いたい。だが、次も勝てるとは限らない。


 周囲の期待が膨らむほど、自分の足元だけが急に細くなっていくような不安があった。


「大河!」


 聞き慣れた声が正門近くから飛んできた。


 顔を上げると、人の流れをかき分けながらライズが近づいてくるところだった。灰色の髪は朝日を受けて銀色に近く見え、腰には使い込まれた拳当てが結ばれている。いつもの鋭い目つきは変わらないが、歩みには隠しきれない軽さがあった。


「よう!」


 ライズは大河の前で足を止めると、右の拳を軽く差し出した。


「おう」


 大河も拳を重ねた。革の拳当て越しに、硬い感触が伝わる。


「聞いたぞ。セレナに勝って、四百三十六位になったらしいな」


「そっちも、ランキング戦に勝ったんだろ?」


 大河が尋ねると、ライズはほんの少し顎を上げた。平静を装っているが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。


「九百四十二位だ」


「ローランカー入りなのです!」


 ポルポルが二人の間へ飛び込み、短い腕を大きく広げた。


「ライズさんもすごいのです。初めての挑戦でランカーになったのです」


「相手が油断していた。それだけだ」


 ライズはそう言いながらも、腰のランキングカードへ一瞬だけ目を落とした。その視線には、自分の手でつかんだ順位を確かめるような静かな熱があった。


「油断だけで勝てるほど、ランキング戦は甘くないだろ」


 大河が言うと、ライズは鼻から短く息を吐いた。


「お前に言われると、素直に喜べんな。俺がローランカーになった間に、お前はミドルランカーだ」


「俺も相手に恵まれたところはある」


「セレナに勝って、それを言うか」


 ライズは呆れたように眉を寄せたが、すぐに正門の内側へ目を向けた。そこでは数人の学生たちが、二人を遠巻きにしながら様子を窺っている。


「朝から随分と見られているな」


「俺だけじゃなくて、お前もだろ」


「初挑戦でランカーになった者は珍しいらしい。教官にまで、何度も確認された」


 ライズはそう言って、視線を前へ戻した。その横顔には誇らしさよりも、次の戦いへ気持ちを向けるような硬さがある。


「だが、お前ほどではない。仮入学生が三戦目でミドルランカーに上がるなど、しばらく例がないそうだ」


「そういう話、本人に聞こえるところで広めないでほしいんだけどな」


「もう遅い」


 二人が並んで正門をくぐると、学院の広い中庭へ朝の光が降り注いでいた。中央の噴水では水が白い筋となって噴き上がり、石造りの回廊の下には授業へ向かう学生たちの足音が絶え間なく響いている。訓練棟の方角からは、木剣同士がぶつかる甲高い音と、教官の鋭い声が風に乗って届いた。


 いつもと同じ学院の朝だった。


 それでも、大河へ向けられる眼差しだけが違う。その変化は見えない衣を一枚まとったようで、歩くたびに身体へまとわりついた。


 仮入学クラスの教室へ入ると、室内に漂っていた話し声が一瞬だけ細くなった。窓から差し込む光の中で、宙を舞っていた細かな埃が静かに揺れている。


「おはよう」


 大河が普段通りに声をかけると、何人かが慌てて挨拶を返した。


「お、おはようございます」


「大河さん、セレナさんに勝ったって本当ですか?」


 前の席にいた青年が、椅子から半分腰を浮かせたまま尋ねてくる。周囲の学生たちも手元の本や道具へ目を落としているものの、耳だけはこちらへ向けているのが分かった。


「本当だよ。ぎりぎりだったけどな」


 大河が答えると、教室の空気がふっと動いた。抑えられていた声が重なり、あちこちから驚きや感嘆の息が漏れる。


「四百三十六位ですよね?」


「ミドルランカーじゃないですか」


「仮入学中にそこまで上がった人なんて、聞いたことないですよ」


 次々と声をかけられ、大河は机の脇に立ったまま、どう返せばいいのか分からなくなった。大げさに否定するのも違う。かといって胸を張るほど、自分の中で勝利を飲み込めているわけでもない。


 少し離れた席では、ライズも別の学生たちに囲まれていた。本人は迷惑そうに眉を寄せているが、立ち去ろうとはしていない。


 その姿を見て、大河は口元を緩めた。


 自分だけではない。ライズもまた、これまでと違う場所へ足を踏み入れたのだ。


 やがて教官が教室へ入ると、学生たちは慌てて席へ戻った。授業が始まり、黒板へ文字を書く音が一定の間隔で響き始める。大河は前を向きながらも、何度か腰のランキングカードへ意識を引かれた。


 あと数日で月末になる。


 ランキング報酬が支給されれば、入学金を支払える。仮入学生という立場を終え、正式な学院生になれる。


 その日を待ち望んでいたはずなのに、いざ目前へ迫ると胸の奥に落ち着かない熱が生まれていた。五百万マールという額は、地球で暮らしていた感覚からすれば容易に支払えるものではない。こちらの世界で働き、ようやく貯めた金もある。そこへ報酬が入るとはいえ、一度に大金を差し出すことへのためらいは消えなかった。


 だが、この学院で学ばなければ、今より先へ進むことは難しい。


 教官の動きを見るたび、自分が知らない身体の使い方に気づかされる。ライズやセレナと戦ったことで、速さや力だけでは埋められない差も見えてきた。


 王を目指すと決めた以上、ここで立ち止まる理由はない。


 数日後、月末の朝が訪れた。


 夜明け前から降っていた細かな雨が上がり、窓の外には濡れた屋根が鈍い光を返していた。借りた部屋の中には湿った木材の匂いが残り、窓枠に溜まった雫が時折、細い筋となって硝子を伝っている。


 大河は寝台の端に腰を下ろし、両手でランキングカードを持っていた。


 ポルポルは机の上に座り、カードを見つめたまま身動き一つしない。普段なら朝食のことを口にする時間だが、今日はそれすら忘れているらしい。


「まだなのです?」


「俺に聞かれても分からないよ」


「もう月末なのです。日付は変わっているのです」


「朝にならないと入らないのかもしれないな」


 大河がそう言った直後、手の中のカードが淡い光を放った。


 薄暗い部屋の壁へ青白い光が広がり、机や椅子の影が一瞬だけ濃く浮かび上がる。カードの表面には、これまでになかった文字が静かに現れていた。


 今月のランキング報酬。


 五百三十六万マール。


 大河はしばらく瞬きもせず、その数字を見つめた。紙に書かれた金額とは違う。自分が走り、戦い、勝ち取った順位が、現実の価値へ姿を変えた瞬間だった。


「入ったのです!」


 ポルポルが机から飛び上がり、カードの周囲を何度も旋回する。


「五百三十六万マールなのです。大河さん、お金持ちなのです!」


「入学金を払ったら、ほとんどなくなるけどな」


「でも授業料を払っても、これまでの貯金があるのです。すぐに食べるものへ困ることはないのです」


「お前は結局、食べ物の心配なんだな」


 大河は笑いながら、カードを持つ指へ少し力を込めた。


 数字は消えない。夢でもない。


 この世界へ来たばかりの頃、宿代さえ気にしていた自分が、今は学院の入学金を自分の力で支払おうとしている。


 胸の奥に生まれた熱は派手な喜びではなく、冷えた身体へ温かな湯がゆっくり染み込むような感覚だった。


 学院の事務棟は、訓練棟とは異なる静けさに包まれていた。磨かれた石の床には窓から入る光が四角く落ち、壁際には入学や授業に関する書類が整然と並べられている。紙とインク、それに古い木製家具の匂いが混ざり、外の中庭から聞こえる声も厚い壁に遮られて遠く感じられた。


 受付の女性は大河の名前を確認すると、書類へ目を落とし、もう一度顔を上げた。


「望月大河さんですね。仮入学期間中に、ミドルランカーへ昇格されたと伺っています」


「はい」


「入学金は五百万マールです。それとは別に、今月分の授業料が必要となります」


 女性が示した金額を確認し、大河はランキングカードを差し出した。支払いの手続きが進む間、指先がわずかに冷たくなっていく。


 五百万マール。


 表示された残高が大きく減る瞬間を見れば、多少なりとも惜しさが湧くと思っていた。しかし、カードから金額が引かれ、新しい残高が浮かび上がった時、大河の視線は数字よりも受付の女性が差し出した小さな学院証へ向いていた。


 深い青色の板に、学院の紋章と自分の名前が刻まれている。


「これで、正式な学院生となります」


 その言葉が、静かな事務室の中で不思議なほどはっきり響いた。


 大河は学院証を両手で受け取った。表面は滑らかで、指先へひんやりとした感触が伝わる。薄く軽い板でしかない。それでも手のひらへ載せると、ランキングカードとは違った重みを持っているように思えた。


「ありがとうございます」


 頭を下げて顔を上げると、受付の女性は手元の書類を一枚めくった。


「それから、所属する訓練課程についてお知らせがあります」


「所属ですか?」


「望月さんはミドルランカーですので、これまでの仮入学クラスではなく、上級者コースへ移っていただきます」


 大河の指が、学院証の縁で止まった。


「上級者コース……」


「すでに基礎を終えた者や、実戦経験を持つランカーが学ぶ課程です。訓練内容も、これまでとは大きく異なります」


 受付の女性は説明を続けたが、大河の意識はその言葉へ強く引かれていた。


 ミドルランカーになったことで、自分の立つ場所が変わる。


 学院の中でも、さらに強い者たちが集まる場所へ進むことになる。


 事務棟を出ると、雨上がりの中庭には薄い陽射しが差し始めていた。濡れた石畳の上で光が細かく反射し、噴水から落ちる水音が澄んで聞こえる。土の匂いを含んだ風が通り抜け、大河の頬を冷たく撫でた。


「正式な学院生になったのです!」


 ポルポルが頭上でくるりと回った。


「そうだな」


「そして上級者コースなのです。大河さんは、どんどん上へ行くのです」


 大河は手の中の学院証へ目を落としたあと、訓練棟のさらに奥へ視線を向けた。


 上級者コースの教室は、学院の北側にある別棟だと聞かされている。灰色の石壁に囲まれたその建物は、仮入学生が使う場所よりも重々しく、入口の上には剣と杖を組み合わせた紋章が刻まれていた。


 あの中には、自分より遥かに経験を積んだ者たちがいる。


 セレナより強い学生もいるかもしれない。


 大河は学院証を胸元へ収め、ゆっくりと息を吐いた。雨の名残を含んだ空気が肺へ入り、熱を持っていた身体の内側を静かに冷ましていく。


「行ってみるか」


「はいなのです!」


 ポルポルの明るい声を聞きながら、大河は濡れた石畳を踏み出した。


 北棟へ近づくにつれ、周囲を歩く学生たちの雰囲気が変わっていく。腰に下げた武器には使い込まれた傷があり、足取りには無駄がない。すれ違うだけで、肌へ細い針を当てられたような緊張を覚える者もいた。


 大河は建物の前で一度足を止め、高い扉を見上げた。


 仮入学生として学院へ通い始めた日とは違う。


 今度は、自分の力でここまで来た。


 重い扉へ手を掛けると、冷たい金属の感触が掌へ伝わった。向こう側からは、低く交わされる声と、机を引く音が聞こえている。


 大河はわずかに肩を回し、固くなっていた指を開いた。


 そして、上級者たちの待つ教室へ続く扉を、ゆっくりと押し開いた

第39話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、大河とライズがそれぞれランキング戦で結果を残し、以前とは違う立場で学院へ戻ってきました。


ライズは初挑戦でローランカー入り。


大河は三度目の挑戦でミドルランカーとなり、五百三十六万マールのランキング報酬を受け取ることになりました。


異世界へ来たばかりの頃は、宿代や食費にも悩んでいた大河でしたが、ついに自分で稼いだお金で入学金を支払い、正式な学院生となります。


ただし、ミドルランカーとなったことで、進む先は仮入学クラスではなく上級者コース。


これまで以上に強い学生たちが集まる場所で、大河がどのような人物と出会い、何を学ぶのか。


次回から、新しい学院生活が始まります。

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